没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

変なところでキューバと出会う

2012年02月13日 19時16分20秒 | キューバ

 先週、ネットで注文していたテインターの2002年の共著『supply-side sustainability」本が届きました。タインターはプロジェクトのリーダーなのですが、共著者の一人、アレンはウィスコンシン大学の植物学者、もう一人のトーマスも植物学者です。巻ページの紹介文では、二人のエコロジストと一人の考古学者によるこの本は、エコロジストと社会科学のジレンマを解消するアプローチを提示している。景観、組織、人口、コミュニティ、バイオマス、生物圏、エコシステム、エネルギー、持続性、人間社会の崩壊までを論じているとあります。

 もともと理系の地球科学を出発点とする私にとっては、複雑怪奇に見える文明社会の崩壊や先住民族のライフスタイルを生態学や複雑系の言葉を用いて、グラフやモデルで解き明かしていくアプローチは妙になじみます。これについてもいずれご紹介していきたいと思っていますが、作業が中断していて申しわけありません。

 さて、お話は飛びますが、来週、2月18~19日と長野の上田市で開催される「持続可能な地域作りの全国フェスタ」では、田中優氏と鎌仲ひとみさんのダブル講演会が開催されます。とりわけ、1日目のトークセッションは立ち見になるほどだそうなのですが、ミーハーな私としては、サインをもらえるチャンスもあるのではないかと思い、この2月10日に出たばかりの、デレク・ウォールの「緑の政治ガイドブック」(ちくま新書2012)「鎌仲ひとみ×中沢新一の対談つき」を買いました(鎌仲さんの本も、田中さんの本も他に何冊も持っていますが)。

 さて、この著者は、グリーンレフトに属する経済学者です。持続可能な経済や公正な社会政策等、緑の運動や緑の政治についてのコンパクトな入門書となっています。

 で、今日のお題です。まず、ページを開き、冒頭の推薦の言葉を見て驚かされました。米国やEU、ニュージーランドの緑の党の関係者と並んで、キューバの社会運動家の名が登場しているのです。

「んっ。緑の党の入門書になんで、赤き社会主義国のキューバが」

 という違和感があったのですが、ページをめくるうちに、その違和感はすぐに解消しました。

 この本の第二章は温暖化問題を扱っているのですが、こう書いています。

 人類は様々な問題を抱えているが(略)、具体的な代替策を示すことができるのは緑の政治だけである。すでにその実践例は、既成政党の政治家にとっては思いもよらない国・・・・キューバにある(P52)

 世界の中には実際に、持続可能な発展の仕組みを作り上げた国が一つある。その国では生活水準を上げながら、環境への影響を抑えている(略)。その国とは「キューバ」である。この国では、化石燃料への依存度を低め、一人あたり排出量を大幅に引き下げた。ただしキューバが昔からの緑のモデルであったわけではない。環境大臣さえ存在しなかった。ところが、1990年、ソ連邦が崩壊したため、ロシアから安価な石油を輸入できなくなった。エネルギー不足に直面したキューバは、グリーン・エネルギー計画に集中的に取組んだ(P68)

 オーストラリアのビル・モリソンが生み出した「パーマカルチャー」もホーリスティックなアプローチを現実社会で具体化したモデルであり、キューバで実施されている(P88)


 第三章は緑の哲学について、ディープ・エコロジーやエコ・アナーキズムを紹介していくのですが、ここではフィデルが登場します。

「エコ社会主義」も緑の政治に重要で多様な思想性を与えており、深く検討する価値がある(略)。マルクスと「エコ社会主義」に対しては批判もある(略)。ソ連などの社会主義国はマルクス主義に追従したために、環境を劣悪な状態にしたという批判である。それに対する反論として、「エコ社会主義者」は、「マルクス主義とエコロジーには接点があった」と主張し、その証拠として環境に強い関心を持っていたキューバのフィデル・カストロ元議長をあげる(P97)。

 第六章の生き残りをかけた戦略ではトランジション・タウンやグリーン・ニューディールが紹介されていくのですが、ここにもキューバは顔を出します。

 現実の世界で「トランジション・タウン」に最も近い例がキューバである。大規模にパーマカルチャーや低エネルギー社会への移行策を導入している。ただしキューバの場合、最初から明確な目標を持っていたわけではない。突然、安価な石油の輸入が止まったことによって強いられた戦略だった(P180)

 それでも緑の政治はコペンハーゲンで前進した。キューバ、ベネズエラ、ボリビアなどラテンアメリカの指導者たちが、経済的利害関係より「地球に対する敬意」と「社会的公正」を優先させることを要求したからだ(P195)


 この本はキューバのパーマカルチャーを都市農業を評価しています。

 こうしてハバナでは果物と野菜のほとんどを自給しており、人々を飢餓から救うことができた(P69) 

 もちろん、このブログを訪れる読者は、「キューバ研究室」の尽力によって、この主張がたんなる幻想にすぎないことが論破されてしまっていることは、よくご存知でありましょう。同研究室によれば、キューバは持続可能な国家でもないといいます。

 日本語が読める私たち日本人は、このように優れた日本語のサイトの存在によって、英国の緑の運動家といえども、所詮はこの程度の知識水準であって、現状認識に欠く幼児のようなものだということがよくわかるわけです。

 とはいえ、このような入門書にもキューバが顔を出すという事実の方を私は重視したいと思うのです。とりわけ、ホットなキーワードであるトランジション・タウンやピーク・オイルとキューバが結び付けられていることが。

 つまり、真実が違うにせよ、それに至る前提として、英国の運動家も話題にするほど、キューバが一定の評価は得ているのだという事実は、最低限の教養として知っておかなければならないのだなと私は感じたわけなのですが、皆さんはどうお思いになりますか。


防災と防衛

2012年02月02日 00時38分26秒 | キューバ
防災本のご紹介

 このところ、ブログが中断していてすみません。書くことはさぼっていますが、勉強ネタの仕入れの手を抜いているわけではありません。

 まず、防災本の自己宣伝です。「リスク対策.Com」という危機管理の専門誌第29号の1月号で「フォーカス:相次ぐハリケーンから国民を守る、世界が注目するキューバの防災」として、キューバの防災について紹介をいただきました。どうもありがとうございます。

 また、「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」の1月31日のブログで以下のように紹介していただいております。

「むろん、社会主義キューバが天国でも何でもない、自由に制限があり貧しい国であることは、私も見て知っている(略)。しかし、この復興のありかたというのは、すごいではないか」

「キューバの軍と地域住民との共同による警戒・避難システムは、本来、米国からの軍事侵攻に対抗するためにつくられたものだったという。しかし、もう米軍が大挙してキューバに侵攻・占領する事態は考えにくい。キューバの市民防衛のありかたは、自衛隊の災害対策部隊への再編にも、示唆を与えていると思う」
 

 なるほど、自衛隊ですか。関廣野さんも『フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権』青土社(2011)で、自衛隊について言及されていましたが、キューバの市民防衛は、防衛についても参考となるわけですね。

 防災にからんで、若干、防災と防衛についての本のこぼれ話をします。キューバではハザードマップを作成していますし、キューバのリスク削減センターの国連リポートを見ると画像は悪いのですが、図のようなハザード・マップが掲載されています。ですが、本ではこのハザード・マップは掲載しませんでした。画質が悪いこともありますが、本当かどうかわからないからです。

 共著者である中村八郎さんからは、9月にキューバを再調査した折には、是非ともハザード・マップの写真や資料等をもらってきてほしいと頼まれました。そして、実際にムニシピオの防災管理センターにはハザードマップはありましたが、「絶対に写真を取らないでほしい」と頼まれたのです。

「そんなこと言ったって、国連のリポートにキューバのマップは、ちゃんとでているじゃぁないですか。たかが地図ぐらいオープンではないのですか」と聞いたところ、

「ああ、そのリポートのマップは、たぶん偽物かでたらめだ」

と言われました。

 その理由を聞いて、なぜ出せないかがすぐわかりました。事前に読んでいた防災の専門家、ベン・ウィスナー博士のリポートには、ベトナム戦争のときに米軍は、ここを壊せば洪水が起きるという堤を狙って爆撃したという書いてたことが思い出されたからです。つまり、防災は国防や軍事とも密接しているわけです。

 ハザード・マップは、有事の場合に自国民の命を守るための貴重な情報です。日本の国土地理院の前身も内務省だけでなく、帝国陸軍の参謀本部の測量局にありました。ですから、私の愛国保守、すなわち、右翼的な感性からすれば、ハザードマップを外国人にはとうていオープンにできないという、キューバの感覚はよく理解できます。

 一方、放射能のハザード・マップというべき、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による試算結果は、自国民には明らかにされない一方で、米軍にはオープンにされました。

 このブログを訪れるであろう皆さんは、私のような右翼的な感性はなく、左翼的な感性の持ち主であられる方が多いので

「ああ、日本はもはや旧軍事国家ではないのだ。キューバの如き秘密主義の軍中心の国家ではなく、以前の敵国であった米国にすら隠し立てせず、いち早くハザード・マップをオープンにするくらい、開かれた国となったのだ。なんと素晴らしいことだろう」

 とお感じになるのでありましょうか。ちなみに、4号機の水が漏れているという情報も在米邦人の情報の方が充実しています。

実験が大切

 さて、防災本で書いたとおり、キューバの防災システムは、驚嘆すべき叡知を持つ全能の神とも言うべき、秀才たちの机上プランによって作り出されてきたものではありません。何度も繰り返されるハリケーン災害で貴重な人命損失を出しながら、「今度、人命の損失を出さないようにするためには、どうしたらいいのだろうか」と失敗への反省をしながら、ゆっくりと構築されてきたものです。

 20世紀のパラダイムでは、驚嘆すべき叡知を持つ神の如き秀才・英才群が古今東西の知識や理論を集約することによって、問題解決のための「真理」を見つけられるはずだ、という想定の元に政策が構築されてきました。ですが、レジリアンス学派は、複雑系である社会生態システムにおいては、未来を予知することは不可能であると断言します。

 想定外の事態はあたりまえである、というのが彼らの主張です。であるならば、私たちはどのように問題解決に対応していったら良いのでしょうか。

 彼らは「安全な失敗」という独特な概念を持ち出します。つまり、社会が複雑化している以上、単独の解決策はないし、わからない。であるならば、政策もある種の「実験」とみなし、トライアンドエラーを繰り返していくしかない。しかし、実験である以上、当然のことながら想定外の事態に失敗も起きる。問題は、その失敗が許容できるかどうかだ。そう考えるわけです。

 さて、崩壊論のネタとなっているタィンターの本は読み終えたのですが、大ローマの崩壊理由のところでストップしてしまいました。ローマについての予備知識や基礎教養がない私は、皇帝の名称やらが次々と出てきても、イメージがわかず、塩野七生さんの「ローマ人物語」の写真集を見たり、読んだりしていたのですが、トーマス・ホメール・ディクソンが、ローマ崩壊をエネルギー面から分析していたことを思い出し、そちらを読み始めたところ、面白くて、脇道にそれてしまったのです。

 トーマスの本は、450ページもあるのですが、ローマ農業のエネルギー分析から始まり、崩壊について、タインターとホリングの理論を使いながら、最終的には、避けられない崩壊に対するプレッパーとなれ、と提唱しているのですが、その間でも、なぜ経済成長が止められないのか、幸せとお金が関係しないこと、経済成長を止めないために、アカデミックは独特の「話法」を使うこと、地震が怖いこと、ネットワーク理論からつながりが増えると想定外の事故が続くとチェルノブイリやスリーマイルの原発事故を分析して見せる等、重要な分析を次々と展開しています。ということで、ネタが充実するまで、しばらくお待ちください。