先週、ネットで注文していたテインターの2002年の共著『supply-side sustainability」本が届きました。タインターはプロジェクトのリーダーなのですが、共著者の一人、アレンはウィスコンシン大学の植物学者、もう一人のトーマスも植物学者です。巻ページの紹介文では、二人のエコロジストと一人の考古学者によるこの本は、エコロジストと社会科学のジレンマを解消するアプローチを提示している。景観、組織、人口、コミュニティ、バイオマス、生物圏、エコシステム、エネルギー、持続性、人間社会の崩壊までを論じているとあります。
もともと理系の地球科学を出発点とする私にとっては、複雑怪奇に見える文明社会の崩壊や先住民族のライフスタイルを生態学や複雑系の言葉を用いて、グラフやモデルで解き明かしていくアプローチは妙になじみます。これについてもいずれご紹介していきたいと思っていますが、作業が中断していて申しわけありません。
さて、お話は飛びますが、来週、2月18~19日と長野の上田市で開催される「持続可能な地域作りの全国フェスタ」では、田中優氏と鎌仲ひとみさんのダブル講演会が開催されます。とりわけ、1日目のトークセッションは立ち見になるほどだそうなのですが、ミーハーな私としては、サインをもらえるチャンスもあるのではないかと思い、この2月10日に出たばかりの、デレク・ウォールの「緑の政治ガイドブック」(ちくま新書2012)「鎌仲ひとみ×中沢新一の対談つき」を買いました(鎌仲さんの本も、田中さんの本も他に何冊も持っていますが)。
さて、この著者は、グリーンレフトに属する経済学者です。持続可能な経済や公正な社会政策等、緑の運動や緑の政治についてのコンパクトな入門書となっています。
で、今日のお題です。まず、ページを開き、冒頭の推薦の言葉を見て驚かされました。米国やEU、ニュージーランドの緑の党の関係者と並んで、キューバの社会運動家の名が登場しているのです。
「んっ。緑の党の入門書になんで、赤き社会主義国のキューバが」
という違和感があったのですが、ページをめくるうちに、その違和感はすぐに解消しました。
この本の第二章は温暖化問題を扱っているのですが、こう書いています。
人類は様々な問題を抱えているが(略)、具体的な代替策を示すことができるのは緑の政治だけである。すでにその実践例は、既成政党の政治家にとっては思いもよらない国・・・・キューバにある(P52)
世界の中には実際に、持続可能な発展の仕組みを作り上げた国が一つある。その国では生活水準を上げながら、環境への影響を抑えている(略)。その国とは「キューバ」である。この国では、化石燃料への依存度を低め、一人あたり排出量を大幅に引き下げた。ただしキューバが昔からの緑のモデルであったわけではない。環境大臣さえ存在しなかった。ところが、1990年、ソ連邦が崩壊したため、ロシアから安価な石油を輸入できなくなった。エネルギー不足に直面したキューバは、グリーン・エネルギー計画に集中的に取組んだ(P68)
オーストラリアのビル・モリソンが生み出した「パーマカルチャー」もホーリスティックなアプローチを現実社会で具体化したモデルであり、キューバで実施されている(P88)
第三章は緑の哲学について、ディープ・エコロジーやエコ・アナーキズムを紹介していくのですが、ここではフィデルが登場します。
「エコ社会主義」も緑の政治に重要で多様な思想性を与えており、深く検討する価値がある(略)。マルクスと「エコ社会主義」に対しては批判もある(略)。ソ連などの社会主義国はマルクス主義に追従したために、環境を劣悪な状態にしたという批判である。それに対する反論として、「エコ社会主義者」は、「マルクス主義とエコロジーには接点があった」と主張し、その証拠として環境に強い関心を持っていたキューバのフィデル・カストロ元議長をあげる(P97)。
第六章の生き残りをかけた戦略ではトランジション・タウンやグリーン・ニューディールが紹介されていくのですが、ここにもキューバは顔を出します。
現実の世界で「トランジション・タウン」に最も近い例がキューバである。大規模にパーマカルチャーや低エネルギー社会への移行策を導入している。ただしキューバの場合、最初から明確な目標を持っていたわけではない。突然、安価な石油の輸入が止まったことによって強いられた戦略だった(P180)
それでも緑の政治はコペンハーゲンで前進した。キューバ、ベネズエラ、ボリビアなどラテンアメリカの指導者たちが、経済的利害関係より「地球に対する敬意」と「社会的公正」を優先させることを要求したからだ(P195)
この本はキューバのパーマカルチャーを都市農業を評価しています。
こうしてハバナでは果物と野菜のほとんどを自給しており、人々を飢餓から救うことができた(P69)
もちろん、このブログを訪れる読者は、「キューバ研究室」の尽力によって、この主張がたんなる幻想にすぎないことが論破されてしまっていることは、よくご存知でありましょう。同研究室によれば、キューバは持続可能な国家でもないといいます。
日本語が読める私たち日本人は、このように優れた日本語のサイトの存在によって、英国の緑の運動家といえども、所詮はこの程度の知識水準であって、現状認識に欠く幼児のようなものだということがよくわかるわけです。
とはいえ、このような入門書にもキューバが顔を出すという事実の方を私は重視したいと思うのです。とりわけ、ホットなキーワードであるトランジション・タウンやピーク・オイルとキューバが結び付けられていることが。
つまり、真実が違うにせよ、それに至る前提として、英国の運動家も話題にするほど、キューバが一定の評価は得ているのだという事実は、最低限の教養として知っておかなければならないのだなと私は感じたわけなのですが、皆さんはどうお思いになりますか。