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家族の応援歌

相談活動・短歌・シャンソン

オレはトムだ。 -12

2016-01-19 23:11:00 | 作品
オレはもうすっかり老いぼれてしまった。

この家で過ごせた16年間は実に幸せな日々だった。感謝している。

ただ、一つだけ赦せないことがある。

それを伝えようとして、この話を書いてきたのではないか。

オレにはほんとにかわいい彼女がいたのだ。

この家に連れてきたこともある。茶色い毛の娘だ。

お父さんもしろみさんも、トムの彼女だと言ってご飯を出して
くれた。

それなのに、

この家に来る「台風一家」のために死んだのだ。

あの「台風一家」はよくこの家にやってきた。

突然例のごとく車5台で乗り付けて来る。

夜中でも早朝でもやって来ていた。これからもあるだろう。

オレたちは最大13匹いたころでさえ、一家がやってくると

恐れをなして皆で山などへ逃げた。

だが、彼女は一家への対処を知らない娘だったから、オレの
居ないときに訪ねてきたのか、一家が去ったあとに傷ついて
倒れていたのだ。

「一家」の中のだれかが彼女に花火を投げたらしい。

災いをもたらす一家だ。だから台風なのである。

死ぬまでに赦せないことがあるというのは辛いことだ。

「ファントム」でも「台風」にはお手上げだ。

オレの名はファントム・ジ・オピラなのに。


おれはトムだー11

2015-12-20 23:05:42 | 作品
今 この家にいるのは今やオレとこの白猫つんこだけだ。

つんこの歌ずきには しろみさんもおどろく

しろみさんはときどき、洗濯というものを干しながら歌を歌う。

野菜を束ねながらも歌う。
するとつんこは必ず歌うのだ。

オレの母も母から生まれた一族もあまり、鳴かない。
だが このつんこは実にいい声だ。母が増やした子孫ではないようだ。

つんこは実に音感がいい。
しろみさんの一節終わるところでニャーと入れるのだ。絶妙なタイミングだ。

ノーン リアンドリアン にゃー ノーン ジュネリガドリアーン にゃー
という具合だ。たいしたもんだ!

しろみさんも気持ちよく歌えるというものだ。

オレの最期には、しっかり歌っておくれ。

オレを忘れないでおくれ。
オレの名はファントム・ジ・オピラ だよ。

ブログ書き下ろし小説 オレはトムだ -11

2015-11-18 00:12:03 | 作品
オレの一族が一番多かったときは、13匹だった。

しろみさんは月に1回は必ず家にやってきたが、

白黒や縞の背中13並んで飯を喰っていたときは

さすがに卒倒しそうだった。

「このまま増えたらどうなるの?」

「知らん」とお父さんは言う。

「3匹残して捨てに行こうよ」

「だめ」

家の玄関周りには吸殻がいっぱい。

この家の一番大きい部屋には「お姫様」が寝ていて
(オレはひと時中に上げてもらって暮らしたことが
 あるので、見た)
お父さんはそのお世話でストレスがたまっていた。

しろみさんがやっている短歌の世界では、夫のことを
ツマと読むそうな。

*夫訪えば 猫と吸殻増えている 吸殻を掃き 猫に餌やる*

やれやれ、誰も捨てられず、みんな餌がもらえてよかった。

しろみさんはだまって吸殻を掃いていた。

おとうさん、体に悪いからあの臭い煙やめた方がいいよ。

オレたちは厭な臭いのするものには決して近づかないのだ。

ブログ書き下ろし小説 オレはトムだ  -10

2015-11-15 23:09:22 | 作品
オレはトムだ。正式な名はファントム・ジ・オピラだ。

オレはこの格調高い名を誇りに思っている。

この家には今、オレとつんこ、しか居ないが、いるときには

たくさんの仲間がいた。皆、オレの身内であった。

しろみさんは みなにいろいろな名をつけてくれた。

オレの父には「みかん」母は「モカ」妹には「モク」

甥や姪には 「アジ」「サンマ」 というのもいた。

「うし」というのもいたなあ。

みな毛色や毛並みでついた名だな。いいかげんだあ。

(母のモカという名は美しかったなあ。ああ、懐かしい母。)

「ジャック」というのは頭が良かったが不幸な死に方をした。

「羽黒」「谷地」というのは、夫婦で山形を旅行した年に生まれた
仔たちだったから、良い名だったなあ。

ある晩 しろみさんは何を思ったか、カレンダーの裏の白い部分に

オレの一族の系図をマジックで書いて、お父さんに見せていた。

「この間に、美人猫というのがいたね。すごく美人!だけど性格悪い」
「そんなのいないよ」
「いたわよ!」
「いない!!」
「いた!」

いたよ、すごい美人。だけどきつくって、しろみさんがおいしいものを
もってきてくれてもなつかず逃げていた。

せっかく東京から伊豆の家に奥さんが来た夜なのに、夫婦はオレたちの
ことでもめていた。

お父さんは興奮して、外へたばこを吸いに出てきた。

*十年の介護別居に猫五代 猫の系図を 描いてもめる*

しろみさんの歌だけど、この歌の真意はこんな事実にあるのでは
ないことはオレだけが知っている。

 

ブログ書き下ろし小説 おれはトムだ ー9

2015-10-01 23:03:17 | 作品
つんこを紹介しよう。

オレ亡きあとはこいつが跡をついでくれるであろう。

オレがこの家に帰ってくるとき、めしに来るとき、
うらやましそうに廂にのって見ていたのがこいつだ。

うちのおとうさんと奥さんのしろみさんが、それを見て
「おまえもおいで」と言ってくれたのだ。

オレもちょっと嬉しく、誇らしかった。

つんこはオレの女房になったわけではないが、一緒に
暮らすようになった。

つんこは筋肉たくましく、初めはつん太と呼ばれていた。
あとからメスとわかりつんこになった次第だ。

写真はもうすっかりこの家の者となりくつろいでいるとこ
ろでデレデレしているが、ほんとうはものすごく狩がうまい!

賢いやつなので、かわいがられている。

これでオレも安心だ。オレの寿命がきたらおとうさんと
しろみさんがどんなにがっかりするだろうと思うと切ない
からだ。

つんこはなぜそんなへんな名にされたのか、オレにはわか
らない。

しろみさんのことだからきっとイミあるのだろうが、顔の
パーツが真ん中に寄っているからかとしかオレには思えない。

オレのように由緒ある名にはみえないなあ。
オレはファントム・ジ・オピラだ。