弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

『憲法は、政府に対する命令である。』―2~沖縄は日本から離脱するか

2006年11月14日 | 書籍
 この本の中で、これは最初ギョッとしたのだが、言われてみればそうなんだなと納得した話がある。
 もし現行憲法が自民党などの主張する方向に──つまり戦争ができる国へと──変えられたら、沖縄の人々は「日本国」からの離脱を考え始めてもおかしくない、というのである。
 憲法制定の当時、沖縄は日本ではなかった。憲法の謳う「国民」「われら」の中に、沖縄の人々は含まれていなかったのである。彼らは、平和憲法を持つ日本への「復帰」を望んだ。少なくとも「復帰運動のもっとも重要な大義名分が日本の平和憲法を自分たちの憲法にする」ことだった。その契約が一方的に反故にされたなら(今でもかなり形骸化しているとは言えるが)、考え直す動きが出てくるのは当然だろう、と。
 僕はこれを読んで一瞬、「もしそうなったら、俺も沖縄に“亡命”するって手もあるわけか・・・」などと考えてしまった。だがそんな不埒な、自分の国をどうともできなかった弱虫を、今現在米軍基地の存在と真正面から戦っている沖縄の人たちが受け入れてくれるものか、と思い直したのである。

 もちろん、すべての沖縄県民がそういう立場だというわけではないだろう。
 たまたま先日、沖縄からライヴ・ハウスのツアーで東京に来ているバンドの人たちを紹介されて、飲む機会があった。そこである1人にこの話を持ち出してみたら、確かにそういう面はある、独立を希望する人だって少なくない(彼は確か3分の1くらい、と言った)、という答えが返ってきた。でも、それを言う人の中には、なおかつ沖縄も独自に軍事力を持つことを主張したりして、それは平和憲法云々とは食い違う話だとも。またいずれにしろ20代以下の若い沖縄人は、何だかんだ東京に憧れまくっていて、難しいことは考えたがらない。平和の大義名分を気にかけるのは自分らの代(その人は30歳前後らしかった)が最後かも、みたいなことを言っていた。
 その場の事情により、短いやりとりしかできなかったので、あまりつっこんだことは聞けなかった。彼は、もしかしたら僕が本土人としての一種の「自虐史観」に陥っているように見えて、そんなに気にすることないですよ、沖縄人だって不真面目な奴が多いんですよと、軽く宥めたかったのかもしれない(酔っ払っててよく憶えていない)。
 別に僕だって、沖縄の人=まじめな平和主義者、なんて風に一様に思い込んでいたわけではない(当たり前だ)。だけど、戦後20数年を経て自ら復帰を選び取りながら、日米安保のしわ寄せをもろに受けて暮らす人々にぼつぼつ生じる不真面目と、事情をまったく知らずに「美しい国」とか「核保有論」とか言って浮かれている人々の不真面目の間には、明らかに断絶があるのではないだろうか。

 そのことはラミス氏も、平和憲法を支持しながら日米安保条約も支持する(または特に反対しない)、という立場の偽善を突く形で指摘している(この本以外でも書いていたと思うが)。
 これは単なる精神論の次元ではなく、軍事力の保持あるいは拡大を認めない護憲運動が米軍基地の正当性の根拠を強めるという、構造上のからくりが現実にできてしまっている──そのために一番犠牲になっているのが、言うまでもなく沖縄なのだ。この件に関しては、いわゆる護憲派も改憲派も無関心派も、おしなべて同罪である。
 これもまた「国民の義務」同様、下位にあるはずの政治に憲法がかき回されて、機能不全の状態に陥っていることから来ている問題である。憲法の理念からは、軍事力に頼らない外交が本筋なのだから、本来こんなジレンマに陥るはずはないのだ。
 憲法の理念の実現をめざすのであれば、「護憲運動と同じくらい、反米軍基地(反安保)運動に力を入れなければならない」。ラミス氏は、自身が長く沖縄に暮らす人だからそれを主張したい、というのではない。それが論理的に辻褄の合った行動である、ということを示すに過ぎないのだ。
 ただその主張とともに、「復帰を考え直す」という選択肢を明示したことは、沖縄県民としてのラミス氏の真骨頂だろう。正直、本土人としてはショックだったが、これは今後の憲法論議の一つの争点として、無視できないものになっていくに違いない(もうなってたりして)。
 沖縄の離脱と聞いても、「フフン、現実に日本から離脱してやっていけるのかね?発展途上国に転落するんじゃないの」と鼻で笑う者もいるだろう。そんな本土人の醜さに耐えられるほど、若い沖縄人は「不真面目」でいられるものだろうか。


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4 コメント

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Unknown (ima)
2006-11-17 19:15:15
沖縄の、特に一定年齢以上の人達のヤマトへの怨みは 非常なものがあります。 当時20代の私は、リンチを受けそうになった事があります。
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Unknown (おにやんま)
2006-11-17 23:46:54
 初めまして。ヤメ蚊さんのブログでのレイランダーさんのコメントに惹かれてお邪魔しました。

 沖縄人の独立意識については、国連の先住民会議に沖縄の基地問題を国際法によって裁いてもらうべく運動しておられる方々がいるそうです。そして、

「最近でいうと、ドゥドゥ・ディエンさんとう国連の人権委員会の特別報告者の方が沖縄に来られて、今起きている沖縄の基地問題は、明らかに人種差別だと記者会見で発表されました。」(『現代思想9月号』青土社)60ページ

 僕はこういう運動には大賛成です。僕は沖縄人ではないですが、沖縄は独立した方が良いと思います。レイランダーさんも指摘されている通り、米軍の沖縄人に対する暴力やレイプに対して、本土の人間にも責任があると思います。リベラルを装って、隠された暴力に無頓着でいないように、僕も気をつけようと思います。では。

ギターはSGですか?渋いですね。デュエインも使っているのでカッコ良いと思います。このページの模様もギブソンのフォークのピックガードのものに似てますね。^^
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恐縮です・・・ (レイランダー)
2006-11-18 17:40:32
おにやんまさん、興味深い情報ありがとう。これからも気軽に立ち寄ってください。

僕の個人的な想いとしては、離脱してほしくないんです。沖縄の人がとどまりたいと思う日本であってほしいから。
でもそれは本土の人間としての希望(あるいはエゴ?)であって、沖縄の人たちが自ら独立を決めるなら、それについてあーだこーだ言う資格はない。自分としては、彼らがとどまりたいと思う国であり続けるよう、日本人の一人としては努力しなくちゃいかんな、ということです。

ところで、プロフィールの写真は僕ではないんです。
EZLN(サパティスタ民族解放軍)の画像をネットで探していて、偶然見つけたものです。小さいからわかりにくいと思いますが、写っているのは目出し帽をかぶったEZLNの兵士の一人。たぶん何かのイベントで、バンド演奏があった時の写真らしいですが、詳細は知りません。
やっぱ、みんな結構間違えますね・・・・そのうち、自分の本当の写真と取り替えようかな(モザイクありでw)。
SGは持ってないんですよ。SG好きなんですけどね(写真はちなみにSGのベースですね)。
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Unknown (おにやんま)
2006-11-19 21:12:17
コメントへの返信ありがとうございます。

確かに、レイランダーさんが仰るように、多様性(異文化)を積極的に自己に取り込んで、自分自身(ここでは国家)を磨いていけると言いのですが。道は険しそうですが、僕もマイペースで努力しようと思います。

写真はそういうことだったんですね。了解です。よく見たら本当だベースでした。またお邪魔します。では。
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