没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

韓国は在来種子になぜこだわるのか

2012年09月25日 23時59分17秒 | 有機農業

つながるものかも

 現在、キューバのサンティアゴ・デ・クーバにおいて医療のインターンシップ研修をしている日本人がいる。空野すみれさんという神戸大学医学部の医学生のブログだが、これがとても面白い。

 「キューバにおいてインターン研修をやってみたい。可能なのか」というお問合せをメールで何人かの医学生からいただいたことがある。とはいえ、私は在日本キューバ大使館でのホセ・フェルナンデス・デ・コーシオ元大使の見解も受け、「難しい」と答えてきた。だが、空野さんはその難題を軽くクリアーしている。いったいなぜそれが可能だったのかと疑問に思って、ブログをみていくと、9月8日のブログにそのヒントが書いてあった。引用しよう。

「始まりはオーストラリアでの開発学を勉強していた時のこと。各国のGDPと健康水準をプロットした表を見たときだったのかな。基本的にGDPとその国の健康水準は比例する、というのがその表からとれるのだけれど一つ例外的に外れている国があった。それがキューバだ。スタンダードな経済成長優先型の開発モデルではなく包括的な人々のニーズに合わせたオルターナティブな発展を実践していて成功しているっぽい例だった。一人当たりのGNPは日本やアメリカの20分の1以下。にもかかわらず平均寿命は77.9歳(2009)。乳児死亡率は4.8(出生1000あたり)で先進国のアメリカより低い。死亡原因は①心臓病②悪性新生物③脳血管障害と先進国の人と同じ原因で死んでいく。医療・教育は無償。アメリカから経済封鎖されていて自分も貧しいのに海外で災害が起こった際は医療支援隊を送って(あんまり知られていないけど)どこの国よりも継続的な支援を行い、またアフリカや中南米の医師のいない地域のために留学生を受け入れて医学教育を行っている。どんな国なのか見てみたい。 そこで、Cuba medical electiveといれて検索!そのまま“Cuba medical elective”というサイトにあたった。イギリスのどっかの先生が運営しているサイトでイギリス人医学生にキューバでの実習をとりもっているらしかった。外国人もOKらしく、半信半疑でそこからapply!ことがスムーズに進んでゆき気づいたらここにいました」

 そうか、そんな手があったのか。

 日本から直接は駄目でも、間にエゲレスをかませればいいのか。新ためて世界はグローバル化しているのだと思ったりもした。

 では、空野さんは、なぜ医師の卵でありながら、オーストラリアで開発学を学び、キューバにめぐり合うことになったのだろうか。その答えも6月10日のブログに書かれていた。引用してみよう。

「もともと医者の家でもなく医療に興味があったわけではなく、ただ国境なき医師団の本を読んで医者は国境を越えて人の役に立てるのか、と思い医学を志した私。でもはっきり何がしたいのかわからない。そこで、神戸大学の有難い制度、一年の派遣留学に応募した」

 空野さんが、オーストラリアのクイーンズランド大学で最後の論文のテーマとして「もう一つの発展」として取り上げたのは、なんと農業である。空野さんは書く。

「近代の発展のなかで農業は、家族性のその土地の消費に基づいた作物づくりから、多国籍企業による輸出用のモノカルチャーへと変化し、そして仕事を失った農民の多くは都市に出て工業の労働者となった。資本主義・市場原理においてはモノだけでなく、人(労働力)、土地、時間、お金さえも『商品』となる。自然までも商品に変わり、絶えず需要がつくりだされる。そして『市場』においては、モノの分配は『必要性』に基づいてなされるのではなく『利益』に基づいてなされる。この発展において生まれた問題たち、環境破壊、飢餓、伝統的農業の破壊、に対してそれらの問題を市場原理に内在する問題としてとらえ、従来の『中央からの開発』、『市場原理による発展』に対して、『もう一つの発展』『下からの発展』の運動として、農民の世界組織La Via Campesinaについて書いた」

 なに!。ビア・カンペシーナだと。

 私は一介のサラリーマンとして、偶然キューバ農業との縁ができ、芋づる式にキューバの医療やビア・カンペシーナの存在について知った。だが、空野さんのようにフランス語や英語に堪能で若いうちから世界を見ている若者にとっては、キューバも医療も農業もビア・カンペシーナもつながるものだったのだ。

医療と農業とビア・カンペシーナがつながるわけ

 さて、空野さんはブログの中で、こう疑問視している。

「この春イギリスの医療とアメリカの医療を見てやっぱり考えさせられた。日本の医療はどうなるのだろう?。医療費増大とかTPPとか、これからどんどん変わっていくのかな、海外の資本が日本の医療の場にも入ってくるのかな、、アメリカのような市場原理の医療になっていくのかな?」

 だが、韓国でもらったIFOAMの資料を斜め読みしていると安完植博士のこんな一文に出くわした。

「2007年9月5日、ソウルにおいて韓国女性農民連盟とビア・カンペシーナ東南アジア支部との共催で、国際種子会議が開催された」(1)

 おおっ、ここにもビア・カンペシーナが!。

 ということで、今日は、医療の農業とビア・カンペシーナについて書く。そして、「最近、有機農業に興味を持った者です。韓国事情、フクサリウムの紹介ありがとうございます。たいへん勉強になりました」というコメントもいただいた。どうもありがとうございます。

 そこで、9月23日のブログでは、司馬遼太郎の街道を行く『台湾紀行』(1997)朝日文庫の締めくくりの言葉「台湾の話、これでおわる。脳裏の雨は、降りやまないが」(P372)をもじって、「韓国の話はこれで終わる」と書いたのだが、終わると言った韓国農業について補完し、最後に医療についてふれることとしよう。

民間活力で2800種の在来種子を確保

 9月23日のブログで書いたフクサリムは2005年から種子保存に着手したが、2010年までに約600種の種子を韓国全域から集めた。また、2010年には槐山郡だけで310種もの地元品種を集めた。そして、種子はマイナス18℃で保存され、増やされた後、袋詰めされ販売されている(2)。2008年には、33aの圃場で米を栽培していただけだったが、2009年には槐山郡で8農家が在来品種を水田2.2ha、ダイズ1.2ha、雑穀30aで栽培するまでになっている。

 元々在来品種は、無農薬・無化学肥料にも向いているだけでなく、韓国の地元環境に適合し、増殖が容易で、混作にも会う。環境に優しい有機農業には不可欠なのだ(3)。にもかかわらず、韓国が種子保全に取り組んだ背景には、外から購入した種子に依存し、1970年代に近代農業が普及したことで1980年に在来種子が激減したことがある(2)。安完植博士は在来品種が減少した理由として、新品種の導入、農村の高齢化、生態系の破壊、思慮なき開発を指摘する(3)

 そして、安博士が憂えるように、在来品種の損失スピードには目覚ましいものがある。安博士らが在来品種の最初の調査を行ったのは1985年のことだが、そのたった8年後の1993年には74%が失われ、2000年の再調査では、1985年と比べ87%も失われてしまっていた。在来品種はもはや小規模な農家でしか栽培されていない。例えば、2010年の7月3日から11月30日にかけ、フクサリウムが槐山郡の各農家を訪ねては、310の種子を収集したと記述したが、うち250種、81%が女性農家が栽培していた。しかも、その女性は60歳以上が91%も占めていたのだ(4)。これでは、在来種は農家の高齢化とともに永久にこの地球上から消え失せてしまうであろう。

 このあせりもあって、安博士らは、民間団体と協力し、種子保全に全力を尽くす。その結果、2010年には2816種類もの在来品種を確保することができた。メインは、フクサリウムの950種だが、それだけではない。都市住民の帰農を支援する全国帰農運動本部は2004年から種子保全に着手し、米、穀類、マメ、野菜で450種を確保した。また、同じく、帰農希望者へのガイダンスを行うYundoo農場も2005年から、マメ、野菜、換金作物で110種を確保している。

 韓国が面白いのは、在来種子に都会から新たに有機農業を始めた若者が興味を持っていることだ。例えば、安博士が2008年4月に立ち上げたネット上の種子交換サイト、「種子の夢」は、たった9人から3年で2400人にまで増え(4)、現在、3000人の会員を抱えるのだが(3)、そのメンバーは都市出身で帰農した若者だという(4)

種子の保全と女性の権利

 二つ目に韓国の種子保全運動が興味深いと思ったのは、在来品種保全運動が有機農業だけでなく、身土不二、地産地消、スローフード(伝統食文化保全運動)、さらには、農村における女性の地位向上や民主化運動とも密接にかかわっていることだ。

 例えば、種子保全運動では女性農民たちの活躍も目立つ。韓国女性農民連盟(KWPA= Korean Women Peasants Association)は2005年から在来種保全関心を持ち、2008~2010年にかけ、安博士らと連携して調査を行い206の在来種を集めたという。うち、35種が済州特別自治道(Jeju)、10種が莞島郡青山島(Cheongsan Island)、17種が咸安郡(Haman-gun)、 48種が江原道横城郡(Hoengseong-gun)、106種が全羅北道井邑市(Jeongeup-si)から確保され、2008年には、さらに京畿道驪州郡(Yeoju)、軍浦市(Gunpo)、江原道横城郡において在来種のパイロット・プロジェクトに着手。現在、連盟は九道12地区において米、穀類、マメ、野菜、換金作物を451種を確保し、「一農場、一在来種子」をスローガンに運動を展開している。そして、在来種は慶尚北道蔚珍郡(Uljin gun)やスローシティとして指定された青山島で広まっているのだ(4)

 それでは、連盟はなぜこれほど執拗に在来品種にこだわるのだろうか。前述したとおり、連盟は2007年9月に、ビア・カンペシーナ東南アジアと連携しソウルにおいて国際種子フォーラムを行っている。会議には、インドネシア、フィリピン、マレーシア、東チモール、カンボジア、タイ、チリから参加者があったが、当時の会議資料はネットで読め、ハン・ヨンミ(Han,Young-Me)さんの主張は、まず、ヴァンダナ・シヴァの発言を引用することから始まっている。

「農民にとって、種子は将来の作物や食料の源を意味するだけではない。種子は文化と歴史の記憶装置だ。種子は農業とフードシステムへの最初のリンクで、食料主権の最終的なシンボルなのだ」(5)

 そして、続けてこう語っている。

「子どもを産み、育てる女性農民には、かつて種子を集めて保存する役割がありました。この役割のために、女性はまた尊敬されていました。ですが、多国籍企業が女性からこの役割を奪ったのです。そこで、コミュニティ内での女性のステータスは落ち、コミュニティーは崩壊したのです。女性農民にとって、種子は、食料源だけを意味しません。種子は、何千もの私たちの先祖の歴史文化だけではなく、生物多様性を含んでいる貴重な資源なのです」(5)

 韓国女性連盟は現在約3万人の会員を抱える大組織だが、設立されたのは1989年のことである。なぜこの組織が誕生したのか、その理由について、Yoon, Geum-Soonさんが語っている。彼女は、韓国の女性農民連盟の国際コーディネータで、ビア・カンペシーナの国際コーディネート委員だが、2008年10月に開催されたビア・カンペシーナの第5回国際会議でのインタビューでこう答えているのだ。

「80年代にネオリベラリズムが世界で始まった時、農産物価格が劇的に値下がりしていたため、韓国政府は、農産物市場を開こうとしました。当時、韓国が軍事独裁下にありましたが、それ以上に、女性農民は社会運動に参加できませんした。韓国が男性社会であったため、女性農民はその意志決定過程に参加できなかったのです」(6)

 さらに前出のハン・ヨンミさんと同じく、こうも語っている。

「女性には、食料主権を実現する大切な役割があります。実際に種子を見つけて集め、増やし保存しているのは女性なのです。生産者と消費者とをつなげるうえでも女性には大切な役割があると信じています。種子を保全し、天然資源を保存するため、女性には伝統的な役割があるのです。

 私たちは保存のための最も良い種子を集めなければなりません。女性は最も良い種子を選び、布の中に包装し、台所に確保します。あまりにも多くの種子があるために、それは記憶によらなければなりませんが、非常に細心な注意が必要で、男性にはそれができないので、女性だけがその仕事をします。種子の収集と保存は非常に大切な仕事です。その重要な仕事のため、女性は農村で尊敬されてきたのです。ですが、その仕事が多国籍企業によって奪われたため女性たちはコミュニティで敬意を失っているのです」(6)

 種子の喪失はコミュニティの解体や農村女性の尊厳の喪失と密接にリンクしていたのである。

工業化で壊れた韓国農業

 朴正煕政権下において、韓国が急速に経済発展したことは「漢江の奇跡」として知られる。だが、Geum-Soonさんは、これは米国の政治的な思惑の下でなされたことだと語る。

「韓国の工業化はとても急速で、きわめて短期間になされました。多くの人たちが、この工業化を漢江の奇跡だと言いますが、私は、この工業化は経済だけでなく、政治的な理由からなされたと信じています。この工業化の背後にあったのは政治的な目的でした。米国は北東アジアに民主主義と工業化のショーケースを必要としていたため、韓国はこの開発のために米国によってターゲットとされたのです」(6)

 そして、この工業化によって農業が犠牲になったと語る。

「韓国を工業発展させるため、1960年代、70年代、80年代に、米国政府は、工場建設用地を提供するよう韓国政府に圧力をかけました。そこで、韓国政府は農地の役割をコンビナートと住宅用途にかえ、この過程で、多くの韓国農民は、その土地と暮らしを失ったのです(略)。朝鮮戦争では、300万人の韓国人が命を失いました。戦後、私たちは、農村地域の農業を蘇らせたかったのですが、米国は韓国の伝統農業を蘇らせるのにはまったく関心も持っていませんでした。そして、米国は援助の名のもとに廉価な農産物を与え、韓国市場に廉価な農産物を溢れさせたのです。その結果、韓国農民は競争できず、都市に移住し、都市労働者になったのです。また、韓国での工業化のためには、廉価な労働力が必要でした。そのため、韓国の政府は農産物価格を下げようとし、韓国の農民は農業をあきらめ、都市で安い労働力となったのです。それらは政府の政策でした。また、韓国政府はフィリピンと米国研究所から米の種子を得て、1960年代末から1970年代前半にかけ韓国で緑の革命が始まったのです」(6)

 わははは。なんというみじめさであろう。これを見れば、韓国には食料主権が必要だと主張する独自の国家農政がなく、ただただ米国の指導の下に規模拡大、農薬、化学肥料使用の農業を展開してきたことがわかる。たまたま偶然、ちいとばかし我が国の農政もよく似た経過をたどったとはいえ、完全に米国とは対等である日本国中央政府が米国の意向に一切関与することなく、独自農政を展開できたこととの違いがあまりにも際立っている。

 その結果、韓国の農民数は1970年の約1450万人から2004年には350万人へと減り、食料自給率は、1970年には80%もあったのが、2009年には27%まで落ちてしまう。そして、韓国・米国自由貿易協定、KORUS-FTA(Korea-US Free Trade Agreement)が2011年11月22日に批准されて、3月15日に実施された。これによって、韓国の農業はますます厳しい状況におかれている。

 ハン・ヨンミさんは言う。

「私たちは米国の農民やチリの生産者とは競争できません。例えば、1995年に、オレンジは韓国の市場に導入され、韓国の市場を席捲しました。それ以前、私たち韓国人は、オレンジを決して食べませんでした。ですが、農村地域の小さい店に、多くのオレンジがあります。そこで、国産品を消費することの代わりに、人々は輸入食材を消費し始めたのです」(7)

在来種子の持つ多元的な意味

 ハン・ヨンミさんは、ビア・カンペシーナの会議において在来種の確保がなぜ必要かを訴えたが、その論理は極めて堅牢でロジカルである。以下、要旨を箇条書きにまとめてみよう。

・韓国には、種子を収穫しなければ農民は死ぬという格言がある。この諺のように、種子は農民にとってなによりも重要なものだ。

・だが、1980年代に新自由主義農業が始まると、韓国の種子は、世界中で繰り広げられた外資とターミネーター種子に支配された。農業は緑の革命で近代農業へと再編成され、農民は種子会社から種子を購入しなければならなかった。だが、多くの農民が、ハイブリッド種子で大いに痛めつけられた。

・農民は種子企業に依存しなければならず、金にならない農産物を栽培できない。農業はかつては自然なサイクルに依存していたが、このサイクルはグローバル資本によって破壊されたのだ。

・さらに、韓国ではGMOは栽培していないが、収穫された農産物にはGMO汚染が見いだせる。

・在来植物は、生物多様性の別の名前であり、地球は私たちとともに生きる友人である。だから、私たちはそれに考慮する必要がある。在来植物が存在し続け、保存し続けらる場合にのみ、人間は生き残ることができる。生物多様性によって、安定した食料供給は行うことができる。

・種子は悪循環の最初のループだ。だから、私たちは、農薬なしで栽培できる在来品種を探す。農民が種子で資本に依存しないことが持続的農業のスタートだ。

・そして、私たちはそれらを発展させ、市民と安全な農産物をわかちあうであろう。さらに、私たちは伝統文化を発見し、地域社会を回復するであろう。

・食料主権は文化運動、地域運動農業運動、そして、女性運動なのだ。食料主権は、ただ安全な食べモノを消費者が享受することだけを意味するわけではない。それは、食文化を変え、伝統食を食べる権利を回復する運動だ。私たちは、正しいシーズンに食べ物を購入することで生産システムを変えることできる。さらに、西洋風に慣らされた味を変えることができる。

・食料主権とは、社会的連帯に基づく農業パラダイムによって持続的農業を実現するオルタナティブ運動なのだ。

・さらに、あらゆる医療が在来植物からもたらされていると言われるように、その経済的価値は無限だ。私たちは遺伝資源が企業に私有化させ独占させることを許さない。先祖からもたらされた民間療法に関係するすべての権利は、市民が所有すべきものなのだ(5)

 GMOの危険性については、Geum-Soonさんも次のように話す。

「農産物市場が韓国で開かれた後、多くの廉価な農産物が韓国市場にあふれ、韓国の農民の収入は下がり、次に、政府は農民に規模拡大するよう奨励しました。農民は大量生産するため多くのお金を借りました。結局、これは、生産費をあげて、多くが借金を返済できず、自殺したのです。例えば、GMO種子はとても高価です。伝統種子が10セントならば、GMO種子は100セントです。生産コストが増加するため、農民は借金をします。さらに、GMO種子は安定していません。時には豊作になりますが、時には全作物を台無しにするのです。もし、誰かが、食料を統制している状況を考えてみてください。結局、これは、民主主義に害を及ぼすことでしょう。十分な食べ物があれば、私たちには、考える余地があります。ですが、食料が不足すれば、独裁がやって来るのです」(6)

 なんと、在来種子の保全と反GMOは、農民の自殺防止や医療、民主主義にも及ぶというのだ。

素晴らしきかな、わが祖国日本

 蛇足になるが、Geum-Soonさんはこんなことも言っている。

「多くの韓国女性が米国軍隊で性的な暴力に悩み、多くの韓国人の女性が米軍に殺されています。例えば、3、4年前にも2人の韓国人の少女が米国の軍用トラックに引き殺されましたが、米国軍人の裁判はまったくなされず、なんら責任も取らずに、ただ帰国したのです」(6)

 わははは。なんというみじめさであろう。自国民が米軍に殺されても文句ひとついえないのだ。これでは、とうてい独立国とはいえず、米国の属国そのものではないか。米国と完全に対等な我が日本国中央政府との違いがあまりにも際立っている。

 誤解を招かないように繰り返すが、私は韓国の方々をバカにしているわけではない。自由化やグローバリゼーションに対して、在来種子を復活することで抵抗する農民たちを尊敬している。ただ、それに対して、米国の意のままになる韓国の政治家があまりにもだらしがないといっているだけなのだ。

 もちろん、盧武鉉のように米国に対して言うべきことをきちんと言い、農民の生活を守ろうとした政治家もいる。だが、そうした政治家はマスコミに汚職キャンペーンで叩かれ、自殺へと追いやられてしまうのだ。なんという我が国との違いであろう。

 そこで、なぜ、これほどTPPに米国はこだわるのかを考えてみたい。

 カナダ在住の渡辺惣樹さんの『TPP知財戦争の始まり』(2012)草志社は

「農業や医薬品の自由化はどうでもよく、米国の真の狙いは知的財産権の輸出拡大と中国による知財侵害の排除にある。このため米国はWTOを超えた米国型のルールをつくると決め、日本をその知財戦争の同盟国にしたいというのが米国の真意だ」と述べている。

 渡辺氏は、TPPの推進論者であり、日本にとっての良影響・悪影響をともに紹介しつつ、全体として利益の方が大きいと結論付けている。

 だが、私には、カレイド・スコープの9月18日の記事『「STOP TPP!! モンサントにNO!」動いている市民活動』の以下の主張の方がすんなりと理解できる。

「国民皆保険がなくなったら、国民は医療に莫大なお金を使わなければならなくなる。TPPによって日本に乗り込んでくる生命保険会社や医療サービスが莫大な利益を上げるためには、人々を病気にさせるように、飲料や食品に毒を入れればいい。モンサントの人工ホルモン入りのアイスクリームを食べ、ダイエットするために人工甘味料・アステルパームを使ったスイーツを口にし、得体の知れないワクチンを接種し、ラウンドアップを使って栽培したGMO作物を食べ続ければ、ほぼ確実に病気になる」

 そして、鈴木傾城氏のブログ、Darknessの9月22日の記事『あなたの身体を破壊する遺伝子組み換え作物と仕掛けられた罠』には、こんな面白い指摘がある。一部を引用してみよう。

「2012年9月19日、遺伝子組み換え作物と、発がんの関連性がマウス実験で示されたとフランス政府は発表した。モンサント社が作っている遺伝子組み換えトウモロコシをマウスに食べさせ続けると、オス、メス共に大きな問題が発生することが実験で証明された。オスのマウスでは皮膚に巨大な腫瘍が発生し、肝臓や消化管に異常が発生していた。そして、メスでは2年後に50%~80%の確率で癌が発生していた(略)。マウスで起きるのであれば、もちろん人間でも起きる可能性は非常に高い(略)。遺伝子組み換え作物は危険な食物なのである。食べてはいけないものだったのだ(略)。だが、日本では拒絶どころか、むしろ受け入れようとさえしている」

 そうだったのか。

 遺伝子組み換え作物を食べる。遺伝子組み換え農産物は毒である。毒を食べれば病人が増える。病人が増えれば医者にかかる人が増える。医者にかかる人が増えれば米国の保険会社が儲かる。最も、米国の保険会社が儲かるためには、ワーキングプアは医師にかかれないまま死んでもらい、高所得層からがっぽりとむしり取らなければならないのだが。

 もし、この見解が正しいとすれば、なんという愉快で素敵な作戦であろう。なんという深慮遠謀であろう。韓国に比べれば、私たち日本は格段に恵まれている。私たちは自ら選んだ政治家を誠実な、私心なき人格高き国民のために全身全霊をあげて尽してくれる人間として、心の底から信じ切ることができる。これほどの壮大な戦略を持つ日本国中央政府に対して随喜の涙を流して感謝しなければならない。

【引用文献】
(1) Ahn, W.S., Korean Native Species Collection Plus their Diffusion and Exchange in the Private Sector, The 17Th IFOAM Organic world Congress, Organic Seeds,2011.
(2) Lee,T.G& yoon,S.H., Movement of Growing Native Seeds for Crop Diversity in Korea, The 17Th IFOAM Organic world Congress, Organic Seeds,2011.
(3) Ahn, W.S. Yoon, S.H. ,Kim, S.G.,Byeon,H.D&Ahn,C.H., Collecting and Reserch on Native Crops in Geosan-Gun, Korea , The 17Th IFOAM Organic world Congress, Organic Seeds,2011.
(4) Ahn, W.S. ,Collection and Utilization of Crop Land Races in the Private Sector in Korea, The 17Th IFOAM Organic world Congress, Organic Seeds,2011.
(5) Han,Young-Me, The womenls role inprotecting seeds, Seed Heritage of the people for the good of Humanity,2007.
(6) Nic Paget-Clarke, Women’s Rights Are A Precondition to Food Sovereignty, Interview with Yoon, Geum-Soon of the Korean Women Peasants Association, In Motion Magazine, April 23rd, 2009.
(7) Ben Cooper and Kellyn Gross, Our Sister’s Garden and the KORUS FTA,May.12,2012.


Geum-Soonさんの写真は引用文献(6)から転載


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2 コメント

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Unknown (kanzan)
2012-09-28 00:51:11
今回の韓国の種子保全運動の話も興味深く読ませていただきました。
有機農業における種子保全の重要性、グローバリズム、市場原理のもとでの大資本の深刻な影響など、問題意識を新たにしました。

韓国の女性が種を保存管理する話で思い出したのは、数年前に話題になった「チャングムの誓い」という韓国ドラマです。
厨房から菜園労働に回されたチャングムが、薬草の種をきっちり袋に分け名前をつけて分類しているシーンがありました。
種子を大切にしようという運動が意識されていたのでしょうか。

このドラマは「人の口に入るものが身体を害するようなことがあってはならない」という師の教えを引き継ぐチャングムと、食事に毒を盛って権力を握り、商品流通を支配して栄えるチェ一族の戦いがメインの筋書きでしたが、考えてみれば、グローバル資本主義に対する民衆の戦いのドラマと見て見れないこともありません。
大資本に対する恨の感情があのドラマの背後にあったのかとひとり納得した次第です。

たしかに韓国は、三橋氏も言うように日本の行く末を過激な形で見せてくれているようです。
日本では多少マイルドな形になっているようですが、アメリカなどの関係においても、しょせん、コーヒーにミルクを入れるか入れないか程度の差しかないのではと思います。
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Unknown (加力謙一)
2012-10-29 03:51:51
いつも貴重な情報ありがとうございます。
>自国民が米軍に殺されても文句ひとついえないのだ。これでは、とうてい独立国とはいえず、米国の属国そのものではないか。米国と完全に対等な我が日本国中央政府との違いがあまりにも際立っている。

沖縄に住んでいますが、このような意見には賛成しかねます。
日米地位協定は、様々な問題を含んだままです。
大学へのヘリ墜落も、オスプレイの配備も、米兵によるレイプ事件も、まだ属国ではないかという感覚が沖縄にはありますね。
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