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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/21(火)紀尾井 明日への扉/ヴァイオリンの周防亮介が大器の片鱗を見せる大らかな演奏

2013年05月22日 23時49分28秒 | クラシックコンサート
紀尾井 明日への扉 1 周防亮介
Kioi Up & Coming Artist / Ryosuke Suho with Akira Eguchi


2013年5月21日(火)19:00~ 紀尾井ホール 招待席 1階 3列 7番
ヴァイオリン: 周防亮介
ピアノ: 江口 玲*
【曲目】
ミルシテイン: パガニーニアーナ
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 作品30-2*
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 二短調 即品27-3「バラード」
西村 朗: 無伴奏ヴァイオリンのための〈木霊〉2013(世界初演)
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第3番 二短調 作品108*
《アンコール》
 ブラームス: ハンガリー舞曲 第1番 ト短調*
 マスネ: タイスの瞑想曲*

 紀尾井ホールの主催で、長らく続いてきた新進音楽家への支援シリーズ「紀尾井ニュー・アーティスト・シリーズ」が今年度より装いも新たにヴァージョン・アップして「紀尾井 明日への扉」シリーズへと変わった。新進気鋭の若手音楽家に演奏の機会を設け、世に紹介していくという趣旨は変わらないようだが、前シリーズは無料のコンサートだった(会員はご招待、一般は公募による無料招待)が、新シリーズからは紀尾井ホールの会員はご招待のまま、一般は有料のコンサートとなった。といっても、リサイタル形式でフルサイズの2時間のコンサートで、一般2,500円、学生2,000円という料金設定は、かなりお安いといえるので、有料化といっても企画の趣旨は引き継がれているようだ。
 新シリーズとなった「紀尾井 明日への扉」の第1回は、ヴァイオリンの周防亮介さん。1995生まれで現在、東京音楽大学付属高等学校の3年に在学中。2011年開催の第9回東京音楽コンクールで第1位及び聴衆賞、2012年開催の第81回日本音楽コンクールで第2位および岩谷賞(聴衆賞)と、ここのところ女声陣に押され気味だった若手のヴァイオリニストの中では、男性としては成長著しい期待の星である。
 やはりそのコンクールがらみで、これまで周防さんの演奏を2度聴いたことがある。ひとつは2012年1月に「第9回東京音楽コンクール優勝者コンサート」でヴィエニアフスキの「『ファウスト』による華麗なる幻想曲」を円光寺雅彦さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団との共演で、もう一回は、2012年10月に「第81回日本音楽コンクール本選会《ヴァイオリン部門》」で、ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」を円光寺雅彦さんの指揮する東京交響楽団との共演で聴いている。いずれの演奏も、高校生にしては完成度の高い技巧を解釈を兼ね備えた、けっこう骨太な演奏という印象であった。リサイタル形式でじっくり聴くのは今回が初めてである。

 上記の曲目を見ても分かるように、今回のリサイタルに賭ける意気込みが伝わってくるような選曲だ。1曲目のミルシテインの「パガニーニアーナ」は、超絶技巧で知られるパガニーニの「24のカプリース」の第24曲を主題に、20世紀のヴァイオリニスト、ミルシテインが変奏曲に仕上げたもので、超絶技巧×超絶技巧というべき曲。もちろん無伴奏曲なので、超絶技巧だけでなく、解釈から表現力まで、すべてが露わになる。これを1曲目にもってきたことは、自信の表れととるか、前向きの意欲ととるか。いずれにしても、度胸がある行為だ。
 演奏の方は、さすがにこれだけの技巧的な曲なので、身体をあまり動かさずに、しっかりした姿勢で弾いていた(暗譜)。技巧的な部分に関してはまったくといって良いほど問題なし。上手いことは間違いない。ただそれを、技巧を強調するのではなく、その先にある表現というか、パガニーニ→ミルシテインとつながる音楽家の魂を模索しているように感じられたのだが…。

 2曲目はぐっと古典の回帰して、ベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第7番」。最近この曲をあちこちで聴いているような気がする。確証はないのだが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのうち、第5番「春」と第9番「クロイツェル」に次いで人気の曲といえるのではないだろうか。ピアノ伴奏はお馴染みの江口玲さんである。
 第1楽章はソナタ形式が美しく整っているので、聴いていても非常にスッキリする曲である。重厚なハ短調の第1主題と軽快なな第2主題が鮮やかな対比となり、全体に推進力がある。周防さんの演奏は、正統派の真っ直ぐなもので、濃いめの音色と芯のしっかりした強さを併せ持っている感じだ。リズム感も良く、ドラマティックな仕上げ方も堂に入っている。
 第2楽章の緩徐楽章は、ピアノから始まるが、江口さんが優しい音色で静かに序奏から弾いていくと、周防さんのヴァイオリンも音量を落として穏やかな演奏で、楽曲の抒情性を描いていくようだ。
 第3楽章はスケルツォ楽章となる。軽やかにピアノとヴァイオリンが対話するように掛け合いを続けていく。弾むような軽快なリズム感は、第1楽章の重厚感とは対照的で、楽章間の表現のバランスも良い感じだ。
 第4楽章は、ハ短調に戻って悩ましげなピアノによる第1主題に対して、ヴァイオリンによる第2主題の大らかな歌わせ方が印象的。突然楽想とテンポが変わって、激しくも情熱的なコーダになると、周防さんの若さが漲る感じで劇的であった。

 後半はイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「バラード」から。イザイの作品27の6曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタの中で、この第3番は単一楽章で短いということも手伝って、リサイタルでもよく採り上げられるようである。周防さんの演奏には、高度な技巧に裏打ちされた繊細で緻密な部分と、男性的な力強い部分とが同居しているようなところがある。彼は若くてかわいい男のコのような印象を持たれがちだが、身体は大きいし手も大きい。鋭いボウイングから繰り出す立ち上がりの鋭い音には力があるし、ヴィブラートも豊かに響かせる。また、速いパッセージや分散和音、重音などから作られる複雑な和声の中から、主題が浮き上がるように前に出てくるところなどに、彼の非凡さが感じられた。

 2曲目は西村 朗さんによる新作で「無伴奏ヴァイオリンのための〈木霊〉2013」という曲の世界初演。西村さんの曲だから、だいたい予想していた通りである。無伴奏曲であるためか、ヴァイオリンの多様な奏法を駆使している。フラジオレットの重音によるグリッサンドなど、変化に富んだ多彩な音色と曲想が展開した。曲はなかなか面白く、周防さんの強めの演奏と相性は良さそうだ。現役の高校生が弾く現代音楽の新作初演というのもなかなか凄いことで、日本の音楽界も裾野が広いというか、将来に希望が持てるというか…。演奏後には作曲者の西村さんも登壇し、周防さんの演奏を讃えていたが、確かに素晴らしい曲と演奏だったと思う。

 最後はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ第3番」。重量級のプログラムである。第1楽章は、内省的なブラームス特有の楽想に支配されるが、第1主題のヴァイオリンがまだちょっと若いかな、という感じだ。対して、第2主題の江口さんのピアノはあまり目立たないように弾いていたような感じだったが、展開部などは、ヴァイオリンとピアノが純音楽的に対話したり絡み合ったりしながらロマンティックな造形を創り上げていた。
 第2楽章は比較的遅めのテンポで、ゆったりと、とうとうと旋律を歌わせる。若いと性急になりがちだが、これだけゆったりとひとつひとつのフレーズを歌わせるのは見事だと思う。曲全体の構造がしっかりと頭の中に構築されているのだろう。感情的な抒情性よりは純音楽的な美を目指しているように思えた。この辺りは男性的といえるかもしれない。
 第3楽章はスケルツォ風だが2拍子である。テンポは決して速くはなかったと思うが、リズム感の良さで躍動感を生み出していた。
 第4楽章はロンド。激しい動機の序奏からロンド主題が力強く演奏される。音が太い感じがするのは、やはり力を入れたときの男性ならではの音色である。最後のロンド主題からそのまま勢いに乗ってのフィニッシュも、感情に流されない冷静さも感じられた。とても高校生とは思えない「技あり」の演奏だったと思う。

 アンコールは2曲。ブラームスの「ハンガリー舞曲第1番」はブラームスつながりで選曲したのだろうが、これはあくまでアンコール用の演奏のように聞こえて、とくに感想が浮かんでこなかった。マスネの「タイスの瞑想曲」はヴァイオリン・リサイタルのアンコールとしては定番中の定番すぎるが、抒情的でありながら深みのある低音部が美しく、素敵な演奏には違いないが、ちょっと少女趣味っぽいかも…。今日のプログラムを考えると、どちらかといえば最後は男性的に締めくくって欲しかった。

 初めて周防さんのリサイタルを聴いて、全体的に強く感じたのは、高校3年生にして恐るべきスケール感の持ち主ということだ。正確な技巧を持っていることは当然として、的確な解釈力と、それを形にする表現力も十分に備わっている。要するにとても上手い。これは誰しも認めるところだろう。良く言えば優等生。悪く言っても優等生的かもしれない。ただ、その中で彼の個性として強く感じられたのが、スケールの大きさということなのだ。うまく表現することができないのだが、演奏全体から伝わってくる大らかさがあり、上手く弾くために小さくまとまってしまうようなところがないようなのである。だから今後は、悪い方の優等生にならないように、ご自身の個性が前に出てくるように演奏して欲しい。周防さんでなければ弾けない音楽を聴かせていただきたいのだ。もちろん、彼の現在の年齢と将来への可能性を展望すれば、今日は今持てる力をすべて発揮してくれたように思う。今後の演奏にも注目していきたい。

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