Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/5(日)ペルゴレージの歌劇『オリンピーアデ』再演/バロックのオペラ・セリアが現代風に質感高く復活する

2017年11月05日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
平成29年度(第72回)文化庁芸術祭参加公演
ペルゴレージ 歌劇『オリンピーアデ』2017年公演


2017年11月5日(日)15:00〜 紀尾井ホール S席 1階 6列 18番 14,000円
指 揮・チェンバロ:河原忠之
管弦楽:紀尾井ホール室内管弦楽団
演 出:粟國 淳
【出演】
クリステーネ:吉田浩之(テノール)
アリステーア:幸田浩子(ソプラノ)
アルジェーネ:林 美智子(ソプラノ〈メゾ・ソプラノ〉)
リーチダ  :澤畑恵美(ソプラノ)
メガークレ :向野由美子(ソプラノ〈メゾ・ソプラノ〉)
アミンタ  :望月哲也(テノール)
アルカンドロ:彌勒忠史(コントラルト〈カウンター・テナー〉)

 2015年10月に「紀尾井ホール 開館20周年記念バロック・オペラ」としてペルゴレージ作曲のオペラ『オリンピーアデ』が日本初演された。一般的には、この手の珍しいオペラは初演まで漕ぎ着けるのが大変で、再演されることはあまりないものだが、今回はその再演が実現した。しかも出演さる歌手陣は全員同じメンバーが揃い、指揮者も演出家も同じ。変わったのは管弦楽だけで、前回は特別編成で最小のユニットだったが、今回は今年から再編成された紀尾井ホール室内管弦楽団が受け持つことになり、弦楽の人数も増えてアンサンブルがぐっと厚みを増した。

 上演はセミ・ステージ形式。紀尾井ホールで開催するわけだから、幕が降りないし、オーケストラ・ ピットも設営できない。そこで、まず客席の1〜5列を撤去してそこに臨時のピットを作る。従って客席と同じ高さとなる。ステージにはごく簡単に階段状の構造物を設置し、両サイドの扉は開け放しておいて、登場人物が随時出入りできるようにしていた。出演者は、現代的な演出のオペラのように、ギリシャ時代のイメージとはほど遠いが、ちょっと風変わりな衣装を着けて、簡単な演技をしながらの歌唱である。
 指揮とチェンバロは河原忠之さん。日本のオペラ界でこの人を知らない人はいない。声楽家の伴奏ピアニストとして年間相当数のステージをこなしているばかりか、最近はオペラの指揮にも実績を積んでいる。指揮者位置の正面にチェンバロを置いての弾き振りだが、実際には歌手が歌う部分は管弦楽の指揮のみとなり、レチタティーヴォ(これがかなり多い)の際にチェンバロ伴奏を行っていた。

 さて、とにかく珍しいオペラなので、登場人物の人間関係とストーリーについても触れておきたいが、今回は完全な再演なので、前回(2015年10月8日)の記事からそのまま引用させていただくことにする。

 クリステーネ(吉田浩之さん)は古代ギリシャの都市国家シチョーネの僭主(王統によらず実力で支配権を持った君主/固有名詞はギリシャ表記ではなくイタリア語表記)。
 アリステーア(幸田浩子さん)はクリステーネの美しい娘。メガークレ(向野由美子さん=ズボン役/ソプラノで)と愛し合っていたが、父クリステーネに反対され別れさせられる。
 メガークレはオリンピックの競技に優勝したことのある勇者だが、アリステーアと別れさせられた後、クレタ島に行き、追いはぎに襲われたときに王子のリーチダ(澤畑恵美さん=ズボン役)に助けられ、それ来親友となる。
 クレタ島の王子リーチダはクレタの令嬢アルジェーネ(林美智子さん=ソプラノで)と愛し合っているが、こちらはクレタの王に反対され別れさせられ、アルジェーネはメガークレと結婚させられそうになり、エーリデ(オリンピック開催の地)へ逃げ、羊飼いに化けてリーコリと名乗っている。
 他に王子リーチダの後見人アミンタ(望月哲也さん)とクリステーネの忠実な部下アルカンドロ(彌勒忠史さん=コントラルトで)が登場する。

 こうして見ただけでも人物の相関関係はややこしいが、登場人物がすべてエーリデに集まって来て、オペラはここから始まり、物語はさらに複雑に展開するのである。リーチダはオリンピックに参加することになるが、勝ち目がないのでメガークレに代わりに出てもらうことにする。一方、シチョーネの僭主クリステーネはオリンピックの優勝者に褒美として娘のアリステーアを娶らせると公言する。リーチダはアリステーアを見て一目惚れ。メガークレは親友リーチダとの義理のために、かつて愛し合っていた(今も愛している)アリステーアをリーチダと結婚させるためにオリンピックで戦わなければならない。無理矢理別れさせられた二組の男女が、それぞれの思惑を胸に顔を合わせることになる。結局、メガークレはリーチダとしてオリンピックで勝つが、真相をアリステーアに告白。事態が明るみに出てしまい、リーチダはクリステーネに捕らえられ、死刑を宣告される。愛するリーチダを助けるために羊飼いに変装していたアルジェーネが、かつて彼からの贈り物をクリステーネに見せると、それは昔、クリステーネが海に流し捨てた子の身に付けたものだった。クリステーネの子を海に捨てるように命じられた部下のアルカンドロが、通りかかったアミンタに子の命を託したのである。アミンタはリーチダをクレタ島の王子として育てていたのだ。クリステーネはリーチダが我が子であっても罪が許されることはないと言うが、クリステーネはこの地の王ではないので支配権はない、民衆の判断にまかせるべきということになり、すべてが許されることになる。そして元の鞘に戻って、リーチダとアルジェーネ、メガークレとアリステーアが結ばれる。・・・・こういった物語である。

 以上が引用である。複雑なストーリー展開(?)なので、ほぼ忘れかけていたが、今回もストーリーだけは事前に予習し直しておいた。実際に上演が進んでいくと思い出してくるもので、デジャヴのように思えた。

 今回の公演を鑑賞していて、再演ということもあって必死にストーリーを追いかけていく必要もなかったこともあって、他のことを考える余裕があったので、ちょっと書いておこうと思う。
 『オリンピーアデ』は1735年にローマで初演された。台本はウィーンの宮廷詩人、メタスタージオ(1698〜1782)によるオペラ・セリアで、多くの作曲家がこの台本に音楽を付けている。本作の作曲者、ペルゴレージ(1710〜1736)は夭折の天才でわずか26年の生涯に多くのオペラ作品を書いた。この初演の当時、ローマの歌劇場では女性の出演が禁じられていたため、出演者は全員男性であった。つまり女性の役はカストラートの歌手が歌ったのである。今回の公演では、メガークレとリーチダは逆に男性の役を女性が演じる。主に音域の問題だと思われるが、バロック・オペラだと少々浮世離れしている感覚があって、あまり違和感がなく受け入れられるところが面白い。紀元前のギリシャが舞台のオペラ・セリアというのは、あまりにもリアリティがない世界に感じるからだろう。
 この『オリンピーアデ』というオペラは、7人の登場人物に対して、役割の重要さにおいて歌う曲数にきちんと序列が付けられている。アルジェーネ(独唱5)、アリステーア(独唱4・二重唱1)、メガークレ(独唱3・二重唱1)、リーチダ(独唱3)、クリステーネ(独唱3)、アミンタ(独唱2)、アルカンドロ(独唱0)となっているというのだ(山田高誌氏の解説による)。物語の展開はメガークレとリーチダの友情を中心に回っていくのに、彼らへの愛情に翻弄されるアルジェーネとアリステーアという二人の女性が実は主人公なのである。友情よりも愛情、男性よりも女性、というところが位置の時代でもイタリアっぽい。
 本作は、独唱曲や二重唱曲、合唱曲なと全部で25曲ほどの曲が出てくるが、それぞれの曲間をレチタティーヴォで結ぶというカタチになっている。物語の進行はレチタティーヴォで語り、アリアなどでは心情を歌う。その進行の様子を見ていてふと思い出したのがモーツァルトの数々のオペラだった。モーツァルトがダ・ポンテの台本で現代まで続く大傑作となった『フィガロの結婚』(1786年)、『ドン・ジョヴァンニ』(1787年)、『コジ・ファン・トゥッテ』(1790年)などはウィーン古典派に分類されるが、実際には本作『オリンピーアデ』のわずか50年後にすぎない。モーツァルトの時代のイタリアは音楽先進国であり(とくにオペラでは)、モーツァルトといえども隆盛を極めたイタリア・バロック・オペラの形式をかなり踏襲していることに気が付いた。登場人物は複数のカップルと脇役達に分かれるが、後のロマン派のオペラの比べると、登場人物が比較的均等に扱われ、それこそ役割の重要度に応じてアリアや重唱の数が多くなる。各曲は独立していて、レチタティーヴォが曲間をつなぎ、物語を進行させる。途中に舞曲が入り踊りのシーンがある。最後は全員が登壇して合唱でおわる。そして台本はイタリア語。・・・・等々、形式がそっくりなのである。オペラの誕生が1600年くらいと言われているが、130年後のペルゴレージの時代にはモーツァルトの時代のオペラの形式が出来上がっていたといえそうである。
 ペルゴレージの音楽は、非常に躍動的で生き生きとしたものだ。バロック音楽とは言っても、人間の情感がたっぷりと練り込まれていていて、やはりイタリア音楽だという感じがする。この頃にはまだオーケストラが統一されたスタイルに決まっていない。イタリアの各国(各都市)にある宮廷歌劇場では、楽士は数も楽器の種類もまちまちで、作曲家はその現場に合わせて曲を作ったり、あるいはスコアには楽器の指定がなく、各パートを適当に割り振って演奏したりする。50年後のモーツァルトの時代には、弦楽五部と二管編成でオーケストラのカタチが固まっている。本日の演奏はモーツァルトの古典派時代以降のオーケストラ編成を採用していたので、躍動的なペルゴレージの音楽がモーツァルトの天才とどこか共通するイメージを持っているような気がした。

 本日の上演の出来映えについてはほとんど触れなかったが、歌手の皆さんもオーケストラの皆さんも、素晴らしいオペラを聴かせてくれたとだけ言っておこう。

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