弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

パラダイス・ナウ

2007年03月28日 | パレスチナ/イスラエル

 けっこう前からP-navi infoなどで紹介されていて(その記事のうちの一つ)興味津々だった映画、『パラダイス・ナウ』を恵比寿の東京都写真美術館ホールで観てきた。鼻炎で重い頭と重い体に鞭打って。
 感想は、・・・・感想は・・・・感想は、──ありきたりではあるが、「とても一言では言えない」。
 そんならいちいちブログに書くな、と言われそうだが、どうしても、これは書きたかった。それほど感動した。いや、感動という言葉すら使いたくない・・・・不適切な気がする。

 映画の詳細は公式HPにて。上映は渋谷アップリンクが月曜のみ、東京都写真美術館ホールが月曜以外。東京以外での公開については、決まればアップリンクの方に情報が載ると思う。

 いずれちゃんとした論評の形で書くかもしれないが、とりあえず今は宣伝と、周辺的な事柄からのコメントだけしておきたい。
 一つに、この作品がアカデミー外国語映画賞にノミネートされた際、イスラエルの遺族からつけられた「自爆テロを正当化するプロパガンダ映画」というクレームについては、まったくの的外れと断言できる(プロパガンダはこの遺族たちの声明の方だろう)。
 この映画は自爆攻撃を正当化も美化もしていない。イスラエルによる占領という事実と、パレスチナの社会自身が抱える問題を浮き彫りにしながら、そこに生きる人間の絶望と決断を描いている。美化されることも正当化されることも拒むしかない絶望と決断を。だからこそイスラエルに生まれ育ち、イスラエルの教育を受けたユダヤ人ですらが、どうしようもなくこの映画の主人公たちに共感してしまうのだ。

 二つに、パンフなどで紹介されているHOLLYWOOD REPORTERのレビュー文ついて。いわく、
「『パラダイス・ナウ』は、中東紛争の悲劇のひとつである、自爆攻撃者に対する強力な問いかけだ。
ハニ・アブ・アサド監督は、この中東の悲惨なテロリズムの一形態にさまざまな視点が投げかけられるよう物語を構成した。この作品は、世界の人々を困惑させ、怒りを抱かせ、苦しめる行為を明晰に、かつ憐れみをもって描いている」
 典型的な「アメリカの目」による塗り替えである。イスラエルの占領こそが「世界の人々を困惑させ、怒りを抱かせ、苦しめる行為」であることを認めようとしない大国の存在が、「中東の悲惨なテロリズム」を育み続けている。その現実から目を背け、占領に抵抗する人間を「テロリスト」で一括りにする者への「強力な問いかけ」が、この映画なのだ(しかも、それだけで終わらない価値もある)。この映画が抜き差しならぬ形で示しているのは、この自爆攻撃者たちの心をとらえているかなしみ、葛藤というものを一顧だにしない「和平案」だの「解決案」だのは、根本的にナンセンスだという真理なのである。

 個人的には、なぜ自分がパレスチナ問題に引きつけられ、今に至るまで注目し続けているのか、あらためてその理由をそっと囁かれたような思いがする。「人間とは究極のところ、自分の問題を体現する存在だ」というG・カナファーニーの言葉も思い出しつつ──僕に限らず、パレスチナ問題に関心があろうとなかろうと、これは観た人の人生の一部になるような映画だと信じている。それほど深く、「人間」というものにくい込んでくる映画だと。


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6 コメント

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「パラダイス・ナウ」を観て (ビー)
2007-03-30 04:29:03
トラックバックが入らなかった(たぶん相性が悪いのでしょう)ので、こちらでお知らせしておきます。

ネタバレをしない程度に観たあとの感想を書きました。

http://0000000000.net/p-navi/info/news/200703300411.htm
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>「パラダイス・ナウ」を観て (レイランダー)
2007-03-30 12:34:17
ありがとうございます。
以前もそうでしたが、TBだとおそらくスパム対策の設定の何かに引っかかってしまうのだと思います(ハムニダ薫さんからも同様の報告がありました)。僕の方では設定を細かく変えることできないようなので、これからも今回みたいにコメントで教えてください。お手数かけさせてしまい、申し分けありません。
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監督のインタビュー見つけました^^ (雅無乱)
2007-03-30 23:06:09
tbありがとうございました。
tb返したのですが反映されないみたいですね^^;)

紹介されている映画、興味あります!

監督のインタビューめっけたので貼らせていただきます。

http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20070227_141011.html

>(前略)人類は6000年の昔から弱肉強食の法則に抗ってきました。われわれは屈服するわけにいかないのです。屈服すれば、個人としてはこの日本でのようなより良い生活を享受できるかもしれない。しかし人間性という概念は私にとって大変重要です。もしかしたら弱肉強食という自然の論理のほうが正しいのかもしれない。しかし人類は進歩し、「正義」というものを生み出した。両者のせめぎあいの中でわれわれが屈服したならば、テロでも殺人でも何でもありになってしまう。強者が弱者をどうとでもできるというのであれば、正義は、法は、どこにいってしまうのか。パレスチナ人が屈服しないということは、「弱肉強食の掟よりも正義を」という、人類の進歩の度合いの指標なのです。(後略)

ぜひ見てみたい映画です。
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すいませんです (レイランダー)
2007-04-01 01:55:15
雅無乱さんは今まで何度も送ってくれているし、同じgooなのに入れないとなると、やっぱりおかしいですよね。今gooの方に問い合わせていますが、満足行く答えが返ってくるかどうか・・・・。

『パラダイス・ナウ』は、関西方面での公開がどうなるかはわからないのですが、たぶん少し遅れてそちらにも行くのではないかと。
今時はDVDが出るのも結構早いですから、それを待つ手もあるかも知れませんが、映画の横長の画面(特に35ミリ・シネマスコープ)に監督のこだわりがあるようなので、映画館で観るのがお勧めです。
紹介してくださったインタヴューと重なるような話はパンフにも載っていて、それを読んでますます監督の視点に共感しました。ただ、このパンフは難点もあって・・・そちらについてはP-naviで触れてもらっています。
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Unknown (どっこい)
2007-04-03 00:00:21
今日、見てきました。
アップリンクは業務用ビデオプロジェクターでの上映でしたが、予想外の「ストーリー」に驚かされました。グーグルの検索で上位に現われますが、下記の評がやはりすばらしいです。
http://www.onweb.to/palestine/siryo/pradise-munich06feb.html
レイランダーさんのBlogのおかげでいい映画を見られました。感謝します。
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わお (レイランダー)
2007-04-03 02:11:05
見てきたんですね!どっこいさんみたいに目の肥えた人に気に入ってもらえると、なんか嬉しいです。
って、いい年こいて絵文字で語らう私達。
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