没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

世界アグエコ紀行⑤ アフリカの遺伝子組換え農業~凄いぞ僕らのモンサント

2010年02月11日 15時40分58秒 | アグロエコロジー
 南アフリカ共和国は、遺伝子組み換え食品の表示義務を設けていない。だから、同国のスーパーマーケット・チェーン、ウールワース(Woolworths)は、2000年からすでに遺伝子組み換え食品の仕入れを禁じている。だが、農民たちは、遺伝子組換えトウモロコシを何年も生産してきた。米国以外でモンサント社の遺伝子組換え種子を使い始めた、最初の国のひとつなのだ。そして、トウモロコシは、南アフリカの4800万人の主食でもある。

 だが、2009年に驚くべき「事故」が発生した。モンサント社の3種類の遺伝子組換えトウモロコシを栽培していた1,000人の農民のうち、280人が、トウモロコシに「異常」を報告したのだ(1)。いずれのトウモロコシも外から見れば、威勢が良く健康そうには見える。ところが、房の皮を剥いてみると、実がほとんどないか、まったくついていないのだ(2)

 被害は北西州、フリースティト(Free)州、ムプマランガ(Mpumalanga)州の3州8万2000haに及ぶ。農民たちは何百万ドルもの利益を失い、モンサント社は、直ちに農民たちに補償を行った。

「損害のあった農民にすぐさま補償すると申し出たことは、とても良いジェスチャーです」

 トウモロコシの実に種がないことを気づいたフリースティト州の農民、コブス・ヴァン・コラー(Kobus van Coller)氏は言う。

「外からは実があるのかないか見分けられません。実際に皮を剥いでみなければ、問題があることを証明できないのです」

 実がないトウモロコシには、健康そのもので、病原菌に侵された気配もまったく示さない。だが、ごくわずかの種子しか付いていないか、たいがいは全く種がないのだ。

 結実しなかった3種類のトウモロコシの品種は、除草剤への耐性を持ち、面積あたりの収量を増やすよう遺伝子操作されていた。モンサント社は実験室では、受精が不十分であったのは3種類のトウモロコシの25%未満だったと主張している。

 モンサントの地元のスポークス・ウーマン、マグダ・ドゥ・トイト(Magda du Toit)さんは言う。

「本社は、農場の被害の正確な度合いを固めることに従事しております」

 彼女は、被害額の範囲を推定はしたがらない。だが、アフリカ・モンサントのコブス・リンデケ(Kobus Lindeque)社長は、技術上で問題が生じたことを否定し、種子が熟する過程で受精が不十分であったとする。しかも、「モンサントの種子の損失は農場の25%未満だ」とし、現在調整中とも述べている。

 被害補償は、地元の農民協同組合、Grain-SAが実施しているが、同組合のニコ・ホーキンズ(Nico Hawkins)氏は、遺伝子組換え技術へのサポートがあると述べている。

「私どもは生産を改良するどんな技術サポート行うつもりです」

 同氏は、モンサント社の対応に満足しているし、Grain-SAは農民とモンサント間で密接な調整を行っていると言う。そして、農民たちも、モンサント社が課題解決に懸命に努めていた」と言う。

 だが、環境活動家でヨハネスブルグにあるアフリカ・バイオ・セキュリティ・センター(Africa-centre for biosecurity)のマリアン・マイエット(Marian Mayet)所長は、この失敗はモンサント社の遺伝子組換え技術によるものだとし、政府に対して緊急調査を行い、すべての遺伝子組換え食品を直ちに禁止するよう要請している。 所長からすれば、モンサント社の問題認識ははなはだしく低い。彼女自身の情報筋によれば、最大で80%も被害を受けた農場もあるのだ。

「モンサント社は、実験室でミスを犯しただけだと言っています。ですが、私たちは、バイオテクノロジーそのものが失敗だったと申し上げたいのです。なにしろ、3種類の別々のトウモロコシ品種すべてが同時に失敗しているのですから。「私たちは、長年遺伝子組換え技術について警鐘してきました。私たちはモンサントに問題があると警告しています」とマイエットさんは言う。センターは、遺伝子組み換え食品や遺伝子組換え技術そのものに強力に反対している(1)

【引用文献】
(1)Adriana Stuijt, Monsanto GM-corn harvest fails massively in South Africa, digitaljournal.com,Mar 29, 2009.
(2)Barbara L. Minton, South African GMO Crop Failure Highlights Dangers of Food Supply Domination, NaturalNews, April 03, 2009.


世界アグエコ紀行④ アフリカの有機農業

2010年02月07日 00時28分27秒 | アグロエコロジー
2009年7月4日 カンパラ

 アフリカは「緑の革命」を必要としている。だが、必要とされているのは、土づくりをしつつ、環境へのダメージを最小に抑えながらも、農業生産性を向上させるそれだ。

 有機農家、トレーダー、研究者たちは、アフリカに適切なものだ、と有機農業を後押しする。外部投入資材に依存するより、農業生態系を前向きなマネジメントに基づくからだ。有機農業がその頼りとするものは、堆肥、厩肥、輪作、マルチ、生物的害虫防除であって、化学肥料や遺伝子組み換え農産物の使用は排除される。

 食料を増産するために、アジアやラテンアメリカの多くの地域で実施された工業的な「緑の革命」モデルにアフリカが付き従うよう促す科学者たちも多い。だが、これには、化学肥料、農薬他の農場投入資材を適用することが必要となる。

「化学肥料を使え、という呼びかけは意味をなしません。製造過程で地球温暖化ガス、二酸化炭素が発生しますし、気候変動に影響する亜酸化窒素も含まれる。おまけに、ほとんどの自給農民にとっては、化学肥料は高すぎのです」

 全ウガンダ有機農業運動(NOGAMU= National Organic Agricultural Movement of Uganda)のモーセス・キグンドゥ・ムワンガ(Moses Kiggundu Muwanga) 代表は言う。氏は、IFOAMの理事でもあるが、緑の革命のためのアフリカ同盟「アグラ」(AGRA= Alliance for a Green Revolution in Africa)他の提案は、市場ベースの解決策となり、アフリカの普通の自給自足農民を搾取してしまうと言う。

「アグラが提供するパッケージは、農民たちに借金を負わせ、私どもの農業生物多様性や天然資源を破壊することでしょう。その目的は、高額の化学資材や農薬に頼りきりになるようアフリカ農業を転換させることにあるからです」

 全ウガンダ有機農業運動をはじめ、東アフリカでは、地力を高めるために、いま新たな有機肥料を使う運動が推進されている。インドで製造された有機肥料は、100%自然で、作物の成育に必要な全栄養素や微生物を含んでいるという。液肥と粒剤の二種類があり、トウモロコシでは64kg/haの粒剤が必要だ。

 有機肥料の販売企業、国際JN アグリテクノロジー社(JN Agritech International Ltd)のレディ・モハン(Reddy Mohan)社長は、化学肥料と比べずっと安いと言う。

「化学肥料では約160ドル/haもかかりますが、86ドルと安くすむのです」

 この有機肥料は、ウガンダ農業省も承認し、ウガンダとタンザニアの国境北部のサンゴ(Sango)湾にある砂糖農場のサトウキビ畑120haとトウモロコシ畑60haで試験がなされた。同農場のウィルフレッド・チェサング(Wilfred Chesang)農場長はこう語る。

「トウモロコシの品質は向上しています。種子は大きく、以前に化学肥料で被っていた経費も節減できたのです」

 農民たちは、尿素、パパイヤ、トマト葉、灰を混ぜ、地場産の有機農業での殺虫剤づくりのトレーニングも受けている。

 ウガンダでは、化学肥料や農薬が、年々値上がりしている。今、50㎏の肥料1袋は約70ドルもする。ウガンダのオーガニック製品の輸出アドバイザーであるビクトリア・バーク(Victoria Burke)氏は言う。

「私どもにとっては、食料の増産だけが重要なわけではありません。購入投入資材から農民たちが解放されること。地元で開発され、地元に見合った品種に頼れること。化学肥料にしか応じない育種された品種ではなく、農民自身が持つ品種から、地力を高めて増収するための品種選抜を始めるべきなのです」

 アフリカ全域で農業生産を強化するために活動する「アグラ」は、食料増産に向け、有機肥料と化学肥料を併用することを提唱し、農業ディーラー店で交換できるバウチャーを使うことで、農民向けの投入資材の補助金を後押ししている。

 だが、ザンビアの有機農業加工協会(OPAZ= Organic Producers and Processors of Zambia)のムビタ・マルモ(Mubita Malumo)副会長は言う。

「私どもは化学農業による短期的な解決策を拒否します。なぜなら、アフリカでは持続可能でないからです。それは、環境ダメージを高め、生産経費をあげます」

 ムビタ氏は、そうではなく、土地、地域資源、在来植物種、先住民族たちの智恵、生物多様性が豊かな小規模農場、そして、化学農業資材の限られた利用というその強さの上にアフリカが構築されるべきだ、と言う。

 アフリカ諸国が有機農業によって慣行農業よりも大きな利益を引き出せるという主張は、気候変動の下で生産性を高め、病害虫と戦うためには、新品種を採用しなければならないとする科学者や種苗企業の示唆と相矛盾する。
ケニアのエガトン(Egaton)大学の研究者で講師であるロダ・ビレッチ(Rhoda Birech)博士は、慣行農法は資源を無駄にし、環境的に見て不健全だと言う。

「ケニアでは、私たちは作物を育てた残渣を燃やしています。つまり、生産を高めるのに必要なすべての微量要素を焼却しているのです。有機農業では、資材を再利用でき、再投資できます。生物的に地力を維持するより良い方法なのです」

 彼女は、堆肥と同じく、総合的なマネジメントを実践することにより、農民たちが有機農業で生産性を高められる証拠は数多くある、と言う。

「例えば、北リフト・バレーやケニア西部の地力が低い地域の農民たちです。地力のマネジメント、作物の多様化、作物管理を増やすことで、伝統的農業と比べて、トウモロコシで71%、マメで158%も収量を増やしたと記録されています」

 だが、ビレッチ博士は、こうも指摘する。

「にもかかわらず、私たちが有機農業に取組むとき、私たちが土壌を掘り尽くし、アフリカを犠牲にしてヨーロッパに製品を輸出していないことを確認しなければなりません。有機農業で土壌を肥沃にするのに必要な様々な栄養素を適用することを保証しなければなりません。さもなければ、つまるところ、オーガニック製品の形ですべてのミネラル分を輸出してしまい、すべてを失ったまま残されてしまうことでしょう」

 FAOで環境と持続可能な開発を担当するナディア・シャラバ(Nadia El-Hage Scialabba)氏は言う。

「雨が降る地域の食料生産は、良い技術があれば改善でき、多くの食料を生産できると個人的には思います。輸入する以上に必要な食料を生産すべきです。エチオピアで最も劣化した地区で、80年代前半には飢餓で苦しめられたティグライ(Tigray)地区にも素晴らしい事例があります。私は数カ月前にそこにいました。テラスやマルチに数年を投資した後、今では主作物の生産が倍になっているのです」

 スー・エドワーズは、アジス・アベバにある持続可能な開発(ISD)の研究者で、ティグライ地区の農業農村開発部局(BoARD)と協働して堆肥利用の成果の研究を行っているが、堆厩肥を用いることで土壌を再生するキャンペーンにより、穀物収量が71万4000~130万トンとほぼ倍増したことが判明した。彼女は、ティグライでの化学肥料の施肥量が2001年から2005年にかけ1万3700トンから8,200トンまで減ったと言う。

「有機農業は万能薬ではありません。ですが、環境保護や持続可能な土地管理が可能な事実から見て大切です」

 だが、農村経済と農業のためのアフリカ連合委員会(African Union Commissioner For Rural Economy and Agriculture)のロダ・ピース・ツムシメ(Rhoda Peace Tumusiime)さんは警鐘もする。大量のバイオマスが必要なことから、ウガンダのカラモジャ(Karamoja)地区のような乾燥地では、有機農業による管理はできないと提唱する。

「環境のタイプに応じて、有機農業と無機化学農業の双方を手にすべきです。例えば、ウガンダでの綿生産の収量は、有機農業に重点をおいたために低下しています。綿生産には肥沃な土地が必要です。いかにその状況を緩和できるかを見なければなりません」

【出典】
Nebert Mulenga, Wambi Michael, Agriculture-Africa: Calls for Sustainable Green Revolution, Inter Press Service, Jul 4, 2009.


世界アグエコ紀行③ インドの有機農業は自殺対策?

2010年02月06日 12時07分11秒 | アグロエコロジー
2006年7月18日 ウッタランチャル(Uttaranchal)州(2007年からはウッタラーカンド州)。農民たちの集団自殺現象が国の主要課題となっているとき、ヒマラヤ山麓にあるこの州を耕す小規模農民たちは、持続可能な農業に向けて前進するには、伝統農法にこだわることかもしれないことを指し示している。

 ウッタランチャルの豊かな谷の農民たちは、国内での存在感を増しつつあるモンサント社のような多国籍企業(TNCs= trans-national corporations)が積極的に促進するブランド種子に不信感をいだき続けている。
本来の生育力がない種子でも作物が作れる。あるいは、化学物質他の高額な投入資材を投じなければならないという考えを農民たちは嫌悪している。

「最近の目にできる変化には大きなものがあります。ですが、私は、化学肥料も農薬も使わずに在来品種で作物を作り続けています。他の農民たちと種子を交換し、森を救う取り組みにも参加しています。私たちの幸せにとっては、このすべてがとても重要だと思うのです」

 ハダル (Jardhar)村の女性の農民、シベイ・デビ(Sivdeyi Devi)さんは言う。

 困窮する農民たちの引き続く自殺が報告される中、マンモハン・シン(Manmohan Singh)首相は、最も影響を受けたマハーラーシュトラ州を訪れ、2006年7月に8億4000万米ドルの緊急対策を発表した。これは、値段の高い農業投入資材を購入することで借金に地獄に落ち込んだ農民たちのために政府が行った最初の主な介入だった。

 農民たちの自殺問題に取り組む人権ネットワーク(Human Rights Law Network)によれば、パンジャブ(Punjab)、マハーラーシュトラ(Maharashtra)、カルナタカ(Karnataka)、ケララ(Kerala)、アンドラプラデシュ(Andhra Pradesh)州等、農業が重要な州で、この5年間に1万人以上の農民が自殺している。

 だが、ウッタランチャル州では、農民や小作農民たちは、他州の農民たちとは違って、金貸し業者や契約業者の搾取を鋭く意識し、これに組織的に抵抗する価値もわかっている。このことは、1970~80年代にかけて貪欲な材木伐採企業から森全体を救った「チプコ(chipko)」運動から始まっている。

「森を救う運動に続いたのが種子を救うキャンペーンです。私たちの村を守るのには、いずれも重要だからです」

 両方の運動に活動する時間を割いているラムプル(Rampur)村の典型的な働き者の女性農民、スデシャ・デビ(Sudesha Devi)さんは、こう説明する。デビさんは、国際的に関心を呼んだチプコ運動に参加して、短期間だが投獄されたことすらある。

 健康的な有機農産物を栽培するデビさんの原則は、実にシンプルなものだ。

「丘陵地の農場での仕事はいずれも忍耐を要するものですが、私たちの食べ物が、それを育てるのに健康で有機的なやり方を用いた栄養価の高い伝統的な作物に基づいている場合にのみ、私たちは、生き残ることができます」

 政府の農場普及ネットワークによるキャンペーンに直面しても、村人たちが、後進的な農業のシンボルとしての種子を信頼し次の作物のために種を蒔き続けていることが重要だ。

 だが、農民たちは、「種を救おう運動(SSM= Save Seeds Movement)」等のNGOによるカウンター・キャンペーンの恩恵も受けている。運動のコーディネータであるビジェイ・ジャドハリ(Vijay Jardhari)氏は言う。

「伝統的なバラハンジャ(barahanaja)[ひとつの土地に12種類の作物を栽培する]の間作システムは遅れたもので、これをやめダイズをつくるようにとの政府の科学者たちの発想が20年ほど前から広められ始めたのです」

 だが、幸いなことに、農民たちの間には健全な感覚が広まっており、政府の案をやることを彼らは拒否した。

「間作は、最小限度までリスクを抑えられる優れたシステムで、栄養価が高い雑穀やマメ科植物の豊かな多様性が利用できます。後でわかったことですが、ダイズの単作でこれを犠牲にすることは自滅的だったのです」とジャドハリ氏は言う。

 だが、氏が懸念しているのは、多国籍企業が小規模農民に対応することを認める国会にあげられている種子法だ。多国籍企業の数社はすでに普及手段を手にしており、高収量と利益を約束する種子で農民たちを誘惑している。ジャドハリ氏は、この新法がインドの豊かな種子や作物の生物多様性を破壊し、人口12億人のこの国の約7億人の農民から独立を奪ってしまうと警告する。

 種を救おう運動を各地に渡り歩いて伝道するクンワル・プラスン(Kunwar Prasun)氏は言う。

「足の行進(padyatras)をしていくつかの州にでかけたとき、伝統的な品種が保存され、人々から高く評価されていることを発見したのです。私どもは、こうした品種のいくつかを集め、近年これらを失った他の農民に利用できるようにしています」

 プラスン氏は、僻村で見つけた数多くの米品種をカタログに載せた。種を救おう運動は医薬用のハーブと同様に数多くの種類の穀物、雑穀、マメ、他のマメ科植物の豊かな収集をしている。

 「種を救おう運動」の活動家、ダム・シン・ネギ(Dhum Singh Negi)氏は言う。

「こうした伝統的な品種を守り、伝統的な作付様式を用いることによってのみ、丘陵地農業の持続可能な進歩は可能だと確信しています」

 とはいえ、いまだに確信していない村人もいる。

 若者バラト・シン(Bharat Singh)氏は言う。

「僕らは、自信不足で市場に過剰依存する段階はもう抜け出ました。ですが、どういうわけか、多くの人々は、栄養価が高い自家製の雑穀にこだわるよりも、市場から主食である米を買う方を好むのです」

 ラムラル・センバル(Ramlal Senval)氏は、あるひとつの問題を認める。

「私たちは、あまりにも短期のゲインに誘惑されすぎます。事実、高額な農業薬品を必要とするのに、政府も外国産の種子のための融資や補助金を出しています」

 種を救おう運動のようなグループによる最近のあらゆるキャンペーンにもかかわらず、このような一部の農民たちが、エキゾチックなトマト他の作物品種を栽培するため、化学集約的な方法を取り入れることで、短期的に大きな利益をあげたいといまだに考えていることは、さして驚くべきことではない。

 ナヒン・カラ(Nahin Kala)村の若者、ブパル・シン(Bhupal Singh)氏は言う。

「こうした傾向は、今後も続くでしょう。このことを懸念しすぎる必要はありません。ですが、同時に、僕らは、有機農業で栽培される伝統的な作物からの利益を拡げる方法も探り続けるべきなのです」

 首都ニューデリーの裕福な都会の消費者たちの間では、最近、有機農産物の価値が、急速に認められつつある。シン氏はこの伸びる有機食品市場に魅かれている。ブパル・シン氏やビジャイ・ジャドハリ氏他の「種を救おう運動」の人々も、有機農産物フェアに定期的に参加し、有機農産物を輸出する可能性に魅かれている。そして、この取り組みでは、「Kalpvriksha」や「GRAIN」等の都会にあるNGOの仲間からも助けられている。「GRAIN」のシャリニ (Shalini)代表は言う。

「種子の権利や有機食品等、同じ目的のために、村と都市にあるグループが協力することは皆のためになることでしょう」

 さらに、科学者も協力する必要もある。自然保護活動家であるスンダルラル・バフグナ(Sundarlal Bahuguna)氏は、「農民はもっと科学者のように、そして、科学者はもっと農民のようになる必要がある」と信じている。

 バフグナ氏は、科学者たちが農民や彼らの伝統を無視するときに、「種を救おう運動」のような運動との軋轢が生じると見ている。

「このことは、巨大なアグリビジネスや種苗企業に雇用された科学者に、とりわけ、言えることです。 歴史的な記録は、ウッタランチャル州の人々がいかに種子を大切にしてきたことを実証しています。飢饉の時期に、家族は飢餓によって死にましたが、特別な保存(tomris)で将来に蓄えられた種子にふれるのを拒否したのです」

【出典】
Bharat Dogra, Environment-india: Organic Farming, Answer to Farmers' Suicides? Inter Press Service, Jul 18 , 2006.


世界アグエコ紀行② 近代農業、インド農民に絶望をもたらす

2010年02月04日 21時05分22秒 | アグロエコロジー
2009年4月28日 インドの農民たちの農業の特性は、弾力性と回復にある。だが、1997年以来20万人もの農民がその命を断っている。インドは輪廻転生がごく普通に信じられている土地柄とはいえ、なぜ、かくも多くの農民たちが自殺しているのだろうか。

 インドの農民たちが直面する最も悲惨で劇的な生存の危機の兆候が、自殺だ。そして、自殺の根には、急速に借金が雪だるま式に増えていることがある。農民たちにとって、農業をポジティブな経済からネガティブな経済へと変えたのには、2つの要素がある。生産経費の高まりと農産物価格の下落だ。いずれの要素も貿易の自由化政策と企業のグローバリゼーションに根ざしている。

 1998年。世界銀行の構造調整政策によって、インドは、カーギル、モンサント、シンジェンタ等のグローバル企業に、種子の開放を強いられた。一夜にして、グローバル企業は、経済を変えてしまった。農民たちが保存していた種子は、企業製の種子におきかえられ、化学肥料や農薬を必要とするから、経費節減ができない。

 企業は、実を結ばないバイテク種子や特許によって、農民たちが種子を自家採取できないようにしてしまう。伝統的には種子は、いつも植え付け期に備え、タダの資源だった。だが、このために貧しい農民たちは、新たな種子を買わなければならなくなった。少量作物は脇に追いやられ、商品化が進んでいく。この新たな出費が貧困を増やし、借金につながるのだ。

 農民たちが保存していた種子が、企業が供給する独占的な種子にシフトすることは、農業生物多様性がモノカルチャーにシフトすることでもある。アーンドラ・プラデーシュ(Andhra Pradesh)州のワランガル(Warangal)地区は、以前は種種多様なマメ、雑穀類、油脂の種子を栽培していた。だが、今は、綿のモノカルチャーを強いられ、農民たちの育種や自然に進化する品種の富が失われることにつながっている。

 モノカルチャーや画一化は、作物が獲れないリスクを増やす。多様な生態系に適応していた多様な種子が、市場向けの画一的で、たいがい試験もされていない種子へと急速に置き換えられるからだ。モンサント社が2002年に初めて遺伝子組換え綿を導入したとき、収量があがらず、農民たちは10億ルピーを失った。企業は3,700㎏/haの収量を約束していた。だが、最低では500㎏/ha の収量しか獲れなかったのだ。25000ルピー/haの収入がある代わりに、農民たちは16000ルピーもの赤字を出すこととなった。農場に保存されていたトウモロコシ種子がモンサント社のハイブリッド・トウモロコシに置き換えられると、ビハール(Bihar)州では、すべての作物の収量が獲れず、40億ルピーの損失を生み出し、絶望的なまでに貧しい農民たちをさらに貧困に追いやった。南側の貧しい農民たちは、種子の独占を克服できない。「自殺の危機」は、小規模農民たちの生き残りが、グローバル企業の種子独占といかに両立しないかを示す。

 インドの農民たちが直面する二つ目のプレッシャーは、WTOの自由貿易政策の結果、農作物価格が劇的に下落してしまったことだ。WTOとは本質的には、農業をダンピングするためのルールだ。WTOは、豊かな国がアグリビジネスに対する補助金を増額することを認める。だが、それ以外の国が廉価な輸入農産物の攻勢から国内の農民たちを保護することを妨げる。この補助金4000億ドルは輸入規制の撤廃とあいまって、「農民自殺」につながる。世界の小麦価格は1995年の216ドル/tから2001年に133ドル/tに下落した。綿も98.2ドル/tから49.1ドル/t、ダイズも273ドル/tから178ドル/tと下がったのだ。この値下がりは生産性が変化したためではない。補助金が増え、一握りのアグリビジネスによる寡占市場独占が増えたためなのだ。

 インド国内で農民の自殺率が最も高い地域は、マハーラーシュトラ(Maharashtra)州のヴィダルヴァ(Vidarbha)地域だ。ここでは、年に4000件、毎日10人が自殺しているのだが、ここは、モンサント社のBt綿の栽培面積が最も多い地区でもある。モンサント社のGM種子は、投入資材を再生可能資源から毎年高額で買わなければならない非再生な資源へと種子を変えてしまうことで、「自殺の経済」を作り出しているのだ。以前の綿の実の価格は7ルピー/kgだった。だが、Bt綿の実は1万7000ルピー/kgもする。在来の綿品種は、食用作物と間作できる。だが、Bt綿はモノカルチャーでしか栽培できない。在来の綿品種は、天水で栽培できる。だが、Bt綿は潅漑が必要だ。在来の綿品種は害虫に抵抗性がある。だが、Bt綿はオオタバコガ(boll worm)に対する抵抗性はあるとはいえ、新たな害虫が発生し、こうした新たな害虫を防除するために、農民たちは、Bt綿の以前と比べ13倍も多くの農薬を使っているのだ。農民たちの平均収量は300~400kg/haだ。そして、モンサント社は、1500kg/haもの収量があがると主張して、GMO種子を販売している。まるで詐欺だ。値段がかさみ、信頼のおける収量があがらないから、借金地獄と自殺経済が作り出されてしまう。

 モンサント社が生産コストを押しあげる一方、農民たちの生産物価格はアグリビジネスの補助金によって下落する。米国の綿の生産者たちは毎年40億ドルもの補助金を得ている。これが人工的に綿の価格を暴落させ、以前はブルキナファソ、ベナン、マリ等の貧しいアフリカ諸国が参加できた世界市場を米国は奪うことができた。アフリカの農民たちは、570ドル/haもの補助金にとても対抗できない。アフリカの綿栽培の農民たちは毎年2億5000万ドルも赤字を出しているが、それが、カンクンでのWTO交渉の場から小さなアフリカ諸国が降りてしまい、交渉が崩壊することにつながった理由なのだ。

 グローバルに貿易される農産物価格は、南側の貧しい農民たちから搾取している。科学技術エコロジー研究財団(RFSTE=Research Foundation for Science, Technology and Ecology)が行った研究によれば、価格の下落で、インドの農民たちは毎年260億ドルを失っているという。貧しい彼らは、この貧困の負担に耐えられない。農産物の売り上げでは支払えないほど借金が増えるため、農民たちは腎臓を売ることを強いられるか、自殺するしか道がない。種子の保全は農民に命をもたらし、種子の独占は農民から命を奪うのだ。

 チャッティースガル(Chattisgarh)州でも最近は農民の自殺がニュースになっている。2000年以前には、同州での農民の自殺は報告されていないのに、2007年には1593人の農民が自殺した。チャッティースガル州は多様な米の在来品種の中心だ。以前にインドでは20万種以上の米が栽培されていた。コメの研究者リチャリア(Richaria)博士が、コメの品種を収集をしたのもこの地であれば、「緑色の革命」の品種よりも収量が高い多くの育種を地元住民がしていることを示したのもこの地だ。

 だが、今、チャッティースガル州の稲作は強姦されている。在来の米品種を緑色の革命の品種におきかえられたため、潅漑が必要となり、グローバリゼーションの圧力の下、外国産の野菜よりもいつも米は優先されない。農民たちはハイブリッド種子を売りつけられ、この種子は大量の化学肥料や農薬、集約的な潅漑が必要となる。結果として、頻繁に減収し、これが農民たちを借金と自殺へと追い込む。

 チャッティースガル州は、バイオ燃料用のナンヨウアブラギリ(ジャトロファ:Jatropha)の重点栽培地域となっており、農民たちの農場は、ジャトロファのプランテーションに対応することを強いられ、食料や暮らし危機をよりいっそう悪化させている。自動車産業用のディーゼルは、貧しい人々の食料ニーズよりも優先されているのだ。

 工業化され、グローバル化される農業の「自殺の経済」は、3つのレベルで自滅的だ。農民にとって自滅的だし、食料を奪われる貧しい人々にとって自殺的だし、人類のレベルでも自殺的だ。生物的に我々の生存が依存することとなる種子、生物多様性、土壌や水といった天然資本を破壊するからだ。

 「自殺の経済」は必然的なものではない。『ナブダニャ(Navdanya)』(注)は、農民たちの自殺に歯止めをかけるため、『希望の種子キャンペーン』を始めている。「自殺の種子」から「希望の種子」へのシフトとは次の三つだ。

①GMOや再生できない種子から、農民たちが保存し、わかちあえる受粉する有機種子へのシフト
②化学農業から有機農業へのシフト
③誤った価格に基づく不公正な取引から本当の公正な価格に基づくフェア・トレードへのシフト

 転換した農民は、モンサントのBt綿を栽培する農民に比べ、10倍もの収益をあげている。

(注)ヴァンダナ・シヴァがはじめた種子を保存し、多様性を守る運動。インド6州で活動している

【出典】
Vandana Shiva, Seeds of Suicide to Seeds of Hope: Why Are Indian Farmers Committing Suicide and How Can We Stop This Tragedy?, Huffington post, April 28, 2009.


世界アグエコ紀行① 有機農業、インド農民に希望をもたらす

2010年02月03日 23時37分13秒 | アグロエコロジー

 世界没落紀行

 1月31日のブログで書いたように、ちくまプリマー新書の新刊『地球を救う新世紀農業:アグロエコロジー計画』の執筆作業が一段落したため、新シリーズ「アグエコ世界紀行」をはじめます。世界の「アグエコ」を調べている中で、「面白そうだな」と思ったものの、著作には使わなかった「やむ落ち」情報やその後にネットで見つけた「開発途上国のアグエコ」を中心にUPしていきます。 欧米等の先進国の有機農業は扱いません。欧米の有機農業の優良事例は、他にも充実しているサイトがあるでしょうし、「石油が乏しくなるポスト・ピークオイル時代には、いまもろくに石油が使えない開発途上国の実践こそが、日本に役立つに違いない」という私の思い入れのためです。「すでに没落している途上国の人々が、少しでも没落から這いあがろうとする努力」、すなわち、「大没落」から「プチ没落」へといかに転換しえたか、を見てやろうというのです。それは、日本が「大没落」を回避し、豊かに優雅に「プチ没落」するための他山の石となりましょう。気まぐれで移り気な性格のため、いつまで続くかわかりませんが、「世界アグエコ紀行」を通じて「没落力・実践マニュアル」を考えていきたいと思います。


 2009年2月12日 インドでは、近代農業による借金で、農民たちが自殺を強いられている。だが、マハーラーシュトラ(Maharashtra )州はインドの他地域と比べ、最悪の生活水準にある。しかも、この10年で同州では32,000人以上の農民が自ら命を絶っているが、うち、70%は旱魃の被害を受けやすいヴィダルヴァ(Vidarbha)地域の11地区なのだ。だが、いまヴィダルヴァでは、有機農業が村人たちに希望をもたらしている。金がかからず、持続可能で環境にやさしい農場技術が、地域の農民たちの信頼感を培い、自立を高める助けとなっている。『総合的自然持続可能農業プログラム』(INSAP= Integrated Natural Sustainable Agriculture Programme)は、西ヴィダルバのブドハーナ(Buldhana)、ワシム(Washim)、アコラ(Akola)、アムラーバティ(Amravati)、そして、中央ヴィダルバのワルダ(Wardha)と、ヴィダルバの5地区で取組まれている。

  このプログラムを始めたのは、ボランタリー組織、YUVA (Youth for Unity and Voluntary Action) ?Ruraだ。化学肥料、農薬、遺伝子組換えを含めた高額の種子。プログラムでは、こうした技術や投入資材に最小限度しか依存せずにすむ。かわりに肥料や病害虫防除の技術として奨励されているのは、植物の葉、作物残渣、牛糞、牛尿等の地域資源を活用することだ。

  益虫、益鳥、土壌中のミミズや微生物。農民の友人たちを認識し、守ることにも多くの注意が向けられる。すべての段階で、土壌や水を保全することが強調され、水や風による土壌侵食もチェックされる。在来品種も重視される。

  この結果、投入資材にかかる経費は劇的に減った。事実、農民たちは、ほとんど取るに足らないほどまでかかる経費が減ったと報告している。同時に、土壌は保全され、地力がついたおかげで収量も維持され、農家経営の健全化につながっている。高い資材を買うために、高利子での借金もせずによくなったのだ。

  農民組織も育成され、搾取や不正に抵抗して、マーケティングの努力も容易になった。それが、有機農産物を高く販売する一助となっている。自助グループが設立され、マメの加工工場も動きだし、園芸やヤギの飼育等、暮らし活動も多角化した。

  サンジャイ・バガット(Sanjay Bhagat)氏は、ワシム地区の農民で、INSAPと地元農業組織のコーディネータなのだが、このプロジェクトに出会う以前には、人生の希望を完全に喪失していた、と言う。家族は多額負債を抱え、自殺することすら考えていたのだ。氏の父親の時代には、経費を安くあげるように細心の注意を払っていたから、一家の農業経営も健全だった。だが、氏と兄弟が相続したときには、高額な種子への批判が絶えなかったし、あらゆる種類の怪しい高額の殺虫剤をディーラーが売りつけようとしていた。氏は、何人もの農民たちが氏と同じ罠に陥って、結果として無用な高い種子や投入資材を買わされていた、と想起する。経費はまるで底なし沼のように増えていったが、それに比例して収量が伸びることはなく、借金を背負うこととなったのだ。

  だが、新技術を用いた氏の最初の実験は、大成功をおさめる。そして、氏はこの新技術の熱烈な伝道師となっていく。氏はINSAPの普及活動にとても忙しい。妻のシンドゥ(Sindhu)さんは、夫は食事をするためにしか帰宅しないと愚痴をこぼすが、その顔は晴れやかだ。

                            

畑に緑肥をすきこむインドの有機農家

 私が訪れたワシムとアコラの村では、持続可能で環境的にも優しい農法で活力が蘇った農場のことを農民たちが、生き生きと話してくれた。

 「使われていた化学肥料や農薬を止め、木の葉による害虫防除や堆肥に切り替えたことが、農民の友人である昆虫や益鳥を守ることに役立つことがわかったんです」

  ラグハブ・ナサライ(Raghav Narsalay)は、農民たちの90事例を最近の調査したのだが、それによれば、それまで地域で用いられていた技術よりも、INSAPの技術の方が、農場の規模にかかわらず、極めて費用対効果に優れていることが判明したという。

  対応した農民たちの88%が、この持続可能な農法を取り入れ、信頼感を取り戻し、農業を続ける意欲も持てた。一方で、慣行技術を続ける農民たちの67%も、「もし、代替手段が得られればそこから抜け出せる」と口にしている。また、持続可能な農業を始めた農民たちは、食が健康になったことはもちろん、新たなアイデアを実践するために村人たちの間での協力関係も高まっていると言う。そして、自立度も高まった。

  とはいえ、ヴィダルバの危機は、多面的で複雑な内容を持つ。

 「以前は、西側からの廉価な綿の輸入、今は、中国からの廉価な輸入綿が大きな問題となっています。政府の政策は役立たず、WTO規則は不公正なんです」

  スレシュ・ルレ(Suresh Lule)氏は言う。

  YUVA-Ruraの先任コーディネータ、ニティン・マテ(Nitin Mate)氏もこう付け加える。

 「気候変動による悪天候も農民にとり深刻な問題になっています」

  さらなる介入が必要なことは明らかだ。とはいえ、あるひとつのプロジェクトとはいえ、INSAPは数多くの農民たちにとり、大切な道を差し示すことができているのだ。

 【出典】

 Bharat Dogra, Organic farming brings hope to stressed Indian farmers, People & the Planet, 12 Feb2009.