没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

バリの女神さま

2007年07月12日 21時53分06秒 | アグロエコロジー

 1960年代、フィリピンの国際稲研究所(IRRI=International Rice Research Institute)は、完璧な米と自賛するハイブリッド米「IR8」を開発した。125日と短期間で収穫でき、試験場では6.5t/haという驚異的な収量をあげる高収量品種だった。インドネシア政府は、人口増による食料増産のため、このハイブリッド米の導入に力を注いだ。1974年にはバリ島の中央部と南部にある棚田の48%でIR8が栽培されるようになり、1977年には作付け率は70%にも増えた。

 だが、バリ島で栽培が始まってわずか3年も経たない間に、IR8には意外な弱点があることが判明する。害虫、トビイロウンカに弱かったのだ。IR8はトビイロウンカに襲われ、1977年には200万トンもの被害が出た。

 国際稲研究所の研究者たちは、すぐに改良品種「IR36」を作り出す。それは、トビイロウンカに耐性があるだけでなく、IR8よりもっと短期間で収穫できる優れものだった。インドネシア政府は大喜びし、バリ島の農民たちに在来品種の作付けを禁じた。そして、ハイブリッド米を2期作、3期作することまで法律で縛った。


 緑の革命技術は、米の生産を約5割も増やした。だが、近代農業は大量の水を必要とする。バリ島の灌漑制度を近代化するため、米国人を中心とした外人コンサルタントたちが招聘され、1979年にはバリ灌漑計画(BIP)が立ち上げられた。政府は4000万ドルもの資金を借り入れた。

 だが、IR36にも弱点があった。縞葉枯病というウィルス性の病気にかかりやすかったのだ。次には、PB50が登場する。PB50は縞葉枯病には強かった。ところが、ごま葉枯病には弱く、いもち病に弱いこともわかった。どこまでも続く果てしないイタチゴッコ。
 その一方、農薬の多用で水田では魚や鰻が取れなくなり、鳥さえ姿を消し、農民たちの睾丸ガンの発生率も驚くほど高まっていた。農薬の影響である。
 農民たちは新品種の導入で手にした現金収入は多くはなったものの、害虫が増え、不健康になり、結果としては貧しくなってしまった。

 混乱状況に直面したインドネシアのバリ公共事業局は、1980年台半ばにウダヤナ大学の農学者チームに状況打開の調査を依頼する。その結果は意外なもので

「政府はスバック寺院の序列と作付け様式との関係に注目すべし」

というものだった。

 スバック(subaks)寺院とはなんだろうか。それを説明する前に、まずバリ島の置かれた生態環境を抑えておく必要がある。

 バリ島には世界に誇る巨大な棚田がある。それがどれほど昔からあるのかは定かではないが、最古の記録は紀元882年まで遡る。つまり、1000年以上も持続可能だったのだ。とはいえ、バリの気候条件は厳しい。島内の河川の半分は雨期の半年しか水が流れないから、うまく管理しないとたちまち水不足に陥ってしまう。だから、バリの人々は灌漑用の溜池を各地に作ってきた。もし、すべての農家がいっせいに田植えや稲刈りをすれば、害虫は生息地と餌を失い死ぬ。だが、全部の農家が水を必要とすると水が足りなくなる。害虫と灌漑用水量をコントロールするには、農業全体をシステム的に管理することが必要だ。



 このためバリには、コミュニティで水田農業のための水を管理するスバックと呼ばれる独特の組織ができていた。バリ島の宗教のコアとなっているのは、湖の女神、デウィ・ダヌ(Dewi Danu)である。灌漑施設には、寺院のネットワークが戦略的に置かれ、各スバックの寺院には農民を代表するリーダーがいる。何か問題が生じたり、翌年の潅漑計画を決定するときにコンサルテーションが必要な場合は、スバックのリーダーは、より上級の寺院におもむく。そして、遠く離れた下流のスバックも水が確保できるよう、灌漑用水を放流日時を決めていたのは「ジェロ・グデ」(Jero Gde)と呼ばれ、幼少期に女神から選ばれ、死ぬまで女神に仕える高僧だった。

 バリで10年間以上もフィールド・ワークに携わってきた米国の人類学者、スティーブン・ランシング(J.stephen Lansing)は、バリの宗教を理解するには、農業技術も理解しなければならないと考えた。ランシングは、寺院や女神のもつ重要性やそれが、潅漑や病害虫管理に果たす役割、そして、緑の革命がバリにもたらした悪影響に心を痛めた。

 そこで、ランシングは、コネチカット大(University of Connecticut)のシステム生態学者、ジェームズ・クレーマー(James N. Kremer)と連携し、伝統的な水管理のやり方をコンピューターで画像化し、シミュレーションしてみた。

 まず、無作為に作付けをした場合は、モデルの平均収量はたった4.9 t/haだった。一方、緑の革命方式では、最高では10 t/haにもなった。ところが、多収量をあげたのは一回目だけで、次シーズンには害虫の被害で作物が全滅してしまうこともあった。現実と同じである。それと比べ、スバック寺院が管理するやり方は、一年目の収量は8.6t/haと緑の革命方式よりも低かったものの、稲の収量と害虫とのバランスが保て、二年間の平均収量では、緑の革命方式の9t/haに比べて17 t/haと倍以上にもなったのだ。

 女神や古代から続く儀式は、何百もの散在した村々の潅漑や作付けをコントロールする役目を果たしていた。コンピューター・モデルが示すように、バリの稲作農民たちが行ってきた資源管理は、最も安定して多収量をもたらす効率的な営農システムだったのである。今、ようやくインドネシア政府は、寺院による水の管理システムを再認識しはじめた。女神様は緑の革命よりもずっと知恵深かったのである。

(引用文献)
(1)デヴィッド・スズキ他『グッド・ニュース~持続可能な社会はもう始まっている』(2006) ナチュラル・スピリッツP241~251
(2)The Goddess and the Computer Anthropology and Real-Life Problems


バイオエタノール・シンドローム

2007年07月04日 22時21分08秒 | 有機農業


「自動車を食わせるために、貧しき人民を飢えさせことと同じではないか」

 ふつう、トウモロコシや砂糖から得られるバイオエタノールは、石油への依存度を減らすエコ的なオルターナティブだ、と考えられている。だが、ベネズエラのウゴ・チャベスは、2007年4月に同国のマルガリータ島で開催された「南米エネルギー・サミット」で、昨今のエタノール・ブームをこう痛撃に批判してみせた。

 バイオエタノールは様々な問題を引き起こしている。例えば、畜産業における餌の値上がりがそうだし、メキシコでは、トルティーヤの値段が60%もあがった。バイオエタノール用のために作物を生産する肥料が、環境に被害を及ぼすという問題もある。そして、需要増で主要作物価格が値上がりすると、ラテンアメリカは最も打撃を受ける地域のひとつなのだ。

 2007年1月、ブッシュ米国大統領は一般教書で、2006年の50億ガロンを2017年までには350億ガロンにするとのビジョンをぶち上げて見せた。その結果、2006年8月に米国での1ブッシェルのトウモロコシの平均価格は2.09ドルだったが、9月は2.20ドル、10月は2.54ドル、11月の2.87ドル、12月は3ドルと値上がりしている。

「エタノール生産が食品価格の高騰につながっていることは間違いありません」とミズーリ州コロンビア大学のパット・ウェスホフ(Pat Westhoff)准教授は指摘する。

 国連の数字では、米国の家庭では支出で占める食費の割合は7.3%でしかない。だから、多少値上がりをしたところで、影響はほとんどでない。だが、貧しい国は違う。例えば、メキシコでは、この数値は24.5%にもなる。

「メキシコは米国からかなり大量のトウモロコシを輸入しています。ですから、これはメキシコ人の食に大きく影響するでしょう」と、メキシコの首都自治大学(Autonomous Metropolitan University)の経済学者、セルソ・ガリド(Celso Garrido)氏は語る。

 事実、主食のトルティージャの値段があがったため、2007年1月にはメキシコ人たちが街頭デモを行った。それは、これから全世界に広まっていく抗議の始まりかもしれない。ワシントンにある地球政策研究所(Earth Policy Institute)のジャネット・ラーセン(Janet Larsen)研究所長はこう警告する。

「お金持ちの米国人が、貧しい国々の飢えた人々を犠牲にし、自動車の燃料にしようとしていること。それを人々が懸念しているのだと思います。エタノール生産政策は、外交的には大失策かもしれません」



 ルラ・ダシルバ、ブラジル大統領は、ブラジルを訪問したブッシュとバイオエタノール産業を支援する協定を取り結んだ。だから、したたかなチャベスは、ルラを批判しようとはしない。チャベスは言う。

 「われわれは、バイオ燃料にそのものに反対しているわけではない。それは、ラ米人民の暮らしに悪影響がない限りは実行可能な代案だ。われわれは、30年以上もの実績を持つブラジルのバイオエタノール・プロジェクトは、ブッシュが提案した狂気とは大いに異なるものだ、とずっと言ってきた。それは、まったく正反対のものだ」とチャベスは主張し、エタノールを生産するために、食料を使う米国の戦略と砂糖を使うブラジルの計画とに明確な差をつけた。

 実際、エタノールの製造原料としては、砂糖の方がトウモロコシよりも効率がいい。だが、ベネズエラの国際エネルギー・コンサルタントであるエバナン・ロメロ(Evanan Romero)氏は「原料が砂糖であろうとトウモロコシであろうと、食料の値段の値上がりや貧しい人々の飢餓につながるとし、エタノールは自然エネルギー資源に欠く貧しい国の開発の機会にしなければならない、と主張する。
「中米はもはや、バナナ共和国とではなく、アルコール共和国として知られるようになるだろう」とバイオマス生産の潜在力を評価する。

 食料か、エネルギーか。このバイオエタノールを取り巻く問題はまことに大きい。だが、この深刻なテーマに対し、一番最初に問題を提起し、議論を投げかけたのは、チャベスではなく、今政治の舞台の表からは引いているフィデルだった。カストロが昨年の7月に病で倒れて以来、最初に明確に声明したのは、米国のブッシュのバイオエタノール計画は「人民の大量虐殺である」との痛烈な批判だったのである(続)

(引用文献)

(1)Sara Miller Llana and Daniel Cancel, Ethanol policy divides Latin America, US efforts to promote ethanol have raised food prices in the region, April 20, 2007.


SRI~怪奇をあばけ

2007年07月04日 00時05分28秒 | アグロエコロジー

 エコロジーとか環境問題に興味がある人に「ねぇ、SRIって知っている?」と問いかけてみれば、たいがい「社会的責任投資(Socially responsible investment)の略だろう」という答えが返ってくるだろう。だが、私の年代だと、「SRI」といってまず思い浮かぶのが昭和43年に「ウルトラセブン」の後番組としてスタートした円谷プロの特撮番組、「怪奇大作戦」だ。怪奇大作戦では、科学捜査研究所略称、SRI(Science Research Institute)が、科学の力を駆使して怪奇を暴いていく。

「エス・アール・アイ、エス・アール・アイ、怪奇をあばけぇ~」というテーマ・ソングもあった。

前段がいささか長くなったが、まず、この写真をみていただきたい。怪奇大作戦さながら何か怪奇な「トリック」があるのではないかと疑いたくもなるだろう。左が慣行の栽培、そして右が、今日のテーマ、「SRI」と呼ばれる農法で作ったイネなのだ。もっともこちらの、SRIはSystem of Rice Intensificationの訳だ。



 SRIの怪奇分けつ苗は、ただ形が異常なだけではない。無農薬・無化学肥料の有機栽培でも行えるは、イネづくりに使う籾が80~90%も削減はできるは、灌漑用水が25~50%も削減はできるは、病害虫は減るは、収量が最高反収1.5トンと増加するは、イネづくりに要する期間が1~3週間は短くはなるは、ハイブリッドの高収量米だけでなく伝統的な在来品種でも収量は伸びるは、所得が倍増して生産増に随喜の涙を流して農民が感激するはと、良いことづくめなのだ。

 まさに、革命といっていい。なればこそ、近代農業の恩恵から取り残された貧しい農民たちほど飛びつく。例えば、カンボジアでは2000年にたった28人の農民からスタートしたが、今年は60000人以上に実践者が増えた。だが、専門家たちはなまじっか専門知識があるだけに「そんなことがあるはずがない」と否定する。事実、国際稲作研究所(IRRI)の試験圃場では肯定的な成果が得られず、ネーチャー誌に「いかさま農法である」との批判記事が出た。

 SRIは1983年にマダガスカル在住の神父、故アンニ・デ・ロワニエが発明した従来の稲作の発想を根本からくつがえす農法である。だが、ロワニエは、その農法が世界に普及することを目にすることなく1993年に死んだ。だが、その志はロワニエが生前に創設したNGOテフィ・サイナが継承している。SRIに取り組む国も1999~2002年までは、本家のマダガスカルの他、ガンビア、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、ネパール、インド、スリランカ、バングラディッシュ、中国、フィリピン、インドネシア、シエラ・レオネ、そしてキューバにすぎなかったが、2006年までには、ザンビア、セネガル、マリ、ギニア、モザンビーク、イラン、ブータン、パキスタン、ベトナム、ベニン、ペルーが加わっている。

 この驚異的な農法は、英文はともかく、日本語ではほとんど紹介されてこなかった。だから、私がその存在を知ったのも、ジュールス・プレティ氏の著作の翻訳作業を通じてだった。この故ロワニエの農法を世に知らしめたのは、コーネル大学のノーマン・アポフ(Norman Uphoff)名誉教授である。同教授の論文を頼りに2006年5月にピナル・デル・リオ州のカミロ・シエンフエゴス農場で、その実際の取り組みをこの目で見ることができた。

 さて、アポフ教授が整理した1999~2002年までの各国でのSRIの成果をまとめてみると、収量が52%増え、水が44%削減でき、生産費が25%減り、純益が28%伸びていることがわかる。だが、最も詳細なデータは、日本工営の佐藤周一氏がインドネシア東部で行ったものだ。それによれば、2002~2006年の9作期で、平均反収は、330㎏、78%も伸びた。おまけに、しかも、化学肥料の使用量は50%以下に、灌漑用水量も40%も減り、面積あたりの生産経費は20%も下がった。この結果、農家の純益は倍増したという。この驚異的な成果に、政府もたまげ、農業大臣や灌漑大臣がいずれもSRI農法を支援することにつながっているという。

 稲を作るうえで必要な水が少なくてもすむということは、土地改良事業の設計基準が抜本から変わることを意味する。農業分野で最大の金食い虫と言えば、なんといっても灌漑のための基盤整備である。それが、変わるとなれば、どれだけの予算節減ができるかわからない。

 SRIで作った稲は、病害虫にも強いというメリットもある。その恩恵を感じたのは、ベトナムだ。ベトナムでは農業省と農村開発省が推進する国家IPMプログラムが3年の評価を行ったのだが、収量増は7~14%と比較的少なかったものの、紋枯病(Sheath blight)が63~74%、黒葉枯病(Leaf blight) が76.5%、コブノメイガ(Small leaf folder)が41~50%、そして、トビイロウンカ(Brown planthopper)が62~83%減ったという。そして、ベトナムでも水使用量が普通でも30%、多ければ50%ほど減り、生産コストも21~27%も減ったという。

 このように奇跡のような成果をあげるSRIだが、やり方は実にシンプルだ。
・15日未満、8~12日以下の稚苗を植えること。
・それも一本で、1~2センチと浅く、25×25センチ間隔で植えること。
・そして、土が好気性を保つようにぎりぎりまで水はやらない。

 ごく、大きくまとめれば、この三つだけだ。有機肥料がベストだが、化学肥料も使えないわけではない。というよりも、オリジナルの農法は化学肥料を使うものだった。

 もっとも、水をぎりぎりまで減らすから、雑草が生える。水田の深水湛水にはそもそも雑草を防除する意味もある。だから、雑草は手でむしったり、手押し車で除草しなければならない。SRIに転換すると労働力は最初の年は25~50%ほど余計にかかるが、慣れれば、次第にいらなくなるし、大きな増収もあいまって、収量あたりの見返りは73%以上になるという。

 そして、SRIの概念は、陸稲(upland)にも導入され、北部ミャンマー、南部フィリピン、東部インドで600~800㎏の反収をあげているし、サトウキビやシコクビエ(finger millet)にも広げられてきているという。

SRI農法では、最高では反収1500㎏までいくという。もちろん、これはハイブリッド米や高収量品種だ。だが、伝統的な在来品種でも収量は600~1000㎏はいく。おまけに高く売れる。

 では、SRIの農法の意味することは何か。


 実は、7月2日に東京大学農学部弥生講堂でアポフ教授によるSRIの講演会が開かれ、教授の肉声を聞くことができた。

 教授は言う。
 近代農業は、石油に依存している。1バレル25ドル、最高でも75ドルでのみ成り立つ。緑の革命に象徴される近代農業は、瀕死の状態にある。例えば、窒素だ。中国では40年前は、1㎏の窒素を施肥することで、イネは15~20㎏の増収を生み出した。だが、今は同じ量を施肥しても、増収量は5㎏に落ちている。このペースで落ち込むと、2030年には60%増収するには、窒素の投下量を3倍にもしなければならない。

 「だったら、多くやればいいじゃないか」と言い切れるほど、ことは単純ではない。すでに、窒素肥料のやりすぎで中国の地下水は汚染されている。中国ではヘクタール当り、年間500㎏以上も窒素を施肥している地区もあり、そこの地下水中の窒素濃度は300ppmにも達している。窒素汚染は、ブルー・ベービー症候群を起こすことが危惧されているが、その基準は10ppmである。つまり、警告の段階をすでに超えている。

 緑の革命の第二の問題点は、大量に水を使うことだ。中国やインドでは、灌漑用に地下水が使われた結果、年間に1メートルものペースで地下水位が低下しているという。インドの穀倉地帯であるパンジャブ州では、過去40年で9~20mも下がった。そして、17年先にはさらに27~52mも低下するというのだから大変なことだ。
 
 この近代農業が抱える最大の問題点、窒素肥料と水の大量使用という課題を見事クリアーして、近代農業以上の収量をあげること。そこに、SRIの革命性がある。SRI農法では、最高では反収1500㎏までいくという。もちろん、これはハイブリッド米や高収量品種だ。だが、伝統的な在来品種でも収量は600~1000㎏はいく。おまけに高く売れる。

 だが、なぜ、SRIはここまで収量があがるのか。その実態はまだ良くわかっていない。ただ、SRI農法では施肥した窒素やカリ、リンが効率よく作物に吸収されていることがわかっている。それは、根圏がよく発達し、土壌中に微生物が多いためだという。例えば、SRI農法の根では、窒素固定菌、アゾスピリウム(azospirillum)の密度が、異常に多くなっているとの研究データもある。例えば、粘土質土壌で肥料をやらずに慣行栽培を行うと、収量はたったの180㎏だが、これが、SRI農法では610㎏獲れた。その時、根のアゾスピリウム菌の密度が慣行栽培の65×103乗に比べ、11×10の5乗と多かったのだ。

 さらに、窒素、リン、カリを施肥すると、収量は900㎏にあがるが、逆にアゾスピリウムの密度は60×10の4乗と減る。一方、堆肥を施肥した場合は、1050㎏と最も多くなるが、このとき、アゾスピリウムは菌は14×10の5乗と最も多いのだ。これは、SRIの高収量がアゾスピリウム菌に依存していることを示唆はするものの、それが高収量の理由なのかどうかはわからない。SRI農法では根圏で微生物の活動が多くなるが、アゾスピリウムが増えたのも、その単なる結果のひとつかも知れないからだ。

 2005年の中国のリポートでは、リゾビア(rhizobia)が根に入ることで、光合成力を高めるという報告がされているし、シュードモナス(Phytohormones)菌が、オーキシン、サイトカニンといった成長促進ホルモンを作り出し、収量を高めているとの説もある。いずれにせよ、SRIはまだまだ始まったばかりで未知の領域なのである。

「エス・アール・アイ、エス・アール・アイ、怪奇をあばけぇ~」

 脱石油文明に向けて、農学のフロンティアの果たすべき課題は大きく、夢がある。