ロンドン交響楽団 2010年来日公演(響きの森文京公会堂10周年記念事業)
2010年11月28日(日)15:00~ 文京シビックホール A席 1階 3列 24番 18,000円
指 揮: ワレリー・ゲルギエフ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: ロンドン交響楽団
【曲目】
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 第3楽章「ラルゴ」*
マーラー: 交響曲 第5番 嬰ハ短調
会場が文京シビックホールというだけで、ずいぶん雰囲気が変わってしまう。今日は一昨日に続いて、ロンドン交響楽団の公演。客層がサントリーホールとは少々違っている感じがする。客層だけでもなく、ホールの響きがイマイチの多目的ホールだけに、やむを得ないところだろうか。今回の日本ツアーの中で、今日だけという唯一の曲が、マーラーの交響曲第5番だ。言わずと知れた名曲である。
ソリストの諏訪内晶子さんを迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、今回のツアーでも相当弾き込んで来ていると思われる。実際、一昨日のサントリーホールでの公演を聴くかぎり、完璧な演奏に仕上がっていると思われる。今日は3列目のセンターという、協奏曲を聴くには絶好のポジションなので、まさにナマの音色が聴けるはずだ。
演奏を聴く限りは、サントリーホールの公演の際と変わらなかった。まずホールの違いだが、サントリーホールのように響きが良いところでは、かなり奥の方の席でも音はキレイに届いてきた。確かに音響のあまり良くない文京シビックホールではあるが、前から3列目ならホールの音響よりもソロ・ヴァイオリンやオーケストラの音を肌で感じ取ることができるからだ。
曲か始まって、ソロ・ヴァイオリンが鳴り出すと、その音の持つ力に圧倒される。豊かな音量と澄みきった音色。オーケストラの音量に埋没してしまうこともなく、際立つ音色が抜群の存在感で、オーケストラとは一線を画している。それでいてオーケストラと対立的な雰囲気は全くなく、見事な掛け合いとアンサンブルを聴かせている。消え入るような弱音にまで細心の技術で均質な音を作っていたし、一方で立ち上がりの鋭い低音の深い音をガツンと決めてくる。
第1楽章のカデンツァはまさに一人舞台。その見事な技巧もさることながら、十分にコントロールされている奥行きの深い表現力がまたまたスゴイ。第2楽章の主題を歌わせる部分では、まさに絹のように滑らかで艶やかな音色。そして第3楽章ではアクロバティックで外連味のない見事な技巧を、情熱的でありながら、一方で冷徹なまでの完成度をもって、演奏していた。強いて言うならば、音の大きなロンドン交響楽団に合わせていたためか、ソロ・ヴァイオリンの音量が常に大きめで、一本調子と言えなくもなかったが、広い会場の隅々まで音を通すためにはやむを得なかったのだろう。
いずれにしても、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴く機会が多かったこの一年だったが、ソロ・ヴァイオリンの演奏とオーケストラのクオリティ、そして聴く位置によるポイントを含めると、今日の演奏が最近のベストではなかったかと思う。
アンコールは一昨日とは違い、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番から第3楽章「ラルゴ」。アンコール曲の定番だが、ロンドン交響楽団のメンバーたちも聴き入ってしまう、説得力のある演奏だった。
休憩後のメイン・プログラムはマーラーの交響曲第5番。マーラーがあまり得意分野ではないといっても、この曲は知っている。今日の編成も、基本的には一昨日と同じ。弦5部はヴァイオリンが対向配置になっていて、第1の後ろにチェロを、その後ろの左奥にコントラバス、第2の後ろがヴィオラという配置だ。中央の雛壇には各パートが3~4の木管、その後ろにホルン6、右奥にトランペットとトロンボーン、チューバ。最後列に打楽器群…。といっても、木管から後ろの方は、3列目からだとほとんど見えなかったので、半分は想像で…。
第1楽章冒頭のトランペットのファンファーレから、上手い!! 主題が様々な楽器に移動して行き、徐々に厚みを増してくると、ロンドン交響楽団の分厚い音が早くも轟き出す。ゲルギエフさんは、かなり細かくニュアンスを付けた指示を出しながら、全体としてはやや遅めのテンポをとり、堂々たる骨太の構成だ。
第2楽章は、低弦の鋭い突っ込みからエンジン全開で、怒濤のごとき推進力を見せる。第2主題のチェロには、たっぷりと歌わせ、徐々に盛り上がっていく、ダイナミックレンジが広い。
第3楽章は、スケルツォ楽章だが、明るく陽気な楽想になると、ロンドン交響楽団の透明な弦楽アンサンブルと、ホルンやトランペットの艶やかな音色が楽しげである。ピチカートのアンサンブルもピタリと決まって、音の強弱にも細かなニュアンスが与えられていて素晴らしい。中間部の抒情的な旋律では、弦楽の美しさが、繊細きわまりない。
第4楽章のアダージェット。ある意味で、この曲で一番有名な部分だ。ハープの分散和音に乗る、あまりに感傷的で切なく、やるせないほどに美しい旋律と和声を、ゲルギエフさんは思い入れたっぷりに、テンポは揺らしまくり、旋律の美しさを強調する。だがそれが、嫌味にならないところが良い。涙を誘うような歌わせ方は、オペラのアリアのよう。感情が高ぶって行くと、人の呼吸がだんだん早くなって行くように、テンポの取り方やクレッシェンドによる盛り上げ方が、自然で、上手い。泣かせどころを知っている歴戦の指揮者ならではの妙技である。
第5楽章はロンド。第1主題のホルンがさりげなく上手い。第2主題からフーガになり、各パートが交替で次々と種旋律を奏でるようになると、まさん「オーケストラの饗演」といった感じだ。各パートのバランスが良く、高いレベルで技術的にも安定しているから、その色彩感は煌びやかだ。フィナーレに向かって、金管の咆哮から全合奏に至り、爆発的に曲が終わった。その音量、音圧は凄まじいものであり、この長い曲をあれだけパワフルに演奏してきたというのに、最後まで温存されていたエネルギーが迸るようだった。圧倒的なパワーを、それをまったく揺るぎないアンサンブルで押し通す。Braaaavo!! としかいいようがない。
ロンドン交響楽団を1日おいて、続けて2回聴いたことになる。シベリウスのヴァイオリン協奏曲と、マーラーの交響曲第1番と第5番。このプログラムはかなり濃厚だ。ゲルギエフさんは、シベリウスは諏訪内さんをメインに据えてサポートに徹し、マーラーは、「巨人」は比較的ストレートな表現で通し、第5番はゲルギエフ節をたっぷりと聴かせてくれた。表現力の幅が広く、曲によって柔軟な対応ができるところが、幅広い層に人気と信頼がある理由だろう。とにかく、ゲルギエフさんという音楽家はたいしたものである。そして、ロンドン交響楽団のポテンシャルの高さには、あらためて驚かされた。今年2010年は英国のオーケストラを3つ聴いたことになる。5月に聴いたイルジー・ビェロフラーヴェク指揮& BBC交響楽団、6月に聴いたエサ=ペッカ・サロネン指揮&フィルハーモニア管弦楽団、それ以外にもロイヤル・オペラも4回行った。ロイヤル・オペラは比較の対象にはならないと思うが、ふたつのオーケストラと今回のロンドン交響楽団を比べると、やはりロンドン交響楽団の方が1段も2段も格が上のような気がする。それほど、ゲルギエフ指揮&ロンドン交響楽団の印象は強烈だった。
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2010年11月28日(日)15:00~ 文京シビックホール A席 1階 3列 24番 18,000円
指 揮: ワレリー・ゲルギエフ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: ロンドン交響楽団
【曲目】
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 第3楽章「ラルゴ」*
マーラー: 交響曲 第5番 嬰ハ短調
会場が文京シビックホールというだけで、ずいぶん雰囲気が変わってしまう。今日は一昨日に続いて、ロンドン交響楽団の公演。客層がサントリーホールとは少々違っている感じがする。客層だけでもなく、ホールの響きがイマイチの多目的ホールだけに、やむを得ないところだろうか。今回の日本ツアーの中で、今日だけという唯一の曲が、マーラーの交響曲第5番だ。言わずと知れた名曲である。
ソリストの諏訪内晶子さんを迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、今回のツアーでも相当弾き込んで来ていると思われる。実際、一昨日のサントリーホールでの公演を聴くかぎり、完璧な演奏に仕上がっていると思われる。今日は3列目のセンターという、協奏曲を聴くには絶好のポジションなので、まさにナマの音色が聴けるはずだ。
演奏を聴く限りは、サントリーホールの公演の際と変わらなかった。まずホールの違いだが、サントリーホールのように響きが良いところでは、かなり奥の方の席でも音はキレイに届いてきた。確かに音響のあまり良くない文京シビックホールではあるが、前から3列目ならホールの音響よりもソロ・ヴァイオリンやオーケストラの音を肌で感じ取ることができるからだ。
曲か始まって、ソロ・ヴァイオリンが鳴り出すと、その音の持つ力に圧倒される。豊かな音量と澄みきった音色。オーケストラの音量に埋没してしまうこともなく、際立つ音色が抜群の存在感で、オーケストラとは一線を画している。それでいてオーケストラと対立的な雰囲気は全くなく、見事な掛け合いとアンサンブルを聴かせている。消え入るような弱音にまで細心の技術で均質な音を作っていたし、一方で立ち上がりの鋭い低音の深い音をガツンと決めてくる。
第1楽章のカデンツァはまさに一人舞台。その見事な技巧もさることながら、十分にコントロールされている奥行きの深い表現力がまたまたスゴイ。第2楽章の主題を歌わせる部分では、まさに絹のように滑らかで艶やかな音色。そして第3楽章ではアクロバティックで外連味のない見事な技巧を、情熱的でありながら、一方で冷徹なまでの完成度をもって、演奏していた。強いて言うならば、音の大きなロンドン交響楽団に合わせていたためか、ソロ・ヴァイオリンの音量が常に大きめで、一本調子と言えなくもなかったが、広い会場の隅々まで音を通すためにはやむを得なかったのだろう。
いずれにしても、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴く機会が多かったこの一年だったが、ソロ・ヴァイオリンの演奏とオーケストラのクオリティ、そして聴く位置によるポイントを含めると、今日の演奏が最近のベストではなかったかと思う。
アンコールは一昨日とは違い、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番から第3楽章「ラルゴ」。アンコール曲の定番だが、ロンドン交響楽団のメンバーたちも聴き入ってしまう、説得力のある演奏だった。
休憩後のメイン・プログラムはマーラーの交響曲第5番。マーラーがあまり得意分野ではないといっても、この曲は知っている。今日の編成も、基本的には一昨日と同じ。弦5部はヴァイオリンが対向配置になっていて、第1の後ろにチェロを、その後ろの左奥にコントラバス、第2の後ろがヴィオラという配置だ。中央の雛壇には各パートが3~4の木管、その後ろにホルン6、右奥にトランペットとトロンボーン、チューバ。最後列に打楽器群…。といっても、木管から後ろの方は、3列目からだとほとんど見えなかったので、半分は想像で…。
第1楽章冒頭のトランペットのファンファーレから、上手い!! 主題が様々な楽器に移動して行き、徐々に厚みを増してくると、ロンドン交響楽団の分厚い音が早くも轟き出す。ゲルギエフさんは、かなり細かくニュアンスを付けた指示を出しながら、全体としてはやや遅めのテンポをとり、堂々たる骨太の構成だ。
第2楽章は、低弦の鋭い突っ込みからエンジン全開で、怒濤のごとき推進力を見せる。第2主題のチェロには、たっぷりと歌わせ、徐々に盛り上がっていく、ダイナミックレンジが広い。
第3楽章は、スケルツォ楽章だが、明るく陽気な楽想になると、ロンドン交響楽団の透明な弦楽アンサンブルと、ホルンやトランペットの艶やかな音色が楽しげである。ピチカートのアンサンブルもピタリと決まって、音の強弱にも細かなニュアンスが与えられていて素晴らしい。中間部の抒情的な旋律では、弦楽の美しさが、繊細きわまりない。
第4楽章のアダージェット。ある意味で、この曲で一番有名な部分だ。ハープの分散和音に乗る、あまりに感傷的で切なく、やるせないほどに美しい旋律と和声を、ゲルギエフさんは思い入れたっぷりに、テンポは揺らしまくり、旋律の美しさを強調する。だがそれが、嫌味にならないところが良い。涙を誘うような歌わせ方は、オペラのアリアのよう。感情が高ぶって行くと、人の呼吸がだんだん早くなって行くように、テンポの取り方やクレッシェンドによる盛り上げ方が、自然で、上手い。泣かせどころを知っている歴戦の指揮者ならではの妙技である。
第5楽章はロンド。第1主題のホルンがさりげなく上手い。第2主題からフーガになり、各パートが交替で次々と種旋律を奏でるようになると、まさん「オーケストラの饗演」といった感じだ。各パートのバランスが良く、高いレベルで技術的にも安定しているから、その色彩感は煌びやかだ。フィナーレに向かって、金管の咆哮から全合奏に至り、爆発的に曲が終わった。その音量、音圧は凄まじいものであり、この長い曲をあれだけパワフルに演奏してきたというのに、最後まで温存されていたエネルギーが迸るようだった。圧倒的なパワーを、それをまったく揺るぎないアンサンブルで押し通す。Braaaavo!! としかいいようがない。
ロンドン交響楽団を1日おいて、続けて2回聴いたことになる。シベリウスのヴァイオリン協奏曲と、マーラーの交響曲第1番と第5番。このプログラムはかなり濃厚だ。ゲルギエフさんは、シベリウスは諏訪内さんをメインに据えてサポートに徹し、マーラーは、「巨人」は比較的ストレートな表現で通し、第5番はゲルギエフ節をたっぷりと聴かせてくれた。表現力の幅が広く、曲によって柔軟な対応ができるところが、幅広い層に人気と信頼がある理由だろう。とにかく、ゲルギエフさんという音楽家はたいしたものである。そして、ロンドン交響楽団のポテンシャルの高さには、あらためて驚かされた。今年2010年は英国のオーケストラを3つ聴いたことになる。5月に聴いたイルジー・ビェロフラーヴェク指揮& BBC交響楽団、6月に聴いたエサ=ペッカ・サロネン指揮&フィルハーモニア管弦楽団、それ以外にもロイヤル・オペラも4回行った。ロイヤル・オペラは比較の対象にはならないと思うが、ふたつのオーケストラと今回のロンドン交響楽団を比べると、やはりロンドン交響楽団の方が1段も2段も格が上のような気がする。それほど、ゲルギエフ指揮&ロンドン交響楽団の印象は強烈だった。
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