Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/9(土)川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ/ミューズの響演は秀麗なオール・ラヴェル・プログラム!!

2010年10月16日 02時15分31秒 | クラシックコンサート
フィリアホール/土曜ソワレシリーズ「女神(ミューズ)との出会い」206
川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ

2010年10月9日(土)18:00~ フィリアホール S席 1階 4列 23番 5,000円
ヴァイオリン: 川久保賜紀
チェロ: 遠藤真理
ピアノ: 三浦友理枝
【曲目】[オール・ラヴェル・プログラム]
     亡き王女のためのパヴァーヌ(トリオ版)
     シャブリエ風に/ボロディン風に/水の戯れ(ピアノ・ソロ)
     ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
     マ・メール・ロワ(トリオ版)
     ピアノ三重奏曲 イ短調
    《アンコール》クープランの墓より「リゴドン」(トリオ版)

 本日、ダブルヘッダー第2弾は、美しいミューズとの出会い。大好きな川久保賜紀さんのトリオ・コンサートだ。しかもオール・ラヴェル・プログラム!! 川久保賜紀さん、遠藤真理さん、三浦友理枝さんのトリオは、今日本で一番輝いている(思い入れが強すぎるとは思いますが)。コンサートやCDの宣伝などでは、どいうしても一般的なウケを狙ってヴィジュアル系を強調しすぎるキライがある。もちろん3人ともとても美しい方々だが、むしろ彼女たちの音楽の美しさこそ、特筆すべきものだと思う。このトリオの演奏を過去2回聴いているのだが、明るく開放的な色彩感、屈託のない伸びやかな音楽性は、聴いていて心が洗われるよう。一方で緊密度の高いアンサンブルと、ソリストとしての個々の主張する音色が、魂に直接響いてくるような力を持っている。きわめて高品質なトリオなのである。

 まず、聴き終わっての全体の印象から先に述べておこう。
 川久保賜紀さんは、やはり音楽活動の経験の豊富さからか、3人の中でも中心的な存在に見える。そのステージさばきは貫禄すら感じさせる。にこやかな表情は心がリラックスしているから。そこから流れてくる音色も、今日はいつもよりさらに「流麗」で豊かな響きを持っていた。流れるようなレガート、艶というよりは潤いのある音色。超絶技巧の持ち主でありながら、そんなことを感じさせない優しい演奏である。リサイタルやコンチェルトの時よりも穏やかな気持ちでいられるのだろう、のびのびと楽しげに、室内楽ならではの優しさに満ちた演奏を終始していた。
 遠藤真理さんのチェロは、3人の中ではどちらかというと個性を主張するタイプのようだ。正確な音程と技巧はいうまでもなく、深みのあるというよりは、明るく艶やかで芳醇な音色が華やかでステキだ(そういう意味では女性的なのかも)。しかし時折、主旋律をグンと全面に打ち出してくることがあり、ドキッとするような問い掛けをしてくる。このアクセントの付け方が特徴的で、ピタリと均整の取れたアンサンブルの中から、チェロが飛び出してくる感じが面白かった。繊細さと豪快さとの対比が彼女の個性なのだろう。
 三浦友理枝さんは、トリオの時はいつも控えめな印象の演奏をする。一歩下がっているというか、主旋律の場面でもあまり前に出てこない。ソロの時はもっと自由に歌い出すのだが、トリオの時はアンサンブルをキチンと整えようとしているようである。彼女のピアノの最大の魅力は、何とも言えない優しい音色にあると思う。まず、一つ一つの音が透明な響きを持っていて、音の粒が丸い。小さなシャボン玉が空にたくさん舞い踊るような印象だ。これは柔らかい指使いの打鍵から生まれるのだろうと思う。消え入るようなピアニッシモから、転がるような軽快なタッチ、フォルテにおいてもその印象は変わらない。この音色はあくまで上品な本人のイメージにピッタリである。
 このように音色の美しい3人が出会ったとき、ラヴェルから始まったのは正解だ。このトリオで聞くラヴェルは、水面のさざ波に反射する陽の光、初夏の森の中、木漏れ日のよう。澄み切った透明さと色彩感という相反する要素を持っている。不協和音さえ美しく響く。トリオでリリースしたCD『Ravel!』でもその演奏の見事さは十分に伝わってくるが、まだ聴いたことがない人は、ぜひライブで、ナマでこのトリオを聴いてみてほしい。ナマでしか感じ取れない、他のピアノ・トリオにはない独特の雰囲気があるのだ。

 さて音楽会の方に話を戻そう。会場の照明が落とされ、舞台が明るくなって、3人が登場すると、その華やかさに舞台がいっそう輝きを増す。とくに川久保さんのエレガントな佇まいは、この人の音楽のイメージそのものだ。
 1曲目は「亡き王女のためのパヴァーヌ(トリオ版)」。ご挨拶といった感じで、ややもすると難解になりがちなラヴェルの音楽を、美しい旋律を各パートが交代に歌わせて、とても素直に、分かりやすく聞こえるのは、各パートの音色がきわめて美しいからだ。
 2曲目からは、三浦さんのピアノ・ソロ。「シャブリエ風に」は、重音や和音を刻むような旋律の運びに、柔らかな打鍵の三浦さんの音色が心地良い。優れたセンスで品よく…。素敵な演奏だ。
「ボロディン風に」は踊り跳ねるような煌びやかな曲だが、三浦さんは大きくはみ出すようなことせず、抑制された演奏で、音の粒立ちの良さが際立っていた。
「水の戯れ」は、まさに透明な水が自由に跳ね、踊り、波立ち、煌めくといった印象主義的な曲想に、三浦さんの音色がピッタリ。優しい演奏スタイルがキラキラとして情景を目に浮かぶように描き出してくれる。
 前半の最後は川久保さんと遠藤さんによる「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」。あまり聴く機会のない曲だが、実はこの曲を一番楽しみにしていた。実は今年2010年の7月1日に、南紫音さんと上村文乃さんのデュオでこの曲を聴いていて、ハタチ前後の二人とアラサーの(失礼)二人の聞き比べをしてみたかったのである。
 第1楽章はヴァイオリンとチェロが同じような音域で対話するように始まり、半音階などを多く含んだ現代的な曲想に大きく展開していくが、今日の演奏はやや早めにテンポを取り、快適な調子で、複雑なリズムのアンサンブルを合わせてゆき、見事である。
 第2楽章は強烈なピチカート合戦。混沌としていて、時に爆発的であり、変則リズムや不協和音の連続でかなり難曲だと思われる。どちらかというとチェロが活躍する楽章なので、遠藤さんの個性が本領を発揮し、ガンガンと攻め込むような演奏。それを川久保さんがうまく受け止め、ピタリと合わせているといった印象だった。
 第3楽章はいわば緩徐楽章だ。Lentoという速度で、変拍子と不協和音によるアンサンブルが弱音から始まりだんだんクレッシェンドして行く。後半、現れてくる夕暮れのような儚げな美しい旋律を弾く、川久保さんのヴァイオリンのしっとりとした音色が美しかった。
 第4楽章は、ヴァイオリンもチェロもあらゆる奏法が次々ととどまることなく現れてくる、非常に難しそうな曲である。川久保さんと遠藤さんはアイコンタクトを取りながら、この複雑な曲を平然と演奏していく。とくに遠藤さんは表情をあまり顔に出さないので、サラリとこなしているように見える。ただし、聞こえてくる音楽の方はかなりのパッションで、とくに終盤にかけての熱い盛り上がりは、圧倒的な迫力で迫ってくるものだった。
 フレッシュな南+上村デュオと比べれば、川久保+遠藤デュオは、予想した通りに大人の演奏。あらゆる場面、あらゆる奏法においてすべての音質が優れ、細やかな表情の付け方に至るまで、1枚も2枚も上手というところか。4つの楽章を通して闊達で難解な曲ではあるが、川久保+遠藤デュオは、彼女たちの持つ美しい音色と流麗な演奏で、この難曲を女性的な優しさ・繊細さで包み込んでしまい、現代的なエレガンスと、スマートさが際立つ美しい曲に仕上げていた。これはまちがいなく、Brave!である。

 後半のプログラム、「マ・メール・ロワ」と「ピアノ三重奏曲」はトリオのCDにも収録されているので、聴かれた方も多いだろう。
 「マ・メール・ロワ」は浦壁信二編曲によるトリオ版。童謡の世界を洗練されたラヴェルの音楽が描き出して行く。詩情性豊かな組曲である。3人の演奏は、とくに三浦さんの透明で粒の揃ったピアノの転がるようなイメージに、川久保さんの繊細なヴァイオリンがふわふわと乗り、遠藤さんのチェロが泳ぐように下を支える。幻想的な物語性をうまく紡いでいく演奏は、まさに印象派の絵のように光が降り注いでいるようだった。とにかく曲も美しければ、演奏も美しい。


 「ピアノ三重奏曲」については、今年の7月10日に埼玉県越谷市でのトリオ・コンサートの際のブログに詳しい感想を書いているので、同じような内容の繰り返しは避けるとして、とくに感じたことだけを書いておこう。トリオの全国ツアーは越谷で終わっていたのだが、10月の始めに「せんくら2010」でトリオでの演奏機会があった。私は仙台までは行かなかったが、音楽祭のような楽しい経験が3人の関係をよりいっそう緊密なものにしたのではないかと思う。もちろんフィリアホールの方が音響が格段に優れているということもあるが、越谷との時に比べて、3人の音色がいっそう美しく響いていたように思う。もう一つはアンサンブルの完成度が増したことだろう。その中で、遠藤さんのチェロが旋律を大らかに歌わせるようになった気がする。一方、三浦さんのピアノはあえて背景に徹して、曲の構造を支えていたという印象だ。また川久保さんのヴァイオリンは一層繊細な音色。弱音やフラジオレットなどに特に集中した繊細さが感じられた。現代調のこの曲がしっとりとした味わいの仕上がりになっていたのは、とくにヴァイオリンの潤いのある音色によるところだろう。
 アンコールは「クープランの墓」から「リゴドン」をトリオ版で。

 今回のオール・ラヴェル・プログラムは、トリオが結成された最初から取り組んできたラヴェルの集大成ということだろうか。全国をツアーで回り、他の曲も採り上げつつ、常に高みを目指して磨き上げたアンサンブルのひとつの到達点となるラヴェルではないかと思われた。それほど「ピアノ三重奏曲」は素晴らしかった。
 今後のトリオでの活動で主なものは、来年2011年1月29日に文京シビックホールで東京フィルハーモニー交響楽団との競演がある。詳細はわからないが、ベートーヴェンの三重協奏曲という、趣の異なるプログラムが用意されている。もう一つは8月に読売日本交響楽団との競演で、三大協奏曲を3人で一挙に演奏するという、すごいコンサートがある。川久保さんがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、遠藤さんがドヴォルザークのチェロ今日、三浦さんがチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と、衝撃的な企画だ。来年は新たなステップへと進み、さらに進化して行くであろう3人のアーティストたちを、ずっと見つめていきたいと思う。

 コンサートが終了すると,恒例のサイン会。今回は遠藤さんの新譜もあり(龍馬伝のエンディングテーマ曲などを収録)、三浦さんには今日の演奏曲も入っている「RAVEL」、川久保さんには来年予定のある協奏曲のCDに、それぞれサインをいただいた。「Bravoな演奏でした」と川久保さんに伝えると、にっこり。今回は写真を大きめに掲載してしまおう。

笑顔がステキな川久保賜紀さん。
この笑顔のように、この人にしか出せない音色がある。


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※このところ仕事が忙しかったために、レビューを書くのに1週間もかかってしまいました。できるだけリアルタイムに近いレビューを心がけてきたのに…。今後もがんばります。

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