Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

マーケティングとPRの実践ネット戦略

2010年02月06日 17時03分35秒 | PR戦略
2010年元旦。鳩山総理は『ツイッター』を使っての情報発信を始めた。
140字という短い文字数で、その時々の感想や行動をつぶやくツイッターというミニブログサービスは、2006年にアメリカでスタートしたが、いまや全世界で7500万人のユーザーを擁するに至った。日本でも2009年夏ごろから大ブレークし、国会議員の間では異常と思われるほどのブーム状況を呈し、企業もPRメディアとして活用しはじめている。
ネットメディアの世界には次々と新しいサービスが生まれており、キャッチアップするのもなかなか大変である。思い起こせば2007年には『セカンドライフ』という3Dの仮想空間が注目を浴び、多くの企業が相次いで参入したが、いまやその話題も全く聞かなくなっている。
果たしてこの『ツイッター』は今後ネットメディアに定着していくのだろうか。

個々のサービスの盛衰はともかく、インターネットの成長に伴いメディア環境が激変していることに誰しも異論はないだろう。
私は、今日の企業コミュニケーションは、<マスメディア><マイメディア><ソーシャルメディア>の3つのメディアを同時に視野に納めなければならないと感じている。
20世紀において、<マスメディア>の存在感は圧倒的だった。
ところが世紀の変わり目に、企業は相次いでウェブサイトを開設し、マスメディアに頼らずとも自らのメディアで情報発信する手段を手に入れた。ウェブやメールなど企業が自ら発信できるメディアを私は<マイメディア>と整理している。
加えて06年頃から顕著なのが<ソーシャルメディア>の伸長である。ブログ、ポッドキャスト、SNS、ウィキなどを通じ、個人が容易に情報発信をしはじめ、それらの発言が相互に結びつき、無視しえないメディアへと成長したのである。
企業からの情報は、マスメディアを介さずともマイメディアで発信され、ソーシャルメディアで増幅する回路が生まれた。もとよりマスメディア経由の情報も効果的だが、それのみで完結するのではなく、ソーシャルメディアでの反響が情報伝播の大きな役割を担い始めているし、最近の学生は新聞記事をミクシイで閲覧することも稀ではない。

ところで、ネットは単に情報メディアとしてのみ存在しているわけではない、企業にとってはオンラインショッピングも重要である。つまりは、ネットはメディアであると同時に販売チャネルとしての性格も有している。さらには決済や物流のコントロール機能も備え、クレームの窓口でもある。
となれば、インターネットの成長が単にPRや広告などの企業コミュニケーションに影響を与えるだけでなく、マーケティング全体にインパクトを与えていることは容易に理解できるだろう。
本書は、この環境変化に対応し、マーケティング視点でもPR視点でもパラダイムを一新させなければならないと説いている。
著者は「多くの人がウェブという新しいメディアに対し、古ぼけた広告手法やメディアの考え方を当てはめようとして、目も当てられない結果に終わっている。」と語り、あらゆる組織が顧客と直接コミュニケーションをとれるようになった結果、マーケティングとPRの間の境界は消滅し、新しいルールが生まれていると主張する。
この主張の傍証となりうるのが、本書の成立過程かもしれない。

著者のデヴィッド・マーマン・スコットはオンラインのニュースサイトのマーケティング担当役員を経て独立。2004年頃から自らのブログで本書のもととなる内容を書き連ねた。数千のフォロワーがそのブログを購読し、何人もがコメントやメールで意見を送ってきた。このようにして練り上げられた本書は、2006年にまず電子ブックとして公開されたが、1週間で数千人がアクセスしたといわれる。やがて出版されるや1年以上アマゾンのビジネス書ジャンルでベスト100以内をキープし続けた。
たまたま、この原著を読んだ外資系PR会社社員のブログに著名ブロガーであるいしたにまさきが眼を止め、監修者の神原弥奈子に紹介したことが、日本にブログを紹介した功労者のひとりである平田大治による日本語版翻訳のきっかけだったという。
日本語版出版に際しては、発行元の日経BP社のサイトで試読版として1章がまるまる無料公開され、また献本を受けたアルファブロガーの多くが自らのブログで書評を掲載している。
ブログにより新しいつながりが次々に生まれ、出版プロジェクトが見る見る進展するダイナミズムと、バイラルで本書の評判が広がるプロセスはネット時代の特質と新しいルールを見事に体現している。

本書は次の3章で構成されている。
PART-1 ウェブはマーケティングとP Rをどう変えたか?
PART-2 ウェブでどのようにして直接リーチするか?
PART-3 ウェブの力を利用するアクションプラン
特徴的なのはPART-3でウェブやソーシャルメディアを活用する具体的手順について詳細に述べていることである。
もとより日米のネット文化の相違や原著の発行された2007年以来の変化は存在するものの、書かれている内容は現在でも充分活用出来るだろう。