Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/29(金)読響メトロポリタン/河村尚子の強靱なラヴェル「左手」/テミルカーノフ渾身の「シェエラザード」

2015年05月29日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第16回読響メトロポリタン・シリーズ

2015年5月29日(金)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 4,312円(年間会員券)
指 揮: ユーリ・テミルカーノフ
ピアノ: 河村尚子*
管弦楽: 読売日本交響楽団
コンサートマスター: 日下紗矢子
【曲目】
リムスキー=コルサコフ: 交響組曲「シェエラザード」
ラヴェル: 左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調*
《アンコール》
 スクリャービン: 左手のための2つの小品 作品9 より 第2番 夜想曲 変ニ長調*
ラヴェル: バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲
《アンコール》
 チャイコフスキー: バレエ音楽「くるみ割り人形」より「パ・ド・ドゥ」

 いろいろと忙しかったために、この5月はオーケストラの定期シリーズをほとんどキャンセルしてしまった。しかしこれだけは外せないと思って楽しみにしていたのが、今日の「読響メトロポリタン・シリーズ」。今春から3年目のシーズンを迎えたこのシリーズは、人気・実力を兼ね備えた若手のソリストをゲストに迎えての協奏曲のプログラムが充実していて、かなり聴き応えがありそうだ。通算第16回となる今日の公演も、ピアノの河村尚子さんを招いて、指揮はロシアが生んだ世界の巨匠ユーリ・テミルカーノフさんの登場である。

 プログラムは、テミルカーノフさんお得意のロシアものでカッチリ組んで来るかと思いきや、半分はフランスものである。構成はひっくり返したような曲順になっていて、前半がリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」。後半がラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」と「ダフニスとクロエ」第2組曲という曲順だ。常任指揮者のシルヴァン・カンブルランさんがいるのに、敢えてラヴェルとは挑戦的だ。もっとも次々回の9月公演では、そのカンブルランさんが登場してムソルグスキーとラフマニノフというロシア・プログラムでリベンジ(?)することになっているのも面白い。

 テミルカーノフさんは、2000年以来、読響には6回目の客演で、もうすっかりお馴染みだ。やはり「超」がいっぱい付くくらいの大物指揮者であり、誰もが認める世界の巨匠のひとりであろう。地に足の付いたどっしりとした構えの音楽はロシアそのものの風格であり、押し寄せるような迫力と抒情性豊かなロマンティシズムの融合は、馬力のある読響との相性は良いと思う。だからロシアものに関してはご本家だからテミルカーノフさんの音楽に文句をつける人はいないだろう。ただしフランスものは・・・・?? 興味は尽きない。

 さて前半はリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」。あたかも協奏曲のようなヴァイオリンの悩ましいソロがある。そしてコンサートマスターは日下紗矢子さん。やはりシェエラザードのソロは女性の方が雰囲気が出ると思う。昨年2014年2月の「読響サントリーホール名曲シリーズ」の時、リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」で「英雄の伴侶」として登場するヴァイオリンのソロがやはり日下さんが弾いてとても素晴らしかったのを鮮明に覚えている。だから今日も期待大なのである。
 重低音が豪壮に鳴り響いて第1楽章「海とシンドバッドの船」が始まる。ゆったりとしたテンポで濃厚なロマンティシズムが歌われていく。シェエラザードの主題となるヴァイオリンのソロが、日下さんによって艶めかしくねっとりと歌われていくと、そこはもう「千夜一夜物語」の雰囲気にたっぷりと満たされている。真実がうねるような海のイメージは、大きく雄大に描き出され、情景が目に浮かぶようなドラマティックな表現で、テミルカーノフさんの音楽は実に活き活きとしている。読響の演奏もスケールが大きく、豪快だ。
 第2楽章「カランダール王子の物語」では、まずソロ・ヴァイオリンのカデンツァが素晴らしい。完全に協奏曲レベルの独立性を主張していて、日下さんの存在感が際立ってくる。ファゴットの主題に続いて、様々な楽想が現れるが、木管も金管もそれぞれのパートが豊かな色彩感を生み出していて、全体の印象もイスラム文化の爛熟した煌びやかな世界観を見事に描き出しているようであった。
 第3楽章「若い王子と王女」は有名な抒情的な主題が美しい弦楽のアンサンブルによって、情感もたっぷりに描かれて行く。豪壮さと鮮やかに対比する甘美なロマンティシズムはロシア音楽ならではのものだ。感傷的な主題とはいえ弦楽のアンサンブルは分厚く野太い。その辺りの表現手法がさすがテミルカーノフさんという感じで、読響があたかもロシアのオーケストラのように鳴るようになる。中程から現れるソロ・ヴァイオリンがねっとりと歌いながらも豊かな音量を持ち、協奏曲にようにオーケストラと対話していく。
 第4楽章「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士である岩で難破」では、ソロ・ヴァイオリンのカデンツァが重音奏法で強いインパクトのあるところを聴かる。日下さんのヴァイオリンは強目に押し出しても女性的なエレガントさをなくさないところが良い。船の難破のシーンは、怒濤渦巻く荒れた海のイメージが、ダイナミックレンジの広い、爆発的なパワーを持つ読響の本領発揮といった感じで、実にダイナミックで劇的だ。最強奏のエネルギーと押し寄せる音圧という点では、読響は日本一だろう。これを最前列で聴くと、本当に身体がビリビリと振動するくらいに、スゴイ。嵐が去った後の最後は、ヴァイオリンのソロによって沈静化するが、日下さんの最後まで色っぽい演奏が印象に残った。
 この「シェエラザード」はかなりの名演だといって良いだろう。テミルカーノフさんも本領を発揮し、豪快な荒々しさと甘美なロマンティシズムを見事に描き分け、ロシア音楽の持つ魅力をこれでもかとばかりに読響から引き出していた。やはりこのクラスの指揮者となると、オーケストラの反応が違ってくるのだろう。文句なしのBravo!!である。

 後半はステージ正面にピアノを引き出してきて、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」である。河村尚子さんの協奏曲を聴くのは、やはり読響との共演で昨年2014年10月のモーツァルトの「ピアノ協奏曲第12番」以来だが、協奏曲はラヴェル、しかも「左手」。比較的珍しい方に入るだろう。単一楽章だし20分にも満たないから、コンサートの演目としてはちょっと取り扱いが難しい曲なのだろう。
 今日もソリストの目の前で聴いているので、ピアノの音はどうしても大きめに聞こえてしまうが、それでも河村さんの演奏も片手で弾いている分だけ力が入っているようであった。これは力んでいるという意味ではなく、両手で弾くのと変わらないくらいに音量を出していたという意味である。何しろオーケストラ・パートが3管編成で打楽器の種類も多いフル編成だから、なよなよ弾いていたらピアノはオーケストラに食われてしまう。「ピアノ協奏曲 ト長調」のように小編成のオーケストラの時のキラキラ系のピアノとはだいぶ様相が違うわけである。
 河村さんは、強めの打鍵で、弱音時にもクッキリと明瞭な音を出し、それらを積み重ねてラヴェル特有のキラキラした目映さを表現していた。煌めくような分散和音も強めに弾いてはいるのに荒っぽくはならない。むしろ輝きが増すような力感のある演奏である。重低音の和音などはさすがにかなり叩いている感じで、目の前で聴いている以上は音圧エネルギーに押されて音としては美しくはない。しかし中音域以上でのスッキリと明瞭で鮮やかな弾きっぷりは片手であっても変わるところはない。力が入っているように感じられたという点では、今日の演奏では全体に繊細なイメージはなく、大編成のオーケストラとともに、エネルギーに満ちた豪快な演奏だったといえそうだ。テミルカーノフさんもオーケストラを遠慮なく鳴らしていたようである。

 河村さんのソロ・アンコールは、密かに期待していた通り、スクリャービンの「左手のための小品~夜想曲」であった。今日は右手は絶対に使わないぞ、ということである。この曲がまた涙がこぼれそうになるくらいに美しく感傷的な曲。完全なソロになれば、河村さんも強く弾く必要がない。それでもいつもの左手よりは強めだったかもしれないが、河村さんらしい明瞭で濁りがなく、豊かな抒情性に満ちた演奏であった。会場全体がうっとりと聴き惚れていた。Brava!!

 ピアノを片づけて、最後はラヴェの「ダフニスとクロエ」第2組曲である。さあ、テミルカーノフさんのラヴェルはどうだったのか。結論から言ってしまうと、これがまた濃厚でじっくりと練り上げたような色彩感を持つ演奏で、個人的には素晴らしい演奏だと思った。フランス風の印象主義よりは、絵の具が濃い感じである。弦楽の分厚いアンサンブルも、オーボエやクラリネットの色彩も、ねっとりと濃厚だ。全体に音量も大きく、弱音時も豊かな色彩が出るような楽器を十分に鳴らせている。ダイナミックレンジが狭まらないように、全合奏時は爆発的な音量を押し出している。だが全体的なバランスは良く、楽器がよく鳴っている分だけ濃厚な色彩感が出ているのである。フランス風というよりはやはりロシア風ということなのだろうが、読響の演奏が実に活き活きとした色彩を発揮していて、とても良いのである。最近の読響は、カンブルランさんが指揮する時でも当初のようにフランス風の鮮やかな色彩感が出なくなっていたように感じていた。むしろ今日のテミルカーノフさんの方が、フランスものの演奏が良いかどうかは別としても、読響との相性は良いのではないか、そんな風に感じたものである。

 今日はアンコールも用意されていた。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」から「パ・ド・ドゥ」。ハープの分散和音に乗ってお馴染みの旋律が繰り返される。この甘美なロマンティシズムは、劇的な盛り上げ方は・・・・。やはりテミルカーノフさんはスゴイ。この甘い曲で、コンサートに劇的なクライマックスをもたらし、聴くものを熱狂させてしまう力を持っている。その辺の指揮者とは、役者が違うなァ・・・・というところだ。Bravo!!

 結局のところ、今日の「読響メトロポリタン・シリーズ」は、こういってはナンだが、聴いてビックリの大名演だったと思う。「シェエラザード」のエキゾチックなロマンティシズムも、鮮やかで力強いラヴェルの「左手」も、何ともいえない高品質のイメージ。国内のオーケストラの定期シリーズでこれくらいのクオリティの演奏を聴かせていただけるのなら、大枚はたいてベルリン・フィルやウィーン・フィルを聴きに行かなくても良いのでは??・・・・などと余計なことを考えてしまった。テミルカーノフさんは、もともと好きな指揮者のひとりではあるが、この方を常任指揮者にとはいわないが、せめて首席客演指揮者に迎えるかなどして、読響との演奏機会をもっと増やして欲しいと思うのは私だけではないだろう。

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5/28(木)コンポージアム2015/サーリアホのオペラ『遙かなる愛』/緊張感に満ちた日本初演は大成功

2015年05月28日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京オペラシティの同時代音楽企画「コンポージアム2015」
カイヤ・サーリアホの音楽
オペラ『遙かなる愛』(演奏会形式/日本初演/フランス語歌唱/字幕付き)


2015年5月28日(木)19:00~ 東京オペラシティ・コンサートホール A席 1階 3列(最前列) 19番 2,000円
作 曲: カイヤ・サーリアホ
台 本: アミン・マアルーフ
指 揮: エルネスト・マルティネス=イスキエルド
管弦楽: 東京交響楽団
合 唱: 東京混声合唱団
映像演出: ジャン=バティスト・バリエール
【出演】
ジョフレ・リュデル: 与那城 敬(バリトン)
クレマンス: 林 正子(ソプラノ)
巡礼の旅人: 池田香織(メゾ・ソプラノ)

 今年で第17回を迎える現代音楽のイベント「コンポージアム」。「武満徹作曲賞」の本選演奏会を中心とした企画だが、今年の審査員はフィンランド出身のカイヤ・サーリアホさんである(この音楽賞は毎回一人の審査員によって審査されるのが特徴)。本選演奏会は来る5月31日だが、それに先立ち、今日はサーリアホさんの話題のオペラ『遙かなる愛』の上演だ。東京オペラシティの主催なので、演奏会形式となるが、日本初演ということもあり、現代のオペラもけっこう好きなので聴いてみることにした。例によって最前列の席を確保、センターブロックの指揮者よりもやや右寄りであった。

 サーリアホさんについても、作品である『遙かなる愛』についてもチラシに記載されていること意外にはまったくの予備知識なしの状態で会場に入る。詳細な記述の載ったプログラムが配布されたので、ざっと目を通したものの、あまり頭の中には入ってこない。仕方がないので、成り行きに身を任せ、真っ白な状態で体験してみることにした。

 拡張されたステージにはフルスケールのオーケストラが展開し、最後列に打楽器群が並んでいる。登場人物は3名だけなので、ソリストとして、指揮台の下手側にはソプラノの林正子さんが、上手側にはメゾ・ソプラノの池田香織さんとバリトンの与那城 敬さんが立つ。譜面台と椅子が用意されていた。譜面台には小型の映像用カメラが取り付けられている。合唱団は40名ほどで、ステージ上ではなく、パイプオルガン下の2階P席に位置している。そのパイプオルガンを覆い隠すように、大型のスクリーンが設置され映像が映写されるようになっている。その両側に字幕装置が設置されていた。そして、ステージの両端をはじめとしてホール客席内にもスピーカーが配置されている。オーケストラにはマイクは見あたらないが、後列の打楽器と合唱にはマイクが備えられているようであった。そして3名の歌手はインカムタイプのマイク(ミュージカルなどでよく使われているタイプ)を装着していた。ミキサーのようなスタッフとサーリアホさんご自身は右ブロックの12列に陣取っていた。映像と音響の設備を見ても何かが起こりそうだが、一方で録音用のマイクは使われていないようだった。

 『遙かなる愛』は、サーリアホさんの最初のオペラ作品で、2000年のザルツブルク音楽祭で初演、成功を収めた。現代オペラの傑作のひとつということで、複数の演出で世界各地で上演されているという。15年を経ての日本初演は演奏会形式ではあるが、映像による演出付きである。
 物語の舞台は12世紀。フランスのブライユの領主ジョフレ・リュデルは、貴族階級の享楽的な暮らしに嫌気がさし、真実の愛を渇望している。そこへ現れた巡礼の旅人からトリポリ女伯クレマンスが理想的な女性だったと知らされ、まだ見ぬ女性に思いを寄せる。旅人が二人を結びつけ、リュデルはクレマンスに合うために十字軍に参加してトリポリに向かう。しかし船上で病に倒れ、トリポリに着いたときは死人のようであった。それを知ったクレマンスはリュデルを訪ね、彼を抱きしめる。互いに思いを告げるも、リュデルは神に感謝しつつ死を迎え、クレマンスは尼になった。・・・・・とまあ、だいたいこんなストーリー。『遙かなる愛』の原題は「L'Amour de loin」で「遙かなる」は文字通り「遠くから」という意味である。

 さて、肝心の音楽であるが、オーケストラを縦横に使ったものでなかなか雰囲気がある。いわゆる現代音楽なので、調性やら拍子やらは曖昧に終始し、不協和音が押し寄せてくるが、前衛的というわけでもなく、聴きやすい音楽ではある。歌唱が入って来れば、どうしても旋律線がはっきりしてくるので、現代風ではあっても分かりやい。原題音楽の難解な音楽理論などはまったく知らない世界なので、専門家でもない私などはただただ雰囲気を感じ取るだけ。それでもこの作品はオペラである以上、観念的・純音楽的ではなく具象的・標題音楽的であり、音楽全体で物語性を表現しているように思えた。管弦楽はナマの音を用い、打楽器と歌唱・合唱には一部電子的な加工を加えているようである。あるいは電子音も効果音のように加えられているのかもしれない。実際に聴いてみると、オーケストラの演奏と3名のソリストによる歌唱は、ナマの音である。私の席は池田さんと与那城さんの真正面なので、当然声はよく通っている。目の前のスピーカーからは打楽器系の音が弱めに聞こえてきている。ホールの後方席ではどのように聞こえていたのだろう。
 指揮者のエルネスト・マルティネス=イスキエルドさんはサーリアホさんの音楽に造詣が深く、演奏の経験も豊富らしい。左利きらしく、非常に珍しいことに左手で指揮棒を振り、右手で表情を付ける。歌手をうまく歌わせていたし、オーケストラのドライブではかなりメリハリの効いた演奏で、抽象的に聞こえやすい現代音楽を表情豊かに演奏していたように思う。

 3名の歌手について歌唱順に見ていくと、与那城さんは艶やかで張りのあるバリトンは相変わらず。難解な旋律を情感たっぷりに歌う。音程も正確だし、声量も十分。質感の高い歌唱である。池田さんは低い声に力感があり、重い声に迫力がある。二人の間に入って脇役的に位置づけになるが、しっかりと存在感を見せていた。林さんは、緊張感の高い歌唱で、強烈な押し出しを見せていた。高音域が突き抜け、悲愴感を強烈に主張する。旋律は現代風だが、情感ははっきりと伝わって来る。現代オペラとはいえ、旋律は非常に豊かであり情感を表現しているものなので、オーケストラ側の不協和音たっぷりの幻想的な雰囲気と3名の歌唱は明瞭な対比を創り出していて、やはりこれはオペラなのだと認識できる。3名とも素晴らしい歌唱であった。

 映像演出についても触れておこう。幕と場の進行に従って、雰囲気を伝えるようなやや抽象的な映像が映し出される。デジタル加工も含まれるもので、音楽に合わせて現在進行形でコントロールしているらしい。面白いのは、歌手の譜面台に取り付けられたカメラからのリアルタイム映像がスクリーの映像にデジタル加工されながらコラージュ風に合成されて映し出されるのである。映像のセンスも現代的だが、アート的な観点から見ても先鋭敵なデザイン感覚が面白かった。

 第1幕~第3幕が続けて演奏され、休憩を挟んで終了したのが21時30分。全5幕のオペラだけに結構長い。通しての印象は、かなり出来が良かったということだろう。オペラ作品としての出来映えは、音楽的には素人目に見てもけっこう分かりやすく聴き応えがある。音楽全体の緊張感が高く、キーンと張り詰めた印象で、聴いている私たちも筋肉が強ばるくらいである。東京交響楽団の演奏もなんだかとても上手く聞こえた。3名のソリストの歌唱も素晴らしく、日本のトップクラスの演奏家は世界でもトップクラスとして通用するのではないだろうか(言葉のハンディは若干あるとしても)。演奏が終わった途端に、林さんが緊張から解放されたのか、泣きそうな表情だったのが印象的だった。指揮者のマルティネス=イスキエルドさん抱き合っていたが、気持ちは良く分かる。カーテンコールで聴衆の拍手に応えるサーリアホさんの表情も満足げであった。日本初演も大成功ということだろう。

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【お勧めCDのご紹介】
 オペラ『遙かなる愛』のCD/SACDです。出演は、ダニエル・ベルヒャー(ジョフレ・リュデル)、エカテリーナ・レキーナ(クレメンス)、マリー=アンジュ・トドロヴィッチ(巡礼の旅人)。ケント・ナガノ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団とベルリン放送合唱団の演奏です。2枚組の輸入盤。
L'amour De Loin
Harmonia Mundi Fr.
Harmonia Mundi Fr.


 映像ものとしてはDVDが出ていますが、Amazonでの取り扱いはないようです。ピーター・セラーズの演出によるプロダクションで、2004年、フィンランド国立歌劇場での収録です。出演は、ジェラルド・フィンリー(ジョフレ・リュデル)、ドーン・アップショウ(クレメンス)、モニカ・グロープ(巡礼の旅人)、エサ=ペッカ・サロネン指揮、フィンランド国立歌劇場管弦楽団&合唱団の演奏です。輸入盤なので、字幕はフランス語、英語、ドイツ語、スペイン語のみ。日本語字幕はありません。
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5/24(日)中村紘子&堤剛デュオリサイタル/千葉県文化会館のプレミアム・シリーズ

2015年05月24日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Premium Classic Series Vol.22
中村紘子&堤剛デュオリサイタル


2015年5月24日(日)14:00~ 千葉県文化会館・大ホール 指定席 1階 2列 25番 5,500円
チェロ: 堤 剛
ピアノ: 中村紘子
【曲目】
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV.1007(堤)
パガニーニ: 24の奇想曲 作品1 より第24番(チェロ版/堤)
シューベルト/リスト編: ウィーンの夜会 第6番 イ短調 S.427-6(中村)
ショパン: 即興曲 第4番 嬰ハ短調 作品66「幻想即興曲」(中村)
ショパン: ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」(中村)
メンデルスゾーン: 協奏的変奏曲 ニ長調 作品17(堤/中村)
ショパン: チェロ・ソナタ ト短調 作品65(堤/中村)
《アンコール》
 サン=サーンス: 白鳥(堤/中村)

 千葉県文化振興財団主催の「プレミアム・クラシック・シリーズ Vol.22」は、ピアノの中村紘子さんとチェロの堤剛によるデュオリサイタル。「黄金のデュオ」・・・というか「大御所のデュオ」である。このシリーズは地元での唯一のクラシック音楽のコンサート・シリーズのため、ずっと以前から会員になっていて、毎年最前列で聴いて来たのだが、今年度は会員先行発売日の午前10時過ぎに電話がつながった時にはもうセンターブロックの最前列は埋まってしまっていた。そこでやむなく2列目のセンターとなった。この手の自治体主催のコンサート・シリーズは会員の継続というシステムがなく、毎回ヨーイドンで席を取り合わなければならない。お役所に言わせると「公平を期す」ためなのだそうだ。今年度(2015/2016シーズン)は3回のコンサートがあり、本日と、9月23日の「成田達輝&萩原麻未デュオリサイタル」、2016年2月14日に「森麻季&福井敬デュオリサイタル」の3本立てで、けっこう内容が良い。ところが問題は会場のホールの方で、古いせいもあるが音は響かないし、椅子は狭いし、ピアノも古くて全然鳴らないし・・・・。改善の余地は多い。
 
 1曲目は堤さんのソロでJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番」。さすがの手慣れた演奏で、おおらかで深い音色も素晴らしい。ところが、音響の良くないホールなまで音が拡散してしまうのか、音量が小さめに感じられた。
 2曲目も堤さんのソロで、パガニーニの「24の奇想曲」より第24番をもちろんチェロで。元曲のヴァイオリンでさえ超絶技巧の極めつけみたいな曲なので、楽器の大きいチェロではけっこう物理的に無理な要素が多いような気がする。音程も不安定になるし、リズム感も崩れがち。左手ピツィカートはチェロではまともな音が出ないようである。

 3曲目は中村さんのソロで、シューベルト/リスト編の「ウィーンの夜会 第6番」。何しろピアノが鳴らないので、調子も出ないのではなかろうか。弦が錆び付いているのか響板がヘタっているのか、年代物のピアノのような乾いた音でプツプツとして音が伸びないのだ。弾く方にもストレスが溜まりそうである。
 続いて4曲目も中村さんのソロでショパンの「幻想即興曲」。冒頭の早いパッセージは音が分離していなくてゴチャッと聞こえた。指が回っていないのか、それともピアノの調子が悪いからなのか・・・・。いずれにしても高音の方が音量が出ないので、あまり良い演奏とは言えない。
 前半の最後は、やはり中村さんのソロでショパンの「英雄ポロネーズ」。こちらもやや混沌とした印象であった。音は濁りっぱなしだし、ミスタッチも多いような・・・。もうショパンはどこかへ行ってしまっていて、あくまで中村紘子流の「英雄ポロネーズ」といった印象である

 後半は、ようやくお二人のデュオで、メンデルスゾーンの「協奏的変奏曲 ニ長調」。メンデルスゾーンらしい明るく伸びやかな主題がピアノ、チェロの順で提示され、8つの変奏に続く。堤さんのチェロは明るい音色で大らかに歌っている。しかし変奏が進むにつれてピアノが複雑になると音量が増していき、チェロが聞こえなくなってしまう(2列目の真正面で聴いているのに!)。とくに低音部がピアノにかき消されてしまっていた。後方の席や2階・3階ではどのように聞こえていたのだろう。演奏は良いのだが、バランスが良くないのである。

 最後はショパンの「チェロ・ソナタ」。メンデルスゾーンよりはショパンの方がよりピアノ・パートが服罪で充実している。そのためか、ピアノが頑張り出すと低音部が分厚い音の塊となってしまい、チェロを飲み込んでしまう。チェロが高音域を弾いている時は比較的よく聞こえているのだが、低音域に入るとほとんど聞こえない。これではチェロ・ソナタとは言い難く、聴いている内にだんだんイヤになってきた。しかも、関係のない話ではあるが、隣の席の人が終始プログラムを出したりしまったりガサゴソしていて、コチラの集中力を途切れさせるようなことばかりする。第3楽章以降は良い演奏をしていたように思うが、コチラがもう聴こうとする意志を途切れさせてしまったので、何も感じなくなってしまった。

 アンコールはお決まりのサン=サーンスの「白鳥」。もう何も言うことはない。

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5/19(火)アリス=紗良・オット再び/何度聴いても「パガニーニ大練習曲」の繊細さと超絶技巧に感嘆

2015年05月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル 2015

2015年5月19日(火)19:00~ 東京オペラシティ・コンサートホール S席 1階 1列 13番 5,400円(会員割引)
ピアノ: アリス=紗良・オット
【曲目】
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 作品31-2「テンペスト」
J.S.バッハ: 幻想曲とフーガ イ短調 BWV.944
J.S.バッハ/ブゾーニ編: シャコンヌ ニ短調
リスト: 愛の夢 第2番/第3番
リスト: パガニーニ大練習曲
    第1番 ト短調「トレモロ」/第2番 変ホ長調「オクターヴ」/第6番 イ短調「主題と変奏」
    第4番 ホ長調「アルペッジョ」/第5番 ホ長調「狩り」/第3番 嬰ト短調「ラ・カンパネッラ」
《アンコール》
 ショパン: 24の前奏曲 作品28より第15番 変ニ長調「雨だれ」
 グリーグ: 叙情小曲集 第10集 作品71より第3番「小妖精」

 アリス=紗良・オットさんの今年2015年の来日リサイタル・ツアーは、全国10都市で合わせて11公演が予定された。東京だけが2回である。はじめの方は、先日5月14日に東京文化会館で「都民劇場」の定期公演として開催されたもので、すでにレビューした通り。本日は東京での2回目、ツアー全体では6回目にあたり、Japan Artsの主催で東京オペラシティ・コンサートホールでの公演となる。今回のツアーでは、全11公演をすべて同じプログラムで通している。それだけに集中力の高い演奏が期待されるところだ。
 アリスさんが前回の公演の時に自ら語っていたように、ホールによって響きも違うし楽器も異なるので、演奏も違ったものになるだろうという。まったく同じプログラムであっても、同じ解釈によるアプローチの仕方で弾いているとしても、演奏家自身がその場の空気感と響きの違いをかなり敏感に感じ取るのであろう。私たちにその違いを感じ取るだけの能力があるかどうかは別として、である。
 今日の会場である東京オペラシティ・コンサートホールは、確かに東京文化会館とは響き方が全然違う。タイトな響きだが残響は濁りがなく長い。それでもリサイタルにはやや大きいといえそうだが、理想に近い演奏空間だといえる。使用されたピアノもコチラの方が角の尖っていないしなやかな音色を持っていて、豊かで大らかな響きであったように思う。そこで弾くアリスさんの気分も良さそうで、全体にノリの良い演奏であった(と思う)。ちなみに聴いていた席は最前列の中央ブロックの鍵盤側ということで、先日とほとんど同じ位置関係である。

 1曲目はベートーヴェンの「テンペスト」。第1楽章は序奏に続いてソナタ形式の主部に入ると、抑制的で落ち着いた佇まいを見せながらも、リズム感にしなやかな流れがある。第2主題も流れに乗ったような快活さがある。和音の響きも透明ですっきりとした印象があった。
 第2楽章は緩徐楽章。展開部のないソナタ形式である。ゆったりとした歌謡的な主題が自由に、表情豊かに歌われていく。はやくもアリスさんの鼻歌が聞こえた。メリハリのない抑制的な、淡々としたように聞こえるが、微細な表情や細やかなニュアンスの表現で、思ったより豊かな表情で描かれていた。とても抒情的な演奏である。
 第3楽章もソナタ形式。提示される第1主題が繰り返される度に鮮やかに表情を変える。旋律もリズムも同じ音型が繰り返されていくが、アリスさんの演奏は決して激情に走ることなく、むしろ淡々とした抑制的なものであるが、その中で実に表情が豊かに変化する。夢見るようであったり、自己を静かに見つめるようであったり、あくまで内省的な色合いでまとめながらも、表現の幅は広い。技巧的な派手さはないが繊細な表現が光る、純度の高い演奏であった。

 続いてJ.S.バッハの「幻想曲とフーガ イ短調」。本来はチェンバロなのだろうが、強弱を付けられるピアノの特性を上手に利用している。全体は音量があまり変化してしないのに、各声部の強弱のバランスが目まぐるしく変化し、主旋律が鮮やかに浮き上がるだけでなく、時に通奏低音の中から美しい旋律が浮かび上がったりする。快調なテンポの中から対位法の構造が分かりやすく描かれているようであった。濃厚なロマンティシズムさえ感じられる快演である。

 前半の最後はJ.S.バッハ/ブゾーニ編の「シャコンヌ」は、素材がバッハだというだけで、明らかに自由な感情表現を前面に押し出したロマン主義的な演奏。実に多彩な音色を駆使し、リズムにも力感が漲る。ダイナミックレンジが広く、スケール感も雄大である。スタインウェイの機能性を十分に発揮している。ある部分では豪快・壮大な建築物を見るようであり、ある部分では甘く語るラブ・ストーリーのようであったりと、その多彩さには舌を巻く。楽曲の持つ曲想に対して、イマジネーションを大きく膨らませてさらに一層豊かな描き方をするとは、アリスさんの音楽性の深いところを見た思いである。

 後半はリストの「愛の夢 第2番」から。アリスさんは一変してサロン音楽のような、自由・気まぐれな雰囲気を漂わせ、鼻歌交じりに弾いていく。そこには気負いがまったく感じられない。自然に湧き上がる楽興に身を委ねているようであった。
 続く「愛の夢 第3番」も同じくサロン風のさりげないタッチで曲が流れていくが、徐々に興が乗ってきて、気分が盛り上がっていく様子が見事に表現されている。誰でも知っているような超有名な曲であっても、アリスさんの手にかかると(ピアノの発表会などとは全然違って)原曲の素晴らしさに改めて気が付かされるのである。

 最後はリストの「パガニーニ大練習曲」。ヴァイオリン曲であるパガニーニの「24の奇想曲」と「ヴァイオリン協奏曲第2番」から6曲を抜き出してピアノ用の練習曲にまとめたものである。アリスさん希望により曲順が上記のように変更されて演奏された。
 第1番ト短調「トレモロ」は、伴奏側のトレモロ奏法が分厚い川の流れのように響き(ただし音は濁らずにすっきりしていた)その上に乗る主題は淡々とした描き方であった。左右の手が複雑に交錯したり重なったりするが、こうした技巧的な部分はアリスさんの得意とする面でもある。
 第2番変ホ長調「オクターヴ」は、無窮動的な装飾音の技巧的な部分をサラリと弾きながら、オクターヴで弾かれる主題は手の大きなアリスさんにとってはあまりに軽やかで鼻歌交じりだ。
 第6番イ短調「主題と変奏」は、有名な「24の奇想曲」の第24曲から主題を取った変奏曲。本来は終曲として大いに盛り上がるところだ。もともと曲が超絶技巧で書かれているとはいえ、アリスさんの弾きっぷりの鮮やかなこと。変奏曲だから多彩な表現が出てくるのは当たり前だが、原曲に輪をかけたような多彩に音色が飛び出してきて、さらには目にも止まらぬ速さで指が走り回るのを見ているだけで圧倒される。ダイナミックな表現も見事で、スケールの大きな演奏だ。
 第4番ホ長調「アルペッジョ」は超高速分散和音。弱音でまわす超絶技巧の中に繊細なニュアンスの表現が潜んでいて、アリスさんは微笑みながら弾いている。
 第5番ホ長調「狩り」は単体としてもアンコールなどでよく弾かれる可愛らしい曲だ。可憐な主部に挟まれた2つの中間部が超絶技巧で書かれていて、その対比も鮮やかに弾き分けるアリスさんの感性も豊かだ。
 最後に持ってきたのは第3番嬰ト短調「ラ・カンパネッラ」。パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番・第3楽章の主題による変奏曲である。誰でも知っている曲でもあり、アリスさんのデビューCD『リスト:超絶技巧練習曲』にもオマケで収録されているし、一頃はアンコールでもよく弾いていたから、やはり思い入れの強い曲なので終曲に選んだのだろう。演奏の方は最後を飾るのに相応しい華麗なもので、超絶技巧が冴えまくっているが音量を極端に抑制して、特徴的な高音部を鮮やかに描き出しているのはさすが。後半はグングン力感が増していき、広いダイナミックレンジを駆使して、最後は豪快に締めくくった。会場からはBravo!!が乱れ飛んだ。カーテンコールに応えるアリスさんも、さすがに呼吸がみだれていたくらい。素晴らしい演奏である。

 アンコールは前回と同じ2曲。ショパンの「雨だれ」は鼻歌交じりに、単調な旋律を優しく歌わせていた。この辺りの繊細な表現も素敵だ。最後はグリーグの「叙情小曲集 第10集」から第3番「小妖精」。超高速で妖精たちが小躍りしていた。

 さてこうして、アンコールを含めてまったく同じプログラムを2回聴いたことになる。聴き比べた感じでは(といっても記憶の中での話だが)、今日の方がノリが良かったような気がする。あるいはストレスの少ない演奏とでもいうべきか。まったくの私見だが、東京文化会館に比べてオペラシティの方が響きが良く音がまとまりやすい。文化会館では拡散してしまう音をつなぎ止めるためにペダルに神経を使ったのではないだろうか。オペラシティの方が自然に音が響くのでかえってピアノの音が澄んで聞こえたような気がする。ピアノ自体もコチラの方が柔らかい音が出ているように思えた。こうした環境がアリスさんに気分良く演奏させたのではないか・・・・などと勝手に憶測している。いずれにしても今日の演奏はBraaava!!


 終演後は恒例のサイン会。アリスさんは『ショパン・プロジェクト』というCDを4月29日にリリースしたばかりということもあって、CDは飛ぶように売れていたし、サイン会にはあっという間に長蛇の列。3回くらい折り返して並び、ホワイエが人でいっぱいになっていた。やはり人気の方も超一流である。サインの方は早々に諦め、サイン会が始まるまで待ってみた。アリスさんは私服に着替えて元気に現れたが、ステージではいつも裸足なので、足は洗ってきたのかしら、などと妙なことを考えてしまった(失礼)。

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【お勧めCDのご紹介】
 アリス=紗良・オットさんの最新アルバム『ショパン・プロジェクト』。オーラヴル・アルナルズさんというアイスランド出身のミュージシャン(POPS系らしい)とのコラボレーション・アルバムです。ショパンの楽曲を採り上げていますが、アルナズルさんによるアレンジやリコンボーズ(再作曲)したものを、様々な実験的な録音手法を用いて収録しています。したがって、アリスさんのアルバムではありますが、いわゆるクラシック音楽の演奏ではありません。ショパンのピアノ・ソナタ第3番、ノクターン第8番、11番、13番、20番、プレリュード「雨だれ」などを元曲に、ピアノや弦楽四重奏で演奏されます。ピアノもレイキャビク市内のバーで使われている古く調律の合っていないアップライトだったり・・・・創意と実件的な試みが詰まっています。クラシック音楽にばかり凝り固まっていずに、たまにはこういう変わった音楽を聴くのも面白いですよ。

ショパン・プロジェクト
アルナルズ,アリス=紗良・オット,アルナルズ(オーラヴル),オーラヴル・アルナルズ,アーナソン(ビクターオリ),サミュエルセン(マリ),オスカードゥティル(ビョーク),バルダーソン(ポラリン),ヨンスドッティル(ウンヌル),ジェンソン(ホールグリマー・ジョンス)
ユニバーサル ミュージック

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5/18(月)別府アルゲリッチ音楽祭/東京公演/多彩なメンバーの競演に満席のオペラシティも喝采の渦

2015年05月18日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第17回 別府アルゲリッチ音楽祭 東京公演
ピノキオコンサート支援チャリティ in 東京
「未来への道」


2015年5月18日(月)19:00 東京オペラシティ・コンサートホール S席 1階 2列 13番 13,000円
ピアノ: マルタ・アルゲリッチ
ピアノ: 伊藤京子
ヴァイオリン: 清水高師
ヴァイオリン: 川久保賜紀
ヴァイオリン: 大宮臨太郎
ヴィオラ: 川本嘉子
ヴィオラ: 小峰航一
チェロ: ユン・ソン
チェロ: 遠藤真理
【曲目】
ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのためのソナタ より第1・2・4楽章(川久保/遠藤)
モーツァルト: 2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(375a)(伊藤/アルゲリッチ)
ショスタコーヴィチ: 2台のピアノのためのコンチェルティーノ イ短調 作品94(アルゲリッチ/伊藤)
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2(清水)
J.S.バッハ: シャコンヌ ト短調(川本)
シューマン: ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44(アルゲリッチ/清水/大宮/小峰/ソン)

 マルタ・アルゲリッチという名は、私がクラシック音楽を聴き始めた頃にはすでに大スターで、世界一の女流ピアニストあった。エキセントリックな超絶技巧の持ち主で、レコードもたくさん出ていた。
 あれから40年・・・・。本当に久しぶりにアルゲリッチさんを聴くことになった。
 アルゲリッチさんは1941年生まれというからもう74歳になる。1998年から始まった「別府アルゲリッチ音楽祭」のために毎年来日しているが、さすがに別府は遠く、聴きに行こうという発想すらなかった。昨年2014年の開催では、大好きな川久保賜紀さんも参加されていたので、チラリとは考えたが、やはり別府はあまりにも遠かった。ところが今年は、チャリティの「ピノキオコンサート」が東京で開催されることになり、今年の別府には参加されなかった賜紀さんや遠藤真理さんも東京公演には出演するという。わずかなゲスト出演ではあるが、こういう機会を逃す手はないし、アルゲリッチさんの演奏も聴けるわけだから、チャリティ参加の意味も込めて、少々高額だが聴きに行くことにしたのである。

 会場となっている東京オペラシティコンサートホールに行ってみると・・・・人・人・人!! 完全完売の公演となり、1632席のホールがほとんど満席状態であったこの日、開演前のロビー、ホワイエが人でいっぱいであった。オペラシティが満席になるとこんなにも人が溢れるものかと驚きである(要するに普段はほとんど満席になることはない??)。
 出演者と演奏曲目は上記の通り。メンバーは音楽祭の常連さん達である。内容を見れば分かるように、音楽祭の主要メンバーによるガラ・コンサートといった趣きとなっている。

 1曲目は、ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」より第1・2・4楽章が賜紀さんと遠藤さんのデュオで演奏された。どうせなら・・・・第3楽章も演奏して曲を完成させて欲しかった。今年2015年の2月に「第5回 チェロの日」のコンサートでもお二人の演奏で聴いたが、その時は第1・2楽章のみだった。全曲を聴いたのは2013年7月の秦野市でのコンサートの時2010年のトリオのコンサートの時。ヴァイオリンとチェロのデュオでは欠かせない曲目ということになる。こうしてみるとお二人はこの曲をかなりの回数演奏しているし、私生活でも仲良しのお二人なので、息はぴったり合う。
 やや難解なところがある曲だけに、今日の聴衆の中では今ひとつウケなかったようである。第1楽章は複雑な和声と多声的な構成を手慣れた感じに演奏していたが、少々バタついたところも合ったような。第2楽章はピツィカートの応酬が、パンチがあって面白かった。第3楽章は音楽自体が多彩な展開をしてより現代的になり、難解さを増す。高度かつ多種多彩な演奏技法がヴァイオリンにもチェロにも満載で、腕の見せ所だが(実際に高難度の技巧の応酬である)、不協和音の多い現代的な曲相は、あまり一般ウケはしないようであった。お二人の演奏は多彩な音色がを次々と繰り出し、同時にリズム感にもメリハリを効かせていて、躍動的で押し出しの強いものであった。

 2曲目は、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」。のだめと千秋が出会って間もなく弾いた例の曲である。2台のピアノが向き合って置かれ、反対向きに置かれる第2ピアノは当然蓋を外してある。アルゲリッチさんの登場にホールは沸いたが、伊藤京子さんが第1ピアノの方に座ると、会場がザワついた。ピアノを2台、二人のピアニストが必要なため、実際に演奏会で聴くことはあまりない曲ではあるが、かといってソロではなく、あえてデュオ曲を選んだあたりには、室内楽へのこだわりがあるのだろう。
 演奏の方は・・・・といってもこの曲で大きな感度を呼び起こすことは難しそうだ。実際には息のあったお二人の演奏は、とても華やかで楽しげに聞こえた。


 3曲目はショスタコーヴィチの「2台のピアノのためのコンチェルティーノ イ短調」。今度はアルゲリッチさんが第1ピアノを弾いた。コンチェルティーノ(小協奏曲)のいわばオーケストラに相当する部分を第2ピアノが受け持ち、第1ピアノはソリストに相当。単一楽章の曲である。主部は華やかで陽気な諧謔性に満ちているが序奏やコーダなどし暗い影が宿る。2第を向き合って配置すると第1ビアノと第2ピアノの音が一体になって聞こえてくるので、どちらがどこを弾いているのが分からなくなるが、お二人の技巧的なせめぎ合いには緊張感が漲っていて、終盤に向けての盛り上がりなどはアルゲリッチさんらしい。

 4曲目は 清水高師さんのソロで、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番」。オフィシャルの公演プログラムには掲載されていなかったので、急遽追加されたのだろう。グレゴリオ聖歌の「怒りの日」が動機として4つの楽章を貫くソナタである。清水さんの演奏を聴くのは初めてだが、ヴィルトゥオーゾ的な弾き方で、鋭くアタックを効かせ、強烈に押し出して来る。技巧的で発揮度の高い演奏である。ただし、その強烈な押し出しのために少々荒っぽく感じられる所があり、テクニックを前面に見せつけるようなタイプの演奏は個人的にはあまり好きではないので、ほとんど感銘は受けなかった。

 後半はまず、川本嘉子さんのヴィオラのソロで「J.S.バッハの「シャコンヌ ト短調」。有名な「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調」をそのまま5度下げてト短調にしてヴィオラでの演奏である。わずか5日前の5月13日に「東京文化会館モーニングコンサート」で若手の田原綾子さんの演奏を聴いたばかりなので、どうしても比べてしまう。田原さんは楽曲を素直に演奏して清廉なイメージを創り上げていたのに対して、川本さんはいかにもベテランらしく、アクの強い演奏で、ねっとりと濃厚でメリハリを効かせ、主旋律をたっぷりと歌わせたり装飾的なパッセージを敢えて高速に弾き技を見せたりもする。押し出しも強く、自己主張の強い演奏であった。私には、ちょっと脂っこいかなぁ、という印象。

 最後は、シューマンの「ピアノ五重奏曲 変ホ長調」。急-緩-舞-急の4楽章形式で、30分近い大曲である。アルゲリッチさんのピアノ、第1ヴァイオリンは清水さん、第2ヴァイオリンが大宮大宮臨太郎さん、ヴィオラが小峰航一さん、チェロがユン・ソンさんというメンバーだ。第1楽章はソナタ形式で、第2主題が殊の外美しく、ロマン派の王道を行く感じ。第2楽章は緩徐楽章。短調で葬送行進曲風。第3楽章はスケルツォ。快活で躍動的である。第4楽章は再び短調に転じるが、曲想は暗くはない。コーダは躍動的で大きく盛り上がる。演奏の方はもう何も言うことはない。このクラスの人たちの室内楽は、圧倒的に質感が高く、5名の個性も随所に現れてくるし、全体のアンサンブルも見事。音楽がとても豊穣で活き活きとした生命力に満ちている。演奏している人たちも楽しそうだし、聴いている私たちも幸せ名気分になってくる。そんな素晴らしい演奏であった。
 会場は大喝采。Bravo!が派手に飛び交い、出演者全員が登壇してのカーテンコールがいつまでも続いた。
 
 「別府アルゲリッチ音楽祭」が実際にどのような雰囲気で開催されているのか、行ったことがないので知る由もない。今日の東京公演は、やはり東京の人を対象にしているので雰囲気は異なるだろうと思う。それでも内容はバラエティに富んだガラ・コンサートであったし、個性的な出演者達の演奏も楽しめた。地方での音楽祭が色々と趣向を凝らしていて面白そうなものがたくさんある。なかなか地方にまで行けないので、などと言うと「毎日コンサートがあちこちで開かれている東京にいて何をいうか」と叱られそうだが、東京の音楽界もマンネリといえばかなりマンネリ化しているので、地方の個性的な音楽祭が素敵に見えるのであろう。旅行嫌いの私はなかなか地方にまで足を伸ばすことがないので、せめて今回のような東京公演のある時くらいは、また聴きに行くことにしようと思う。

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