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建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

施工図屋(2)

2017-03-06 15:28:52 | 建設現場

…………………………(施工図屋 2)…………

「施工図屋ですが・・・」
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来る。

「最近の図面屋の図面は、悪かろう・安かろうで《施工図になってない》から
使い物にならん!」
と初対面の現場所長から耳にタコが出来るくらい聞いた。

安い施工図はA1版1枚2万円以下で発注されているが、どう考えても日本人
の作図と考えられない。

1枚作図するのに最短でも2日かかる。
この金額を解明すると、
日本人の施工図担当者が1日8千円×2日間で仕上げねば、施工図屋は採算が
執れない事となるし、施工図屋の給料は25日働いても20万円しかならないし、2日間(8時間×2)で1枚仕上がるような図面は、外注にはほとんど
廻って来ない。

だから海外(中国)で作図させて、図面内容が不十分のままゼネコンに納品
しているから、「使い物にならん図面だ!」と一般論になるのも、致し方ない
ものでしょう。

「私は5~10億円の現場所長をしていたから、この現場の規模でしたら現場
監理しながら、施工図も書いていましたよ
と半分見栄を張って言うと、途端にお邪魔虫言葉が消滅する。

(俺ならこんな現場なら二つ三つの掛け持ちでも楽勝さ、アンタとは違うよ

と所長の顔色を覗き込み、若手現場マンの反応を見るのが楽しみでもあった。

私はリストラされたのだし、60に手が届いたのだから図面屋として必死に
稼ぐ必要もなく、儲けに走るよりも、現場員がノーチェックでも設計事務所や
監理者から承認印が頂けるような施工図を書くように心掛けている。

お陰で複雑な建物や、対応に不慣れな官庁物件に限って
「手伝ってください」
とコメント付きの設計図が送られて来る。

(でも私の施工図面は安くて・早くて・正確なんだよ……ね)

もう少し施工図作図の話をしよう(日立建機ティエラ64号寄稿から)……

現場には設計図があり、施工図の通りに作っても「図面と現場は違うから…」
との一言で図面が悪者にされる事もある。
 「この図面通りに出来ますよ」
と言うのが施工図の役割なのですから、施工図の管理をしっかりしていれば
現場業務は大幅に短縮出来るのです。

しかしながら、施工図を作成するには、どの現場でも「時間がない!」と言
っています。今日は施工図作成のポイントについて話をしましょう。

「施工図を書かなければ現場を覚えられない(一人前になれない)」
と昔から言われているが昨今はコンピュータから技術力を学ぶ方法もあります。

日没まで職人さんに作業指示をし、安全に神経をすり減らしていて、残業で
図面を書くのが当たり前の感覚では、品質の良い図面は期待出来ません。

施工図は残業して書くものではなくて、現場巡回と平行しつつ日常8時間業
の中に食い込ませる段取りをする事です。

現場と製図を仮に30分毎に業務交代すれば4時間は製図台に向かっていられ
る計算になります。

施工図とは「納まり」を考えながら書くものですが、設計図面を眺めて拡大・
複写しただけのもので満足していませんか?

         

施工図面らしく作図するポイントは沢山ありますが、フォークボールを投げ
る握り方を知っていても投げられないのと同じで、製図板の上で線を引いて
いても使える施工図になりません。

よい施工図を書く為には経験も必要ですが、それよりもまず大きな用紙に大
きな図面(原寸1分の1)で断面図をはっきり書く事から始まりです。

平面図・詳細図へと検討が行われ訂正が発生し、消しゴムが製図台の上を転
がり出すと図面が汚れてしまうので、薄い鉛筆で図面を書く人が多いのです
が、私は2Bの鉛筆を最初から使うように指導しています。

指先に加える力で鉛筆の濃淡の加減が調節出来るし、ハッキリした黒い線と
数字は現場の意気込みの現れにもなるのです。
(自信がない図面ほど薄い線が多いし、間違いも多いものだ)
薄い線はコピー機で現れず数字も8か3かと目を凝らすようではどこかで必
ず見落としが出るものです。

書き図よりもCADで作図の時代になりました。
キレイな線になっても、正確さが曖昧で自信のない施工図ほど肝心な立体感
が抜けているのです。

例えば、円形柱は立面図では長い四角形として書いてあるのが設計図で、
かに円柱であるかを現すのが『施工図』です

文字で「これは円形柱です」と記入する訳にもいかないものですしね。(笑)

施工図は正確に書く事は当然ですが、早く作図する事も大事です。
施工図で表現困難なものは施工も難しいものです。

1枚の図面から工事着手前にグループで色々検討する為にも、
「早く・正確・はっきりと」
が図面作図の最優先です。

そして図面の内容について施工手順を加味して、承認を受けて、初めて施工
図として現場で活用が始まるのです。

1枚の図面の中には多くの職種が含まれていて作業が進んで行くのですから、
施工図にもっと理解を深める事です。

「あんたン所、まともな図面が書けるの?」
と現場管理者さんから言われないようにして、
「これで承認して下さい」
とアピール出来る図面を書きましょう。 

(今号の一句) 承 認 印
         やっともらえた 施工図は
            竣工までの 道しるべ 

                     (以上)

次回は手を出したが為に《一発十万円》の話をしよう。

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施工図屋

2017-02-20 10:53:48 | 建設現場

…………………………(施工図屋 1)…………

「施工図屋の〇〇です。図面を書かせて頂けないでしょうか?」
現場が始まるとすぐに営業マンがやって来る。

建築現場で建物を創るには設計図よりも施工図が重要な事は《建設現場の
子守唄》
《――風来坊》でも話をしているので、施工図の意義・必要性に
ついては
もう一度見てください。

現場に飛び込んで来た施工図屋の営業マンに対して、
「施工図は仕事を覚える為に、現場員に書かせるもンだから、あんた達の出番
はないよ」
と私も所長時代は答えていた。

実際に若手に図面を引かせれば(書かせれば)現場はスムーズに事が運ぶの
であるが、一枚の図面にかかる時間を労務費換算すれば外注作図が安いのだ。

若手現場マンが図面を書くとしたら、一日じゅう現場を駆けずり廻ってから
現場事務所の自分の机に戻り、今日の作業日報をまとめ、明日の職人の予定・
段取りを確認してやっと図面に向う事となって時計の針が19時を廻っていれば
早い方である。

今日の作業予定範囲が順調に終了せず、明日の予定を変更する場合では、
協力業者間の調整に更に時間がかかり施工図作図に取り掛かれないものだ。

 昔は現場に図面担当が配属されていても、若手は部分的にでも図面を引か
されていたし、自分のわからないところを先輩から教えてもらうには図面を
書くしかなかったものだ。

 最近は若手不足もあるが施工図担当がいないまま、現場四監理業務(工程・
品質・原価・安全)は所長の補佐として動き廻り、更にISOの書類まで
若手
に求めている。
 これでは施工図を作図する時間は無くて、当然作業手順や施工検討は確認の
しようがない。

 それでも、
「施工図は若手に書かせろ」
と言うし《勉強の為に》とか理由をつけて、施工図外注の予算をバッサリ
切捨てて、若手に総てを押しかぶせる上司が依然と多い。

 現場が始まったばかりとか順調に進捗していても若手に19時から残業で
図面を書くのが当たり前と考えているゼネコンでは、若手が育つ筈がない。

「施工図は現場監理しながら『昼間に作図せよ!』

これは私が若手を鍛えるフレーズである。

施工図はじっくり腰を据えて《夜に書くのが当たり前》の教育を受けて、
私の現場に配属された若手に、一番初めにショックを与えるのである。

「現場を一廻りする時でも、図面の一部分を頭に描いて、その場所に立って
ごらん……」
そうすれば立体的に考えられるし、図面の表し方も気がつくものである。

夜、パソコン画面に向かってから立体的に考えるのをやめて、昼間に施工図
を書くのだ。

つまり、昼間は眼で現場を監理しながら、頭では施工図を描ければ図面は
即座に完成する。

それに残業手当は上限が決められていて、タダ働きをしていると少しでも心に
影を落とせば、夜、施工図を書く気分に私自身がなれなかったから…でもある。

それにしても現場は朝の8時前から朝礼準備の仕事が始まり、その時間は
早出の残業時間として計上されてもよさそうなものだが、昔からの慣習で
なんとなく見過してもいる。

「早朝から晩の遅くまで働き詰めのところに、サービス残業で図面なんか
書ける訳ない」
と自己主張出来る人はサッサとこの業界から去って行く。

 昔の昔は―――、

現場近くに寝泊りと飯の食えるところがあり、事務所と言わずに『飯場』と
言っていた。
私も駆け出しの頃は《飯場暮らし》であったから、夜はナイターを聞きながら
寝る寸前まで図面を書かされていた。

しかし、事務所の片隅では上司と親方達は一升瓶を横に置いて麻雀をしていて、
製図中の私は背中に視線を感じていた。

(ナイター放送は終わったし……麻雀が終わるまで……質問は出来ないし……)

鉛筆の線一本にも神経を使って、なるべく消しゴムを使わないように、図面は
汚さないようにと書いているのに、麻雀の途中でチラッと図面を見に来て、

これじゃ駄目だ!こうなるンだよ…」

と手短に教えてくれるけれども、一気に赤鉛筆で修正スケッチを書き込まれる。

「ウワッ!」
と何度も言うが、
「別用紙に書いて下さい」
とも頼めずに、その一枚は最初から書き直しである。

イジメではなくて、間違った部分を消して書き直せば汚い図面になるから、
(新しい用紙に最初から書き直した方がよい)
と理解するには数年を要したものだった。

一度考えながら書いたものであるから赤鉛筆で記入される直前迄に戻す時間
は、さほどかからないし、教えてもらった内容は頭にしっかり入り相当な
自信が
得られたものだった。

そのようななごりが残っていれば、今でも若手に施工図を書かせて、仕事を
覚える手段に出来るのだが、先に述べたように現在の建設現場の状況では
望む
べくもなかろう。

さて・・・。
施工図は若手に書かせる、外注は極力避けるという状況を十分に知っている
私が《施工図屋》として看板を掲げていて7年は過ぎているが、ゼネコンを
巡って色々と思う事がある。

施工業者であり、現場監督であるはずの人でも、施工図の認識力が著しく低い。
ハッキリ言えば、ゼネコンのマークのヘルメットを被って場内を散歩してい
るだけである。

私の駆け出し時代の技術力程度で、職人さんを指図しているようである。 
設計図を見て、どのような手順で創るのか施工図を書く事も出来ないと思える
若手現場マンが多くて、自分なりに施工図を書いてみようと思っていない。

否、施工図を《書かない》のでなくて、施工図が《書けない》現場マンが増え
たのである。

建築バブル時代には、施工図を外注に書かせて、忙しさを短縮したつもりで
あった人達が、製図台の前に座らないまま、施工図は眺めればいいのだ……
との
まま監督になったのである。
それに時代は手書きから一気にCAD図になったのであるから、パソコンが
苦手な人はますます施工図を書く機会が失われたのである。

「施工図屋ですが・・・」 
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来ると 

 《施工図屋2》 へ続く

 

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赤字の予算書(2) 

2017-02-02 14:36:40 | 建設現場

さて、私の現場に話を戻しましょう。

予算書が工務部門から届いたので、さっと中身を見た。
「なんてこった…」
血も涙も無く協力業者の首を絞めて、厳しい予算から更に儲けを出せば、
出世の道も簡単であるが私には出来っこない。

当然、現場マンの配属も大幅削減であり、忙しい数ヶ月は応援者があるとい
うものの、増員者がその時期に丁度当てはまるとのアテは全く出来ないも
のだ。

それよりも、
「若手は今、誰も空いていないし……」
とこちらが忙しい時期になったら、絶対言うに決まっている。

こうなれば私はスーパーマンになるしかないのだ。

配属人員の削減が決まっている以上、総ては私がする。
予算書の細部見直し、経費及び無駄の削除、飲み会は赤ノレン、施工図は
自分で作図、土日も出勤・・・。

人に頼らず、総てを一人でやるしかない。
「そんなに全部は出来ない」
とやる前から言う人もいるが、出来ないのではなくて
「やらないのだ」
と私は言い返し、私はスーパーマンに変身するのだ。 

そして、予算が厳しい内容を十分認識した上で、協力業者を一同に集める
「これが、今度の予算書だ、アンタ達に金額は見せられないものだけど、
オープンだ!」
と上司が聞いたら心臓が飛び出るかもしれないが、契約予定金額が赤色で書
いてあるがままを曝(さら)け出した時が、私の契約交渉のスタートである。

「今までの俺のやり方でこの現場もやる。俺のやり方では赤字を解消出来な
い金額かも知れないが、前の現場のメンバー(職長)が揃えば、ロスなく
やっていけるから、どうだ!」
と見積り金額よりも、もう契約金額を前提とした話である。
つまり、前の現場で竣工時の雰囲気から、メンバーから抜ける職長はいない
との自負である。

予算オーバーの契約話では、購買部としても後廻し仕事にしたいものだ。

しかし、協力業者の社長さんが丸秘の契約上限額のすれすれで見積り書を持
って、支店購買部と契約交渉をするのだから、締結するのに時間はかから
ない。

即決出来れば、当月の出来高の請求は入金可能にもなるし、赤字の現場予想
があれば誰も行きたがらないものだが、社長と職長はもう話が付いていて、
不安はあるものの、
「所長、今契約を決めてもらいました。T君を職長で行かせるよ。よろしく」
と赤字でありながら心配はしていないような声で、下請契約締結を知らせて
くれた。

厳しい仕事をして行かねばならない現場に向かう時こそ、所長にどれだけの
業種が無理を聞いてくれるのか、所長にどれだけ人が付いて来るのかで、
工事の進み方も違って来るし、儲け具合いにも開きが現れる。

それは所長と協力業者及び職長とのつながりによるだろうが、つながりの基をつきつめれば
《所長の徳》である。

現場所長の徳とは、
「施主への建築物に対して技術と信用を第一にして、職人と使う材料に迄も
愛情があって初めて徳の芽が出るし、儲けも出る……」
と私はいつも思っている。

         《赤字の予算書  完》

 

 

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赤字の工事予算書

2017-01-13 14:14:31 | 建設現場

…………………………(赤字の工事予算書)…………

 「今度はこの現場に行ってくれ」

この一言によって、新しい現場を任されたものの、噂によれば無理をして受注にこぎつけたので、工事期間の問題よりも《赤字の現場》だろうなあと悪い予感がよく走ったものだ。

こんな事のカンは外れて欲しいものだが、入札時の状況を営業から聞かされたので、工事予算書を見るのも気の重いものであった。

入札結果が見積り金額より数%少ない程度なら許せるが、
ネット(原価)割れである。

赤字になるのが分かっていたなら受注を取り止めればいいものを、
何でか知ら
ないが会社は請け負うし、世間は(赤字で請け負う筈はない)と思い込んでいる。

仕事そのものが激減している中で、天を仰いでいて仕事が口に届けば、
飲み込
まざるを得ないのが、今の建設業界全体なのであろう。

「遊ばしておくよりもイイか……?」
が分からないでもないが、協力業者まで首を締めるのも覚悟の上で
受注する場合もある。

 赤字覚悟で落札しても、工事部門としてはそのまま赤字で終わらせるわけには行かず、竣工精算時にはせめてネットまで戻さねば現場で苦労をした意味が無い。

 その為には必ずどこかにしわ寄せが廻って来るし、所長としては何とかせねばならない。

「こんな予算では、出来ませんよ……」
と何度も言いたいのだが、言えば工事受注の部門・部署とイヤミの山が膨らむだけだ。

予算が無くて一番苦しいのは協力業者に発注する部門である。

 店内の購買部は協力業者からの見積り金額がどれもこれも予算書内に納まらず、契約を結ぶ時期が迫っても未契約のままの時もある。

そんな状況でも現場としては自分の希望する親方と直に(下打合せ)をしてでも工事を進めて行かねば工事は全く止まってしまうのだ。

「銭・金じゃない!先ず仕事に手を付けて…そのうち店(購買部)と契約になるだろうから」
と協力業者と阿吽の呼吸が多くある所長ほど、当然、現場はスムーズに進む。

月末の〆による協力業者からの請求書が現場に届く頃になっても、
まだ請負契約が締結出来ていない話はよくある事だ。

親方の見積り金額がそのまま請負契約になるとは御互いに思っていないにしても、何とか契約をしたいし、購買部から言われた金額では到底無理だと言う場合も多々ある。

「金額が合わない上に、あの所長さんの現場ですか…。今回は降ろさせて頂きます」
と算盤勘定を素早くして赤字の予想が付く現場から身を護る社長も一人や二人ではない。

「まだ、下請と契約出来てないのですか?」

と購買部へ注文を出す所長さんに限って、
「(あんたが要望している下請にも逃げられて…もう少し待ってよ……」
としか答えてもらえない現場を、よく耳にしたものだ。

工事協力業者会員として会費を納め名を連ねている以上、会員の中から下命するつもりでも金額の折り合いがつかず、一度辞退した業者をどうしても使わざるを得ない場合もある。

そうなると業者は見積り金額に近い値段まで首を縦に振る仕草をなかなか見せないもので、腹のサグリアイによる値段交渉に再度突入だ。

その間、時間と工期は進んでいるのに、
契約をしてから、工事をさせること(商取引の原則だ)」
と支払い金の延期理由と一緒に、経理部門からイヤミの電話が来る話も伝え聞いている。

 さて、私の現場に話を戻しましょう。

 予算書が工務部門から届いたので―――、

   《赤字工事の予算書2へ続く》

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