没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

ノース・ウッズ作戦

2006年10月07日 00時08分13秒 | キューバ

 まず、以下の文章をお読みいただきたい。

『1960年代、ノースウッズ作戦と呼ばれる軍事計画があった。ピッグス湾でのキューバ侵攻失敗の直後、アメリカ市民にカストロ政権に見せかけた偽のテロ攻撃を仕掛け、キューバへの反感をあおり、再度キューバ侵攻しようという企てだった。だが、ケネディ大統領はこれを却下する。これによって大統領は命を失うはめになった』。
副島隆彦訳「次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた・下」(2006)徳間書店・P159

 「そんな馬鹿な」と思われる方も多いかもしれない。だが、キューバの魅力のひとつは、キューバを調べることにより、芋づる式に他の関連事件が見えてくる面白さにある。この ノース・ウッズ作戦、すなわち、コードネーム、「オペレーション・ノースウッズ」もそのひとつである。

 作戦は、国防総省が立案し、1962年3月13日に、ライマン・ルイス・レムニッツァー(Lyman Louis Lemnitzer・1899~1988年)統合参謀本部議長から国防長官ロバート・マクナマラに提出された。この作戦の存在は長年秘匿されてきたが、ジョン・F・ケネディ暗殺記録再調査会によって1997年11月18日に秘密文書が公開されたことにより明らかになった。この文章から、米軍のキューバ侵攻を正当化するための地下工作が密に画策されていたことが明らかになってくる。
キューバ海域で米艦船を爆破し、「リメンバー・メイン号」の掛け声を作り上げ、キューバから逃げる難民を乗せた船を沖合で撃沈し、偽のキューバ空軍が民間機を攻撃し、さらには、米国在住のキューバ人テロリストをでっちあげ、街頭で無辜の米市民を射殺し、首都ワシントン、アイマミなど各地で凶暴なテロの波を起こす。さらに爆弾事件や飛行機ハイジャックも行われるはずだった。そして、ニセの証拠を使って、これらをすべてカストロのせいにし、国民の「キューバのテロ攻撃」に対する怒りを高め、キューバへの軍事介入を正当化するというものだった。

 『キューバに対する米の軍事介入の正当化』との題名が付いたこの書類は、今ではウェブサイトで簡単に読むことができる。

 では、作戦計画の内容をみていくこととしよう。第一のプロジェクトは、キューバ内のグアンタナモ基地内で暴動事件を起こすことである。ただし、英語を直訳するとぜんぜんムードが出ないので、我が旧帝國陸軍の作戦命令書風の文体で表現してみよう。

イ、攻撃ヲ確実化セル事変ノ創出
一・多クノ噂ヲ広メ、之ニハ、秘密ラジオを使用スベシ
二.(カストロ排除ヲ望ム米国ニ亡命セル、好意的ナルキューバ人ヲ上陸セシメ、基地ヘノ攻撃ヲ演ジルベシ
三.基地内デ好意的ナルキューバ人ヲモッテ、基地正門近郊ニテ暴動ヲ起スベシ
四.基地内ニテ火災ヲ起コシ、弾薬ヲ爆発セシム
五.空軍基地ニテ航空機ヲ炎上セシム
六.基地外部ヨリ基地内ヲ迫撃砲ニテ砲撃シ、何ラカノ被害ヲ生ジセシム
七.港口付近ニテ船舶ヲ沈没サセ偽装犠牲者ノ葬儀ヲ行フ

 ちなみに、原案では「軍人を乗せたまま沈める」、すなわち、自軍の兵士を見殺しにする予定だった。

ロ.基地ヲ脅カス銃座トモルタル砲座ヲ破壊シ、軍ハ水及ビ燃料源ヲ確保スルタメ進攻作戦ヲ実施スルコトデ対応ス
ハ.大規模ナル軍ノ軍事行動ヲ開始ス

 ナホ、以下ヲ以テ「リメンバー・メイン号」事件ヲ再現セルコトハ可ナリ

イ.グアンタナモ湾内ニオイテ米国船舶ヲ爆発セシメ、キューバヲ非難セルコトハ可ナリ
ロ.イズコノキューバ水域ニオイテモ無人船舶ヲ爆発セシムコトハ可ナリ。空モシクハ海上或ハ双方依リ、キューバカラノ攻撃ニヨル惨事ノ如キ事変ヲハバナモシクハサンティアゴ近郊デ引キ起コス手配ヲ得。単ニ船舶ヲ調査セル意図ヲ持ツキューバ機並ビニ船舶ノ存在モ、船舶ガ攻撃サルトノ公的証拠ヲ得。ハバナモシクハサンティアゴ近郊デ事変ヲ起コスコトニ依リ、爆破音ヲ聞キ、炎ヲ見ル人々ニ真実性ヲ与フ。米国ハ、実在セヌ乗組員ノ空海ノ救助活動ヲ行フ。米国紙面ニ死傷者名簿ヲ掲載セルコトニ依リ、国民ノ義憤鼓舞ニ寄与ス。

 作戦の第二段階は、マイアミやワシントンで「偽装テロ事件」を引き起こすことである。

 我々ハ、マイアミ、ソノ他フロリダニオケル諸都市、ワシントンニオイテモ、共産主義キューバニ依ルテロ活動ヲ行フコトガ可ナリ
 テロ活動ハ、米国内ノキューバ難民ニ対シテモ可ナリ。フロリダニ向フキューバ人船舶ヲ真モシクハ偽装ニヨリ沈メルコトハ可ナリ
 慎重ニ選択セル地区ニテプラスチック爆弾ヲ暴発セシメ、偽装キューバ人工作員ヲ逮捕シ、事前ニ準備キューバノ関与ヲ明ラカニセルシ文書公開ヲ行フコトモ有効ナリ

 作戦の第三段階は、米国戦闘機をキューバ戦闘機に似せたように改造し、ドミニカ共和国に対して偽装キューバ軍の攻撃をさせることである。

イ.ドミニカ共和国二対シ、キューバノB-26モシクハC-46型爆撃機ガ、夜間ニサトウキビ畑ヲ燃ヤス襲撃ヲを行フコトハ可ナリ。ナホ、ドミニカ共和国内ノ地下共産党員ヘノ「キューバ」カラノ通知ガ、ビーチ等デ発見サセルヨウニセシムベシ

ロ.米国飛行士ニヨル、ミグ戦闘機ノ使用モ、サラナル挑発ノタメ、コレハ可ナリ。ミグ戦闘機ニヨル民間航空機ヘノ攻撃、米軍ノ無人航空機及ビ船舶破壊攻撃ハ補完的行為トシテ有効ナリ。航空機乗客、特ニ機長ヲ納得セシメ、事実発表サセンガタメ、適切ニ塗装セルF-86ヲ、キューバノミグ戦闘機トシテ活用スベシ。之ノ提案ニハ、航空機ノ入手モシクハ改造ニ危険性ヲ伴フ欠点アリトイエドモ、約三ケ月ヲモッテ米国内ニテ適切ナルミグ戦闘機ノ模造機ヲ生産スルハ可ナリ

 第四段階の作戦は、実際には、CIAの職員が乗っているが、それを「休暇旅行中の大学生が乗った民間飛行機」と称して飛ばし、フロリダ南方で無人飛行機とすり替え、爆破直前に「緊急事態発生(mayday)」の信号を出させてから無人機をキューバ上空でリモコンを使って爆破させることである。それをすべて「キューバ軍がやった」と主張し、キューバに罪をなすりつけることである。

イ.民間航空機ヤ海上ノ船舶ニ対スルハイジャックモ、容赦ナキキューバ政府ニヨリナサレル手段ト見セカケルベシ

ロ.米国カラ、ジャマイカ、グアテマラ、パナマモシクハベネズエラニ向カフ民間定期便チャーター機ガ、キューバ機ノ攻撃ニ依リ撃墜サレル事件ヲ起コスコトモ可ナリ。目的地トシテハ、キューバ領内ノフライト・ルートヲ選ブベシ。乗客ハ、チャーター便ヲ利用セルグループデモ、休日ノ大学生グループトテモイトワズ
ハ.マイアミ地域ノCAI組織ニ依リ、実際ノ航空機ヲ、無人機ニスリカエルコト。無人機航空機ハ、キューバ上空ニテ、キューバノミグ航空機ニ依リ攻撃ヲ受ケタトノ「緊急事態発生」信号ヲ国際遭難周波数デ発信セシメタ後、無線信号ニヨリ、之ヲ破壊ス。之ニ依リ、米国ガ事件ヲ「販売」セント欲セズトモ、航空機ニ生ゼシ事件ヲ放送局ガ報道セリ、、、、、、。

 いかがだっただろうか。パソコンのワード変換で、米軍を「関東軍」、キューバを「満州」とか「中国」とかに置きかえれば、これは、もう致命傷なまでの国際問題となり、日本国政府が賠償金を求められるのは間違いない。

 だが、さすがにマクナマラ長官はこれを拒絶し、ケネディもレムニッツァーを統合参謀本部議長職から解任した。だが、これが後にケネディ暗殺の一因になっていく。キューバにこだわることで見えてくる真実は数多い。以下が原文である。興味をもたれた方はご確認をいただきたい。

(引用文献)
http://www.gwu.edu/~nsarchiv/news/20010430/doc1.pdf