Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/15(土)女神との出逢い/森 麻季ソプラノ・リサイタル/スターのオーラを放つ澄みきった美声

2014年11月19日 00時00分54秒 | クラシックコンサート
土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い
森 麻季 ソプラノ・リサイタル


2014年11月15日(土)17:00~ フィリアホール S席 1階 1列 10番 5,000円(シリーズセット券)
ソプラノ: 森 麻季
ピアノ: 山岸茂人*
【曲目】
グノー: 歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
J.S.バッハ: イタリア協奏曲より 第2楽章: アンダンテ(ピアノ・ソロ)*
モーツァルト: ミサ曲ハ短調K.427(417a)より「ラウダムス・テ」
モーツァルト: 歌劇『羊飼いの王様』K.208より「彼女を愛そう」
モーツァルト: 歌劇『魔笛』K.620より「愛の喜びは露と消え」
モーツァルト: ピアノ・ソナタ 変ロ長調K.333より 第1楽章: アレグロ(ピアノ・ソロ)*
モーツァルト: 歌劇『後宮からの逃走』より「私は恋をし、しあわせでした」
ドニゼッティ: 歌劇『アンナ・ボレーナ』より「私の生まれたお城」
チャイコフスキー: 「四季」作品37bより「10月: 秋の歌」(ピアノ・ソロ)*
小林秀雄:「落葉松」
山田耕筰:「赤とんぼ」
山田耕筰:「曼珠沙華」
山田耕筰:「からたちの花」
ショパン: ノクターン 第8番 変二長調 作品27-2Op(ピアノ・ソロ)*
ドニゼッティ: 歌劇『ランメルモールのルチア』より「あたりは沈黙に閉ざされて」
《アンコール》
 プッチーニ: 歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私の愛しいお父様」
 ラヴランド: 「You Raise Me Up」
 プッチーニ: 歌劇『ラ・ボエーム』より「私が街を歩けば」(ムゼッタのワルツ)

  フィリアホールが主催する「土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い」も2014/2015シーズンの後期に入った。今日はその第1回、森 麻季さんのソプラノ・リサイタルである。相変わらずの人気を誇る麻季さんだけあって、本公演は完全完売、空席もほんのわずか見られた程度でほぼ満席状態であった。今回のリサイタルでは、前半には彼女としては珍しいモーツァルトのオペラ・アリアを集めている。後半はお馴染みのベルカント・オペラのアリアと日本の歌曲という構成になっていた。ビアノ伴奏のリサイタルを聴くのは久しぶりになる麻季さんだが、最前列の至近距離ということもあり、今日はじっくりと聴かせていただくことにしよう。ピアノはいつも麻季さんの伴奏を務めている山岸茂人さんである。

 1曲目はグノーの『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」。コロラトゥーラ系のソプラノさんリサイタルではお馴染みの曲である。500席のフィリアホールは、リサイタルにはちょうど良いサイズで、歌手は大きな声を出す必要がないので、ゆとりをもって歌うことができるのだろう。最初の曲から、軽快な3拍子のリズムに乗って、伸び伸びとした歌唱で、声の美しさはもとより、明るく伸びやかな雰囲気が素敵だ。高音もキレイに出ていた。

 2曲目はいきなりもう?、という印象のピアノ・ソロ。J.S.バッハのイタリア協奏曲より 第2楽章アンダンテである。今日はピアノ・ソロが4曲も入っていて、さすがに歌手のリサイタルにしては多すぎるという気がする。山岸さんのピアノについては、とりあえずのところノーコメントにしておこう。

 3曲目は、モーツァルトのミサ曲ハ短調より「ラウダムス・テ」。コロラトゥーラの装飾唱法がたくさん含まれている軽快で明るい曲である。麻季さんは難度の高い旋律を軽快にリズムに乗って、羽毛のような柔らかさ・繊細さで歌っていく。やはりモーツァルトを歌っても、歌唱のテクニックは素晴らしい。

 4曲目は、モーツァルトのオペラ『羊飼いの王様』より、羊飼いのアミンタが歌うアリア「彼女を愛そう」。昔はカストラートの役柄だったそうだが、今日ではズボン役のソプラノが歌う。アミンタが妻となるエリーザへの愛の決意を切々と歌うアリアで、麻季さんの情感の込められた歌唱が素晴らしい。高音部に至る装飾的な歌唱も、美しい声質を保ちながらのものであった。

 5曲目は、モーツァルトの『魔笛』よりパミーナの有名なアリア「愛の喜びは露と消え」。こちらも叶わぬ思いを嘆きつつ、切々と歌うアリアだ。麻季さんは技巧よりも感情表現の方に力点を置いた選曲だといえそうだ。ミーハーな感覚で言えば夜の女王のアリアを聴かせていただきたかったが・・・・。いずれにしても麻季さんの出演する『魔笛』を観たいものである。

 6曲目はピアノ・ソロで、モーツァルトのピアノ・ソナタK.333より第1楽章。

 前半の最後は、モーツァルトの『後宮からの逃走』よりコンスタンツェのアリア「私は恋をし、しあわせでした」。コロラトゥーラの技巧満載、モーツァルト節もいっぱいである。技巧的な装飾唱法も正確な音程で見事にまとめ、高音部まで伸びのある声がよく出ていた。麻季さんのようなピュアなイメージの声質で歌われると、モーツァルトも意外に似合っているかもしれない。

 後半は、まずドニゼッティの『アンナ・ボレーナ』よアンナのアリア「私の生まれたお城」から。いわゆる「狂乱の場」のアリアであり、描かれている音楽が、感情の起伏が大きく、ドラマティックである。ベルカント・オペラのアリアは、麻季さんが本領を発揮する分野。抑揚の幅が大きくなり、ダイナミックレンジも広く取り、声量もグンと大きく出るようになった。感情表現にのめり込んだような歌い方には説得力があり、コロラトゥーラ系の技巧も加えて、天性の美声で聴く者の魂に呼びかけるように歌う。Brava!! やはり麻季さんはオペラ・アリアが素晴らしい。

 2曲目はピアノ・ソロで、チャイコフスキーの「四季」より「10月: 秋の歌」。

 3曲目からは日本の歌曲に変わって、まずは小林秀雄の代表作ともいえる「落葉松」。作詞は野上彰。小林さんは歌曲や合唱曲を数多く作曲している人で、評論の名著『モオツアルト』で知られる文藝評論家の小林秀雄とは、もちろん別人である。日本の歌曲になると、麻季さんの魅力のもうひとつの顔が現れる。日本のオペラ歌手の皆さんはリサイタルでもしばしば日本の歌曲を採り上げ、それらの詩情性豊かな世界を広める努力をされているが、現代ではその第一人者が麻季さんだろう。奥ゆかしさというのであろうか、単調で起伏の乏しい音楽世界を、これほど情感たっぷりに、しかも繊細かつ奥行きのある豊かな表現力で歌われると、日本の歌曲も世界に伍する芸術作品であることを改めて認識することができる。

 続いて、山田耕筰の歌曲から3曲。童謡「赤とんぼ」(作詞: 三木露風)は日本人では知らない人はない曲だが、麻季さんのクラスの歌唱で聴くと、まったく違った趣がある。日本の原風景が映像として浮かび上がってくるようだ。「曼珠沙華」は「AIYANの歌」(作詞: 北原白秋)という歌曲集の中の1曲。悲しみの表現も日本風になると切なくて行き場のない感じになる。「からたちの花」(作詞: 北原白秋)は最近とても人気があるようで、多くの声楽家がリサイタルやCDで歌っている。麻季さんも十八番のひとつで、抑制的な声量と透き通った高音の美しさが、この曲を一級品の歌曲の仕上げている。麻季さんの歌う「からたちの花」を聴くと、日本人に生まれて良かったと思う、というのは大袈裟だが、日本人の感性の繊細さをとても嬉しく感じるのである。

 次はピアノ・ソロで、ショパンの「ノクターン 第8番」。

 プログラムの最後は、ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』より「あたりは沈黙に閉ざされて」。第1幕で歌われるルチアの有名なアリアである。いかにもイタリアのベルカントの曲であり、不気味な内容なのだが、地中海的な不思議な明るさを持ち、もちろん超絶技巧的なコロラトゥーラ唱法を駆使する。朗々と、切々と、そして装飾的に歌う麻季さんの歌唱力は抜群に素晴らしい。『ランメルモールのルチア』は大好きなオペラなので、歌唱を聴いているだけで泉のほとりの情景が目に浮かぶようであった。

 アンコールは3曲。まずはお約束のアンコールの定番、プッチーニの「私の愛しいお父様」。朗々と歌われるプッチーニ節は、あまねく聴く者の共感を得るチカラがある。麻季さんの歌唱ももちろんBrava!!
 続いて、ロルフ・ラヴランドという人の「You Raise Me Up」という曲。アイルランド民謡の「ロンドンデリーの歌」をベースにややPOPS調に編曲された曲で、英語の歌詞が乗っていた。「あなたと一緒ならどんな山でも嵐でも乗り越えられる」という内容。コンサートで歌うのは初めてだという。
 アンコールの最後は、またまたお約束の「ムゼッタのワルツ」。最後はコケティッシュな魅力を振りまき、会場を沸かせてくれた。麻季さんのムゼッタは、2010年のトリノ王立歌劇場の初来日公演『ラ・ボエーム』に出演した時の、活き活きとした舞台姿が目に焼き付いている。この曲を歌われると、Brava!!と叫ばざるを得なくなってしまう。まったく見事な歌いっぷりである。

 今日は久しぶりの森 麻季さんのリサイタルであったが、イタリアのベルカントのアリア、モーツァルトのオペラ・アリアに日本の歌曲の名曲たち、というふうに適度に配分された内容で、けっこう充実したコンサートであった。麻季さんは、お姫様のようなドレスで着飾り(前半と後半ではもちろん衣装を替えている)、立ち姿もお美しく、笑顔も魅力的。いろいろと批判的なことを言う人もいるようだが、私は好きである。彼女の透明感のある歌声は余人には代え難いものがあり、技巧的にも素晴らしい。惜しむらくは声量が少し足らないということなのだが、オペラ歌手は声が大きければ良いというものでもないし、歌唱力、演技力、容姿、スター性などを総合的に捉えるならば、麻季さんは日本を代表するソプラノのオペラ歌手であることは間違いない。

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【お勧めCDのご紹介】
 森麻季さんの『日本の歌~花は咲く』をご紹介します。今日のリサイタルでも歌われた「落葉松」「赤とんぼ」「曼珠沙華」「からたちの花」が収録されています。ピアノ伴奏はもちろん山岸茂人さん。タイトルの「花は咲く」はご承知のように東日本大震災復興支援ソングです。麻季さんの美しい歌声に心が洗われるような気持ちになれるアルバムです。
日本の歌~花は咲く
avex CLASSICS
avex CLASSICS




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