気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

サンドマンの影 万造寺ようこ 本阿弥書店

2021-05-30 00:41:06 | 歌集
梅雨空は川の上まで降りてゐてやはらかくなる木立もわれも

父の字の崩し字ひとつ読み分けて墨のつらなり歌となりけり

足許にきいつけてかへつてくださいやスコッチテリア連れた人言ふ

われの触れ子らも触りきアジア象諏訪子(すはこ)の生きたる戦後の長さ

みづからの額のなかを行くやうな日なりスズカケの実が落ちてゐる

大きな葉のそよぐところにゐたやうだ回復室で目覚めるまへは

木を伐りて空ひろびろとなりをりぬ月はみづからのひかりに浮かぶ

妹さんも倒れんといてくださいと言はれるわれの疲れた顔か

耳かきを奥までいれるあやふさの互ひの息子のはなししてをり

蟬のこゑ背中にきいて一日がまろやかに過ぐこんな日もある

(万造寺ようこ サンドマンの影 本阿弥書店)

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塔の万造寺ようこの第三歌集。2008年から2013年までの六年分の作品を纏めたという。穏やかで温かい人柄がわかる。表現がやわらかい。京都弁の会話をそのまま取り入れた歌を読んで体温が伝わって来た。旧かなの表記も作風に合っている。「耳かきを奥までいれるあやふさ」の比喩に納得する。大人になった息子は、大人だからこそ悩ましい。