原発事故で文明はシフトする
池田信夫氏はあくまでも経済として今回の原発事故を捉えていますが、氏のように経済の範疇ではなく、今回の原発事故は、文明のあり方を問いかける本源的な問題だという論調もでてきています。私が最も共感を覚えたのは、元鎌倉市長で、普通の市民が記者になって生活や仕事の現場からニュースを書くインターネット新聞『JanJan』を創刊した竹内謙氏が3月 25日に書かれた「統一地方選は『文明転換』の出発点に」です。
竹内氏はこう述べます。
「この惨事は自然への畏怖、畏敬の念を軽んじた科学技術万能主義、消費至上主義に対する天の啓示と考えるべきであり、いずれの選挙も「自然とともに生きる」「足を知る」といった日本の伝統文化を取り戻す「文明の転換」を最大のテーマにしなければならない」
朝日新聞が3月28日に掲載した宮崎駿監督の発言でも、氏は大震災への思いを次のように語っています。
「埋葬も出来ないまま瓦礫に埋もれている人々を抱えている国で、原子力発電所の事故で国土の一部を失いつつある国で、自分たちはアニメを作っているという自覚を持っている(略)。残念なことに、私たちの文明はこの試練に耐えられない。これからどんな文明を作っていくのか、模索を始めなければならない(略)。僕たちの島は繰り返し地震と台風と津波に襲われてきた。しかし、豊かな自然に恵まれている。多くの困難や苦しみがあっても、より美しい島にしていく努力をするかいがあると思っている。今、あまりりっぱなことを言いたくはないが、僕たちは絶望する必要はない」
レジリアンスは大切、けれどその概念を矮小化させてはいけない
ということで、「文明論」にまで話が来てしまいました。なお、原発とは無関係ですが、文明の流れで自己宣伝をさせてもらいます。この一年、「文明と農業」の関係を私なりにずっと考えてきました。その結果をまとめたのが、4月7日に築地書館から販売される新刊「文明は農業で動く~歴史を変える古代農法の謎」(300P)です。ご関心のある方は、目を通していただけると幸いです。
なお、本書では「レジリエンス」という概念について、若干、紹介しています。「なんじゃそりゃ、初耳だわい」と言われる方が多いと思いますが、知の女王、ベストセラー作家、勝間和代さんが、3月18日に「レジリアンスを高めよう」というブログを書いて、レジリアンスについて次のように述べています。
「このような時に、ぜひ、みんなで共有したいキーワードが「レジリエンス(resilience)」
です。日本語に訳すと「困難な状況にもかかわらず、うまく適応できる力」となります(略)。
レジリエンスが強い人は、次の3つの特徴をもっています。
1.肯定的な未来志向性
-未来に対して肯定的な期待を常にもっていること
2.感情の調整
-感情のコントロールを行えること
3.興味・関心の多様性
-さまざまな分野に興味・関心をもっていること
違います!。いえ、正確に言えば、間違いではないのかもしれませんが、概念の矮小化しすぎです。このように言論界に絶大な影響力がある人が、レジリアンスを個人レベルのスキルに矮小化されてしまうと私としては非常に困るのです。「レジリアンス」の概念は非常に大切で、長期的に人類が生き延びるためにどうすればいいのかという国際的な研究も進められています。
例えば、「地球システムの境界-人類が安全に活動できる領域を探る」では、科学者たちは、いま地球では9つの超えてはいけない限界があり、人類はすでに3つを超えてしまっていると警鐘を鳴らしています。農薬や放射能のような化学物質汚染も危険ですが、化学肥料、つまり、人工的な窒素固定による窒素循環サイクルの攪乱と生物多様性の破壊が最大のリスクとしています。この境界を越えると、もう後戻りができません。ですから、私は近刊「古代農法本」のあとがきでこう書きました。
「ちなみに、医療やケアでは「レジリアンス(回復力)」という概念が着目されているが、気候変動等グローバルな環境問題に対していかに社会がリスク対応するかでも「レジリアンス」が着目されている。スウェーデン王立科学アカデミー・ベイエ生態経済学国際研究所やストックホルム大学のストックホルム・レジリアンス・センターのカール・フォルケ教授が代表的な研究者のひとりだが、彼らが着目しているのも、リスク回避や回復力に富んだ伝統社会の生態系管理と社会規範の叡智なのだ」
英語で「レジリアンス」を検索すれば、単なる工学的、心理的なレジリアンスが、保全生態学、社会マネジメント、経済のあり方、文明論とあらゆる分野にわたって広がってきていることがわかるはずです。国際研究グループ「レジリアン・アライアンス」やその創設者、偉大なカナダの生態学者バズ・ホリング博士がヒットするはずです。
ホリング博士は、レジリアンスの概念から、「いまのような超密度高度情報社会は、事故が起こるのを待つ状態にある」とはるか以前から警鐘していました。
ホリング博士のインタビュー内容を読み直すたびに、今回の原発事故をあらかじめ予言していたように思えてなりません。ですが、ホリング博士は、同時にそうした状態は、新たな芽、新しい再生のときだとも語っています。さして影響力が大きくない事故は、文明のトランジションのための契機だとも述べています。そして、ホリング博士によれば、そのシフトの時には、個人が大変に力を持つのです。例えば、「トランジション・タウン」創設の鍵となった概念もレジリアンスでした。
NPOトランジション・ジャパンは、こうレジリアンスを紹介しています。
「トランジション・タウンが目ざすものを象徴する言葉に「レジリエンス」という言葉があります。レジリエンスとは、「外界の大きな変化に対し、パニックを起こすことなく、また対症療法的にとりあえずその場をしのぐのでもなく、しなやかに対応する力」を意味します。「地力」あるいは「底力」と言ってもいいかもしれません。私たち一人ひとり、そして私たちが住む地域がレジリエンスを高めることによってのみ、気候変動とピークオイルという「双子の危機」を初めて乗り越えることができるのです」
いずれ、そうしたこともブログで紹介していきたいと思っています。本日も、駄文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。