Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

シンドラーのリフト

2006年06月10日 09時19分34秒 | クライシス
エレベータのシンドラー社。
マスコミ対応を間違えているようだ。

6月3日、都立小山台高校2年市川大輔さん(16)が自宅のある港区の区民向け住宅「シティハイツ竹芝」のエレベータから降りようとしたところ、扉が開いたままエレベータのケージが急上昇し、市川さんはエレベータと天井に挟まれて死亡した。
その後明らかになったことは、これまでも同社製のエレベータでかずかずのトラブルやインシデント(軽微な事故)が起きている。
共同通信が7日に配信した記事は、見出しに「270件昇降機トラブル シ社製、17都府県で」と掲げている。

危機管理でよく取り上げられる『ハインリッヒの法則』は、ひとつの大事故の背後には29の軽微な事故があり、さらに300のトラブルが存在するというものだ。
この数字が統計的に証明されたものではないが、経験則として社会的に受け入れられている。
この経験則を実務に取り入れ大きな成果をあげたのが、ジュリアーニ前ニューヨーク市長の『破れ窓理論』壊れた窓をそのままにしておくと街の荒廃を招くとして、地下鉄の落書きをきれいにしたり、路上に置き去りにされた廃車を撤去するなどの地道な活動を積み上げ、ニューヨークの治安を回復した。

シンドラー社は自社製のエレベータの不具合を的確に把握し、その不具合の改善の努力を積み重ねていれば、今回の不幸な事件を未然に防げた可能性がある。
しかしながら、どうもシンドラー社は自社が保守点検契約を結んでいないエレベータについては、保守責任だけでなく製造責任についても回避しようとしているかに見える。
それもあるのだろうか、シンドラー社は見解をリリースで公表するのみで記者会見に応じようとしないし、住民説明会への参加も回避し、アナグマのように鳴りを潜めている。
おそらく、この事件の原因は保守のしかたに原因があると言いたいのだろう。

マスコミの前に出ようとしないシンドラー社に業をにやしたマスコミは、シンドラー社を標的に定め、国内外のエレベータのトラブルや企業概要、経営者の素顔などの取材を開始した。秋田の米田豪憲くん殺害事件が一段落した今、メディアスクラムに巻き込まれるのは疑いなくシンドラー社だろう。
シンドラー社はディシジョンを間違えている。
『法的リスク』を回避しようとするあまり、『イメージリスク』を増大させてしまったのだ。
ここから立ち直る方法はただひとつ、スイスからシンドラーホールディングスのトップが来日する機会にあわせ、その方針を転換することだ。
彼が従来のスタンスを継続するならば、今後シンドラー社に残された道は日本からの撤退以外にないはずだ。