黙祷はまだしたくないこの国の揺れて揺られて漂う姿
木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ
野良猫と呼ばれるほどの魂をもつ猫おらずビルの町には
飛び立とう冬が近づく身の内の水の部分は君に預けて
残された父の日記に細々と戦争当時の食べ物の値段
武蔵野の父が愛せる槻の木のいま春が来て新芽を降らす
紙風船 折ってたたんで息吹いて母が呟くあのころの恋
こんな夜は三匹が揃って嘲笑うドイツワインのラベルの猫が
夜更けには月が窓辺を訪れて古き歌集の吐息をのぞく
嘘つきな女がほそい指で折る造花のような夜の東京
(河野多香子 古今さらさら 不識書院)
木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ
野良猫と呼ばれるほどの魂をもつ猫おらずビルの町には
飛び立とう冬が近づく身の内の水の部分は君に預けて
残された父の日記に細々と戦争当時の食べ物の値段
武蔵野の父が愛せる槻の木のいま春が来て新芽を降らす
紙風船 折ってたたんで息吹いて母が呟くあのころの恋
こんな夜は三匹が揃って嘲笑うドイツワインのラベルの猫が
夜更けには月が窓辺を訪れて古き歌集の吐息をのぞく
嘘つきな女がほそい指で折る造花のような夜の東京
(河野多香子 古今さらさら 不識書院)