Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/9(金)新国立劇場『こうもり』/可もなし不可もなしの80点主義の上演では、楽しさも80点どまり

2011年12月11日 03時46分31秒 | 劇場でオペラ鑑賞
新国立劇場 2011/2012シーズンオペラ公演『こうもり』ヨハン・シュトラウス 作曲

2011年12月9日(金)14:00~ 新国立劇場・オペラパレス B席 2階 3列 46番 11,340円(会員割引)
指 揮: ダン・エッティンガー
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
演 出: ハインツ・ツェドニク
美術・衣装: オラフ・ツォンベック
照 明: 立田雄士
振 付: マリア・ルイーズ・ヤスカ
再演演出: アンゲラ・シュヴェイガー
演出補: 田尾下 哲
振付補: 石井清子
音楽ヘッドコーチ: 石坂 宏
合唱指揮: 冨平恭平
舞台監督: 齋藤美穂
芸術監督: 尾高忠明
【出演】
アイゼンシュタイン: アドリアン・エレート(バリトン)
ロザリンデ: アンナ・ガブラー(ソプラノ)
フランク: ルッペルト・ベルクマン(バス・バリトン)
オルロフスキー公爵: エドナ・プロホニク(メゾ・ソプラノ)
アルフレード: 大槻孝志(テノール)
ファルケ博士: ベーター・エーデルマン(バリトン)
アデーレ: 橋本明希(ソプラノ)
ブリント博士: 大久保光哉(バリトン)
フロッシュ: フランツ・スラーダ(俳優)
イーダ: 平井香織(ソプラノ)

 新国立劇場のオペラ公演は、11月公演と12月公演が一部重なるスケジュールになっているため、先週に引き続き、また新国立にやって来た。新国立を2回続けてレビューするのも珍しい。というわけで、今日はヨハン・シュトラウス二世のオペレッタ『こうもり』。難しいことは一切抜きにして、楽しめるだけ楽しまなければ損、という作品である。オペレッタとしては、レハールの『メリー・ウィドウ』と並んで人気が高く、従って上演機会も多い。本プロダクションは『こうもり』といえばこの人の名が浮かぶハインツ・ツェドニクさんの演出によるもので、2006年初演、2008年再演に続いて今回が3度目。計5回の公演が組まれ、今日は平日のマチネー。仕事を抜け出しての観賞は禁断の味がする。しかも年末の『こうもり』であればいうことはない。

 2011/2012シーズンのオペラ公演の中では、再再演とはいえ、豪華なメンバーを揃えたキャスティングであったため、早々に予定に組み込んでいたのだが、シーズン・プログラムが発表されたのとシーズン開幕の間に東日本大震災が発生し、その後の音楽界の諸々の状況はご存じの通り。海外から招聘されていた音楽家たちのキャンセルがイヤというほど続き、9ヵ月を経た今回の『こうもり』までも大きな影響を受けている。6月頃の時点で、ロザリンデ役のイルディゴ・ライモンディさんが降板して代役はアンナ・ガブラーさんと発表された。そして直前の11月になって、オルロフスキー公爵役のアグネス・ヴィルツァさんと夫君でフランク役のギュンター・ミッセンハルトさんが降板、代役はエドナ・プロホニクさんとルッペルト・ベルクマンに。いずれも福島第一原発の事故に伴う放射能による健康被害への懸念が理由となっている。そう言われてしまえば、日本側からは無理を押すこともできなくなってしまう。公演自体のクオリティがどうであったかは別として、やはり主役3名の交替は、観に行く側にとっては辛いものがある。というわけで、やや出鼻をくじかれた感じで、(風邪をひいているということも手伝って)テンションがあまり上がらないままオペラ・パレスに出向いた。

 公演の方は、こちらの気分の問題もあったのだろうか、全体にどこかしっくりこない感じがして、心から楽しめなかった気がする。歌手陣やオーケストラ、合唱も、舞台も衣装も平均的に優れてはいるのだと思うが、80点主義というか、何かが足りない感じ。まあ、いつもの新国立のペースに戻ったといってしまえば、それまでなのだが…。先週の『ルサルカ』は新制作だっただけに緊張感が高く(皇太子様ご臨席でもあったし)高品質な公演だったが、今日の『こうもり』のように再再演で、しかも直前のキャスト変更などがあっては、上演する側のテンションも空回りするのだろうか。


第1幕。コケティッシュなアデーレととぼけたアイゼンシュタイン

 その中で、一番印象に残ったのはオーケストラ。ダン・エッティンガーさんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団が、いかにもオペラっぽい濃厚な音を出していた。エッティンガーさんは東京フィルの常任指揮者だから相性もピッタリ、先月のサントリー定期でオペラの名曲をたっぷりと聴かせてくれた。若いがオペラの経験も豊富だから、コンサートとは違った柔軟な演奏を聴かせる。東京フィルも豊潤な音色で応えていた。とくに今日はJ.シュトラウスのオペレッタなのだから、肩肘張らない「いいかげんさ」が欲しいところ。今日のような柔軟な演奏ができるのは東京フィルならではだろう。


第2幕。仮面のハンガリー貴婦人(実はロザリンデ)を口説くルナール公爵(もちろんアイゼンシュタイン)

 歌手陣は外国勢はいずれも平均的で、歌に演技にと忙しい限りだが、慣れない日本語の台詞を交えながら、頑張っていた、といったところだろうか。一番気を吐いていたのは、やはりオルロフスキー公爵役のエドナ・プロホニクさんだった。ビッグ・ネームの代役だけにそれなりの思いもあったとは思う。体型も大柄だし、台詞ではかなり低い「男声」っぽい声でズボン役をうまく演じていた。歌唱は高音部がちょっと飛び出してしまうのが気になったが、声量は十分で、存在感があった。アイゼンシュタイン役のアドリアン・エレートさんは見た目の印象も含めてちょっと線が細い感じで、アイゼンシュタインのとぼけたイヤらしさが足りない(?)印象。ロザリンデ役のアンナ・ガブラーさんは、スラリとして美しく見映えは良いものの歌唱がちょっとパワー不足。フランク役のルッペルト・ベルクマンさんは大柄な体格が役柄に会っていて笑わせてくれたが、この役は歌唱の方に目立つ部分がないので、残念なことに印象が弱い。ファルケ博士役のベーター・エーデルマンさんはベテランの味わいで、歌も演技もそつなくこなしていたようだ。
 『こうもり』の中で最も難しい歌唱を求められるのがアデーレ。橋本明希さんは海外でも活躍しているソプラノさんで、小柄ながらよく動き回り、ステージ上で常に目立っていた。コロラトゥーラの技巧やコミカルな演技も素晴らしかった。ただ、時折瞬発力のある合唱(新国立合唱団)に負けてしまい、聞こえなくなってしまうところが数回あったのが残念だった。アルフレード役の大槻孝志さんは、まるでライト・モチーフのように同じ音型を繰り返し歌うだけのパカっぽい役柄だが、声量十分で、声もよく通っていたし、不思議な存在感を見せていた。
 『こうもり』の名物役、フロッシュ役のフランツ・スラーダさんはもちろん歌わない俳優さんだが、この役どころは、演技力がどうこうというよりは、演出の方向性によって決まってくる。ハインツ・ツェドニクさんの演出は、フロッシュが登場する第3幕は比較的オーソドックスにまとめているので、お馴染みのシーンといった感じだった。もっとも日本語を随所に入れた台本は覚えづらかっただろうし、字幕の関係で、笑いのタイミングが台詞とずれてしまったりもするので、大変だったろうと思う。


第3幕。左から、刑務所長のフランク、看守のフロッシュ、イーダとアデーレの姉妹

 そのハインツ・ツェドニクさんの演出は、『こうもり』を熟知しているからこそ、原作をストレートに表現するもので、目新しさはない。目指すところは、初めて観る人でも毎年観る人でも分かりやすく楽しめることだろう。
 一方で、舞台装置は大変美しく、豪華で質感の高いものだ。第1幕は背景は絵であったりと安っぽさが漂うが、第2幕のオルロフスキー公爵邸のシーンは豪華絢爛で素晴らしい。第3幕の刑務所長の部屋は当然薄汚れた部屋になっているが、ファルケ博士の「こうものり復習」のネタがばれ、登場人物全員が部屋に集まったところで、部屋の壁がさっとなくなり、オルロフスキー公爵邸の豪華な舞台が突然戻ってくるのは、目を見張るような華麗さである。

 というわけで、80点主義の新国立劇場っぽい仕上がりの『こうもり』であった。平日のマチネー公演にもかかわらず、観客はよく入っていてほぼ満席ではあったが、カーテン・コールは盛り上がらず。Bravo!は飛ばなかったし、おざなりな感じがしたのも、公演自体から得た印象が、皆似たり寄ったりだったからではなかろうか。チケットが売れているのは出演者変更の前のことだから、今シーズンは良いとしても、来シーズン以降が心配になってくる。景気も悪くなっていくことだし、ひと工夫もふた工夫もしていかないと…。
 また、来年2012年5月には、本場からウィーン・フォルクス・オーパーが来日して『こうもり』を上演する。お値段は2倍くらいするが、どれほどの違いを見せてくれるのだろうか。

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