Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/13(金)コンセルトヘボウ管/ヒメノを凌駕するユジャ・ワンの圧倒的な魅力/いったい誰が主役?

2015年11月13日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2015年 日本公演
Royal Concergebouw Orchestra Amsterdam / Japan Tour 2015


2015年11月13日(金)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 3列 23番 28,000円
指 揮:グスターボ・ヒメノ
ピアノ:ユジャ・ワン*
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
ヴァイオリン・ソロ:リヴィウ・プルナル**
チェロ・ソロ:グレゴール・ホルシュ***
【曲目】
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第2番 ト長調 作品44* ** ***
《アンコール》
 シューベルト/リスト編:「糸を紡ぐグレートヒェン」*
 ユーマンス/A.テイタム編:「Tea For Two」*
 モーツァルト/ヴォロドス:ファジルサイ:ユジャ・ワン編:「トルコ行進曲」/
 グルック:歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』から「メロディ」*
リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』作品35**
《アンコール》
 マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲
 リゲティ:コンチェルト・ロマネスク(ルーマニア協奏曲)より第4楽章

 KAJIMOTO主催の《ワールド・オーケストラ・シリーズ 2015》の第4弾・最終回は「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」。そして昨日の東京芸術劇場に続いての演奏会で、日本公演ツアーの最終日でもある。指揮は、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の打楽器奏者から転身したグスターボ・ヒメノさん。スペイン・バルセロナ出身の新進気鋭の指揮者である。ツアーに同行しているのはピアノのユジャ・ワンさんで、演奏するのはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。とにかく珍しい曲には違いない。昨日の記事と重複するので、詳細はそちらの方を参照されたい
 プログラムは、前半が昨日と同じチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番で、後半はリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」となっているのが違う点。今日の席位置は、1階3列目のセンターやや上手寄り、協奏曲の際はピアノの正面のくびれた辺りである。即日は同じ3列目の下手より(鍵盤側)だったので、若干は音の感じが違うはずである。もっとも芸劇とサントリーホールでは響き方が全然違うので、そちらの影響の方が大きいかもしれない。

 さて前半のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。毎回話題になるユジャさんの衣装だが、今日はミニでもシースルーでもなくて、シルバー系のロングドレスであった。登場するなり前方の席からは溜息が聞こえたとか聞こえなかったとか・・・。しかしそれでも、胸元は深くV字型に切れ込んでいるし、背中はほとんど何もないというドレスなので、今日はどうやら上半身のセクシー路線のようだ。オジさんたちの熱い視線を集めていながら、本人はどこ吹く風といった風情で、演奏が始まれば、紛れもなくいつものユジャさんの世界がパッと広がるようであった。


 曲が始まってすぐに感じたのは、ピアノの音が昨日よりもスッキリしていることだった。相変わらずの速い打鍵から生じる立ち上がりの鋭い、明瞭なサウンドではあるが、弱音が非常にクリアであるだけでなく、強音でも雑味がない。塗装していないピアノの底面が見えるような位置なので、普通はピアノの底部からもれてくる本来のピアノの音ではない歪んだ音が含まれていないのだ。上手い人が弾くと、楽器も機嫌が良さそうである。ダイナミックレンジはかなり広く、インパクトの強い演奏であるのはいつもの通りで、超絶技巧のキレ味も昨日よりも磨きがかかっているような気がする。ユジャさんはとても気持ちよさそうに、ノリノリで弾いているのが表情をみているよよく分かるのである。
 第1主題の力感溢れるピアノの生命力、軽快な駆け巡る経過部、第2主題の繊細な抒情性と旋律の美しい歌わせ方。これでもかとばかりに超絶技巧を繰り出してくるカデンツァ。その多彩さ、鮮やかさとスケール感はまさに、天翔るといったイメージである。
 席位置のせいもあって、オーケストラ側が主旋律を受け持つ際のビアノの音もクッキリと聞こえてくる。内声部を受け持つ煌びやかな分散和音など、ナマの演奏ではなかなか聴き取りにくい部分も、明瞭なユジャ・サウンドで聞こえてくると、曲の持つ構造性がぐっと深まって感じられる。
 第2楽章。ヴァイオリンが息の長い主題をメランコリックに歌わせて行く。コンセルトヘボウ管の弦楽の柔らかさと、コンサートマスターのリヴィウ・プルナルさんのヴァイオリンの柔らかい音色、グレゴール・ホルシュさんのチェロもが同系色で、とても温かみのアンサンブルとソロである。ユジャさんのピアノもここでは音の粒立ちを丸くして、優しく響かせる。それでもクリスタルのような透明な煌めきを持っているのはさすがだ。中間部はオーケストラとピアノがロマン的な感情が高ぶるような盛り上がりを見せ、ヴァイオリンのソロがカデンツァ風に踊り、ピアノ三重奏風の展開(この部分の演奏の何と美しいこと!)を経て、コーダへ。なんとも不思議な構成の楽章である。
 第3楽章の軽快なロンドは、昨日以上のノリの良さを、ユジャさんのピアノだけでなくオーケストラも見せる。この民族舞曲風のロンドは、ヒメノさんのラテン系の血が騒ぐのが、オーケストラ側のリズム感も素晴らしい。もちろん、ユジャさんのエネルギッシュな牽引力によるところも大きい。最後まで疾走感がいっぱいで、華々しいフィナーレまで突っ走った。
 今日は2回目なので、オーケストラの方にも注意を向ける余裕ができた。聴衆の耳目を一瞬で集めてしまうユジャさんの魅力もさることながら、さすがに世界の三大オーケストラに数えられるだけのことはあって、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の演奏レベルは超一流。緻密で柔らかく厚みのある演奏で、明瞭で鮮やかなユジャさんのピアノと見事なコントラストを描き出し、それでいて懐が深く、天翔るユジャさんをふわりと包み込む大らかさもある。協奏曲の演奏としては、最高レベルだと言っても構わないだろう。Bravo!!間違いなしの演奏であった。

 ユジャさんがソロ・アンコールを弾き始めたところから、会場がミニ・リサイタルに早変わり。何とアンコールを4曲も弾いてくれたのである。シューベルト/リスト編の「糸を紡ぐグレートヒェン」はかつて聴いたような高速バージョンではなく、静かな抒情性とダイナミックな爆発を持つ感情表現の豊かな演奏であった。続いてはユーマンス/A.テイタム編の「Tea For Two」。お馴染みのミュージカル・ナンバーをジャズ風のアレンジで。続いてモーツァルトの「トルコ行進曲」を弾き始めると会場から笑い交響曲がこぼれたが、これが実はヴォロドス:ファジルサイ:ユジャ・ワン編ということで、「トルコ行進曲」の主題による過激な超絶技巧変奏曲。ユジャさんの手も入っているので、もう滅茶苦茶。最後にグルックの『オルフェオとエウリディーチェ』から「メロディ」。コチラは淡々とした中にもしっとりとした抒情性を描き出している。まったく性格の違う4曲のアンコールに、ロイヤル・コンセルトヘボウ管のメンバーもステージの上で嬉しそうに聴き入っていた。まったくとんでもないことをやってしまうユジャさんだが、天衣無縫なキャラが誰からも愛され、皆を楽しませてくれる。ユジャさんの素晴らしいパフォーマンスにBraaava!!

 後半は、リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェエラザード』。ユジャさんに負けていないで、世界の三大オーケストラとしての爆発も聴かせて欲しいところだ。
 第1曲「海とシンドバッドの船」は物語の予感を感じさせる序奏に続いてヴァイオリンのソロがシェエラザードの主題を提示する。コンサートマスターのプルナルさんは今日は大活躍。太めで柔らか音色のシェエラザードは、妖艶というよりはもっと健康的な感じがするのだが・・・・。大洋の大きなうねりのような曲想が続き、コンセルトヘボウ管の厚みがあり豊かなアンサンブルが、ここはさすがにドラマティックな演奏を聴かせる。ヒメノさんの指揮は物語を語るような描写的な音楽をうまく表現しているとは思うが、やはり全体的にもう少し肩の力を抜いたしなやかさがあれば良いのに、と思った。
 第2曲「カレンデル王子の物語」では、ヴァイオリンによるソロに続いて、主題がファゴットやクラリネット、オーボエなどで色彩的に描かれて行く。木管群は美しく、濃厚で、質感が高い。この辺りにまったく隙がないのは、さすがにロイヤル・コンセルトヘボウ管である。中間部に入ると金管が加わり、激しい曲想に変化していくが、質感の高い音色と極めてバランス感覚に優れたアンサンブルで、劇的な音楽をガッチリと作っていた。終盤のフルートとホルンの柔らかな雰囲気ももお見事。ヒメノさんの音楽作りも意外に堅実な印象をもたらしている。
 有名な第3曲「若い王子と王女」の主題は、弦楽のアンサンブルが殊の外美しい。角のないまろやかなサウンドで、何ともいえない厚みがあり、ふくよかに歌う。クラリネットやフルートが加わってくると一層ふくよかさが増し、天国的な心地よさを生み出す。この辺りは指揮者のコントロールというよりはオーケストラ側の機能だろう。中間部で軽快に華やいだ後、主題が再現されて来る辺りも得も言われぬ美しさだ。ヴァイオリン・ソロでシェエラザードの主題とカデンツァ風の展開。一種の劇的な盛り上がりを経て、熱くしく穏やかに終わる。
 第4曲「バグダッドの祭り~海~青銅の騎士のある岩礁で難破している船~終曲」は、管弦楽の名手リムスキー=コルサコフの面目躍如といったところだ。各部分の標題音楽的な描写音楽は、実際に物語を詳しく知らなくても、ストーリー性を感じさせ、ドラマティックな要素が見事に描かれている。第1曲~第3曲の主題が回帰してきたりして、構成も劇的に作られている。ヒメノさんの指揮はまだちょっと剛直な感じを残しているが、全体的にドラマティックな仕上げを作り出すのには成功していて、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の緻密だけれども柔らかくて大らかな演奏も手伝って、豊かな物語性を発揮していた。最後はヴァイオリンのソロがエキゾチックに聴かせるところ。まあ言っても仕方のないことだけれども、この曲を演奏するときはコンサートマスターは女性の方が色気が感じられて良いような気がする・・・・。
 今日の「シェエラザード」は、聴き終えてみれば演奏の質が極めて高く、素晴らしい演奏だったと思う。ヒメノさんの指揮も決して悪くはなかったが、むしろロイヤル・コンセルトヘボウ管出身のこの若い指揮者を皆で盛り立てて行こうとする人間味の溢れた演奏であったように感じた。世界の三大オーケストラといっても、理知的なベルリン・フィルや頑ななウィーン・フィルとは違って、家族的な雰囲気が漂っている。演奏している時のオーケストラのメンバーの表情が明るく、楽しそうに見えるのも、演奏に反映されているようであった。世界の超一流のオーケストラならではの演奏技術はもとより、一方的に感動を押しつけるようなタイプの演奏ではなく、聴く者の共感を呼び起こすような人間味のある演奏にBravo!を送ろう。

 オーケストラのアンコールは2曲。マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲が出て来たのはちょっと意外な感じもしたが、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の弦楽の美しさをたっぷりと聴かされて納得。美しく哀しげな情感をたっぷりと込めて、弦楽が繊細かつふくよかに歌う。けっこう遅めのテンポで歌わせるヒメノさんの指揮も素敵だ。この人、昨日に続いてアンコールが素晴らしい。
 アンコールの2曲目は、リゲティの「コンチェルト・ロマネスク(ルーマニア協奏曲)」より第4楽章。またまた思いっきり意外な現代曲。東欧系の音程が不安定な感じのするヴァイオリンのソロが面白い。プルナルさん大活躍の1日だ。舞曲風のリズムに各楽器のソロが協奏的に絡み合う。人を食ったようなところのあるアンコール曲だが、木管も金管も弦も職人的な上手さを聴かせてくれて、楽して演奏に幕を閉じた。

 結局、ユジャさんの4曲のアンコールやオーケストラのアンコールの2曲を足せばかなりの長尺になることは必至で、全曲の演奏が終わったのは21時40分を過ぎていた。何だかユジャさんやヒメノさん、そしてロイヤル・コンセルトヘボウ管にたっぷりともてなされた感じがする。高額のチケット代が気にならなくなるほどの充実したコンサートになったと、誰しもが満足したに違いない。

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