ブログ書き下ろし歌小説『嬢ちゃん』を始めさせて
いただいて、はたと困ったことがあります。
それは、
・縦書きにできないこと。
・行変えを早くしないと読みにくいこと。
文体を重んじる作者としましては、まことに不本意で
しかも手間がかかること。
・更新のため、いつも記事が新しくなってしまい
さかさ読みになりがちなこと。
初めて読んで下さる方が小説の冒頭から読んで下さる
にはどうしたらいいのかしらん。
また、ブログだけで、小説はめんどうな方にも目に飛
び込んでしまうこと。
などなど、他にもいろいろ欠点が見つかり
全文完成していますが、下ろすのにためらいがあり
滞っておりまする。



やってみないとわからないものです。うーーん。
ブログ書き下ろし歌小説『嬢ちゃん』3 (2/27が冒頭です。遡ってお読みください)
吉田先生の続き
家の周りには子どもたちがいっぱいいたね。石蹴りや缶蹴りをして
遊ぶ仲間に入れてもらっていたね。中に太郎といういじめっ子がい
て、おまえのうちのおかずがコロッケだけだとかいいふらしていじ
めた。
お母さんはそのたびにしゃもじを持ったまま、はだしで駆け出して
太郎を追っかけていた。
お母さんは思いあまって吉田先生に「来年は太郎と別の組にしてや
って下さい」と、頼みに行ってくれた。
そうして帰ってくると、「別の組にするかどうかはわからないって。
それに先生はね、合わない子と一緒にいるのも勉強の一つですって言
ったよ」と、妙に吉田先生に素直になって帰ってきた。
結局次の年は太郎とは別の組だった。
おまえたちの小学校時代といえば、日本が民主主義になって十年、新
しい教育が盛んに行われるようになった。学級会がその最たるものだ
ったかな。父の育った学校とは全く違う教育だった。一日の帰りに、
反省会なるものがあって
「今日、田中君がわたしの悪口をいいました。」と女子が言う。
「田中君ほんとうですか」と、司会の子がとりあげる。
「はい」
「あやまってもらいたいです」
「すみませんでした」と田中君。
先生は横の机で会の運びを見ているという具合だった。長い学級会で
は緊急動議とか、修正案とかいっぱしの会議の仕組みも教えてもらっ
ていた。
女の子が強くなっていたなあ。おまえも五、六年になる頃には先頭き
って発言するようになっていた。通信簿には「読解力抜群」とか、
「正義感に満ち」とか書いてもらえるようになっていたね。評価5とい
う科目もあるようになったけれど、あいかわらず大縄跳びは入れず、
ドッジボールは逃げるの専門だったかな。かえって逃げ方がうまくて
最後のひとりになってみんなに狙われるというくちだ。
ボールをバシッととってビューンと投げられるのは叶わぬ夢だった。
お母さんとの二人暮らしが始まり、おまえはしっかり勉強して、大き
くなったらしっかり働いて母にお金の苦労させたくないと思うように
なったね。寒さの冬にコートがなくても、かえってその寒さが好きだ
った。
横浜の街は坂が多い。銀杏並木の坂を登って下校するとき、未来はそ
の坂の向こうの薄青い空に延々と続くとおまえには思われた。
足もとに 銀杏の枯葉からころと 冬の底冷え 吾子育てたり
(この小説はフィクションです。
無断転載は禁じます。)