智徳の轍 wisdom and mercy

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ヤソーダラー

2008-04-27 | ☆【経典や聖者の言葉】

一 「五百人の比丘尼を従えて、大いなる神通があり、大いなる智慧【ちえ】がある私は、等覚者【とうがくしゃ】のみもとを訪れました。
二 等覚者に、師の輪相に頂礼して、傍らに座って、こう申し上げます。
三 私の最後の有は、齢【よわい】七十八年を転じ、光明は衰退に達しました。偉大なる牟尼【むに】にお告げいたします。
四 私の齢は完全に熟し、私の残り少ない命を捨てて赴くことでしょう。私自らの帰依処は既に作られたのです。
五 齢の最後の時である死を破壊し、大いなる勇者よ、今夜寂滅を体得しようと思うのです。
六 生・老・病・死のない、偉大なる牟尼よ。生死のない無為の城に行くことでしょう。
七 集える限りの師の会衆で、私の罪を知る者は、牟尼の面前でお許しください。
八 輪廻【りんね】に輪廻するうちに、もし私に過ちがあるならば、大いなる勇者よ、どうか、私の罪をお許しください。」
九 「私の教えを順守する者よ、神通を現わせ。そして、すべての会衆の教えに対する疑惑を断つがよい。」
一〇 「私ヤソーダラーは、勇者よ、在家の頃はあなたの第一の妃であり、シャカ族に生まれ、やがて妃に立てられたのです。
一一 あなたの在家時代には、十九万六千以上の女の中で、勇者よ、私は第一位であり、すべての主でした。
一二 年頃だったときは、美しさと礼儀作法を備え、優しい言葉を遣ったので、すべての人は私を女神のように尊んだのです。
一三 シャカ族の子の家にいた、主だった千人の女性は、歓喜園にいる神のように、苦楽は平等でした。
一四 欲界を超えて、色界に安住する者も、美しさにおいては、世界のグルを除くと、私と等しい者はありませんでした。」
一五 等覚者に礼拝して、師に神通をお見せした。多くの異なった形をなして、大神通をお見せした。
一六 その身を鉄囲山に等しくし、北の倶慮州を頭とし、二つの州を両翼とし、南の閻浮州【えんぶしゅう】を体とし、
一七 南海の葦【あし】を尾とし、様々な樹の枝を羽とし、太陽と月を眼【まなこ】とし、須弥山【しゅみせん】を髻【もとどり】とし、
一八 鉄囲山をくちばしとし、閻浮樹【えんぶじゅ】を根っこごと、あおぎながらやってきて、世界のグルに礼拝した。
一九 象の姿を、同じように馬を、山を、同じように水の生き物を、月や太陽を、須弥山や帝釈【たいしゃく】の姿を現わした。
二〇 「勇者よ、私ヤソーダラーは、おみ足に頂礼いたします。眼ある方よ、千世界を花開かせて覆いました。
二一 梵天【ぼんてん】の姿を化作【けさく】して、空性【くうしょう】の法をお説きになる勇者よ、私ヤソーダラーは、おみ足に頂礼いたします、眼ある方よ。
二二 私は神足【じんそく】と天耳界【てんにかい】において自在であり、他心智【たしんち】の自在者です、偉大なる牟尼よ。
二三 宿命【しゅくみょう】を知り、天眼【てんげん】は清浄となり、一切の漏【ろ】は尽き果てて、もはやこの世に転生することはないでしょう。
二四 義・法・詞、また、弁における私の智慧は、大いなる勇者よ、あなたのみもとで生じたのです。
二五 昔の世界の主の会合で、あなたに示した、あなたへの私の奉仕は大きなものです、偉大なる牟尼よ。
二六 私の過去世の善業を思い出されてください、牟尼よ。あなたのために私は功徳を積んだのです、大いなる勇者よ。
二七 あり得ない所を除いて、障害ないことを熟させながら、大いなる勇者よ、あなたのために、私の命は捧げられたのです。
二八 数千億回、私を妻として捧げました。あなたのためなら、私は悲しくはありません、偉大なる牟尼よ。
二九 数千億回、あなたを助けるために、私自らを捧げました。あなたのためなら、私は悲しくはありません、偉大なる牟尼よ。
三〇 数千億回、私を飲食のために捧げました。あなたのためなら、私は悲しくはありません、偉大なる牟尼よ。
三一 数千億回、命を献上いたしました。恐怖から解脱しようとして、私の命を献上いたしました。
三二 体に付ける装飾品や衣服、様々な多くの女性の所有物は、あなたのために隠したりはいたしません、偉大なる牟尼よ。
三三 財産・穀物・浄施・村・町・田圃【たんぼ】・子供も献上いたしました、偉大なる牟尼よ。
三四 象・馬・牛、また下男・下女など、大いなる勇者よ、あなたのために献上したものは限りがありません。
三五 私のために答える布施ならば、求める者に何でも布施するでしょう。最上の布施を施しながら、私は悲しみを見ることはありません。
三六 数々の輪廻の中で、様々な多くの苦を、大いなる勇者よ、あなたのために享受したことは限りがありません。
三七 安楽を得ても喜ぶことはなく、苦しみの中でも悲しむことはなく、どこにいても、あなたのために取り計らいました、偉大なる牟尼よ。
三八 等覚者が法を引き出された道程【みちのり】で、苦楽を享受して、偉大なる牟尼は悟りを得られました。
三九 世界のグルである等覚者ゴータマが、梵天とお会いになること、あなたが他の世界の主とお会いになることは、私よりも多かったのです。
四〇 私はあなたの使いとして、仏法を求めながら、あなたへの私の奉仕は大きなものでした、偉大なる牟尼よ。
四一 四アサンキャと十万カルパの昔に、大いなる勇者、世界のグル、ディーパンカラは、出現なさいました。
四二 近くの場所に如来【にょらい】を招いて、心は喜び、そのお方がいらっしゃる道を掃除いたしました。
四三 そのとき、あなたはスメーダという名のバラモンで、一切見者【いっさいけんしゃ】のいらっしゃる道を準備なさいました。
四四 そのとき、私はスミッターという名のバラモンの娘で、この集いに行きました。
四五 師に供養するために、手に八本の青蓮華【あおれんげ】を持ち、人々の中に最高の仙人を見たのです。
四六 久しく付き添って、愛【いと】しく、極めて恋しく、心引かれるのを見て、そのとき、私の生に果報があることを思ったのです。
四七 そして、努力しながら、仙人に果報があるのを見たのです。以前のカルマによって、私は等覚者に信心を起こしました。
四八 高い志がある仙人に、深く信心して、他に施すべき人を見なかったので、仙人に花を供養いたしました。
四九 『五本はあなたのものです。三本は私のものです、仙人よ。それによって、あなたの悟りの意義において、平等にシッディがありますように、仙人よ。』
五〇 仙人は花を受けられて、こちらにいらっしゃる大いなる名声ある方に歩み寄り、人々のいる前で、悟りのために、大聖【たいせい】は供養なさったのです。
五一 偉大なるディーパンカラ牟尼は、人々の中に彼を見られ、大いなる勇者は、志高き仙人に予言なさったのです。
五二 今から無量カルパの昔、偉大なるディーパンカラ牟尼は、私のカルマの正しさを予言なさったのです。
五三 『彼女は心も正しく、カルマも正しく、所作も正しく、あなたのためのカルマによって、未来世で愛する妻となるだろう。
五四 美しく、極めてかわいらしく、気持ちよく、言葉も優しくて、あなたの法において、かわいらしい後継ぎの女性になるだろう。
五五 財宝の箱をその持ち主が守るように、この者は善法を守るだろう。
五六 あなたはそれを哀れみ、究竟【きゅうきょう】を円満にするだろう。あたかも獅子【しし】のように、煩悩【ぼんのう】の檻【おり】を捨てて、悟りを体得するだろう。』
五七 今から無量カルパの昔、仏陀【ぶっだ】はそれを予言なさり、そのお言葉に歓喜しながら、私はこのような修行者となったのです。
五八 彼の善をなしたカルマに対して、そこで信心を起こし、無数の天界・人間界の生を受けて、
五九 天界・人間界において、苦楽を享受して、最後の有【う】に達すると、シャカ族の中に生まれました。
六〇 そこでは、麗しい容姿が備わり、財産があり、名声と戒を備え、すべてを具足して、諸々の家において大変敬われました。
六一 世間の法と一致する利益も、名声も、敬いも、また苦しめる心もなく、何ものにも恐れることなく暮らしていました。
六二 如来【にょらい】はこうおっしゃいました。そのとき、王の後宮で、クシャトリヤ達の城で、勇者よ、奉仕の意義をお説きになったのです。
六三 ある女は助力する者であり、またある女は苦楽を共にする者であり、またある女は論ずる者であり、またある女は同情する者なのです。
六四 五十億の仏陀【ぶっだ】、また九十億の仏陀、これらの天中天に大いなる布施を行ないました。
六五 私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。百十億の仏陀、また五十億の仏陀、
六六 これらの天中天に大いなる布施を行ないました。私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
六七 二百億の仏陀、また三百億の仏陀、これらの天中天に大いなる布施を行ないました。
六八 私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。四百億の仏陀、また五百億の仏陀、
六九 これらの天中天に大いなる布施を行ないました。私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
七〇 六百億の仏陀、また七百億の仏陀、これらの天中天に大いなる布施を行ないました。
七一 私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。八百億の仏陀、また九百億の仏陀、
七二 これらの天中天に大いなる布施を行ないました。私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
七三 一万億の世界のグルがありました。これらの天中天に大いなる布施を行ないました。
七四 私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。他に九百億の世界のグルがありました。
七五 これらの天中天に大いなる布施を行ないました。私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
七六 一万八千五百億の大聖、また八百五十億の大聖、また七千億の大聖、
七七 これらの天中天に大いなる布施を行ないました。私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
七八 貪りを捨てた八と第八番目の億の辟支仏【びゃくしぶつ】、私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
七九 諸々の煩悩を滅尽し、垢【あか】を離れた、無数の仏弟子、私の奉仕は大きなものです。大王よ、私の言葉をお聞きください。
八〇 法によって行なう、正法を行じる者にとっては、常にこのようなものなのです。法を行じる者は、この世においても、あの世においても安楽なのです。
八一 法を、善行を行じなさい。あの悪行を行じてはなりません。法を行じる者は、この世においても、あの世においても安楽なのです。
八二 輪廻において厭離【えんり】して、在家から出家者となり、千の親族と共に、所有なき者として出家したのです。
八三 家を捨てて在家から出家者となり、まだ八カ月に至らないうちに、四諦【したい】を体得いたしました。
八四 衣食および牀座【しょうざ】の必需品は、多くを独りに与えるのです。まるで海の波のように。
八五 私の諸々の煩悩は焼き尽くされ、有はすべて断じられ、もはやこの世に転生することはありません。
八六 実に私はよく至れる者です。我が最勝なる仏陀のみもとで、三明は体得され、仏陀の教えは実践されるのです。
八七 四無礙解【しむげげ】と、またこれら八解脱【はちげだつ】と、六通を現証して、仏陀の教えを実践いたします。」
――このように、長老ヤソーダラー比丘尼は、これらの詩句を唱えたのである。