Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/25(水)サラ・チャン/ヴァイオリン・リサイタル/圧倒的存在感と聴衆を熱狂させる見事なパフォーマンス

2017年10月25日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
サラ・チャン ヴァイオリン・リサイタル

2017年10月25日(水)19:00〜 紀尾井ホール S席 1階 1列 14番 6,000円
ヴァイオリン:サラ・チャン
ピアノ:フリオ・エリザルデ
【曲目】
バルトーク:ルーマニア民族舞曲
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品108
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
《アンコール》
 カルロス・ガルデル:ポル・ウナ・カベーサ(首の差で)
 エルガー:愛の挨拶
 ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」より「夏」第3楽章
 J.S.バッハ:G線上のアリア

 長年の念願が叶ってのサラ・チャンさんのリサイタル! これほどのスーパー・スターでありながら、何故か日本での演奏機会に恵まれず、なかなか来日してくれない。今回の招聘元はテンポプリモらしいが、そもそも日本側のエージェントが決まっていないのだろうか。
 2008年、NHK音楽祭でN響と共演し、ブルッフのヴァイオリン協奏曲で強烈なインパクトを残した後は一切来日はなかった。今年2017年3月に新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に客演して、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾いたが、その時は最前列のチケットを取っていたにも関わらず、他のオペラ公演を優先したため聴くことができなかった。そして、今年の8月、アジアユースオーケストラのワールドツアーに同行して来日し、やはりシベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾いている。これは、青少年のアマチュア・オーケストラの教育プログラムの一環ということもあってか、あまり話題にならなかった。しかしサラさんの演奏は強烈な印象を残したものであった

 そして今日。ピアノ伴奏によるサラさんのリサイタルを聴くのは初めてである。実は先週、川口で本日と同プログラムのリサイタルを行っていて、その情報も少し入ってきていた。川口ではあまり入りが良くなかったとのことである。ところが、今日の紀尾井ホールは、ほぼ満席状態。さすがは現役バリバリ世代の調大物スターのリサイタル! 音楽仲間の知った顔ぶれがほとんど聴きに来ている。そう、皆が待ち焦がれていたのである。

 前半、お馴染みというか、サラ・チャン・カラーの鮮やかなグリーンのドレスで登場。満面の笑みを浮かべ、歩く姿だけで圧倒的な存在感を発揮する。小柄だがエネルギッシュなオーラを発しているようだ。ものすごい貫禄である。

 1曲目はバルトークの「ルーマニア民族舞曲」。思いの外ゆったりとしたテンポで曲が始まる。サラさんのヴァイオリンは丁寧に弾いているイメージで始まったが、主題が繰り返される辺りから、急に陰影が深くなる。特別に音量が大きいわけではないが、G線をブンブン鳴らす低音域と高音域の弱音にかなり音量差があり、ダイナミックレンジはかなり広い。そのため、音楽的にはメリハリの強いものとなる。立ち上がりはキリッとしているのに濃厚なサウンド。旋律を大きく歌わせるためにテンポはまったく一定せず、極めて自由度の高い演奏だ。この曲は「舞曲」だが、サラさんの演奏はどちらかというと「踊る」というよりは「歌う」ような感じで、バルトークの、ハンガリー系のリズム感はあまり感じられないが、要するにサラ・チャン節なのである。

 2曲目はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第3番」。サラさんのように音楽全体が外向きにできているようなタイプの演奏家にとっては、ブラームスはあまり合わないような気がするのだが・・・・。実際に聴いてみると、演奏はやはりサラ・チャン節で、発揮度が強い。ブラームスなのだから、もっとその精神性を、内面の葛藤を描かなければ・・・・という、ドイツ音楽好きの人たちからの批判が聞こえて来そうな演奏だ。サラさんは韓国系のアメリカ人。アメリカ生まれのアメリカ育ち。そして本日共演しているピアニストのフリオ・エリザルデさんもアメリカ人。だから、今日のブラームスは決してドイツっぽくはない。多分、アメリカっぽいのだと思う。楽曲をストレートに捉えて、純音楽としての美しさを徹底して引き出してくる。だから明瞭で非常に分かりやすい。ちょうど、アメリカのオーケストラで聴くブラームスの交響曲のような雰囲気だ。その上で、思いっきり個性的なサラ・チャン節が歌いまくる。卓越したテクニック、濃厚なサウンド、しなやかにフレーズを撓わせる。そして全体に漲る、独特のエネルギッシュなオーラ。ドイツ音楽はドイツ人演奏家でなければダメだなどという考えに凝り固まっているような保守的な人には、恐らく耐えがたいような演奏なのかもしれない。しかしこれほど分かりやすいブラームスも珍しい。実際、ストレートに、真正面からドーンと表現しているのだ。私は何でも受け入れる方なので、サラさんの演奏はもちろんBrava!!である。

 後半は、フランクの「ヴァイオリン・ソナタ」のみ。これは掛け値なしの名演と言いたい。およそヴァイオリニストを目指す人なら誰でも演奏する曲であるし、ソリストでこの曲をリサイタルで弾いたことがないという人もいるまいと思う。それくらいの名曲ではあるが、それだけにかえって真の実力が問われることになる。これまでにもいったいどれだけ演奏を聴いただろうか、見当がつかない。何しろ、音高生・音大生から世界のトップクラスのソリスト、そしてウィーン・フィルのコンサートマスターまで、様々なレベルの演奏を聴いている。かつて《2010年~2012年に聴いた名曲/セザール・フランク「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」》というタイトルで2013年1月に記事にまとめたことがあるが、そこにも7名の演奏についてまとめて書いているので、時間が許すなら参照してほしい。長年聴き続けてきたこの曲の演奏の中でも、今日のサラさんは最高クラスのインパクトのある演奏だったといえそうだ。ただし、お断りしておくがこれはあくまで個人的な好みが強く反映されていると思うので、人によって評価は分かれるかもしれない。
 サラさんの演奏は非常に濃厚である。その解釈は極めて音楽的だ。曲の持つ様々な要素、情感やロマンティシズムの表現、技巧性、音色や音の質感などをそれぞれ純粋に高いレベルで演奏している。テンポを自在に変化させ、旋律をたっぷりと歌わせる。消え入るような弱音から魂を揺さぶるような力感を見せる強音までのダイナミックレンジの広さ。フランス系の色彩感や洗練された雰囲気ではなく、ネットリとしたロマンティシズムで歌うかと思えば、燃え上がるような情感を訴え出してくる。全体を通して、豊かで濃厚でありながら、強烈な緊張感で聴く者を惹き付ける。人によって評価が分かれるかもしれないと言ったのは、その辺りの情感を強く訴えてくるところの評価である。感情的な強い表現は韓国系らしくもあり、ポジティブで分かりやすい点はアメリカっぽいともいえる。とにかく、この曲の魅力を徹底的に描き出しているのは、やはりサラ・チャン節というべきなのだろう。サラさんの個性がフランクの個性を上回ったとでも言うべきだろうか。そう感じたのは私だけではなかったようで、会場はBrava!!が飛び交い、熱狂に包まれた。とにかく素晴らしい演奏だと思った。間違いなく、Braaaava!!

 予定されていたプログラムだけでは、コンサートとしては尺が足らない。つまりはアンコールがたっぷり用意されているということになる。アンコールは4曲もあった。
 1曲目はカルロス・ガルデルの「ポル・ウナ・カベーサ(首の差で)」という曲。ガルデルはアルゼンチンの歌手で、曲はもちろんアルゼンチン・タンゴである。サラさんのヴァイオリンがねっとりと濃厚に、情熱的なタンゴの旋律を刻む。何とも色っぽい。
 2曲目は逆に誰でも知っているエルガーの「愛の挨拶」。この手の曲をサラさんのクラスの人が弾くと、自由度が高く、ロマンティックそのものになる。情感豊かな音楽性で、呼吸する息遣いが感じられるように歌う・・・・見事としか言いようがない。
 3曲目では超絶技巧的な要素を見せる。ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」より「夏」の第3楽章。ピアノ伴奏で聴いたのは初めてだった。速めのテンポで切れ味鋭く嵐の中を疾走するようなヴァイオリン。やはり巧い!!
 最後はJ.S.バッハの「G線上のアリア」。しっとりと穏やかに、格調高く、ちょっとロマンティックに。興奮を冷ましてくれるような演奏であった。

 全曲を聴き終えてみると、印象に強く残るのはサラ・チャン節ともいえる、本人の個性を前面に押し出してくる演奏スタイルだ。つまりハンガリー風でもルーマニア風でもないバルトークであり、ドイツっぽくないブラームスであり、フランスっぽくないフランクである。アンコールの4曲もそれぞれの曲のもつイメージを超越している。やはり世界を舞台に子供の頃から第一線で活躍してきた人が持つエネルギーにはスゴイものがある。圧倒的な存在感と、強烈なオーラを放ち、弾けるような笑顔で、聴く者を熱狂させる。とにかく、クラシック音楽を難しく考えたりはせず、徹底的に楽しいものにして聴かせてくれる。アメリカのエンターテイナー、スターとはこういう人のことを指すのかもしれない。まあ、世界中を見てもあまりいないタイプの演奏家であることは確かだ。音楽の楽しさをこれほど明確に表現してくれる音楽家は他にはいないだろう。素晴らしく、最高のリサイタルであった。
 付け加えておくと、共演のピアニスト、エリザルデさんは全曲を暗譜で弾いていた。サラさんの自由奔放なヴァイオリンに、ピタリと合わせて、さらにサラ・チャン節を盛り上げて行く。2人で世界を回っているのだろう。息も見事に合っている。彼もまたエンターテイナーのような演奏家で、聴く者を楽しませてくれた。

 終演後はサイン会があった。8月のアジアユースオーケストラの時は主役は青少年達だったのでサイン会などは行わなかった。というわけで、今日はあっという間に長蛇の列が出来上がり、大変なことになっていた。私はサラさんのCDは多分全部持っていたはずだったのに、会場では見慣れないCDを売っていて、フランクのソナタとサン=サーンスの1番のソナタ、ラヴェルのソナタが入っている。新譜が出ていたのかなと思って、これを購入してサイン会に参加した次第である。ピアニストのエリザルデさんもおられたので、お二人にプログラムにサインをしていただき、サラサンにはCDのジャケットにもお願いした。
 後で帰宅してから分かったことだが、このCDは2004年のリリースとなっていて、つまりジャケットょ新しくしただけのもののようである。演奏も当然、今のサラさんとは違う。まあ、それでも長いこと待ちわびたサラさんであるから、サインをいただいたのもとても嬉しかったし、しっかりと握手もしていただいた。写真はNGだったので、サインの画像だけを載せておくことにしよう。



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【お勧めCDのご紹介】
 サラ・チャンさんが今日演奏したフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」が収録されているCDです。ピアノはラルス・フォークトさん。本文でも紹介した通り、2003年の録音、2004年のリリース。曲目は、他にサン=サーンスの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」とラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ」が収録されています。

フランク/ラヴェル/サン=サーンス ヴァイオリン・ソナタ集
チャン(サラ),フランク,サン=サーンス,ラヴェル
EMIミュージック・ジャパン



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