
第16回 東京音楽コンクール 本選 弦楽部門
2018年8月29日(水)18:00~ 東京文化会館・大ホール 自由席 1階 1列 13番 1,500円(会員割引)
指 揮:大井剛史
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
「第16回 東京音楽コンクール」 弦楽部門の本選会を聴く。今年はピアノ部門の開催がないので、本日の「弦楽部門」に人々の注目が集中しそうな気配である。「東京音楽コンクール」では、他の一般的な音楽コンクールが行っているようなヴァイオリン部門というカテゴリがなく、「弦楽部門」というくくりで、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバスを全部まとめて審査対象としている。そのため、各楽器での参加者数にもバラツキが発生するし、そもそも4種類の性格の異なる楽器を同一カテゴリにして審査し優劣を決めるということには、いささか疑問を感じないでもない。しかし同時に、ヴィオラ奏者やコントラバス奏者には大きなコンクールが少ないので、千載一遇のチャンスにもなる。ヴァイオリン奏者やチェロ奏者にとってはただでさえ狭き門が一層狭くなることになる。さて、どんな結果がでるのか楽しみだ。
今回の弦楽部門への応募者は84名。意外に少ないのは、国際的にオープンになったことも影響しているのだろうか。内訳は、ヴァイオリン43名、ヴィオラ22名、チェロ10名、コントラバス9名。何となくヴィオラとコントラバスが多く感じられるのは、やはりコンクールに参加できる機会が少ないからだろう。
第1次予選は7月1日・2日に非公開で開催され、10名が第2次予選に進んだ。第2次予選は8月22日に東京文化会館・小ホールで開催され、その結果、4名が本日の本選会へと駒を進めたのである。
それでは登場順・演奏順に概観してみよう。

●北田千尋(ヴァイオリン)1996年生まれ(桐朋学園大学4年在学中)
【曲目】チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
北田さんの演奏は、これまで桐朋学園大学関連のコンサートやサロンコンサートなどで室内楽を聴いたことがあったが、ソロを聴くのは初めてであった。演奏は、とても端正で素直。あまり無理矢理創り上げたようなところが感じられず、良い意味での優等生的であり、好感が持てる。音色は基本的に柔らかく、自然体の美しさ。全体の印象は優しい。音量も大きくはなく、ダイナミックレンジもあまり広くはない。チャイコフスキーの持つ憂いを秘めたロマンティシズムが美しい音色で穏やかに語られていく感じだ。

●髙木凜々子(ヴァイオリン)1996年生まれ(東京藝術大学音楽学部4年在学中)
【曲目】チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
高木さんの演奏は、日本音楽コンクールの予選会で一度聴いたことがある。その時はほとんど印象に残らなかったが、わずか数年の間に大きく変貌を遂げたようだ。まず、協奏曲のソロとしてオーケストラと対等に渡り合えるだけの大きなスケールを持っている。音量も非常にに豊かで、オーケストラ側に飲み込まれることはないチカラが感じられる。その上でダイナミックレンジが広く、精細なピアニッシモもしっかりとしたニュアンスで旋律を歌わせている。音色は華やか。低音域(G線)のガツンとくる押し出しから、高音域は伸びやか。ためらいの感じられない思い切った弾き方は立ち上がりの鋭い音を生み出している。いささか派手すぎるキライもあるが、協奏曲としてはこの上ない存在感を発揮できていると思う。何かが乗り移ったような高い集中と緊張を見せつつ、旋律がとても大らかに、そして表情豊かに歌っている。自身で創り出しているリズム感と推進力は、時にはオーケストラと咬み合わなくなることもあったが、とにかく自身の世界観を創り出しているので、聴く側に対しての訴えるチカラが強いのである。Bravo!が一番多く飛び交っていたのも、納得できる演奏だった。ひとつだけ気になったこと。第3楽章のロンド主題をもう少しテンポを上げると、より緊張感が高まり、スリリングに展開だろうと思った。リハーサルが短いコンクールでは合わせが難しかったのかもしれないが、今後の課題にして欲しいところだ。

●有冨萌々子(ヴィオラ)1996年生まれ(ウィーン国立音楽大学在学中)
【曲目】バルトーク:ヴィオラ協奏曲 Sz.120(シェルイ補筆版)
ヴィオラはまともな協奏曲が少ないので、コンクールの課題としてはこの曲が登場することになる。ヴァイオリンの著名な協奏曲とは違って、滅多にナマでは聴くことができない曲だけに、私たち一般聴衆にとっても、審査員の先生方にとっても評価が難しいのではないだろうか。有富さんの演奏は、全体に柔らかい音色で暖色系。丸みを帯びた音の形を感じる。ヴィオラ特有の温もりである。ただ逆に、ヴィオラ特有の内声部を受け持つ内向的な性格が演奏にも現れているような気がした。協奏曲なのだから、もう少し強く押し出しても良かったのではないか。中音域から高音域は、音色は太く柔らかいものの、ヴァイオリンとは最も異なる低音域(C線)の音量が小さく、あまりよく聞こえない。ヴァイオリンとの違いがあまり感じられず、むしろ内向性が目立ってしまうことになった。低音域をもっと強く押し出すことができれば、ヴィオラ協奏曲の存在感がぐっと増したと思う。

●関 朋岳(ヴァイオリン)1998年生まれ(東京音楽大学2年在学中)
【曲目】シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
関さんは昨年の弦楽部門の第2次予選で聴いている。関さんのヴァイオリンは、全体に線が細い印象で、音量もあまり大きくはない。演奏自体はシッカリしていて、細やかなニュアンスなども描かれていて、音楽的には豊かで深みがある。一方で、全体的に繊細な印象は、シベリウスの雄大な造形に対しては不満が残るところだ。もちろん、演奏自体はテクニックもある、細やかな表現もキチンと作られている。しかし私は最前列の目の前で聴いていたのだが、オーケストラにしばしば飲み込まれてしまい聞こえにくくなってしまうところがあった。実際問題として、2階席センターの審査員席までこの音がすべてのニュアンスまで伝わるものなのか、いささか不安に感じるくらいであった。
本選会は18時開演で、22時50分くらいには全曲の演奏が終了した。審査結果の発表ならびに表彰式は、45分後に大ホールのステージ上で行われた。私は結果発表まで立ち会うことなく、早々に帰宅した。東京文化会館のメールマガジンによってもたらされた結果は以下の通りであった。
《第16回東京音楽コンクール 本選・弦楽部門 審査結果》
第1位:関 朋岳(ヴァイオリン)
第2位:高木凜々子(ヴァイオリン)
第3位:有冨萌々子(ヴィオラ)
入 選:北田千尋(ヴァイオリン)
聴衆賞:高木凜々子(ヴァイオリン)
さて、私は本選しか聴いていないので、コンクールの全体像は知らないわけだが、今日、本選を聴いた限りでは、この審査結果にはいささか納得のいかないものを感じた。正直に言って、メールマガジンを見て唖然とてしまったのである。私が聴いた4名の感想を読んでいただければ、私が誰を押したかは想像できると思う。そして私だけでなく、第1位と聴衆賞が異なるという結果も、同じ考えの人が多かったことを物語っているのではないだろうか。業界の裏側で妙なバイアスが働いていなければ良いのだが、などと勘ぐってしまう。繰り返すが、あくまで本選を聴いた限りの話だとお断りしておくが・・・・。
私は、音楽はそもそも「聴く人がいてナンボのもの」だと思っているので、それが技術であれ、表現力であれ、発揮度であれ、人気であれ、聴く人に心に響いてこそ価値があるものだと信じている。その点で聴衆賞はウソをつかない。コンクールとしての評価はともかくとして、今日の4名の演奏の中では、高木さんの演奏が群を抜いて聴衆を沸かせていたのは事実なのだから。したがって、今後、追いかけてみたいと思ったのは高木さんなのである。
この「東京音楽コンクール」では、毎年年明けに「優勝者コンサート」を開催している。来年2019年は2月11日にここ東京文化会館・大ホールで開催されることが決まっていて、各部門の優勝者または最高位入賞者がオーケストラをバックに協奏曲などを演奏する事になっている。私は例年聴きに行っているが、来年は止めることにしようと思う。声楽部門と弦楽部門の本選を聴いて、何だかガッカリしてしまったのである。
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2018年8月29日(水)18:00~ 東京文化会館・大ホール 自由席 1階 1列 13番 1,500円(会員割引)
指 揮:大井剛史
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
「第16回 東京音楽コンクール」 弦楽部門の本選会を聴く。今年はピアノ部門の開催がないので、本日の「弦楽部門」に人々の注目が集中しそうな気配である。「東京音楽コンクール」では、他の一般的な音楽コンクールが行っているようなヴァイオリン部門というカテゴリがなく、「弦楽部門」というくくりで、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバスを全部まとめて審査対象としている。そのため、各楽器での参加者数にもバラツキが発生するし、そもそも4種類の性格の異なる楽器を同一カテゴリにして審査し優劣を決めるということには、いささか疑問を感じないでもない。しかし同時に、ヴィオラ奏者やコントラバス奏者には大きなコンクールが少ないので、千載一遇のチャンスにもなる。ヴァイオリン奏者やチェロ奏者にとってはただでさえ狭き門が一層狭くなることになる。さて、どんな結果がでるのか楽しみだ。
今回の弦楽部門への応募者は84名。意外に少ないのは、国際的にオープンになったことも影響しているのだろうか。内訳は、ヴァイオリン43名、ヴィオラ22名、チェロ10名、コントラバス9名。何となくヴィオラとコントラバスが多く感じられるのは、やはりコンクールに参加できる機会が少ないからだろう。
第1次予選は7月1日・2日に非公開で開催され、10名が第2次予選に進んだ。第2次予選は8月22日に東京文化会館・小ホールで開催され、その結果、4名が本日の本選会へと駒を進めたのである。
それでは登場順・演奏順に概観してみよう。

●北田千尋(ヴァイオリン)1996年生まれ(桐朋学園大学4年在学中)
【曲目】チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
北田さんの演奏は、これまで桐朋学園大学関連のコンサートやサロンコンサートなどで室内楽を聴いたことがあったが、ソロを聴くのは初めてであった。演奏は、とても端正で素直。あまり無理矢理創り上げたようなところが感じられず、良い意味での優等生的であり、好感が持てる。音色は基本的に柔らかく、自然体の美しさ。全体の印象は優しい。音量も大きくはなく、ダイナミックレンジもあまり広くはない。チャイコフスキーの持つ憂いを秘めたロマンティシズムが美しい音色で穏やかに語られていく感じだ。

●髙木凜々子(ヴァイオリン)1996年生まれ(東京藝術大学音楽学部4年在学中)
【曲目】チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
高木さんの演奏は、日本音楽コンクールの予選会で一度聴いたことがある。その時はほとんど印象に残らなかったが、わずか数年の間に大きく変貌を遂げたようだ。まず、協奏曲のソロとしてオーケストラと対等に渡り合えるだけの大きなスケールを持っている。音量も非常にに豊かで、オーケストラ側に飲み込まれることはないチカラが感じられる。その上でダイナミックレンジが広く、精細なピアニッシモもしっかりとしたニュアンスで旋律を歌わせている。音色は華やか。低音域(G線)のガツンとくる押し出しから、高音域は伸びやか。ためらいの感じられない思い切った弾き方は立ち上がりの鋭い音を生み出している。いささか派手すぎるキライもあるが、協奏曲としてはこの上ない存在感を発揮できていると思う。何かが乗り移ったような高い集中と緊張を見せつつ、旋律がとても大らかに、そして表情豊かに歌っている。自身で創り出しているリズム感と推進力は、時にはオーケストラと咬み合わなくなることもあったが、とにかく自身の世界観を創り出しているので、聴く側に対しての訴えるチカラが強いのである。Bravo!が一番多く飛び交っていたのも、納得できる演奏だった。ひとつだけ気になったこと。第3楽章のロンド主題をもう少しテンポを上げると、より緊張感が高まり、スリリングに展開だろうと思った。リハーサルが短いコンクールでは合わせが難しかったのかもしれないが、今後の課題にして欲しいところだ。

●有冨萌々子(ヴィオラ)1996年生まれ(ウィーン国立音楽大学在学中)
【曲目】バルトーク:ヴィオラ協奏曲 Sz.120(シェルイ補筆版)
ヴィオラはまともな協奏曲が少ないので、コンクールの課題としてはこの曲が登場することになる。ヴァイオリンの著名な協奏曲とは違って、滅多にナマでは聴くことができない曲だけに、私たち一般聴衆にとっても、審査員の先生方にとっても評価が難しいのではないだろうか。有富さんの演奏は、全体に柔らかい音色で暖色系。丸みを帯びた音の形を感じる。ヴィオラ特有の温もりである。ただ逆に、ヴィオラ特有の内声部を受け持つ内向的な性格が演奏にも現れているような気がした。協奏曲なのだから、もう少し強く押し出しても良かったのではないか。中音域から高音域は、音色は太く柔らかいものの、ヴァイオリンとは最も異なる低音域(C線)の音量が小さく、あまりよく聞こえない。ヴァイオリンとの違いがあまり感じられず、むしろ内向性が目立ってしまうことになった。低音域をもっと強く押し出すことができれば、ヴィオラ協奏曲の存在感がぐっと増したと思う。

●関 朋岳(ヴァイオリン)1998年生まれ(東京音楽大学2年在学中)
【曲目】シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
関さんは昨年の弦楽部門の第2次予選で聴いている。関さんのヴァイオリンは、全体に線が細い印象で、音量もあまり大きくはない。演奏自体はシッカリしていて、細やかなニュアンスなども描かれていて、音楽的には豊かで深みがある。一方で、全体的に繊細な印象は、シベリウスの雄大な造形に対しては不満が残るところだ。もちろん、演奏自体はテクニックもある、細やかな表現もキチンと作られている。しかし私は最前列の目の前で聴いていたのだが、オーケストラにしばしば飲み込まれてしまい聞こえにくくなってしまうところがあった。実際問題として、2階席センターの審査員席までこの音がすべてのニュアンスまで伝わるものなのか、いささか不安に感じるくらいであった。
本選会は18時開演で、22時50分くらいには全曲の演奏が終了した。審査結果の発表ならびに表彰式は、45分後に大ホールのステージ上で行われた。私は結果発表まで立ち会うことなく、早々に帰宅した。東京文化会館のメールマガジンによってもたらされた結果は以下の通りであった。
《第16回東京音楽コンクール 本選・弦楽部門 審査結果》
第1位:関 朋岳(ヴァイオリン)
第2位:高木凜々子(ヴァイオリン)
第3位:有冨萌々子(ヴィオラ)
入 選:北田千尋(ヴァイオリン)
聴衆賞:高木凜々子(ヴァイオリン)
さて、私は本選しか聴いていないので、コンクールの全体像は知らないわけだが、今日、本選を聴いた限りでは、この審査結果にはいささか納得のいかないものを感じた。正直に言って、メールマガジンを見て唖然とてしまったのである。私が聴いた4名の感想を読んでいただければ、私が誰を押したかは想像できると思う。そして私だけでなく、第1位と聴衆賞が異なるという結果も、同じ考えの人が多かったことを物語っているのではないだろうか。業界の裏側で妙なバイアスが働いていなければ良いのだが、などと勘ぐってしまう。繰り返すが、あくまで本選を聴いた限りの話だとお断りしておくが・・・・。
私は、音楽はそもそも「聴く人がいてナンボのもの」だと思っているので、それが技術であれ、表現力であれ、発揮度であれ、人気であれ、聴く人に心に響いてこそ価値があるものだと信じている。その点で聴衆賞はウソをつかない。コンクールとしての評価はともかくとして、今日の4名の演奏の中では、高木さんの演奏が群を抜いて聴衆を沸かせていたのは事実なのだから。したがって、今後、追いかけてみたいと思ったのは高木さんなのである。
この「東京音楽コンクール」では、毎年年明けに「優勝者コンサート」を開催している。来年2019年は2月11日にここ東京文化会館・大ホールで開催されることが決まっていて、各部門の優勝者または最高位入賞者がオーケストラをバックに協奏曲などを演奏する事になっている。私は例年聴きに行っているが、来年は止めることにしようと思う。声楽部門と弦楽部門の本選を聴いて、何だかガッカリしてしまったのである。

審査は1人、2人の審査員で行なわれているのではない。複数人の審査員の方々から色んな意見や要望が出て、最後に全員が納得して出た結果なのである。私も会場の近くに生まれ住んでかれこれ70年。当 コンクールを聴きに来るようになって10年。予選会には6度しか来ていないが、本選は10回とも全て聴いている。結果には何の疑問も問題もない。今回の4人の演奏者は其々素晴らしい演奏とパフォーマンスを披露して貰った。
そんな業界の裏まで疑問を持つ様なら聴きに行くのは辞めたら。コンクールであって、ショーでは有りません。
私は予選も含めて聞きましたが、音楽貴公子さんが書かれているよう、皆さん素晴らしい音楽性を聴かせてくださったし、審査結果におかしいところはないと思います。
ちなみに"bravo"はフランス語とか英語ということで書かれていると思いますが、イタリア語起源の言葉だそうなので女性相手に"Bravo"は失礼な感じがしてしまいますが.....