Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/22(木)第11回東京音楽コンクール/本選弦楽部門/優勝および聴衆賞は伏兵の田原綾子(Va)がさらう

2013年08月23日 00時38分35秒 | クラシックコンサート
第11回東京音楽コンクール 本選 弦楽部門

2013年8月22日(木)18:00~ 東京文化会館・大ホール 自由席 1階 1列 13番 2,000円
指 揮: 飯森範親
管弦楽: 東京交響楽団
【演奏者と曲目】
篠原悠那(ヴァイオリン)★ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
グレイ理沙(チェロ)★エルガー: チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
福田俊一郎(ヴァイオリン)★チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
田原綾子(ヴィオラ)★バルトーク: ヴィオラ協奏曲 遺作(シェルイ補筆版)

 第11回東京音楽コンクールの弦楽部門本選会を聴く。一昨日2013年8月20日に聴いたピアノ部門の本選会とはやや趣が違うのは、今日は弦楽部門ということで、ヴァイオリン2名、ヴィオラとチェロが各1名、本選に進んだため、バラエティに富んだ演奏会となった。審査結果の予想は、ピアノよりはヴァイオリンの方が聴き分ける自信があるが、ヴィオラやチェロが加わると、単純な比較ができなくなるため、やはり難しそうである。
 弦楽部門の応募者は、84名(ヴァイオリン44名、ヴィオラ19名、チェロ21名)。CD審査・非公開により予備審査を通った43名(ヴァイオリン22名、ヴィオラ12名、チェロ9名)が第一次予選に臨み、そのうち公開審査の第二次予選に進むことができたのは11名(ヴァイオリン5名、ヴィオラ2名、チェロ4名)であった。そして今日の本選に進んだファイナリストは上記の4名である。
 一昨日と同様に、このブログを書いている時点では、すでに審査結果は発表されているのだが、例によって独断と偏見に若干の客観性を加えて、演奏順に見ていこう。

●篠原悠那さん(ヴァイオリン/1993年生まれ/桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマコース2年在学中・特別奨学生)
【曲目】ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
 篠原さんの演奏は、一昨年2011年の「第80回日本音楽コンクール」のヴァイオリン部門本選会で聴いたことがある。曲は同じブラームスの協奏曲だった(第2位および聴衆賞)。そうした経緯もあるので、ついつい応援したくなってしまうのだが・・・・。
 やはり一人目のせいか緊張気味で、第1楽章の初めの方は力んで空回りしているいる感じで、音があまり出ていない。飯森範親さんの指揮も重々しく感じられ、余計にリズムに乗りきれない様子であった。第2楽章からうまく歌うようになり、第3楽章はリズムに乗ってアタックの利いた演奏となった。楽器を高く掲げて大きな音を出そうとしている様子が見られたが、低音の方は艶のある豊かな響きを持っているのに、高音部、とくに最高音部が繊細で、オーケストラにかき消されてしまうことがしばしばあった。概ね良い演奏だとは思うが、精一杯やっているといった印象で、ゆとりが感じられなかった。したがって、音楽は緊張感が高いもので(もちろん、それはそれで必要なことなのだが)、スケール感のようなものは感じられなかったのが残念である。

●グレイ理沙さん(チェロ/1994年生まれ/東京藝術大学音楽学部1年在学中)
【曲目】エルガー: チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
 グレイ理沙さんの演奏は、全体的に発展途上というか、未完成というイメージであった。彼女のチェロは、若い女性には珍しい、暗い音色である。曲が短調だからというわけではなく、音色そのものの特質だと思う。決して悪いという意味ではないが、もう少し潤いのある音色が欲しいところではある。第2楽章をはじめ、緩徐部分での抒情的な旋律がするすると流れて行ってしまう。チェロという楽器の特性を考えると、もっと大らかに、歌わせるような自由度が欲しく感じられた。経歴をみてもオーケストラとの共演が載っていないので、協奏曲の経験はほとんどないのではなかろうか。ご自身のリズム感で演奏できていなかったようである。

★この時点で私の評価は、篠原さん/グレイさんの順。

●福田俊一郎さん(ヴァイオリン/1994年生まれ/東京音楽大学音楽学部1年在学中・特別特待奨学生)
【曲目】チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
 福田さんの演奏は、曲が始まってソロ・ヴァイオリンが入ってくるところを聴いただけで、「おォ、これは!!」と思った。身体も大柄だし手も大きく、指も太い。だからというわけではないだろうが、男性的な力強さが芯にあり、豊かな音量と豊穣な音色が素晴らしい(ヴィブラートの揺れ幅も大きい)。演奏スタイルにも余裕が感じられ、非常にスケールの大きな、堂々とした演奏であった。昨年2012年の第66回全日本学生音楽コンクール東京大会第2位、全国大会第3位という経歴に相応しく、場慣れしている様子も感じられた。技巧的にも安定しているし、メリハリを効かせた演奏をしているのだが、全体的に悠々とした雰囲気に包まれていて、かえってインパクトを弱くしているのかもしれなかった。第3楽章のコーダではテンポをグンと上げてオーケストラを引っ張って行くなど、重厚な飯森さんのオーケストラ・ドライブから推進力を引き出す場面もあって、なかなかやるなァという感じであった。

★この時点で私の評価は、福田さん/篠原さん/グレイさんの順。

●田原綾子さん(ヴィオラ/1994年生まれ/桐朋学園大学音楽学部1年在学中)
【曲目】バルトーク: ヴィオラ協奏曲 遺作(シェルイ補筆版)
 オーケストラや弦楽アンサンブルにおいて内声部を受け持つヴィオラは主役になりにくい性質の楽器だ。したがってヴィオラ協奏曲というのは沢山あるにはあるのだが、よく知られた名曲は少ない。バルトークのヴィオラ協奏曲は未完にも関わらずこの「シェルイ補筆版」により数少ないヴィオラ協奏曲の必須アイテムとなっているようだ。めったに聴くことができないこの曲を19歳の田原さんの演奏で聴くというのも面白い体験だといったら、コンクールの本選で必死になって演奏するはずの奏者に失礼だろうか。
 ところが田原さんは意外な伏兵であった。5歳からヴァイオリン、18歳からヴィオラも始め、コンクール歴も2012年の「山手の丘音楽コンクール」高校の部第1位というのがあるくらい。最終奏者の緊張感もなく、ニコニコ笑いながらステージに登場し、ハンカチを何処に置こうかウロウロして会場の笑いを誘う。いわゆる天然キャラというやつらしい。ところが演奏が始まると一変する。表情は穏やかなままだが、目つきが引き締まって、良い意味での緊張感が張りつめる。そしてちょっとビックリするくらい、豊かなヴィオラの音色がホールに響きわたっていく。チェロの音域に入る低音部はチェロよりは軽く響き、高音部はヴァイオリンよりも重い音色。中音域はまさにヴィオラならではの厚い音である。また、演奏中の姿勢はほとんど指揮者の方を見ているのに、旋律やリズムに合わせてスウィングするように身体と弓が動く。このリズム感がバルトーク独特のリズムをうまく捉えていて、踊るような躍動感のある素晴らしい演奏になっているのだ。内声部を受け持つヴィオラが、協奏曲という形式の中で、これほど明瞭な音質と豊かな音量で、オーケストラからクッキリと分離し、しかも絶妙のリズム感で見事にアンサンブルを構築しているとは。田原さんの演奏には本当に驚かされた。演奏が終わると、またニコニコして天然に戻ってしまった。

★全曲が終了しての私の評価は、田原さん/福田さん/篠原さん/グレイさんの順となっていた。聴衆賞は多分、田原さんだろう。ただ、楽器の種類が異なるため、評価の難しいところがあるし、曲目も超人気曲のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とバルトークのヴィオラ協奏曲(補筆版)ではギャップがありすぎる。だから、あまりアテにはならないはずだ・・・・。そして最終審査結果は以下の通りであった。

【第11回 東京音楽コンクール《弦楽部門》最終選考結果】
  ●第1位・・・・田原綾子(ヴィオラ)
  ●第2位・・・・篠原悠那(ヴァイオリン)
  ●第3位・・・・福田俊一郎(ヴァイオリン)
  ●入 選・・・・グレイ理沙(チェロ)
  ※聴衆賞・・・・田原綾子(ヴィオラ)

 まあ、概ね当たったことになるが・・・・。篠原さんの順位予想がはずれるのは、「第80回日本音楽コンクール」の時と同じで、どうも彼女に対する私の評価は低くなる傾向があるようだ。多分これは単なる演奏スタイルの好みの問題だと思うので、篠原さんには申し訳なく思っています。
 というわけで、今回の「第11回東京音楽コンクール 本選 弦楽部門」は伏兵の田原綾子さんにさらわれた格好になったが、彼女のヴィオラはかなりの聴きものであった。田原さんのヴィオラの師匠は、元ベルリン・フィルの岡田伸夫さんと読響の鈴木康浩さんだという。そういえばあの身体の動きでリズムを取るのは鈴木さんに似ているような。いずれにしても、ヴィオラ界にスター誕生(?)である。私はいっぺんにファンになってしまった。機会があったら是非、田原さんのヴィオラを聴いてみていただきたいと思う(来年2014年1月19日に「第11回東京音楽コンクール優勝者コンサート」があるので、そこで聴くことができそうだ)。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 8/20(火)第11回東京音楽コン... | トップ | 8/25(日)青木尚佳ヴァイオリ... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2013-08-23 09:02:47
中立、適格な感想いつもありがとうございます!
コンクール後のもやもや感をいつもまとめて下さって、
少し落ち着けます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事