ホスピス、緩和ケア看護覚書*カナダ編

ホスピス看護をカナダから。2013年大学院を卒業しました。カナダ人の夫とは14年たっても熱愛中。

心の健康

2011年06月11日 | ホスピス
数週間前の話。ホスピスへのアセスメントを頼まれた。非がん患者さん。しかし慢性で難治の疾患をもちここ一週間嘔気嘔吐がひどく、痛みも強く食事も取っていない。子供たちに「今回はだめかも、もう疲れた」と言う彼女。子供たちはいつもと違う。死が近いのなら一日でも早くホスピスへ移してくれと頼む。診察して気付いたのだが、疾患の部位と痛みの部位が一致していない。前回のカルテをみると以前の部位とも違う。血液検査もこれといって目立ったことはない。嘔気嘔吐はどこから来るのだろう。受け持ち医師はありとあらゆる制吐剤を使ってみたが効果がないと言う。診察前に痛みと制吐剤のレスキューを使ったがまったく効果は見られない。患者は薬はぜんぜん効かないと、とても苦しそうにしている。過去の記録には多くの精神科のエントリーがあった。子供のころの虐待による後遺症で精神的に難しい生涯を送っている姿がみられた。もしかしたら身体的な症状は精神的苦痛から起こっているのかも知れない、と思った。子供たちの一人は麻薬や薬をどんどん使えるんですよね。しっかり使って苦痛を取り除いてください、と言う。

私はこういうケースの症状管理の難しさについて話をした。薬物療法単独では効果が得れないまま中毒症状が出たりする可能性など。子供たちに過去の記録から彼女はいろいろ背負って生きてきたことが伺えます。心の傷の深さはこういう時に再び大きくなることもあるし、何かお母さんが'やり残した、これだけはしておきたい’など思い当たることはないですか?と聞くと子供たちは「いつもいつも、悪い母親で悪かったって言うんです。でも本当に素敵な母親なんです。だからどれだけお母さんがすばらしいか伝えるんですけど」と。あ~もしかして、、、、。
私は子供たちに「お母さんがどれだけ素敵なお母さんだったかあなたたちをみてすぐわかりますよ。もしかしたらお母さん、素敵なお母さんだといわれてもお母さん自身は悪い母親って思えて、それがつらいのかも。お母さんが素敵だと言う変わりに、’そういう風に思っていてつらかったね’と彼女の気持ちを認めてあげたらどうですか?」と言ってみた。子供たちはすぐそうすると言っていた。

ホスピスのベッドに空きはなく週末を病院で過ごすことになった彼女。それを伝えにもう一度病室へよった。別人のような和やかな彼女。痛みもなく吐き気もないという。午前中は声かけに目を開けることもなかったのに、目を開ける彼女。「何かよいことでもあったのですか?」と訪ねるとにっこりとうなずく彼女。私の予感は的中したのかも。子供たちに否定され続けた’悪い母親’ようやくその苦しみを子供に認められて心のつっかえが取れたのだろうか。

結局、週末明けには食事も少量だが取れるようになった。数日後には歩けるようにまでになった。もちろんホスピスへの入所は中止となり、自宅退院に向けてしばらく内科病棟で観察ということになった。心の健康はとても大切だと思った。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
病は気から (takako)
2011-06-14 07:38:04
つくづく思います。
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病は気から (Missy)
2011-06-21 15:05:12
takakoさん

ホント、このケース一目で’あ、この人死が近いよ~’と思えるほどだったのに、歩けるようになるまで回復するなんて、病は気からってこのことかな~と思わされました。心の健康大事です。
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心と体の健康 (ななこ)
2011-06-21 21:54:42
最近心が壊れた経験をし、遅れて体が動かなくなりました。原因を除去したら、心も体も元気になりました。心と体の健康の大切さを実感しました。
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Unknown (Missy)
2011-06-28 14:51:40
ななこさん

初コメントありがとうございます。心と体つながっているって改めて思いますよね。お互いに心と体の健康を心がけましょうね!
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初コメント 失礼します (りか)
2011-07-18 11:57:23
看護がだからできる。科学の力を使わなくても治すことができる力。
読ませていただきすごくやる気がでました!!
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Unknown (Missy)
2011-07-20 15:01:21
りかさん

初コメントありがとうございます。私はとても看護が好きです。仕事を誇りに思っています。看護だからできること、気づけること、人間の健康を維持するために必要なこと、大切にしたいと思っています。りかさんの力になれて、私もうれしいですよ。
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