Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/28(日)ゲルギエフ+諏訪内晶子+ロンドン交響楽団でシベリウスVn協とマーラー交響曲第5番

2010年11月30日 00時56分13秒 | クラシックコンサート
ロンドン交響楽団 2010年来日公演(響きの森文京公会堂10周年記念事業)

2010年11月28日(日)15:00~ 文京シビックホール A席 1階 3列 24番 18,000円
指 揮: ワレリー・ゲルギエフ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: ロンドン交響楽団
【曲目】
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 第3楽章「ラルゴ」*
マーラー: 交響曲 第5番 嬰ハ短調

 会場が文京シビックホールというだけで、ずいぶん雰囲気が変わってしまう。今日は一昨日に続いて、ロンドン交響楽団の公演。客層がサントリーホールとは少々違っている感じがする。客層だけでもなく、ホールの響きがイマイチの多目的ホールだけに、やむを得ないところだろうか。今回の日本ツアーの中で、今日だけという唯一の曲が、マーラーの交響曲第5番だ。言わずと知れた名曲である。

 ソリストの諏訪内晶子さんを迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、今回のツアーでも相当弾き込んで来ていると思われる。実際、一昨日のサントリーホールでの公演を聴くかぎり、完璧な演奏に仕上がっていると思われる。今日は3列目のセンターという、協奏曲を聴くには絶好のポジションなので、まさにナマの音色が聴けるはずだ。
 演奏を聴く限りは、サントリーホールの公演の際と変わらなかった。まずホールの違いだが、サントリーホールのように響きが良いところでは、かなり奥の方の席でも音はキレイに届いてきた。確かに音響のあまり良くない文京シビックホールではあるが、前から3列目ならホールの音響よりもソロ・ヴァイオリンやオーケストラの音を肌で感じ取ることができるからだ。

 曲か始まって、ソロ・ヴァイオリンが鳴り出すと、その音の持つ力に圧倒される。豊かな音量と澄みきった音色。オーケストラの音量に埋没してしまうこともなく、際立つ音色が抜群の存在感で、オーケストラとは一線を画している。それでいてオーケストラと対立的な雰囲気は全くなく、見事な掛け合いとアンサンブルを聴かせている。消え入るような弱音にまで細心の技術で均質な音を作っていたし、一方で立ち上がりの鋭い低音の深い音をガツンと決めてくる。
 第1楽章のカデンツァはまさに一人舞台。その見事な技巧もさることながら、十分にコントロールされている奥行きの深い表現力がまたまたスゴイ。第2楽章の主題を歌わせる部分では、まさに絹のように滑らかで艶やかな音色。そして第3楽章ではアクロバティックで外連味のない見事な技巧を、情熱的でありながら、一方で冷徹なまでの完成度をもって、演奏していた。強いて言うならば、音の大きなロンドン交響楽団に合わせていたためか、ソロ・ヴァイオリンの音量が常に大きめで、一本調子と言えなくもなかったが、広い会場の隅々まで音を通すためにはやむを得なかったのだろう。
 いずれにしても、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴く機会が多かったこの一年だったが、ソロ・ヴァイオリンの演奏とオーケストラのクオリティ、そして聴く位置によるポイントを含めると、今日の演奏が最近のベストではなかったかと思う。
 アンコールは一昨日とは違い、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番から第3楽章「ラルゴ」。アンコール曲の定番だが、ロンドン交響楽団のメンバーたちも聴き入ってしまう、説得力のある演奏だった。

 休憩後のメイン・プログラムはマーラーの交響曲第5番。マーラーがあまり得意分野ではないといっても、この曲は知っている。今日の編成も、基本的には一昨日と同じ。弦5部はヴァイオリンが対向配置になっていて、第1の後ろにチェロを、その後ろの左奥にコントラバス、第2の後ろがヴィオラという配置だ。中央の雛壇には各パートが3~4の木管、その後ろにホルン6、右奥にトランペットとトロンボーン、チューバ。最後列に打楽器群…。といっても、木管から後ろの方は、3列目からだとほとんど見えなかったので、半分は想像で…。
 第1楽章冒頭のトランペットのファンファーレから、上手い!! 主題が様々な楽器に移動して行き、徐々に厚みを増してくると、ロンドン交響楽団の分厚い音が早くも轟き出す。ゲルギエフさんは、かなり細かくニュアンスを付けた指示を出しながら、全体としてはやや遅めのテンポをとり、堂々たる骨太の構成だ。
 第2楽章は、低弦の鋭い突っ込みからエンジン全開で、怒濤のごとき推進力を見せる。第2主題のチェロには、たっぷりと歌わせ、徐々に盛り上がっていく、ダイナミックレンジが広い。
 第3楽章は、スケルツォ楽章だが、明るく陽気な楽想になると、ロンドン交響楽団の透明な弦楽アンサンブルと、ホルンやトランペットの艶やかな音色が楽しげである。ピチカートのアンサンブルもピタリと決まって、音の強弱にも細かなニュアンスが与えられていて素晴らしい。中間部の抒情的な旋律では、弦楽の美しさが、繊細きわまりない。
 第4楽章のアダージェット。ある意味で、この曲で一番有名な部分だ。ハープの分散和音に乗る、あまりに感傷的で切なく、やるせないほどに美しい旋律と和声を、ゲルギエフさんは思い入れたっぷりに、テンポは揺らしまくり、旋律の美しさを強調する。だがそれが、嫌味にならないところが良い。涙を誘うような歌わせ方は、オペラのアリアのよう。感情が高ぶって行くと、人の呼吸がだんだん早くなって行くように、テンポの取り方やクレッシェンドによる盛り上げ方が、自然で、上手い。泣かせどころを知っている歴戦の指揮者ならではの妙技である。
 第5楽章はロンド。第1主題のホルンがさりげなく上手い。第2主題からフーガになり、各パートが交替で次々と種旋律を奏でるようになると、まさん「オーケストラの饗演」といった感じだ。各パートのバランスが良く、高いレベルで技術的にも安定しているから、その色彩感は煌びやかだ。フィナーレに向かって、金管の咆哮から全合奏に至り、爆発的に曲が終わった。その音量、音圧は凄まじいものであり、この長い曲をあれだけパワフルに演奏してきたというのに、最後まで温存されていたエネルギーが迸るようだった。圧倒的なパワーを、それをまったく揺るぎないアンサンブルで押し通す。Braaaavo!! としかいいようがない。

 ロンドン交響楽団を1日おいて、続けて2回聴いたことになる。シベリウスのヴァイオリン協奏曲と、マーラーの交響曲第1番と第5番。このプログラムはかなり濃厚だ。ゲルギエフさんは、シベリウスは諏訪内さんをメインに据えてサポートに徹し、マーラーは、「巨人」は比較的ストレートな表現で通し、第5番はゲルギエフ節をたっぷりと聴かせてくれた。表現力の幅が広く、曲によって柔軟な対応ができるところが、幅広い層に人気と信頼がある理由だろう。とにかく、ゲルギエフさんという音楽家はたいしたものである。そして、ロンドン交響楽団のポテンシャルの高さには、あらためて驚かされた。今年2010年は英国のオーケストラを3つ聴いたことになる。5月に聴いたイルジー・ビェロフラーヴェク指揮& BBC交響楽団6月に聴いたエサ=ペッカ・サロネン指揮&フィルハーモニア管弦楽団、それ以外にもロイヤル・オペラも4回行った。ロイヤル・オペラは比較の対象にはならないと思うが、ふたつのオーケストラと今回のロンドン交響楽団を比べると、やはりロンドン交響楽団の方が1段も2段も格が上のような気がする。それほど、ゲルギエフ指揮&ロンドン交響楽団の印象は強烈だった。

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11/26(金)ゲルギエフ+諏訪内晶子+ロンドン響でシベリウスVn協とマーラー「巨人」を皇太子様もご堪能

2010年11月28日 02時00分18秒 | クラシックコンサート
ロンドン交響楽団 2010年来日公演(KAJIMOTOワールド・オーケストラ・シリーズ)

2010年11月26日(金)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 2階 RD2列 11番 18,000円
指 揮: ワレリー・ゲルギエフ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: ロンドン交響楽団
【曲目】
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 第3楽章*
マーラー: 交響曲 第1番 ニ長調「巨人」

 今日のコンサートは会場の雰囲気が少し違っていて,なにやらものものしい感じがすると思ったら、皇太子殿下のご臨席とのこと。お席は、2階、RB2列の9番。なるほど…。ちなみに向かい側のLB2列の8番には小泉純一郎氏が着席されていた。何か、スゴイ日に来てしまったようだ。

 生誕150年にあたるマラー・イヤーの今年は、各地の各オーケストラがマーラーの楽曲をコンサートで採り上げているが、ロンドン交響楽団も、ワレリー・ゲルギエフさんの指揮で、ロンドンでマーラーの交響曲全曲ツィクルスを行っているという。今回の来日ツアーでも、マーラーの交響曲のうち、第1番『巨人」、第5番、第9番がプログラムに入っている。そのうち、第5番と第9番は交響曲全曲ライブ・レコーディングのシリーズで今シーズンに録音される予定で、準備万端といったところ。一方の「巨人」は日本ツアーに来る直前、11月19日にロンドンでも演奏されていて、日本ツアーでも4回も演奏されるから、最も完成されたカタチが聴かれそうである。
 また、ツアーに同行するのは諏訪内晶子さん。今回はシベリウスのヴァイオリン協奏曲を7回も演奏することになっている。ちなみに、今回の日本ツアーは、11/23~12/1の間に、大阪、さいたま、松本、東京(サントリーホール)、新潟、東京(文京シビックホール)、松戸、東京(サントリーホール)と、計8回のコンサートが組まれており、最終日のサントリーホールのみが協奏曲なしで、マーラーの交響曲第9番のみというプログラムになっている。

 諏訪内さんはここのところリサイタルは行っていないようで、もっぱらオーケストラとの共演で協奏曲ばかり聴いている。今年2010年は、3月にロイヤル・ストックホルム・フィルとの共演でブルッフの協奏曲を、5月には国立ノーヴァヤ・ロシア交響楽団との共演でショスタコーヴィチの第1番を聴いた。一頃、不調を伝えられていた時期もあったが、今年の演奏はかなり充実しているといって良い。どういうわけか、今年はシベリウスのヴァイオリン協奏曲をよく聴いたこともあって、比較する意味でも半年ぶりに聴く諏訪内さんのシベリウスに期待が高まって行く。

 さて演奏が始まる前に、オーケストラの配置についてもレポートしておこう。後半のマーラーへの準備も含めてだろうか、大編成のスペースが確保されているが、シベリウス用としては管楽器と打楽器が少ないので、うしろの 雛壇がずいぶん空いている。弦楽5部は、ヴァイオリンが対向配置で、第1の後ろにチェロ、その後ろにコントラバス(左奥)、第2の後ろがヴィオラとなる。ざっと数えたら、第1が14、第2、ヴィオラ、チェロが12、コントラバスが8人もいた(昨日聴いたドイツ・カンマー・フィルの2倍だ)。管楽器は2管編成で、前列がフルート2とオーボ2エ、次列がクラリネット2とファゴット2、3列目がホルン4。最後列にティパニ1。右側奥にトランペット2とトロンボーン3がいた。これが、後半のマーラーになると、弦の後ろが管楽器と打楽器でいっぱいになる、横一列に並んだホルン8人が壮観だった。

 今日のコンサートでは序曲がなく、いきなりシベリウスの大曲かせ始まる。諏訪内さんがいつものようにスラリと優雅に、胸元がV字に切れ込んだ濃紺のドレスで登場。う~ん、遠くから見ていても美しい…。
 シベリウスのヴァイオリン協奏曲がサワサワとした湖のさざ波のように始まり、ソロ・ヴァイオリンが主題をかぶせていく。驚くべきことに、今日は2階RD2列というかなり奥まった席で聴いているにもかかわらず、ヴァイオリンの音がくっきり明瞭に聞こえてくる。ことさら大きい音を出しているようにも、強く弾いているようにも見えないのだが、音色が明瞭なためか、かなり大きく聞こえるのだ。ストラディヴァリウス「ドルフィン」だから、ということでもないだろうが、音色は透明感の上に艶があり、この上なくキレイな音だ。それでいて過度に熱くなることもなく冷静に演奏している印象で、静かなること山のごとし、というところだ。カデンツァの超絶技巧部分も、相変わらずの素晴らしいテクニックで美しい音色を乱すことなく、ダイナミックかつ抒情的な歌っていく。オーケストラとの掛け合いも、ゲルギエフさんとの息もピッタリ。むしろゲルギエフさんがオーケストラを押さえ気味にうまくコントロールしていて、ソロ・ヴァイオリンがオーケストラの音量に埋もれてしまうことがまったくなかった。それにしても、よく鳴るヴァイオリンだ。
 第2楽章の低音部で始まるソロ・ヴァイオリンの主題の豊かな響きも秀逸。オーケストラがかぶってきてむせび泣くような旋律の表現には、微妙なニュアンスが描き分けられていて、切なさにも磨きがかかっている。緩徐楽章のゆったりとして旋律を表情豊かに、まったく乱れることなく演奏していた。諏訪内さん、お見事。
 第3楽章は情熱的な楽章だ。ゲルギエフさんもリズム感良く曲を作っていく。今日の諏訪内さんは、この楽章ではややアグレッシブになったものの、全体的にはあまり感情移入せずに、冷静かつ正確な演奏を保ち、シンフォニックな響きを持つ曲全体の構成・構造を正しく描き出そうとしていたように思う。ひとつひとつのおんぶの音色にまで、細心の注意が払われているように感じられるほど緻密な演奏。そして、繰り返しになるが、楽器がよく鳴っていて、パワーのあるロンドン交響楽団を相手に、たった一人で見事なバランスを保っていた。アクロバティックな所は微塵も感じさせない、上品で確信に満ちた、完成度極めて高い演奏だったと思う。

 休憩をはさんで、いよいよマーラーの「巨人」だ。マーラーはもともと苦手な分野だったが、最近は積極的な聴くようにしている。とくに「巨人」は親しみやすい旋律が、次々と出てくるので、好きな曲のひとつになった。
 ゲルギエフさんといえば、なかなかクセのある音楽作りをする指揮者という印象が強く、素晴らしい音楽家であることは十分承知しているが、個人的にはあまり好きな方ではなかった。曲をいじりすぎるような気がしていたからだ。だからマーラーのような濃厚な音楽では、かなりくどいものになってしまうのではないだろうかと思っていた。ところが、曲が始まってみると、意外にテンポをいじらずにストレートな演奏をしてくるではないか。もちろん随所に適度なアゴーギクはあるが、音楽の流れを極端に変えるものではなく、普通に聞き流せるどころか、曲作りとしてはむしろ巧くまとめていたという方が正しいだろう。
 また、テンポだけでなく、各パートのバランスも極めて良くまとまっていた。2階のRD2列だから、ステージからはかなり離れている分、オーケストラ全体がひとつの音の固まりとして聞こえてくるが、その点から見ても、弦楽5部、木管、金管、打楽器が巧くコントロールされていた。楽曲を敢えて盛り上げようとしなくても、マーラーのような壮大だが緻密に書かれた音楽は、スコアを忠実に守れば自然にドラマティックな演奏が出来上がるのであろう。
 第1楽章は、序奏部分の木管群がバランス良く弱音を演奏している。舞台裏で吹くトランペットが聞こえにくかったのが残念。席が遠かったからかもしれない。オーボエのカッコウの鳴き声などにもドロ~ンとしたところがなく、清々しい。チェロの主題が始まるあたり以降は、弦楽のアンサンブルのキレイさに耳を奪われる。ゲルギエフさんの音楽作りは、重くならずにリズム感良く推進していくが、軽くなってしまわないところが良い。第1楽章の終盤は、急速に盛り上がっていくところが迫力満点だ。速度が上がっていっても金管が乱れない。
 第2楽章はちょっと遅めのスケルツォ楽章だが、ここもリズム感良く進んでいく。中間部のヴァイオリンのアンサンブルが美しかった。
 第3楽章の主題、彷徨うようなコントラバスが一糸乱れず上手い。ここでも中間部の弦楽が美しい。それにからむオーボエもいやらしくない、素敵な演奏だ。彷徨う人々の行進が遠ざかっていくようにデクレッシェンドしていき…
 アタッカで演奏される第4楽章の冒頭、シンバル1発は目の覚めるような爽快感。主題提示部の怒濤のような推進力は、パワーが漲る演奏で、ロンドン交響楽団の本領発揮というところか。第2主題のヴァイオリンもまた、見事なアンサンブルで、涙を誘うようなロマンティックな旋律を歌わせる。再現部からコーダになだれ込み、ホルン8人が立ち上がって高く掲げて演奏する所は圧巻であった。フィナーレの爆発的な迫力といったら! ここまでパワーを温存していたのかと思えるほどの、圧倒的な迫力だった。

 曲を通しての全体の印象としては、何より各パートが非常に上手いと感じたことだ。やはり英国第一の、というよりは世界の一流のオーケストラだけのことあって、技術レベルは相当なもの。しかも指揮者の指示に的確に応えられる柔軟性を持っている。先ほどのシベリウスとマーラーとでは、音質も音量もまったく違うのである。
 金管セクションの爆発力は、もちろん人数がいることもあるが、かなりの音圧を感じるほど。かといって、音が濁ったりすることもなく、見事である。また、この曲では打楽器群も活躍するが、ふたりのティンパニと大太鼓による低音部の地響きのようなうなりは、2階までも伝わってくる。また、シンバルがうるさくならない程度の絶妙の音量で打ってくるため、アクセントの付き方がなかなか良い。
 オーケストラの全体としては、バランスが極めて良いことが特筆される。全合奏のffの時であっても、どれかの楽器が突出してしまうようなことがなく、見事にコントロールされていた。しかも、ダイナミックレンジが極めて広く、ppからffまで音質を損なうことがなかった。ロンドン交響楽団の演奏力とゲルギエフさんの統率力が見事なかたちで結晶していたといえるだろう。とにかく繰り返し演奏されている曲だけ合って、極めて完成度が高く、国際的なレベルでみても最高クラスに属する、とても素晴らしい演奏だった。

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11/25(木)NHK音楽祭2010/パーヴォ・ヤルヴィ+ジャニーヌ・ヤンセン+ドイツ・カンマーフィル

2010年11月26日 00時27分50秒 | クラシックコンサート
NHK音楽祭2010「偉大なるドイツ3大B-バッハ、ベートーヴェン、ブラームス-」
ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団

2010年11月25日(木)19:00~ NHKホール S席 1階 C5列 12番 12,000円
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: ジャニーヌ・ヤンセン
管弦楽: ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番

 昨日に引き続き、ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団のコンサート。今日はNHK音楽祭2010の最終日だ。さすがに音楽祭だけあって、昨日の都民劇場とは会場の華やかさがいつもと違う。しかし曲目は全く同じ、大きなNHKホールでドイツ・カンマー・フィルはどう鳴るのだろうか。今日の席はC5列。NHKホールの1階は平土間ではなく、2列目からわずかに階段状になっているので、5列目になるとステージ全体が見渡せる高さになる。最後列の金管群がなんとか見える状態だった。トランペットが古楽器を使っているのが見えた。

 曲目は同じだし、演奏の方も基本的には昨日と変わらないので、詳しいコメントは避けるが、素晴らしい演奏会だったことは間違いない。ジャニーヌ・ヤンセンさんは相変わらず、ガシガシ弾いていたし、パーヴォ・ヤルヴィさんは、快速で突っ走る。ものすごい推進力とエネルギーが爆発するような演奏だ。全体としては、今日の方がさらにノリが良かったように思う。その分、「運命」では少々アンサンブルがバラつく箇所があったような気がした(気のせいかもしれない?)。
 アンコールも同じ曲だったのはちゅっと残念。ただし、ハンガリー舞曲での弦の美しさは素晴らしいものがあった。
 いずれにしても、全く同じプログラムを2日続けて聴くのも珍しいことだが、これほど強烈な演奏を2回聴くことができて、本当に幸せだった。
 実は、パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートは来週もある。今度はシューマンの交響曲全曲ツィクルス。こちらも2日続けて東京オペラシティに行く予定。またまた新鮮な驚きを体験したいものだ。

 なお、今日のコンサートは、テレビ放送用に収録されていて、数えたら6台のカメラが入っていた。放送は、12月4日(土)午後10時~翌日午前2時のNHK/BS-hiの「プレミアム・シアター」と12月24日(金)午後10時~翌日午前2時のNHK教育テレビ「NHK音楽祭ハイライト2010」。会場に来られなかった方は、ぜひ怒濤のような演奏をお聴きになってください。

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11/24(水)「疾風怒濤」パーヴォ・ヤルヴィ+ジャニーヌ・ヤンセン+ドイツ・カンマーフィル

2010年11月25日 01時01分26秒 | クラシックコンサート
都民劇場・音楽サークル 第583回定期公演/ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団

2010年11月24日(水)19:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 1列 19番 11,000円
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: ジャニーヌ・ヤンセン
管弦楽: ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番

 パーヴォ・ヤルヴィさん率いるドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーは、東京では今日の「都民劇場」での公演と明日の「NHK音楽祭」の公演が同じプログラムで行われ、来週11/3と11/4には東京オペラシティコンサートホールでシューマンの交響曲全曲ツィクルスが組まれている。明日の「NHK音楽祭」での公演は、当然FMラジオでの生放送や、後日のテレビ放送もあるので、クラシックのコンサートとしては派手な装いのものになるが、今日は「都民劇場」なので若干地味めである。とはいえ、プログラムは全く同じ。会場による音響と雰囲気が違うだけだ。
 ドイツ・カンマー・フィルが技術的には申し分ない素晴らしい室内オーケストラだということは十分承知していたし、大好きな指揮者の1人であるパーヴォ・ヤルヴィさんが振るということと、ジャニーヌ・ヤンセンさんの協奏曲が聴けるということで、今年のNHK音楽祭はドイツ・カンマー・フィルだけチケットを取っていたのだが、都民劇場でも良い席が取れたので、二日続けて同じプログラムを聴くことになったのである。

 会場に着いて驚いたのは、舞台裏でオーケストラのメンバーが入念にウォーミング・アップしていたこと。ブラームスの協奏曲のメロディが聞こえてくる。しかもチューニングも舞台裏できちんと合わせている。かなりの本気モードだ。やがてメンバーが入場。室内オーケストラらしく、かなり小規模編成だ。弦楽は、第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ6、チェロ6、コントラバス3。プラス2管編成。配置はヴァイオリンが対向配置になり、第1の後ろがチェロ、第2の後ろにヴィオラとなり、コントラバスはチェロの後ろ、つまり左奥となる。ホルンも左奥、従ってトロンボーンは右奥、ティンパニは右奥端に配置されていた。

 1曲目は「プロメテウスの創造物」序曲。冒頭の和音から、切り詰めたような合奏で、あっと言わせる。主題提示部になると、小気味よいテンポで、見事なアンサンブルを聴かせてくれる。ヤルヴィさんのキレの良い指揮ぶりは、カンマーフィルになると、より一層際立って、鋭さを増してくる。オーケストラのメンバーも指揮者をよく見ていて、真剣度合いが伝わってくる。オープニングの序曲から、ものすごく緊張度の高い演奏だった。

 2曲目の協奏曲になると、コンマスさん自らが椅子を動かしてソリストのスペースを作ったりして手作り感覚なのもほほえましい。ここでのチューニングでは、オーボエからもらったAの音をコンマスさんが弦の各バートの前まで行って念入りに音合わせをしている。こういうところを見ても、アンサンブルを完璧を目指しているのがわかる。
 ジャニーヌ・ヤンセンさんが登場するとステージがパッと明るくなる。1978年生まれの32歳。体格は大柄だが、小顔の美人で、まだ初々しさの残る笑顔が素敵なヴァイオリニストだ。母国オランダでは絶大な人気のスター演奏家らしい。

 第1楽章が始まり、ソロのない主題提示部が長く続くと、ヤンセンさんはうっとりとして表情でオーケストラの音に聴き入っている。ところが、ソロが始まると表情が一転、かなり攻撃的な演奏をする人なのだ。彼女のことはもちろん以前から知っていて、技巧的にも世界のトップクラスの実力を持っていることも承知しているが、イメージはどう見ても「肉食系」。大きな身体で小さなヴァイオリンを抱え込むように持ち、太い二の腕(失礼)でガシガシ弾くのだ。技巧派というよりは力で押し切るタイプだ。
 そして繊細かつ内省的なブラームスに、彼女のパワフルこのうえない演奏が……意外に合う(かもしれない)のだ。ヤルヴィさんの早めのテンポとキレ味の鋭いドイツ・カンマー・フィルの演奏に乗ると、ヤンセンさんの肉食系の演奏が実に生き生きと浮き上がってくる。弱音部分でもあまり繊細さはあまり感じられないが、強音時の強烈な個性は圧倒的に素晴らしい。間近の席で聴いていたせいもあるが、ものすごいオーラを放っているようであった。
 第2楽章は甘美な主題を奏でるオーボエがことのほか美しかった。このオーボエさんもかなり上手い。さすがに緩徐楽章ともなれば、ヤンセンさんのヴァイオリンも抒情的な演奏に変わる。繊細な弱音が1727年製のストラディヴァリウス「Barrere」から艶やかに流れていく。優しく弾けば優しい音が出る楽器もまた素晴らしい。
 続けて演奏される第3楽章は、またまた野性的な咆哮となる。この楽章はテンポの取り方次第ではものすごく重々しくなってしまうようだが、今日のヤルヴィさんの早めのテンポとリズム感はお見事というしかない。その快適な伴奏に乗って、ヤンセンさんのヴァイオリンが生き生きと跳ね回る。鋭い立ち上がりを見せる彼女の音色は、ヤルヴィさんの巧みなオーケストラ・ドライブによって、一層際立って輝きを増し、決してオーケストラの音に埋没することはない。とにかく、躍動的なリズム感と推進力によって、ブラームスの名曲が、まったく違う曲になってしまった印象だが、それは決して悪い意味ではない。今が「旬」のふたりの演奏家が、まさに現代的な解釈によって、現代的な演奏を試みたのだと思う。「快演」であることは間違いない。ヤンセンさんの圧倒的な存在感に、Brava!!をおくろう。

 後半のメイン・プログラムは「運命」だ。この知り尽くした曲を、パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマー・フィルはどのように料理してくれるのか、興味津々であった。これまでもヤルヴィさんの演奏は何度か聴いているので、キレの鋭い演奏になるだろうとは想像していたのだが…。良い意味で期待ハズレ、いや期待を大幅に上回る演奏で、打ちのめされた感がある。
 第1楽章の「運命の動機」を短くガツンと打ち出す。後はかなりのスピード感で突き進んで行く。快速のテンポに、オーケストラのアンサンブルがピタリと決まっていて、しかもこの小編成とは思えないほどダイナミックレンジが広い。いや、小編成ならではのppのキレイさと、ffの爆発力したいしたものだ。
 第2楽章のかなり早めのテンポ設定でグイグイと押し出して行く。
 第3楽章のスケルツォは主題部でホルンが音を割るほどの迫力を出すかと思えば、トリオ部でのチェロとコントラバスで始まるフーガの早さといったら! それでもオーケストラは一糸乱れぬアンサンブルで怒濤のごとく駆け抜けて行く。
 続く第4楽章、ハ長調に転じた歓喜の主題はトロンボーンを加えた金管が吠えるところだが、弦のパワーも負けていず、全体としては素晴らしいバランスで輝かしい主題が爆発した。まさに怒濤のような推進力で第2主題に。そして、予想した通りに、主題提示部をリピート。この楽章では、オーケストラの音量もかなりのもので、あの小編成から何故こんなパワーが生まれてくるのか不思議なくらい、スゴイ。そして、駆け抜けるようにフィナーレを迎えた。全曲を通してかなり早目のテンポ設定だったが、フレーズの切れ目などに微妙な間合いがあって、決して一本調子ではないところが、ヤルヴィさんの上手いところ。

 今日の演奏は、オーケストラの各パートともキチンとしたリズムで統一されていて、キレ味抜群、それぞれの音が明瞭に分離してハッキリと聞こえる。にもかかわらず、全体のバランスが見事にコントロールされているために、アンサンブルは抜群の上手さだ。室内オーケストラの長所を見事に活かした、素晴らしい演奏だったと思う。もともとが古楽奏法と現代性の両面を追求したオーケストラであるだけに、意外性と驚きの連続ではあったが、「現代のベートーヴェンは、かくあるべき」というあまりに強い主張を目の当たりにすると、これは好みの問題ではなく、納得せざるをえない。20世紀的な重厚長大なベートーヴェンも良いし、今日のような演奏もまた素晴らしい。自分の好みで演奏の良否を判断してしまいがちだが、そんな個人的な見解などを吹き飛ばしてしまうだけの「力」を持った「快演」だった。ヤルヴィさんとドイツ・カンマー・フィルに脱帽、まちがいなしのBravo!!である。
 明日もまた、NHKホールで同じプログラムを聴く予定。2日続けて同じものを聴いてもしょうがないのでは…とも思っていたのだが、今日聴き終わってみると、また明日聴けるのが楽しみになってしまった。ブラームスも、ベートーヴェンも、とにかくもう一度聴きたくなるような、新鮮さに満ちた演奏なのである。

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11/21(日)東京二期会/オペレッタ「メリー・ウィドー」極上の恋愛喜劇に笑いっぱなしの3時間

2010年11月23日 02時43分26秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京二期会オペラ劇場/オペレッタ『メリー・ウィドー』全3幕(日本語上演)

2010年11月21日(日)15:00~ 日生劇場 C席 2階 H列 38番 8,000円
指 揮: 下野竜也
管弦楽: 東京交響楽団
合 唱: 二期会合唱団
演 出: 山田和也
日本語台本: 佐藤万里
訳 詩: 野上 彰(ワルツは堀内敬三)
出 演: ハンナ・グラヴァリ: 澤畑恵美
    ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵: 星野 淳
    ミルコ・ツェータ男爵: 加賀清孝
    ヴァラシェンヌ: 菊地美奈
    カミーユ・ド・ロジョン: 上原正敏
    カスカーダ子爵: 大川信之
    サン・ブリオッシュ: 北側辰彦
    クロモー: 福山 出
    ボグダノヴィッチ: 小川裕二
    シルヴィアーヌ: 佐々木弐奈
    オルガ: 加賀ひとみ
    プラシコヴィア: 与田朝子
    プリチッチュ: 米谷毅彦
    マキシムの踊り子たち ロロ: 芝沼香織
               ドド: 鈴木純子
               ジュジュ: 浪川佳代
               フルフル: 柿谷美雪
               クロクロ: 後藤絵美
               マルゴー: 鈴木美也子
    ニェーグシュ: 鎌田誠樹

 東京二期会の2010/2011シーズンの公演で、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』(2010年7月)、モーツァルトの『魔笛』(2010年9月)に続いての第3弾が、レハールの傑作オペレッタ『メリー・ウィドー』である。公演は、2010年11月19日(金)・20日(土)・21日(日)・23(火・祝)日の4回で,本日はその3日目。いつものようにダブル・キャストが組まれ本日のキャストは19日・21日組である。
 何よりも嬉しいのは日本語による公演だと言うこと。もともとオペレッタには上演地の言語で行うという習慣もあり、言語の壁に苦労しながら観てもしょうがない、というくらいにお気楽に楽しもうという面を持っている。歌と台詞によって物語を進めていくジングシュピールの形式で、軽妙洒脱な喜劇中心でだということも手伝って、台本も比較的気軽に翻案されてしまう。今回の東京二期会の公演も、単純に日本語化したというだけでなく、芝居っけたっぷりの楽しい台本に仕上がっていた。字幕を追いかける必要がないのは誰にでも共通だから、子供たちでも楽しめると言うことで、これはこれでとても素晴らしいことだと思う。
 個人的にもオペレッタは好きな方なので、とくに人気の『メリー・ウィドー』やヨハン・シュトラウスIIの『こうもり』が上演されるときは、できるだけ足を運ぶようにしている。オペラやクラシック音楽とはちょっと違って、難しいことは一切考えずに、お気軽に楽しめるところが実に良い。今日はとても気持ちの良い3時間を過ごさせてもらって、大満足だった。

 『メリー・ウィドー』の作品としての素晴らしさは、何といってもその魅力的な音楽にある。一度聞いただけてすぐに覚えてしまえるほど、単純で親しみやすい旋律、ワルツやフレンチ・カンカンなど浮き浮きするようなリズム感、底抜けに明るい、バカバカしいほど楽しげな音楽が、前奏曲からフィナーレまでぶっ続け。よくもまあ、これほどオメデタイ音楽を作ったものだというくらい陽気だ。そして描かれている物語が毒気のまったくない恋愛喜劇だ。主人公のハンナとダニロの恋の行方はともかくとして、サブ・ストーリー的に描かれているのは、男も女も皆「浮気」をしている。決して「不倫」のイメージではない、あくまで「浮気」なのだ。だから「浮気」がバレたとしても、どちらかが謝ってしまえば最後は簡単にハッピーエンドになるし、そういう結末を皆が望んだいるのだ。だから、円満な夫婦が連れ立って観に行っても楽しめるし、逆に不倫関係のカップルがお忍びで観に行っても、やはり笑えるのだ。だからこそ100年以上にもわたって世界中で愛され続けられる作品になったのだろう。

 今日の上演について振り返ってみよう。
 ハンナ・グラヴァリ役の澤畑恵美さんは、東京二期会のプリマ・ドンナとして貫禄の歌唱と演技で観客を魅了した。ステージに現れるだけで華がある存在感は素晴らしい。艶のある柔らかな声と美しい立ち姿に加えて、煮え切らないダニロに苛立つ風情などは、女性的な仕草やオペレッタ風の大袈裟な演技がとても素敵だ。有名な「ヴィリアの歌」も拍手喝采で、観客の拍手に応えてしまう所などはオペレッタならではの楽しさだ。
 ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵役の星野淳さんは、根は生真面目なのにマキシムで羽目を外す時のニヤケ方など、良い味を出していた。もちろん歌唱力も素晴らしく、第3幕最後の「Lippen schweigen(閉ざした唇に/メリー・ウィドーのワルツ)」の甘~い歌声はホロっとさせられた。星野さんは今シーズン2010年12月~2011年1月の新国立劇場の話題の新制作『トリスタンとイゾルデ』に出演されるなど、活躍中である。
  ミルコ・ツェータ男爵役の加賀清孝さんはさすがにベテランの味わい。どこか抜けている公使役を楽しんで演じているようだった。台詞が多い役なのだが、よく通るバリトンが聞きやすい。
 ヴァラシェンヌ役の菊地美奈さんは、明るいキャラクターがこの役にピッタリ。浮気っぽい女でありながら貞淑な妻でもあり、ちょっとわがままでお侠な役柄を生き生きと演じ、歌って、踊っていた。実際この役は、公使夫人でありながら元歌手という設定なので、第3幕はミュージカルのように歌って踊って、フレンチ・カンカンまでやらなければならないから、なかなか大変な役である。菊地さんはカン高い笑い声がよく通り、踊り子たちに中にいても存在感がある。スラリとした立ち姿もこの役によく合っているようだ。もちろん歌唱も素晴らしかった。若々しい躍動感があり、エネルギッシュで生き生きとした歌唱に、Brrrrava!! である。菊地さんは、東京二期会の来年2011年4月の公演『フィガロの結婚』でスザンナを歌うことが決まっていて、やはり活躍中だ。彼女のキャラクターはスザンナにもピッタリだと思うので、来年4月が楽しみだ。
 カミーユ・ド・ロジョン役の上原正敏さんは甘いテノールが素敵だ。第2幕の後半、ヴァラシェンヌを口説いて東屋に連れ込むシーンの二重唱は、たっぷりと叙情的に歌い、人妻をよろめかせるだけの説得力のある(?)歌いっぷりだった。
 もうひとり大事な役回りのニェーグシュ(歌のない台詞だけの役)は、ミュージカル俳優の鎌田誠樹さんが演じた。この役は年寄りのイメージが強いが、今回は大使館の書記官というよりは、若い使いっ走りのような演出になっていた。やはり大袈裟な身振りが芝居っけたっぷりで、大いに笑わせてくれた。
 
 オーケストラの演奏については、指揮者の下野竜也さんが東京二期会で振るのは久しぶりらしいが、最近の彼の活躍ぶりと評価の高さをうなずかせるに十分な、素晴らしい演奏だった。『メリー・ウィドー』の音楽は明るく優雅で、全編が踊りのリズムに溢れている。それだけに演奏のリズム感が悪かったり、重くなってしまうと、ウィーンっぽい軽妙さやハンガリーっぽい躍動感がなくなり、ぶち壊しになってしまう。日本のオーケストラではしばしば真面目に演奏しすぎてカタッ苦しく重くなってしまうことがあるのだが、今日の下野さんは実に軽快にノリとキレの良い演奏で楽しませてくれた。
 東京交響楽団も、音響の悪い日生劇場であることを忘れさせるほど、全体的に明快な音を聴かせていた。各ソロの部分なども切なく感傷的な音色で、オペレッタに色彩感を与えていた。下野さんと合わせて、Bravo! な演奏だった。

 東京二期会のオペラ上演はいつも上質である。安易に海外から実力のある歌手を呼んだりもせず、二期会所属の歌手たちと合唱団だけで上演するという考え方も素晴らしく、共感できる。実際に彼らの音楽的なクオリティはかなり高く、ヨーロッパの地方都市の中堅歌劇場か、あるいはそれ以上の実力は十分にあると思うのだが(何よりも歌手たちの層が厚い)、悲しいことに常設の劇場とオーケストラを持たず、音楽監督も置かれていないために肝心の音楽が上演のたびにバラつきがあるように感じる。実に惜しいことだ。だか今日は、そんな思いを払拭させてくれた、非常に楽しい3時間だった。何より、指揮の下野さんを始め、歌手の方々、合唱団、オーケストラのまとまりが実に良かった。細かいことは気にならないオペレッタだったからというわけではないだろうが、聴衆も一緒になって手拍子をしながら、大いに楽しんだ、幸せに満ちた日曜日の午後だった。

 珍しく、アフター・オペレッタのお話し。
 日生劇場から歩いても5~6分、銀座7丁目の「音楽ビヤプラザ ライオン銀座店」に行った。この店は基本的にはビヤホールだが、店内にミニ・ステージとグランド・ピアノがあって、クラシックの音楽家たちが毎日ライブ・ステージを繰り広げるという趣向の店である。出演する音楽家たちは、皆さん本格的なレベルのプロの方たちで、歌曲を多く採り上げるためか、声楽家の方々も多い。実は、今日の『メリー・ウィドー』でヴァラシェンヌを歌った菊地美奈さんもここのメンバーのひとり。もちろん今日は日生劇場に出ているのだから、ここ「音プラ」への出演はないが、クラシック音楽やオペラ好きには楽しいお店なので、アフター・オペレッタと洒落込んだわけである。
 そうして音楽と食事を楽しんでいたら、当の菊地美奈さんが来店。公演の打ち上げの前に顔を出してくれたようだ。今日は『メリー・ウィドー』からの流れのお客も何組かいらっしゃっていたようで、あちこちのテーブルでお話しが盛り上がっていた。私はといえば、『メリー・ウィドー』のプログラムを持っていたので、早速サインをいただいたり、記念写真を撮ったりと…。でも、ついさっきまでオペレッタの準主役を歌っていたご本人とお話しできるなんて、本当に素晴らしいことですよね(*^^)v。


なぜか出演者の写真が皆私服姿というプログラムにサインしていただきました。


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