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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/12(土)菊地美奈/20周年記念公演「メリー・ウィドウ」/ステージと客席が一体となった極上の世界

2015年09月12日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
菊地美奈 オペラデビュー20周年記念公演
レハール作曲『メリー・ウィドウ』全3幕・日本語訳詞上演


2015年9月12日(土)14:00~ 第一生命ホール S席 1階 3列(最前列)22番 10,000円
指 揮: 飯坂 純
ヴァィオリン: 成原 奏
チェロ: 寺田達郎
パーカッション: 伊勢友一
ピアノ: 瀧田亮子
舞台監督: 小野寺東子
照 明: 西田俊郎
舞台協力: (一財)オペラアーツ振興財団
衣 裳: 東京衣裳
ヘアメイク: 星野安子
協力: 東京オペラ・プロデュース
稽古ピアノ: 黒木直子、矢崎貴子  
【出演】
ハンナ・グラヴァリ: 菊地美奈
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵: 与那城 敬
ミルコ・ツェータ男爵: 池田直樹
ヴァランシエンヌ: 赤星啓子
カミュー・ド・ロジョン: 中鉢 聡
カスカーダ子爵: 岡本泰寛
サン・ブリオッシュ: 羽山晃生
シルビアーヌ: 鹿内真理
オルガ: 小林由佳
プラシコヴィア: 北澤 幸
クロモー: 秋本 健
ボグダノヴィッチ: 大久保光哉
プリチッチュ: 米谷毅彦
ロロ: 阿部佳美
ドド: 小村朋代
ジュジュ: 本田望美
ニェーグシュ: 東 浩市

 ソプラノの菊地美奈さんがオペラ・デビュー20周年を迎えた。それを記念しての自主公演で、演目はやっぱり底抜けに楽しいオペレッタ『メリー・ウィドウ』。お祭り騒ぎにはピッタリの演目で、美奈さんの真骨頂といったところだ。美奈さんのオペラ・デビューは学生時代の調布市民オペラで『椿姫』のアンニーナ役とのことだ。新国立劇場デビューは2000年の『リゴレット』チェブラーの伯爵夫人役、二期会デビューは2001年の『こうもり』イダ役。以降、様々な作品に様々な役で出演を続け、今回の『メリー・ウィドウ』のハンナ役で70役になるという。常に第一線で活躍し続けた証しであろう。
 私が初めて美奈さんの歌唱を聴いたのは、2006年の東京二期会のオペラ公演『皇帝ティトの慈悲』でのセルヴィーリア役だった。フレッシュで元気いっぱいの人だなあ、といった感じで、カーテンコールの時に隣の席の高齢の女性が「可愛いらしいわねェ」とつぶやいていたのを鮮明に覚えている。その後、ご本人に直接お会いしたのは、2010年の東京二期会のオペラ公演『メリー・ウィドウ』の時である。その公演では、美奈さんはヴァラシエンヌの役で歌って踊って浮気しそうになって、とても楽しそうに演じていた。その公演は会場が日比谷の日生劇場だったので、アフター・オペレッタに銀座の「音楽ビヤプラザ ライオン銀座店」に行ったところ、そこの企画プロデューサーでもある美奈さんが公演の打ち上げ前に顔を出された。その時にお店の常連だった友人に紹介していただいたのである。以来、東京二期会の公演では、2011年の『フィガロの結婚』のスザンナ役2013年の『ホフマン物語』のジュリエッタ役、コンサートでは2013年8月、紀尾井ホールでの「うたのおもちゃ箱」など、毎回、美奈さんにお願いして最高の席を用意してもらっている。嬉しい限りである。今回もご案内をいただいたのですぐに申し込んで、最前列かぶり付きの席を用意していただいた。

 会場となった第一生命ホールは、767席の音楽専用の中ホール。大きくないので、歌手の皆さんも無理に声を張らなくても良いので歌いやすいだろう。ただし、オペラを上演する上での問題点は、幕がないことと、オーケストラ・ピットが作れないことか。前者は照明を駆使してコントロールし、後者は4名の室内楽アンサンブルをステージ上手側の隅に配置して演奏するという方法でクリアしていた。飯坂 純さんが指揮をして、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、パーカッションのアンサンブル。ビアノは瀧田亮子さんだから安心して聴けるし、『メリー・ウィドウ』は恋愛喜劇なのでヴァイオリンの甘い調べは欠かせないところ。この規模のホールではちょうど良いスケールであった。
 ステージには3方向に壁を立て、出入り口となる扉がある。超欧にはアンティークな長椅子が置いてある。セットとしてはそれだけなのだが、まあ、今日会場に来ている人は『メリー・ウィドウ』は知り尽くしているだろうから、豪華なセットなんか必要ない。ただし衣装はきちんと整えられていて、第1幕は夜会服、第2幕はポンテヴェドロ(?)の民族衣装、第3幕のフレンチ・カンカンなど、それなりにお金がかかっていそうであった。

 本編のストーリーは、皆さんよくご存じだろうから割愛させていただくとして、物語は元々のストーリーに従って、基本的には忠実に台本化されていた。もちろん全編が日本語による上演。歌詞も台詞も、である。最前列で聴いているので当たり前には違いないが、聴き取りやすく、分かりやすい訳詞であった。プログラムには台本がどなたの手によるものなのか、また演出者の名も記載されていないところをみると、美奈さんによるものなのかもしれない。オーソドックスな展開で、『メリー・ウィドウ』を知り尽くした人たちを惑わせたりはしない。とにかく、コツというか勘所をおまく押さえていて、テンポ感良く、物語が進んでいく。聴衆の方もよく心得ていて、演奏中でもタイミング良く拍手を入れたり、手拍子を打ったりしていた。
 第2幕の中ほど、「女! 女! 女!」を何度もアンコールしたり、女性陣に入れ替わり「男! 男! 男!」を歌ったりと、『メリー・ウィドウ』ではお馴染みの演出をどんどん盛り込んでいる。こんなところにも美奈さんのヤル気が窺えるのだ。
 オリジナルの演出として凝っていた点は、聴衆にも参加させて一緒に楽しもうという試み。いかにも美奈さんらしい思いつきである。まず、第2幕冒頭の「ヴィリアの歌」の合唱部分を聴衆に一緒に歌わせるというもの。そのためにプログラムには楽譜まで載っていて、第2幕の始まる前にちゃんと練習までした(合唱指導はボグダノヴィッチ役の大久保光哉さん)。これは結構楽しくて盛り上がった。もうひとつは、入口で配布されたルミカライトを、第3幕の「唇は語らずとも」のところで、皆でポキポキと折って光らせ、音楽に合わせて振り、ムードを盛り上げるというもの(点灯指導(?)はカスカーダ子爵役の岡本泰寛さん)。何でもありのオペレッタならではの楽しい演出である。

 上の出演者の一覧を見ていただければ分かるように、なんとまあ豪華なメンバーが集まったことか。東京二期会の本公演よりスゴイ。しかも二期会の同僚だけでなく、藤原歌劇団や他の団体の人もまざっていて、皆さんの人脈、あるいは人徳がものをいっているようだ。
 まず、ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵役の与那城 敬さん。バリトンの役柄だが、与那城さんは見た目もスラリとしたイケメンでダニロの適役だ。重すぎない伸びのある声質で、声量も豊か。歌唱の上手さは定評があるし、演技も上手い。やはりこの役は歌が上手いだけではなくカッコ良くないと様にならない。
 ミルコ・ツェータ男爵役しベテランの池田直樹さん。とぼけた味わいと軽妙さのバランスが見事な演技で、これまたピッタリの配役である。ズシンと響くような豊かな声量で本格派の歌唱を聴かせる一方で、物語の進行役に近い重要な役柄を、軽妙に、楽しそうに演じていた。
 ヴァランシエンヌ役の赤星啓子さんは、今日の公演では可愛らしいキャラになっていて、コケティッシュな演技で楽しませてくれた(この役は色っぽいキャラ設定にすると別の意味で面白い)。キレイな声がよく通るソプラノで歌唱も素晴らしい。もとが踊り子だったという設定だから、第3幕ではフレンチ・カンカンを踊ったりして、大変そうである。
 カミュー・ド・ロジョン役の中鉢 聡さんも、伊達男のパリ野郎というキャラにピッタリのイケメン・テノールである。演技も上手い。ただ、歌唱の方は調子があまり芳しくなかったようで、ちょっと辛そうなところがあった。
 他の皆さんも一流どころが集まっているだけのことはあって、贅沢すぎるキャスティングである。中でもオルガ役の小林由佳さんはがさりげない演技で笑わせてくれた。またプラシコヴィア役の北澤 幸さんもオバサン・キャラに徹して、派手な化粧をして笑わせてくれた。本当はとてもキレイな人なのに・・・・。
 そして主役。ハンナ・グラヴァリ役の美奈さん。『メリー・ウィドウ』は登場人物たちのキャラが立っているし、サブ・ストーリーも面白いので、ハンナにばかり注目が集まるわけではない。要するに、登場人物中、目立った人が主役になれる、というようなところがある。今日の主役はもちろん美奈さんだ。すべての皆さんが美奈さんを盛り立ててくれる。聴衆も同様で、今日ここに来ている人は全員、美奈さんが大好きなのである。だから、今日はハンナが完全に主役としての光彩を放っていた。会場全体の雰囲気も、美奈さんのリサイタル・オペレッタ伴奏付き、といった感じになっていた。「ヴィリアの歌」はもちろん、他の曲でも美奈さんが歌い始めるとそこにスポットライトが当たるように感じたものである。
 完全主役の美奈さんは、圧倒的な存在感で、歌唱も演技も、ノリが良い。何よりも素敵なのは、ご本人が一番楽しんでいるようにも見えることだ。本当は楽しむどころじゃないはずだが、観ている私たちにはそんな素振りを一切見せずに、楽しいオペレッタをより楽しく見せるように一所懸命やってくれている。お客さんを徹底的に楽しませる、という姿勢がハッキリしているので、ステージ上と客席との境界線がなくなってしまう。そこは底抜けに楽しいオペレッタのある極上の空間なのである。

 本編がめでたしめでたしで終わり、アンコールまでやるのかな、と思っていたら、カーテンコールでは登場人物に合わせてライトモチーフのようにそれぞれの持ち歌が演奏され、最後は全員で大合唱のアンコール!! 「オペラ・デビュー20周年、おめでとう!!」の声に合わせて、美奈さんに花束が贈られて幕となった。ソロ・カーテンコールにもBrava!!の嵐・・・・。

 というわけで、今日の『メリー・ウィドウ』は大成功。本当に楽しかった。これほどステージと客席が一体となって盛り上がった公演は滅多にないだろう。好きな者がこれだけ集まれば、日本のオペラ(オペレッタ)文化もけっこう爛熟しているように感じた。こういう公演がもっともっと増えれば良いと思う。大きな劇場で、絢爛豪華な舞台と衣装で、着飾った紳士淑女が客席に・・・・、というものだけがオペラ文化ではないだろう。「音楽ビヤプラザ ライオン銀座店」の企画プロデューサーを務める美奈さんならではの「距離感」。お金を払って観るという感覚ではなくて、物語の中にいる感覚で一緒に楽しむ。そんな素晴らしい空間であった。

 終演後はロビーで美奈さんにご挨拶。そして記念写真は汗びっしょりの美奈さん。お疲れ様でした。



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