Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

ブッシュ政権 イスラム圏でのプロパガンダに本腰?

2005年03月17日 21時05分20秒 | プロパガンダ
>ブッシュ米大統領は14日、アラブ、イスラム世界での対米イメージ戦略など米国の広報外交
>(パブリックディプロマシー)を担当する国務次官にテキサス州知事時代からの側近
>カレン・ヒューズ元大統領顧問を指名した。

第一期政権の国務次官で「マディソン・アベニューの女王」と呼ばれたシャーロット・ビアーズの無残な失敗については、以前ブッシュは広報を理解していない? のエントリーで触れた。

第二期政権で起用されたのは、カール・ローブと並ぶテキサスマフィアで、「史上最も大統領に影響力を持った女性」「ブッシュのもう1人の母親」と呼ばれたカレン・ヒューズ元大統領顧問(48)である。
西森マリーのUSA通信によると、3月26日封切のサイコロジカル・スリラー「クライシス・オブ・アメリカ」でメリル・ストリープが、副大統領候補である息子を洗脳し影で操る母親を演じるにあたり、役作りの参考にしたモデルがカレン・ヒューズだという。
テキサス州のテレビ局のリポーター出身の彼女は、2000年の大統領選挙で、戦略担当のカール・ローブに対し、広報を担当してブッシュを勝利に導き、そのままホワイトハウス入り。
02年に家庭の事情で大統領顧問(広報担当)を辞任したが、04年夏には大統領選のためホワイトハウスに呼び戻され、ブッシュ再選を支えた。

シャーロット・ビアーズに比べ、カレン・ヒューズのエクスパティーズは、このポストにマッチしている。
・広告ではなく、広報の専門家。
・ブッシュと近く、直属の上司にあたるライス国務長官ともホワイトハウス仲間。

とはいえ、彼女の任務はまな易しいものではない。
アメリカ政府の広報活動がますます謀略的になっていることは、ここに面白いエントリーがある。
かつてアメリカは、うそだけはつかない「ホワイトプロパガンダ」の伝統を誇っていたが、最近では目的達成のためには、倫理的規範をかなぐり捨てる「ブラックプロパガンダ」もいとわない国になってきている。このやりかたは、長期的にアメリカの信用を失墜させるやり方だ。
そもそも、イラクでの強引な作戦の遂行中に、親アメリカの世論形成をイスラム圏でなしうるのか。

カレン・ヒューズのやりかたを注視しておく必要がありそうだ。


読売社説第三弾を読む

2004年09月20日 08時07分57秒 | プロパガンダ
読売新聞の9月18日、19日の社説は、ジャーナリズムしての読売新聞のクオリティレベルを露わなものにする歴史的資料でしたね。
あざらしサラダさんは♪本当にプロが書いた社説なの?とあきれかえり、カトラーさんは読売新聞が死んだ日と断じます。
もっともぼくは、読売新聞大阪本社社会部の故黒田清氏や大谷昭宏氏などのいわゆる「黒田軍団」を放逐した時点で既に死んだと思っていますがね・・・。

20日の社説はどうなのか?
ふだん社説なんて読まないのですが、今日は早速目を通しました。
第1弾、第2弾との違いはどこにあるのでしょう。

1.あからさまな選手会批判は影を潜めた。

第1弾、第2弾の社説は首領様であるナベジョンイル氏の歓心を買うための、読売グループ内の幇間社説とぼくは理解しているわけですが、第1弾、第2弾でヨイショの効果は上ったと執筆者が思ったためか、他の報道機関が選手会支持であるとことに配慮したのか、ブログを含め嵐のように吹き荒れる読売社説批判にたじろいだのか・・・?
とはいえ、選手会に批判的トーンは崩していませんし、経営者サイドの正当性を主張することも忘れていません。

2.根来コミッショナー提案をベースにした着地を主張している。

コミッショナーはハーフスイングのくせに振り逃げしようとしているわけですね。
でそのハーフスイングにあたるのが、3項目のコミッショナー提案。
17日の労使交渉の場で、選手会がその具体的内容を質したのに経営側は答えられず、そのまま議論としては流れてしまった代物です。
次回の労使交渉では、ここから議論を始めようという腹なのでしょうか。

大正の初めに、憲政の神様といわれる尾崎愕道が、党利党略のために天皇を使う時の桂内閣を、「玉座を胸壁とし、詔勅を弾丸となす」ということばで痛烈に批判したことがありましたが、読売新聞は「コミッショナーを胸壁とし、社説を弾丸」として、自らの正当性を印象付けようとしているわけです。
そうか、昨日の新聞紙面を無駄に使っていた根来コミッショナーのインタビューの背後にはこんな意図があったのか。

野球協約には、
第8条 (職権)
(1)コミッショナーは、日本プロフェッショナル野球組織を代表し、これを管理統制する。
(2)コミッショナーが下す指令、裁定、裁決ならびに制裁は、最終決定であって、この組織に属するすべての団体と個人を拘束する。
「以下略」


とあり、コミッショナーに全能の権威を与えています。
根来コミッショナーは今月末には辞任するようですが、とんでもない指令・裁定を最後っ屁としてひりだすよう、現在裏側では読売新聞が説得活動を続けている可能性を否定できませんね。

事実、かつての江川騒動の時には、当時の金子鋭コミッショナーはそうしてやめて行ったのですから・・・。




情報聖戦

2004年09月12日 10時39分08秒 | プロパガンダ
9月11日。NHK特集で「情報聖戦」が放送された。
アルカイダのメディア部門アッサハブに注目し、その内幕に迫ろうとするもので、アメリカの不毛なメディア戦略との対比でその効果を描き出している。

アッサハブがはじめた、アルカイダのプロパガンダ映像制作の手法が、パソコンの発達により、いまや一般の若者でも容易に手がけられるようになり、アッサハブは自らの制作にとどまらず、複製から流通まで含めたトータルプロデュースに領域を広げていることを予測させること。アルジャジーラを含めたメディアへの有効なアプローチを通じ、イスラムの人々、なかんずく若者の心を捉え始めていること。インターネットのサイトを通じ、動画アーカイブを容易にダウンロードできる環境が整い始めていることがよく理解できる。

制作の中心は「戦争広告代理店」でボスニア=ヘルツェゴビナのPR戦略と、それをコンサルティングしたPRエージェンシーであるルーダー・フィン社のジム・ハーフの活躍を描き出した高木徹氏である。

アメリカのメディア戦略については、シャーロット・ビアーズの失敗についても、アル・フッラのいかがわしさについても、かつてこのブログで取り上げた。
しかし、アルカイダをはじめとするイスラムサイドの動きについては、アルジャジーラこそ注目していたものの、全く情報が得られていなかった。

アルフッラの洗練された映像を、アルカイダの作る荒削りな映像と比較して眺めると、粗雑である分アルカイーダのそれは、圧倒的なリアリティを持っている。
アメリカは情報戦争で負けている。
情報戦争での敗北はダイレクトに現実の戦争での敗北につながることが、現代の面白さだ。
アメリカがこの戦争で勝利を収めることはないだろう。


ブッシュが出演したアラビア語テレビって・・・

2004年06月01日 17時28分01秒 | プロパガンダ
アルグレイブ刑務所での収監者にたいする拷問・虐待事件の発覚を受け、ブッシュ大統領は04年5月5日、2つのアラビア語テレビに出演し、『憎むべき行為であり、米軍人の本来の姿を反映していないと釈明、実行者の処罰を約束した』(毎日新聞)。
この時出演したのが、「アル・アラビヤAl Arabiya」と「アルフッラAl Hurra」です。
放送衛星技術の発展で、イスラム圏には成長著しい「アルジャジーラ」をはじめ、「アル・アラビア」、「アブダビ」、「MBC」、「LBC」、「アル・ムスタクバル」など多くの衛星局が誕生しました。
ブッシュの出演した「アル・アラビヤ」は「アルジャジーラ」につぐ評価を得ている衛星放送ですが、「アルフッラ」って何でしょう。
アルフッラ Al Hurraの本拠地はバージニア州スプリングフィールド。04年のバレンタインデーに生まれたばかりの放送局です。

米,中東向け新アラビア語衛星テレビを開始
米政府が出資するアラビア語チャンネル,「アルフッラ(Al Hurra,自由なるもの)」が2月14日から中東22か国向けに放送を開始した。アルフッラは,アメリカの放送理事会(BBG)を通じて議会が資金を提供する非営利組織「中東テレビネットワーク」社が運営する。バージニア州の放送局と中東各地の支局から,アラブサットなど2つの衛星を使って放送される。アルフッラの放送は,ニュースや情報番組を中心とするが,議会から資金援助がなされているため,公正な放送が可能かどうか,疑問視する声も出ている。
  
『放送研究と調査』より

放送を通じたプロパガンダは昔からアメリカのお家芸でした。
二次大戦中の日本に対する謀略放送は、山本武利早稲田大学教授のブラックプロパガンダに詳しく述べられています。戦後もFENはぼくら以上の世代にはなつかしい存在です。
ベルリンの壁を崩し、ソ連邦の瓦解を促した「自由ヨーロッパ放送/ラジオリバティ」はいまでも28ヶ国語で放送され、その中にはチェチェン語も含まれています。02年1月には「ラジオ・フリー・アフガニスタン」も放送を開始しました。

との文脈をたどれば、「アルフッラ」の設立は、アメリカとしては当然の行動です。しかしながら、当初期待した効果はあげられていないようです。

CPAは、テレビが死んだイラク人の亡骸を映し出すのを見たくもないのだ。アル・ジャジーラとアル・アラビアが、アル・フッラをお手本にして、海外に住む占領支持派のイラク人のぎこちないアラビア語インタビュー番組を延々放送したら、連中は大喜びするだろう。もちろん、こういったインタビューの合間には、アラビア語吹替えのドキュメンタリーが散りばめられる。
Baghdad Burning 2004年4月14日(水)

なぜ共産圏で成功した作戦が、今日の中東で成功しないのでしょうか。
一言でいえば共産圏にはアルジャジーラがなかったため成功したといえるのではないでしょうか。アルジャジーラの前では、アルフッラは魅力ないアメリカの大義を一方的に押しつける、退屈な存在でしかありません。
ブッシュ政権が今なすべきことは、2つ。
まず、アルジャジーラとのリレーションを作り上げ、アルジャジーラを通じてイスラム世界からの好意を獲得すべく努力すること。そのためには大胆な、国連への権限委譲はもとより、指揮権の放棄、撤退をも含めた政策変更が必要なことはいうまでもありません。
2番目は、「自由北朝鮮放送」を作ること。アルジャジーラのないここなら、アメリカの戦略もまだ有効でしょう。

ブッシュは広報を理解していない?

2004年05月31日 16時13分26秒 | プロパガンダ
911直後に、ブッシュ政権は中近東への本格介入を決断したのかもしれません。
グラウンド・ゼロの余燼もおさまらない01年10月2日、国務省は「パブリックディプロマシーおよび広報担当」の次官としてシャーロット・ビアーズ女史を任命しました。
パウエル国務長官が911直後に直接就任を要請したとのこと。
女史は、WPPグループの2つの大手広告代理店、J・ウォルター・トンプソン、オグルビー&メーザーの会長を歴任し、「マディソン街の女王」とまで呼ばれた広告業界のスター経営者からの転身でした。
しかし、03年3月。成果があがらない責任を問われ、米軍のイラク侵攻を前に、解任されることになります。

彼女の失敗の原因は、本来広報的アプローチをすべきところに、広告的アプローチをしてしまったことにあるでしょう。
彼女はどんな作戦を取ったのか。
・アメリカに住むイスラム教徒の生活をレポートしたVTRを制作。イスラム各国のテレビ枠を買って放映しようとし、各地で放映拒否に遭った。
・ボイス・オブ・アメリカの後身である「ラジオ・サワ」を通じ、親しみのあるアメリカを売りこもうとした。
・アメリカ政府の見解やメッセージを直ちに30ヶ国語に訳せる「グローバル通信」というシステムを開発した。
・フセインがクルド族に化学兵器を使用したことを非難する政府広報誌を広汎に配布した。
・時差の空白を埋めるため、ワシントン・ロンドン・イスラマバードに「情報センター」を設置した。
・MTVやアルジャジーラにアラビア語が堪能な元シリア駐在大使を出演させた。
最後の項目のみは合格点が与えられるものの、それ以外はアメリカからのメッセージの一方的押し付けであり、広聴の視点が欠落していることを指摘できるでしょう。
さらに、イスラム聖職者など第三者のインフルエンサーによってアメリカに好意的なレピュテーションを形成させようとする、インダイレクトな戦略も見当たりません。
力ずくの広告流で、アメリカへの好意をインプリントしようとする作戦は、はじめから失敗への道を突き進んだかのようです。



【参考サイト】
里見脩氏論文
マンスリー広告批評