気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

青を泳ぐ。 杉谷麻衣 

2016-09-19 13:59:01 | 歌集
爪に残る木炭ばかり気になって完成しない風の横顔

少しずつ色を失う街角の胸に息づく信号の赤

運転を終わらせ君が折りたたむ眼鏡の銀が西陽をはじく

あの遮断機まで走るんだ群青が空のすがたで追いかけてくる

ワイパーがぬぐい残した雨つよく光るね駅へ近づくほどに

流星のような一瞬 送信を終えて止まった画面見ている

花の名を封じ込めたるアドレスの@のみずたまり越ゆ

  北へは上がる 南へは下がる
道なりに北へ上がれば北にしかゆけぬかしこき京に暮らせり

  送り火を見た松尾橋
背の高きひとから秋になることをふいに言われぬ晩暉の橋に

同志社今出川キャンパス
絵のなかに閉じ込められに行くように赤い煉瓦の風景に入る

(杉谷麻衣 青を泳ぐ。 書肆侃侃房)

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杉谷麻衣の第一歌集『青を泳ぐ。』を読む。

杉谷さんとは面識がないが、京都市出身の方なので、縁を感じて歌集を送っていただいたと思う。爽やかな相聞、若々しい感性の歌がならぶ。作者の職業や年齢、家族などの情報は消されていて、わからない。歌として切り取られた瞬間が、スナップ写真のように差し出されている。
わたしが一番気にいった歌は、七首目。@がみずたまりに見えるという把握がとてもいい。
八首目からは京都の歌で詞書がある。「かしこき京」という言葉に注目した。「賢」か「畏」だろうか。京都人の他人との距離の取り方には、水くさい感じがある。あまり立ち入らない。「お宅さんはちゃんとしたはりますやろし・・・」と言った無言の圧力を感じることが、間々ある。言われなくともかしこくしていなければならない。京都もいろいろあって、地域によって違うことはよく聞くことではあるが、肯うしかないのだ。
杉谷麻衣さんのますますのご活躍を祈っている。





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