Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/30(土)せんくら2017第2日/川久保賜紀・上原彩子/林美智子・横山幸雄/郷古 廉・田村 響/上村文乃・三又瑛子/三舩優子/ソロイスツ

2017年09月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
仙台クラシックフェスティバル2017《第12回》〜第2日

2017年9月30日(土)仙台市内4会場6ホール

 昨日に続いて「せんくら2017」の第2日。仙台市内の勾当台公園駅から徒歩5〜6分のところにあるホテルに宿泊、今日は朝一番のコンサートから聴き始めるので、午前7時に起床し、ホテルで朝食を摂って早めにホテルを出、地下鉄の1日乗車券を買って最初の会場に向かう。いざ出陣、という感じに気合いを入れる、これでは観光旅行のイメージではなく、完全に出張の気分だ。何しろ1日ビッシリのスケジュールを組んでいて、コンサートと地下鉄で移動の繰り返し。しかもコンサート後のサイン会や出演者との面談の時間や、自由席の場合の並ぶ時間まで計算に入れての綿密なスケジュールを作ったため、分刻みの行動をすることになってしまった。食事や休憩の時間を入れていなかったので、大変なことになってしまった。今日は7公演を聴く予定していたが、最後のひとつはキャンセルして知人に譲ることにしたため、6公演を聴いた。
 今回は3日間、友人の仙台出身のRさんと同行したのだが、東京から来ていた音楽仲間のHさんとも合流、仕事を兼ねてきていたSさんとも顔を合わせた。友人のYさんは今日だけの参戦で日帰りであった。

■公演番号50《世界が認めたチャイコフスキー・コンクール覇者2人のオール・ブラームス・プログラム!》
10:30〜11:15 仙台銀行ホール イズミティ21/小ホール 指定席 1列 13番 1,000円
ヴァイオリン:川久保賜紀
ピアノ:上原彩子
【曲目】
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト短調 作品76「雨の歌」
ブラームス:「F.A.Eソナタ」より 第3楽章 スケルツォ
ブラームス:「ハンガリー舞曲集」より 第1番 ト短調
ブラームス:「ハンガリー舞曲集」より 第2番 ニ短調

 2日目も川久保賜紀さんのコンサートから始まるというのが実に嬉しい。今日は上原彩子さんとのデュオで、オール・ブラームス。2002年のチャイコフスキー国際コンクールの最高位を獲得した二人だが、考えてみればもう15年も経つわけで、お二人ともかなりの進化を遂げている。十分に成熟した音楽を創り出していると思う。もう10年以上前になるが、賜紀さんのヴァイオリンを私は「流麗」と表現していた。最近になってなぜ「流麗」に聞こえるのかがやっと分かってきたような気がする。彼女の演奏は、旋律がしなやかに歌う。ひとつひとつの音にもパッセージにも、息継ぎをして呼吸しながら歌うような息づかいが感じられるのである。それはつまり器楽的というよりは歌謡的ということで、その辺りが彼女の音楽性の特徴になっている。だからどんなに技巧的なパッセージであっても、技巧の見事さよりも音楽の豊かさが聞こえてくるのだ。今日、優しくエレガントに歌うブラームスを聴きながら、そんなことを思い起こしていた。


■公演番号29《シューマンの名作、歌曲「女の愛と生涯」歌とピアノの真髄》
12:00〜12:45 日立システムズホール仙台/シアターホール 指定席 1階 D列 21番(最前列)1,000円
メゾ・ソプラノ:林 美智子
ピアノ:横山幸雄
【曲目】
シューマン:歌曲集『ミルテの花』より第1曲「献呈」
シューマン:歌曲集『ミルテの花』より第7曲「はすの花」
シューマン:歌曲集『リーダークライス』より第5曲「月夜」
シューマン:歌曲集『リーダークライス』より第12曲「春の夜」
シューマン:歌曲集『詩人の恋』より第1曲「美しい五月に」
シューマン:歌曲集『詩人の恋』より第7曲「僕は恨まない」
シューマン:歌曲集『女の愛と生涯』

 シューマンこそ、ロマン派をそのまま体現した人だと思う。ピアノの曲でも管弦楽でも、そのロマンティックな心情そのものが音楽になっている。それが歌曲ともなれば歌詞があるのでより鮮明になる。そうしたシューマンの歌曲集『ミルテの花』『リーダークライス』『詩人の恋』からそれぞれ2曲ずつと『女の愛と生涯』が、メゾ・ソプラノの林美智子さんによって歌われた。これらの曲はピアノ・パートも単なる伴奏ではなく充実した芸術性を主張するもので、それを横山幸雄さんが弾くという贅沢なプログラムである。横山さんのキレのある鮮やかなピアノに乗せて、林さんの柔らかな歌唱が情感豊かな世界を描き出している。


■公演番号34《旬のデュオで聴くドビュッシー最後の作品》
13:30〜14:15 日立システムズホール仙台/交流ホール 自由席 1列 左ブロック 1,000円
ヴァイオリン:郷古 廉*
ピアノ:田村 響**
【曲目】
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ト長調 作品27-5*
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31**
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ

 昨日に続いて郷古 廉さんを聴く。今日もフランス系の音楽だ。イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番」は超絶的な技巧が駆使されているだけでなく、音色にも濃厚な質感があって、表現力の豊かな演奏だ。男性的な力感とピーンと張り詰めた緊張感のバランスが良い。田村 響さんのソロによるショパンの「スケルツォ第2番」は、どういうわけか妙に力が入っていないような感じで、誰かが「モーツァルトみたい」と言っていた。デュオによるドビュッシーの「ヴァイオリン・ソナタ」は、やはりピアノが弱いため思いの外色彩感が出て来ないような印象となってしまったのが惜しい。

■公演番号42《白鳥、妖精の踊り、夢のあとに・・・心に響くチェロの音色》
15:45〜16:30 エル・パーク仙台/スタジオホール 自由席 1列中央 1,000円
チェロ:上村文乃
ピアノ:三又瑛子
【曲目】
サン=サーンス:組曲『動物の謝肉祭』より「白鳥」
フォーレ:夢のあとに
フォーレ:エレジー
ポッパー:妖精の踊り
倉田 高:日本人形の踊り
レスピーギ:アダージョと変奏
ヒナステラ:パンペアーナ~大草原風~

 チェロの上村文乃さんは今回が「せんくら」デビュー。120席ほどの小さな会場で自由席だったが、タイムスケジュールが絶妙でうまく並ぶことができ、いつもサロンコンサートで聴いているように最前列・目の前の席を確保できた。「白鳥」や「夢のあとに」などお馴染みのチェロの小品が並ぶ。上村さんのチェロは、大らかで豊かな響きと明るい音色ょ持ち、その意味では大変分かりやすくチェロの魅力を発揮していたと思う。「妖精の踊り」ではハイポジションの超絶技巧!! 高度なテクニックと伸びやかな表現力を併せ持つ上村さんである。サイン会などが予定されていなかったので楽屋に突撃してご挨拶。仙台まで遠征してきて、何人もの親しい演奏家に会えるというのも、出演者と聴衆の距離感が小さい「せんくら」ならではのことだ。


■公演番号39《THE エンタテイナー! ジョップリンとピアソラ ラグタイムからタンゴまで》
17:15〜18:00 エル・パーク仙台/ギャラリーホール 自由席 1列 中央 1,000円
ピアノ:三舩優子
【曲目】
ジョップリン:ピーチェリン・ラグ
ジョップリン:メイプル・リーフ・ラグ
ジョップリン:エンタテイナー
モートン:映画『海の上のピアニスト』より「クレイヴ」
ピアソラ:ピアノのための組曲 第1番 作品2 より「プレリュード」「シシリアーナ」「トッカータ」
ピアソラ:ピアノのための3つの前奏曲 より「レイヒアのゲーム」(ピアノのためのタンゴ前奏曲)
ピアソラ:ピアノのための3つの前奏曲 より「サニーのゲーム」(ピアノのためのワルツ前奏曲)
ピアソラ:天使のミロンガ
ピアソラ:リベルタンゴ

 この前の上村さんとは隣の部屋で、こちらも248席の自由席で三舩優子さんのリサイタル。昨年の公演でジョップリンが好評だったということで、再演が望まれたのだとか。確かに、ラグタイムのピアノを本格的に採り上げるピアニストは少なそうだから、三舩さんクラスの本格派がこの手の曲を軽快に演奏してくれるのは楽しい。後半は、これもまたちょっと珍しいピアソラのピアノ曲。完全なタンゴの曲ではなくても、そこはピアソラ。ラテン・アメリカの旋律線とリズム感は特有のものだ。ピアノで聴くのもなかなか良いものである。

■公演番号25《一夜だけのドリームチーム。名曲で聴く弦楽アンサンブルの極致!》
19:00〜20:00 日立システムズホール仙台/コンサートホール 指定席 B列 19番(最前列)1,500円
〈せんくら・フェスティバル・ソロイスツ〉
 ヴァイオリン:川久保賜紀、成田達輝、スヴェトリン・ルセフ、神谷未穂、礒絵里子、青木尚佳
 ヴィオラ:井野邉大輔、飯川直美
 チェロ:三宅 進、原田哲男
 コントラバス:助川 龍
 チェンバロ:梅津樹子
【曲目】
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク
       (コンサートマスター:神谷美穂)
ヴィヴァルディ:合奏協奏曲集『調和の霊感』より「2つのヴァイオリンのための協奏曲」
       (ヴァイオリン独奏:川久保賜紀、成田達輝/コンサートマスター:スヴェトリン・ルセフ)
グリーグ:ホルベルク組曲
       (コンサートマスター:スヴェトリン・ルセフ)

 この公演こそ、今回の仙台遠征の大きな目的のひとつであった。フェスティバルのために仙台に集ったソリスト達の夢の饗宴である。とくにヴァイオリンの6名の名を見れば、この名手達が一夜限りの弦楽アンサンブルを組むというのを、東京から聴きに来る価値もあろうかというものだ。川久保賜紀さんや礒絵里子さんという一流のソリストに、成田達輝さんと青木尚佳さんという新進気鋭のソリストが加わる。スヴェトリン・ルセフさんは第1回仙台国際音楽コンクールの優勝者、神谷未穂さんは仙台フィルのコンサートマスターである。一方、ヴィオラの井野邉大輔さんは仙台フィルの首席、チェロの三宅 進さんも仙台フィルの首席、原田哲男さんは同元首席のソリスト、コントラバスの助川 龍さんも仙台フィルの首席である。
 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」では神谷さんがコンマス、賜紀さんがトップサイドで礒さんが2列目という豪華な布陣。第2ヴィオラはルセフさんが首席でトップサイドに成田さん、2列目に尚佳さんというもったいないくらいの陣容だ。そこから繰り出される音楽の何と豊潤な響きか! 
 「2つのヴァイオリンのための協奏曲」ではヴァイオリン独奏を賜紀さんと成田さんが受け持つという、さらに豪華なコンチェルト。曲の方が負けてしまいそうなくらい、艶やかで華やかな演奏だ。
 「ホルベルク組曲」ではルセフさんと神谷さんが交替。さすがにこのクラスの人たちが集まると、アンサンブルが一糸乱れぬどころか、分厚くエネルギーが満ちて、まるで光り輝くよう。圧倒的な質感である。この曲は在京のオーケストラなどでも時々聴く機会があるが、それらを遥かに凌駕した演奏であった。これはBravo!!間違いなし。

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9/29(金)せんくら2017第1日/川久保賜紀・三舩優子/西村悟・成田博之・加藤昌則/郷古 廉・田村 響/渡辺玲子・上原彩子・仙台フィル

2017年09月29日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
仙台クラシックフェスティバル2017《第12回》〜第1日

2017年9月29日(金)仙台市内3会場4ホール

 「仙台クラシックフェスティバル2017」に遠征することになった。2014年以来だから3年ぶりとなる。今年はついに3日間フル参戦。今日9月29日(金)の朝東京から「はやぶさ」に乗り仙台入り。早速午後からコンサート巡りが始まった。
 「せんくら」仙台市を上げてのイベントで、地下鉄南北線の沿線上にある4箇所の会場に、大小合わせて10のホールを会場に充てる。有料のコンサートは、基本的に1枠45分間で室内楽が中心。チケット価格はほとんどが1,000円。仙台フィルが出演する大ホールでのコンサートでも2,000円というお手軽さが嬉しい。それでも出演するアーティストは日本で活躍するベテランから若手まで、一流の演奏家がズラリと並ぶし、またご当地ゆかりとなる「仙台国際音楽コンクール」の入賞者達も加わるので、パフォーマンスのレベルは高いのである。中途半端な外国人アーティストを呼んだりしないところが良いと思う。クラシック音楽を身近に感じることが出来るとても楽しいフェスティバルなのである。
 毎年、10月初めの金・土・日に開催される。今年は3日間で有料コンサートは合わせて87公演に及んだ。しかもそのほとんどが完売となる盛況ぶり。仙台の人たちのクラシック音楽熱は高く、このような音楽祭が定着していることをうらやましく思う。東京の「ラ・フォル・ジュルネ」より、企画内容も、曲目等の選定も、出演者も、チケット価格も、コチラの方が間違いなく優れていると思う。

■公演番号10《<アメリカと映画音楽>ジョン・ウィリアムズ、モリコーネ・・・心に響くメロディー》
14:00〜14:45 エル・バーク仙台/ギャラリーホール 自由席 1列中央 1,000円
ヴァイオリン:川久保賜紀
ピアノ:三舩優子
【曲目】
J.ウィリアムズ:映画『シンドラーのリスト』より
J.ウィリアムズ:ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』より
モリコーネ:映画『海の上のピアニスト』より「愛を奏でて」(ピアノ・ソロ)
ガーシュウィン:歌劇『ポーギーとベス』より「サマータイム」
ガーシュウィン:歌劇『ポーギーとベス』より「女は長続きしねぇもんだ」
ガーシュウィン:歌劇『ポーギーとベス』より「いつもそうとは限らない」
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
《アンコール》
 マスネ:タイスの瞑想曲

 まずはこの公演に合わせて、自由席に並ぶ時間も計算して出てきたので、並んだのは3番目。ちなみに1番は東京から来た音楽仲間のHさんだった。川久保賜紀さんと三舩優子さんの共演は初めてとのことだが、さすがにこのレベルの演奏家はちゃんと合わせてくる。映画音楽の方は賜紀さんよりは三舩さんが得意としている分野だろう。『ポーギーとベス』からの曲はハイフェッツの編曲もので、アメリカ育ちの賜紀さんは昔から好きだと言っていた。賜紀さんの演奏は実に歌謡的で、息遣いまでが伝わって来るようによく歌う。下層社会の苦悩をテーマにしたオペラの曲だが、優しさに包まれてホッとするような印象となる。「序奏とロンド・カプリチオーソ」は技巧的でも有名な曲だが、賜紀さんの演奏はその技巧性をサラリと受け流し、豊かな音楽性で包み込む。聴いていると一緒に歌い出したくなるような共感を生み出すのである。アンコールは「タイスの瞑想曲」。旋律を歌わせるというのはこういう演奏のことを指すのだと思う。若い演奏家たちがお手本にして欲しい、素敵な演奏であった。


■公演番号5《Viva! イタリア! サンタ・ルチア、帰れソレントへ》
15:45〜16:30 日立システムズホール仙台/シアターホール 指定席 1階 D列 17番(最前列) 1,000円
テノール:西村 悟
バリトン:成田博之
ピアノ:加藤昌則
【曲目】
レオンカヴァッロ:マッティナータ
コットラウ:サンタ・ルチア
クルティス:忘れな草
クルティス:帰れソレントへ
トスティ:マレキアーレ
カルディロ:カタリ・カタリ(つれない心)
ララ:グラナダ
ガスタルドン:禁じられた音楽
ボチェッリ:君と旅立とう

 次の公演までのつなぎにと思い、チケットを取っておいたのだが、実に楽しい公演であり、聴いて良かった。西村 悟さんと成田博之の掛け合いトークも絶妙で面白く、しかも歌唱は本格派。ここではオペラ・アリアではなく、カンツォーネの名曲集である。興味深かったのは、バリトンで歌うカンツォーネが、意外にもなかなか素敵だと言うこと。要は、歌唱が上手ければ聴き手には伝わるものが多いということなのであろう。

■公演番号20《麗なフランクに酔い、ショーソンの神秘に息を呑む。フランス・デュオの決定版》
17:15〜18:00 仙台銀行ホール イズミティ21/小ホール 指定席 1列 14番 1,000円
ヴァイオリン:郷古 廉
ピアノ:田村 響
【曲目】
ショーソン:詩曲
フランク:ヴァイオリン・ソナタ

 郷古 廉さんのヴァイオリンを聴くのも久し振り。彼もウィーンに留学して一段とグレードアップしてきた。イケメンで背も高く、実にカッコイイ青年だが、音楽に取り組む姿勢は真剣そのもので、演奏にも常に全力を尽くして向き合うタイプである。演奏は緊張感を孕んだ男性的なもので、濃厚で質感の高い音色とクッキリとした造形。以前のような線の細いイメージはすでになく、強い意志の感じられる演奏だ。今日はパートナーの田村 響さんの演奏に覇気がなかったように思う。


■公演番号21《あまりにロマンティックで、情熱的・・・2大ソリストで聴く、3回泣ける世界の名曲》
19:00〜20:00 仙台銀行ホール イズミティ21/大ホール 指定席 1列26番 2,000円
ヴァイオリン:渡辺玲子*
ピアノ:上原彩子**
指揮:現田茂夫(指揮)
管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
サラサーテ:カルメン幻想曲*
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン*
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18**

 渡辺玲子さんのヴァイオリンは、相変わらずパッションがいっぱいで、強烈な押し出しでガンガン攻めてくる。「カルメン幻想曲」も「ツィゴイネルワイゼン」もオーケストラ伴奏で弾く機会はあまり多くはないと思う。要するにロマの音楽だから、ヴァイオリンが自由気ままに演奏すると合わせるオーケストラが大変になる。仙台フィルの応答があまり鋭くはないので、その辺は現田茂夫さんが苦労していたようだ。上原彩子さんのラフマニノフは素晴らしく、強烈な打鍵から生み出される重低音や立ち上がりのカリッとした中高音でメリハリのあるダイナミックな演奏を聴かせた。緩徐楽章などの美しい旋律には、女性的な繊細さが現れ、実にロマンティックな表現となる。見事な演奏であった。

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9/23(土)金の卵チャレンジコンサート/吉田啓晃(Vc)中心に藝大1年生たちによるフレッシュ感覚いっぱいの演奏

2017年09月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
金の卵チャレンジコンサート「火花」

2017年9月23日(土)13:00〜 Acoustic Live Hall "TheGlee" 自由席 2列センター 1,000円(招待)
チェロ:吉田啓晃
ピアノ:角野未来
ヴァイオリン:青木馨音
ヴァイオリン:東條太河
ヴァイオリン:宮崎絢花
ヴィオラ:三国レイチェル由依
【曲目】
J.S.バッハ:無伴奏 チェロ組曲 第4番より「プレリュード」(吉田)
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第8番 ハ短調(宮崎/青木/三国/吉田)
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44(東條/宮崎/三国/吉田/角野)
《アンコール》
 シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44より「第3楽章」

 縁があってコンサートに招待していただいた。その名も「金の卵チャレンジコンサート『火花』」。東京藝術大学の1年に在学中の学生さんたちによる室内楽のコンサートである。中心になっているのはチェロの吉田啓晃さん。もちろん演奏を聴かせていただくのも初めてのことである。
 私はもともと音大生や音高生の演奏会を積極的に聴きに行くところまでは自分の行動範囲を広げてはいない。学生さんたちの演奏は、その気になれば無料で聴けるものがたくさんあるようで、その世界にも熱心なマニアの人たちがけっこういるようだ。学内の公開試験などは聴衆の前で演奏すること自体も勉強の内ということなのだろう。私も学生さんの演奏を聴かないわけではないが、たいていの場合は、日本音楽コンクールや東京音楽コンクールの上位入賞者などの内、自分なりの評価基準に見合った、これは!と思う人たちのその後を追い掛けるというパターンである。そういった意味では、まだ表舞台に出てきていない学生さんたちはほとんど知らないといっていい。だからご招待いただいた今回はかえって新鮮な気持ちで、聴くことができそうだ。
 ちなみに、私はアマチュアだから、学生だから、といって低く見るつもりはない。ただ、世界のトップクラスの演奏家やオーケストラまで幅広く聴くようにしているので、レベルの差が明らかにあることは、いやでも分かる。しかし、それぞれの置かれているポジションで、できることの最善を尽くすような演奏には大いに感動することもあるし、かえって一番ダメなのはベテランとか一流と呼ばれる人たちの手を抜いた演奏だ。だから若い人たちのひたむきさが伝わってくるような演奏は、けっこう好きではある。

 会場のAcoustic Live Hall "TheGlee"にも初めてお伺いした。JR中央総武線・飯田橋駅から神楽坂を登って少し、徒歩4〜5分のところ。ビルの地下にあるサロンといったところ。「音楽の原点はアコースティックにあり」をコンセプトに、クラシックだけでなくジャズなどのコンサートにも活用されているらしい。またレコーディングやハイレゾ音源の配信なども行っているという。私は例のごとく早めに行って並んでいたので、2列目のセンターの席を確保することができた。2列目といっても前に遮られるものはないので、最前列と変わらないという位置である。

 1曲目はチェロの吉田啓晃さんの独奏で、バッハの「無伴奏 チェロ組曲 第4番」より「プレリュード」。無伴奏曲の演奏は、ここのような小さなサロンでは空間の残響がほとんどないため、どうしても響きが薄くなってしまう。また変ホ長調という調性も、豊かな響きをもたらすことが難しいと思われる。吉田さんの演奏は、低音部をできるだけ豊かに鳴らすようにしつつ、中音域の分散和音がプツプツと切れないようにしている。高音域は、許容範囲内だとは思われるが、音程が少し甘くなるような部分もあったように感じられた。速いパッセージなどは流れの良い技巧性を感じさせる。バッハの無伴奏曲は、一定のテンポとリズム感の中で、如何に音楽的に歌わせて行くかが課題であるが、まあこれはベテラン奏者にも言えることで、旋律を歌わせるとリズムが狂うし、リズムをしっかりと保てば旋律が歌えなくなってしまう。いずれにしても無伴奏曲は難しいので、永遠のテーマなのだと思う。

 2曲目はショスタコーヴィチの「弦楽四重奏曲 第8番 ハ短調」。第1ヴァイオリンが宮崎絢花さん、第2ヴァイオリンが青木馨音さん、ヴィオラが三国レイチェル由依さん、チェロが吉田さんである。この辺になると私もコメントできるほど曲をよく知らないので・・・・。弦楽四重奏は、タイトな響きの中での演奏になると、アンサンブルと各自の音程がシッカリしていないとならない。とくにショスタコーヴィチは不協和音も多く含まれているので、けっこう難しそうである。おそらく楽曲自体が響きの豊かなホールでの演奏を前提に作曲されているのではないかと思う。演奏は若さを感じさせるある種の勢いがあり、ダイナミックでメリハリもある。緩徐楽章ではゆったりと和声を響かせることができていて、主旋律もよく歌わせていて質感も高かった。

 少し休憩を挟んで後半の3曲目は、シューマンの「ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44」。第1ヴァイオリンに東條太河さんが入り、第2ヴァイオリンは宮崎さん、ヴィオラとチェロは変わらず、ピアノの角野未来さんが加わる。ピアノが加わると和声が大きく膨らみ、また響かせることもできるので、やはりサロン・コンサートはピアノが入る曲の方が聴きやすいのは確かだ。また今日の選曲を見ると、バッハが変ホ長調で、ショスタコーヴィチが平行調のハ短調、そしてシューマンで変ホ長調に戻る。いずれも調号が♭3つで、弦楽器の響きは薄いがピアノは明るく響く。この流れで来ると、シューマンの第1楽章の煌びやかな響きはより感動的な効果を生み出していたようである。
 明快で躍動的な第1主題、チェロがたっぷりと歌う抒情的な第2主題・・・・やはりシューマンはロマン派そのもの。情感の表現も分かりやすく、聴く者への共感を呼ぶ。緩徐楽章の第2楽章は、やはり平行調のハ短調。第3楽章のスケルツォは変ホ長調に戻り、躍動的に弾む。第4楽章も変ホ長調のフィナーレ。第1楽章の第1主題が再現されてフーガを構成したりする。この曲の持つ躍動性とロマン性は、若手の演奏家にはよく合うと思う。弦楽とピアノのバランスも良く、演奏自体に流れの良いリズム感がある。弾むような躍動感があるのだ。フレッシュ感いっぱいの素敵な演奏であった。

 アンコールは、特に用意していなかったと言うことで、シューマンの第3楽章「スケルツォ」をもう一度演奏した。

 さて聴き終えての感想だが、こうしたほぼ自主的な演奏会の場合、どれくらいの合わせをするのか分からないが、演奏自体はけっこうまとまっていた印象である。やはり後半のシューマンの完成度が高く、同時にまだ十代という若い彼らにとっても、楽曲に同調しやすいという面があるのではないかとも思う。室内楽はしばしば、誰かに聴かせるというよりは、演奏家同士が楽しむという要素がある。シューマンなどはとくにそう思える。演奏している人たちが楽しければ、それが聴く者に伝わっていく。逆にショスタコーヴィチは完全に誰かに聴かせるための楽曲だから、演奏する側が何を伝えようとしているかがハッキリ決まっていないとダメだ。そのような、作曲家と演奏家と聴き手との間のベクトルのようなものを意識しながら演奏できるかどうかが課題になっていくのではないだろうか。今後の演奏にも期待していきたいと思う。


後列左から、角野未来さん(Pf)、宮崎絢花さん(Vn)、三国レイチェル由依さん(Va)。
前列左から、東條太河さん(Vn)、青木馨音さん(Vn)、吉田啓晃さん(Vc)。


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9/16(土)日生劇場・音楽レクチャー/歌劇『ルサルカ』のアナリーゼ/ドヴォルザークは「ヨナ抜き音階」がお好き

2017年09月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
日生オペラ『ルサルカ』音楽レクチャー

2017年9月16日(土)14:00〜 日生劇場 7階 大会議室 自由席 最前列センター 無料
講師:加羽澤美濃(作曲家/ピアニスト)
ゲスト:清水華澄(メゾ・ソプラノ)

 日生劇場が主催する「NISSEI OPERA 2017」の公演は、11月9日(木)・11日(土)・12日(日)の3日公演で、ドヴォルザークの『ルサルカ』を上演する。それに先だって日生劇場では関連企画をいくつか開催した。いずれも無料のもので「ピロティ・コンサート」、「ドラマトゥルク・レクチャー」と「音楽レクチャー」の講座などである。私は『ルサルカ』は11月12日の公演のチケットを取ってあるので、本日の「音楽レクチャー」に参加することにして早くから申し込んでおいた。事前申し込みだけで、チケットは持っていなくても参加できるイベントである。
 講師は加羽澤美濃さん。NHK・Eテレの「ららら♪クラシック」の司会を今年の3月まで務めていたので、すっかりお馴染みの方である。またコンポーザー・ピアニストとして20年に渡って活躍している。本日はゲストにメゾ・ソプラノの清水華澄さんが加わり、実演も含めて会場を盛り上げてくれた。清水さんは『ルサルカ』にイェジババ(魔法使い)の役で出演する予定になっている。

 美濃さんは、実際にお会いするのは初めてだが、テレビ番組の司会だけでなく、FM番組の司会をされていた時期のあるし、キャラクタをよく知っているので初めて会ったという感じがしなかった。
 「音楽レクチャー」は『ルサルカ』の解説というテーマだったが、ストーリーや演出などについては恐らく「ドラマトゥルク・レクチャー」の方で語られたのであろう、ここでは音楽の構造的(?)なところの解説、すなわちアナリーゼである。とはいっても、「ららら♪クラシック」の延長線上で、もう少し時間をかけて突っ込んだというレベルだった。演壇横に置かれた電子ピアノを弾きながら、ホワイトボードを使って、学校の授業のように進められた。



 『ルサルカ』はチェコ語のオペラであるためか、上演機会は少ない。私は2011年に新国立劇場で鑑賞したことが1回あるだけだが、美濃さんは実はまだ一度もないのだという。しかし、スコアから読み解いていくと、ドヴォルザークらしい特徴が見えてくる。『ルサルカ』の中で最も有名なアリアは「月に寄せる歌」。第1幕、始まってすぐに主人公ルサルカによって歌われる。非常に美しい旋律で、一度聴いたら忘れられなくなるくらいに親しみやすい。実はその秘密は・・・・と、レクチャーが始まる。
 配布されたレジュメに冒頭部分の楽譜が載っている。この曲は、調号に♭が6つ付いている変ト長調で書かれている。そして主旋律の冒頭の部分がピアノの黒鍵だけで弾けるのだという。つまり5音階なのである。誰でも知っていることだが、通常の西洋音楽はド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・(ド)の7音階が基本。それの4度と7度(最初の音から数えて4番目と7番目)の音を抜いたものが、ド・レ・ミ・ソ・ラ・(ド)の5音階、通称「ヨナ抜き音階」であり、「月に寄せる歌」はこの主にこのヨナ抜き音階で書かれている。ドヴォルザークはヨナ抜き音階が好きで、楽曲も多い。有名な交響曲第9番「新世界より」の第2楽章、いわゆる「家路」の旋律もヨナ抜き音階であるし、後で清水さんが歌ってくれたこれも有名な「我が母の教え給いし歌」もヨナ抜き音階なのだ。
 ヨナ抜き音階が使われている曲は世界中に多く認められ、西洋音楽でも民謡などに多く(「蛍の光」など)、日本では歌謡曲にも多い(「上を向いて歩こう」など)。この音階を使うと、親しみやすい旋律となり非常に覚えやすくなり、あるいし歌いやすくなる。また哀愁がただよい、懐かしさを感じたりする。名旋律やヒット曲が生まれやすい音階なのである。そう考えてドヴォルザークの楽曲を色々と思い起こしてみると、彼の独特の民族調の旋律にはヨナ抜き音階が多いようだ。このことを知った上で、『ルサルカ』を聴いてみると面白いかもしれない、という意味でのレクチャーであった。

 後半は、まず清水さんが「我が母の教え給いし歌」を歌い、その後は美濃さんによる「ヨナ抜き音階による作曲のワークショップ」となった。レジュメには8つの空白のマスが印刷されていて、聴講者各自が、そこにヨナ抜き音階のド・レ・ミ・ソ・ラのみを使って8音を書き込み「作曲」をするという趣向。希望者を募って美濃さんがその人の作った8音の素材を元に、即興で曲を作ってくれるという。そして、例えばハ長調の場合、ドから始める人はとても素直な性格の人だという。レから始めるのは変わり者、ミから始める人は社会でいいところまで進める人、ソから始める人は他人をサポートするタイプ、ラから始める人は哀愁が強く出る・・・・というふうに性格が表れるとか。
 私はいつものように最前列で聴講していたため、挙手したら採用してくれた。私の作った「曲」は、「ド・ラ・ソ・ミ・レ・ソ・ド・レ」で、ドから始まるのは素直なのだが、次の音が一番離れたラなのでそこはひねくれていると。離れた音に跳躍するのはここぞというサビの部分に使われる手法なので、いきなりそれが来るのは・・・・というわけである。それでも美濃さんがこれを素材に作ってくれた曲は、とても美しく旋律が流れ、美しい和声をかぶせられ、素敵な曲に変身した。美濃さん、ありがとうございました。

 日生劇場では、このような楽しいイベントを一般に無料で開放してくれている。オペラの普及のための交響的な活動をしてくださることに感謝したい。おかげで『ルサルカ』が一段と楽しみになってきた。



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9/9(土)森 麻季ドラマティック・コンサート/オペラ・アリアの名曲をオーケストラ伴奏で限りなく透明に近い歌声

2017年09月09日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
森 麻季ドラマティック・コンサート
デビュー20周年記念東京公演
愛と平和への祈りをこめてVol.7

2017年9月9日(土)18:00〜 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 1列 15番 8,100円(会員割引)
ソプラノ:森麻季
指 揮:岩村 力
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」
モーツァルト:ディヴェルティメントK. 136 第2楽章*
ヘンデル:歌劇『リナルド』より「涙の流れるままに」
ヘンデル:水上の音楽より「ア・ラ・ホーンパイプ」*
ヘンデル:歌劇『エジプトのジューリオ・チェーザレ』より「つらい運命に涙はあふれ」
ロッシーニ:歌劇『セヴィリアの理髪師』より序曲*
ロッシーニ:歌劇『セヴィリアの理髪師』より「今の歌声は」
ジョルダーノ:歌劇『フェドーラ』より第2幕への間奏曲*
ヴェルディ:歌劇『リゴレット』より「慕わしき人の名は」
ヴェルディ:歌劇『椿姫』より第1幕への前奏曲*
ヴェルディ:歌劇『椿姫』より「ああ、そは彼の人か~花から花へ」
マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲*
ドニゼッティ:歌劇『シャモニーのリンダ』より「私の心の光」
《アンコール》
 オッフェンバック:歌劇『ホフマン物語』より「生け垣に小鳥たちが」
 プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「私が街を歩くと」
*はオーケストラのみ。

 ソプラノの森 麻季さんがデビュー20周年を記念して開催したオーケストラ伴奏によるリサイタル。岩村 力さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で、オペラ・アリアの名曲を集めた内容である。およそ半年前の3月19日には、横浜みなとみらいホールで同様の20周年記念リサイタルをピアノ+弦楽五重奏の伴奏で開催しているが、その際はお馴染みの日本の歌曲も多く採り上げられていた。本日はオーケストラをバックに徹底して名曲アリアを集め、あたかもガラ・コンサートのような華やかな内容となった。

 麻季さんといえば、透明感いっぱいの澄んだ美声が最大の特長だと思う。一般的に声楽家は、とくにオペラ歌手としてはデビューが年齢的に遅くなるので、デビュー20周年というだけで年齢がバレてしまいそうだが、何歳になっても(失礼)、麻季さんの声はデビュー当時の清冽さを失っていない。変わらず、乙女のような清らかな歌声で、聴く者の心に溜まっている負なるものを洗い流してくれるような気がする。

 麻季さんの歌唱については、声量が足りないなどという批判的な声がしばしば聞かれたりするが、私は決してそうは思わない。確かに、身体が楽器となる声楽の分野では、麻季さんのような細身の体型では馬力のある歌唱は難しいかもしれない。巨大な歌劇場(あるいはコンサートホール)の隅々まで声を響かせるのは無理だろう。しかし細身だからこそ可能になる繊細で濁りのない声質は、かえって他の歌手には決して出せない、麻季さんならではの極めて美しいものだと思う。それがオペラの本舞台のアリアであっても、コンサートホールでのリサイタルであっても、声量がすべてではない。声を響かせる、歌を聴かせるために必要な技巧は余りあるほど持ち合わせているのである。

 たとえば、ごく自然体のふわりとした佇まいの中から繰り出されるコロラトゥーラの技巧は、世界でもトップクラスだと思う。無理に声を絞り出しているわけでもなく、技巧を技巧的に感じさせない軽やかな歌い方。力感ではなく、質感で声を飛ばして行く。また、役柄や歌詞に見合った表現力も十分に持っている。美しい声を軽やかに歌わせ、表情豊かに光彩や翳りを描き出していく。

 本日のリサイタルでは、『リナルド』のアルミレーナ、『エジプトのジューリオ・チェーザレ』のクレオパトラ、『セヴィリアの理髪師』のロジーナ、『リゴレット』のジルダ、『椿姫』のヴィオレッタ、『シャモニーのリンダ』のリンダ、そしてアンコールで『ホフマン物語』のオランピア、『ラ・ボエーム』のムゼッタという、名作オペラのヒロインや脇役の個性を見事に歌い分け、それぞれの特徴的なキャラクタの内面を自然な演技力でで描き出していく。それぞれのキャラクタがよく表されていたと思う。そして麻季さんの個性も全体を貫いて明瞭に表れている。その辺りのバランス感覚も巧い。さすがはデビュー後の20年間、第一線に身を置いてきただけのことはある。

 私は麻季さんの歌唱が好きで、デビュー20年の内、15年くらいは追いかけて聴き続けている。リサイタルも随分たくさん聴いたし、オペラの本舞台もたくさん観て来た。その間常に第一線で、トップスターであり続け、今でも輝き続けていることは大変素晴らしいと思う。本日は彼女のレパートリーの中でも得意とする曲目を集めていたので、まさに20周年の集大成を見る(聴く)ようであった。日本を代表するソプラノ歌手、森 麻季さんに20年目のBrava!!を贈ろう。

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