冬がいい桜並木の静けさを独り占めして歩くのならば
珈琲を片手に窓の外を見る上半身だけ空と触れあい
台湾製蛍光ペンに<螢>とあり手の脂にてかすれておりぬ
おばあさん帽子を被る人多し鳴かぬ小鳥を隠しいるらむ
胸内にこたつの部屋あり悴んでしまう夜にはこころを入れる
物を売る場所にはかつて闇があり恥じらうごとき金銭の照り
カステラの弾力のうえで休みたし働いても働いてもひとり
春彼岸バケツに菊は投げ込まれ曇り日の坂運ばれゆけり
瓢箪のように会社にぶら下がり時おり風にぶわんと揺れる
人の列伸び縮みしてわたりゆく渋谷スクランブル交差点
(遠藤由季 鳥語の文法 短歌研究社)
***********************************
かりんの遠藤由季の第二歌集『鳥語の文法』を読む。
遠藤さんとは一度だけ神楽岡歌会でお会いしたと思う。小柄な方だった記憶がある。第一歌集『アシンメトリー』の後、2010年から2016年初夏までの375首が収められている。
新かなで詠まれた歌からは、几帳面で真面目な事務職員、おいしいパンを食べることを楽しみにするシングルという姿がそれとなく伝わってくる。
帯に「他者の道を歩くことはできず、自らの道を歩むほかにない現実を投影してしまう詩形としての短歌…」という文を見て、まずそこに共感してしまった。
二首目の「上半身だけ空と触れあい」、四首目の「小鳥を隠しいるらむ」にセンスの良さが光る。十首目の「人の列伸び縮み…」の言葉の選びにも感心する。六首目、七首目は樋口一葉から取材した一連。ものを商うことに恥じらいを持った時代があった。闇、照りの微妙なニュアンスに惹かれる。「働いても働いてもひとり」の句跨りのリズムの面白さ。引用したい歌のたくさんある歌集だ。
歌の背後に見え隠れする作者の性格に、自分のそれと似たものを感じて勝手に近しく思ってしまった。
考えすぎるわたしのあたま大鳥居くぐって少し朱色に染まる
珈琲を片手に窓の外を見る上半身だけ空と触れあい
台湾製蛍光ペンに<螢>とあり手の脂にてかすれておりぬ
おばあさん帽子を被る人多し鳴かぬ小鳥を隠しいるらむ
胸内にこたつの部屋あり悴んでしまう夜にはこころを入れる
物を売る場所にはかつて闇があり恥じらうごとき金銭の照り
カステラの弾力のうえで休みたし働いても働いてもひとり
春彼岸バケツに菊は投げ込まれ曇り日の坂運ばれゆけり
瓢箪のように会社にぶら下がり時おり風にぶわんと揺れる
人の列伸び縮みしてわたりゆく渋谷スクランブル交差点
(遠藤由季 鳥語の文法 短歌研究社)
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かりんの遠藤由季の第二歌集『鳥語の文法』を読む。
遠藤さんとは一度だけ神楽岡歌会でお会いしたと思う。小柄な方だった記憶がある。第一歌集『アシンメトリー』の後、2010年から2016年初夏までの375首が収められている。
新かなで詠まれた歌からは、几帳面で真面目な事務職員、おいしいパンを食べることを楽しみにするシングルという姿がそれとなく伝わってくる。
帯に「他者の道を歩くことはできず、自らの道を歩むほかにない現実を投影してしまう詩形としての短歌…」という文を見て、まずそこに共感してしまった。
二首目の「上半身だけ空と触れあい」、四首目の「小鳥を隠しいるらむ」にセンスの良さが光る。十首目の「人の列伸び縮み…」の言葉の選びにも感心する。六首目、七首目は樋口一葉から取材した一連。ものを商うことに恥じらいを持った時代があった。闇、照りの微妙なニュアンスに惹かれる。「働いても働いてもひとり」の句跨りのリズムの面白さ。引用したい歌のたくさんある歌集だ。
歌の背後に見え隠れする作者の性格に、自分のそれと似たものを感じて勝手に近しく思ってしまった。
考えすぎるわたしのあたま大鳥居くぐって少し朱色に染まる