
横浜を舞台とした作品で知られる作家の山崎洋子さんが、『横浜の時を旅する~ホテルニューグランドの魔法~』というノンフィクションを出版した。 ニューグランドを縦糸に、横浜や近代日本の歴史を横糸に織りなした魔法の絨毯のような本である。 これに乗った読者は時空を超えて、知られざる横浜の歴史を眺める旅に出かけることができるに違いない。 まずは、出版元の春風社のホームページに、本の目次が掲載されているのでそちらをご覧いただこうか。 ・明治の世界一周旅行―野村みち ・犬を連れたロシア婦人 ・大仏次郎の部屋と二人の「おはな」 ・日本の命運を賭けたニューグランドの一夜 などなど、初めて知った話に惹きつけられて、ついつい夜更かしをしてしまったほどだ。 なかでも、私がとくに興味を持ったのは、「日本の職人技・横浜家具」の中で描かれている椅子。(太っ腹な出版社が立ち読みコーナーを設けています) ホテルニューグランド本館2階には何度となく足を踏み入れているのだが、これを読んで今までここの家具類を漫然と眺めていたことを思い知らされた。 フロアに置かれた3種類のチェアーに、それぞれキング・クイーン・ジャックという名が付けられていたとは! まったく知らなかった… で、さっそく自分の目で確認しに行ってきた。 ![]() これがキングチェアだ。 ![]() たしかに天使の顔が張り付いている。 ![]() クイーンチェアは全体的に丸みを帯びて、しかも肘掛け部分までしっかりと布張りされている。 優雅で気品ある佇まいだ。 ![]() そして、こちらがジャックチェア。 ![]() 肘掛の先端に彫られた模様はシュロ(棕櫚)をデザインしたものだろうか。 アダムとイブの話の中に2本の木が出てくる。 一つは蛇にそそのかされたイブがその実を食べた“善悪を知る木”。もう一つが“生命の木”で、それがシュロの木だった。 西洋建築にはこのシュロをデザインした装飾が張り付けられていることが多い。 ![]() たとえば三塔の一つであるクイーン「横浜税関」。 ![]() 税関資料室の上部に並ぶ、手のひらのような装飾はシュロをイメージしていると思われる。 ![]() そしてジャックの「開港記念会館」。 ![]() 時計塔の下方に、同じような文様が見られる。 ということで、もう一度、ジャックチェアの肘掛部分を見てみよう。 ![]() ニューグランドのジャックチェアに彫られたデザインがシュロなのかどうかはよく分からない。もしかしたらアカンサス(葉アザミ)をデザイン化したものかもしれない。 ![]() この文様で有名なのが日本郵船横浜ビル。 ![]() コリント式オーダーの柱頭を飾っている。 いずれにしても建物と同じように、このジャックチェアにもシュロかアカンサスのデザインが施されているのだった。 さて、話が横道に逸れてしまったが、横浜を代表する三塔にキング・クイーン・ジャックと名前が付けられているように、ホテル、ニューグランド2階のロビーに置かれた3つのイスにも同じ呼称が使われていることを、このたび読んだ『横浜の時を旅する』で初めて知ったわけである。 同書には初代総料理長であったサリー・ワイル氏の系譜となる市内レストランの話や、アフタヌーンティーの頂き方、ホテルバーテンダーの数奇な出会いなど、中華街ランチ探偵団が興味を持つ「食」の話題も満載。 一晩で一気に読み終えてしまった。 ところで、『横浜今昔』(昭和32年:毎日新聞社横浜支局)という、やたら面白い本がある。昭和31年に毎日新聞で連載されたシリーズをまとめたもので、当時50代から80代の著名人が横浜の過去を振り返っているのだが、その中にホテルニューグランドの創設に携わった神部健之助という人が、このようなことを書いている。 大正14年にホテル設立委員会を立ち上げ、まず名称を決めることになった。160ほどの案が集まったが、そのなかに井坂孝氏(横浜商工会議所会頭)の「ホテル・ニューグランド」と、有吉忠一氏(横浜市長)の「フェニックスホテル」という案があり、委員会で審査した結果、最終的に現在の名称に決まったというのだ。 そこで思い出すのが同ホテルのシンボルマークのフェニックスと宴会場フェニックスルームだ。 震災復興で官民一体となって建設されたニューグランドが、不死鳥のように横浜を甦らせるという思いを込めて名付けたと言われているが、もう一つ、これは採用されなかった有吉市長の案をどこかで活かそうとした気持ちもあったのではないだろうか。 ![]() 夜の中庭。 ![]() 本館内に掲示されている写真史料や解説。 来週は「イル・ジャルディーノ」のランチと「ル・ノルマンディ」のディナーを楽しみ、食後は「バー・シーガディアン」のカクテルでくつろぎ、ほろ酔い気分になったところで、そのまま本館にお泊り…… …なんて、夢のまた夢か… ![]() |
酔華さんの食べ歩きの記事が大好きですが
今日の記事もすごく面白かったです
そういえば、先日BSジャパン「美の巨人たち」という番組で
横浜発祥の真葛焼(まくずやき)作家、宮川香山さんの
すばらしい作品を紹介していました
戦災でその資料などすべてを失い途絶えてしまった真葛焼、
輸出用だった香山さんの作品のいくつかは
一度は海外へ出たものの今は里帰りし、
神奈川県立歴史博物館や真葛ミュージアムで
見ることができるようで、とても興味深いです
今年はおからだをいたわりつつ、
また横浜の記事をアレコレ書いてください
たのしみにしています
小さい方でしたが、ピカピカに磨かれた真鍮のブラス眩きと小便器の高さに圧倒されました。幸い背伸びをしてやっと無事、事なきを得ました。外人の体格を思い知らされました。
ニューグランド好きにはたまりません。
今回の3つのイスの話もまったく知りませんでした。ためになるぁ、この本。
酔華さんのこのエントリーもすばらしい内容でした。ありがとうございます。
ちなみに結婚式はニューグランド、でした。娘の七五三のお祝いもニューグランド(たん熊)。はまっ子だもん。
あとは「バー・シーガディアン」だけは利用してないんですけど、まだまだ子どもなので敷居が高く…。
ニューグランド 色々とブログ上で書いてしまい、個人的に敷居が高くなってしまい、最近は御無沙汰しています。
記事を拝見して、顔を隠してもお邪魔したくなりました。(笑
横浜歴史探訪の楽しさに、導いて下さる記事を有難うございます。
ご紹介ありがとうございます。そしてご協力
ありがとうございました。
ニューグランドは関東大震災で消滅したグラ
ンドホテルとよく混同されるので、「フェニックス」という名にしたほうがよかったのでは…
と私など思うのですが、当時、「フェニックス
と名付けられたホテルはことごとく潰れる」と
いう話があり、候補に上がっていたのに退けられたのだそうです。
でもニューグランドのシンボルには、フェニ
ックスが使われてますよね。
キングチェアの天使の顔は、触ると幸運が訪
れるという言い伝えがあったらしく、触られま
くってちょっと怖い顔になってます(笑い)。
新館ロビーに隠れてる「パンダ」もぜひ探していただきたいですね。
順調に 開港153年にカウントアップしてましたねw
そういえばキング、ジャック、クイーンという悪ガキがいた気がします。
博物館まで真葛焼を見に行ったことはありませんが、
『横浜今昔』の中に初代、二代目のことが書いてありました。
今年は身体に気を付けながら、徐々にやっていきます。
>馬の骨さん
私には小便器が洗面所に見えました。
>teruさん
この本の記事、私も初めて聞く話が多かったですよ。
ロシア婦人の話、プロポーズの話など「へえ~」という感じでした。
私たちはこのホテルから新婚旅行に出発しました。
>いその爺さん
私も入ったことのないバーに行ってみたくなりました。
>冬桃さん
新館ロビーのパンダはまだ発見していませんが、
マリンタワー1階の壁画に隠されている文字の一部は、先日やっと見つけました!
もっとあるのでしょうかね。
>maruto082さん
今年は開港153周年。
ということで、開港から3年後に始まったものたちが、
今年150周年を迎えるわけですよね。
>ぶりさん
キング・ジャック・クイーンというとトランプですが、
横浜にはチェスが似合うのでは。
となるとジャックは要りませんよね。
ニューグランドのフロア・チェア、元町で作ったモノなのですね
元町の裏通り(山側)って工場ばっかだったのに、オシャレになりすぎですわ
意外と知らない話が載っています。
やっぱり、ちゃんと調べれば、
いろいろな出来事が発掘できるんですね。
元町の裏通りに「浅間温泉」とかいう銭湯があったのを思い出します。
以前の雰囲気は良かったのになぁ…