中国雲南省で有名な湖沼には、滇池(ディエンチ)や洱海(エルハイ)がある。
しかし、その重要性にもかかわらず一般に知られていない湖がある。
撫仙湖(フーシェンフ)である。
最近の遺伝子解析によって日本人のルーツの一つが雲南省であると言われているように、日本と雲南省の交流は昔から深く、米や酒、ワサビ、麺、茶、藍染め、仏教といった農作物や生活様式の伝播や社会文化の交流など、共通している点が多い。
したがって、このような人間社会と密接な関係を保ってきた淡水湖沼の比較研究は興味深いものがある。
雲南省の湖沼は地殻変動によって形成された構造湖であり、また、10万年以上の歴史を持つ古代湖でもある。
雲南省は3億年前までは海底にあり、その後のユーラシアプレートとインドプレートとの衝突によるヒマラヤ造山活動などの地殻変動で隆起したものと見られ、存在する湖沼の多くが琵琶湖形成の年代(約400万年前)より古いと言われている。
特に私たちが研究対象とした撫仙湖の周辺では、脊椎動物の化石としては世界最古の標本の一つである原始的な魚類Myllokunmigia(海口カンブリア紀前期、推定約5億3000万年前)が発見されている(Shu et al. 1999)。
湖の北東にある中国科学院南京地質古生物研究所付属の澄江古生物研究站では、カンブリア紀中期の澄江動物群の化石を展示し公開しており、その土地の成因を知る上でとても興味深い。
撫仙湖について議論する前に、雲南省の湖沼と琵琶湖の諸元を比較する(表3-1-1)。
表1 雲南省の湖沼と琵琶湖の諸元比較
文献 1 中国湖泊概論(1989)、2 中国湖泊資源(1989)、3 雲南省水資源局(2000)、4 世界湖沼データブック(1984)
湖沼形状指標は、湖面積÷(最大水深×湖岸線長)で定義しており、大きな数値ほど混合しやすく水質は上下に均質であるが、数値が小さいほど混合しにくく水質は上下非均質になりやすい。
また、滞留時間は湖の水が交換する時間を示しており、大きな数字ほど水の入れ替わりに時間がかかる。
ただし、滞留時間の計算は中国の湖では容積を流入量で割るのに対し、琵琶湖では容積を流出量で割っていることに注意しなければならない。
これからすると、撫仙湖は上下に水が混合しにくく、また水の交換も小さい湖といえる。
これらの湖沼の中で、富栄養化が著しく進んでいる滇池と星雲湖は、アオコの発生が恒常化している。
滇池は1960年代以前には美しい湖として知られ、古くは漢詩にも歌われ水生生物の宝庫であったが、昆明市の発展・拡大に伴って未処理の下水が流入し湖は一気に富栄養化した。
維管束植物に例をとれば、1950年代には28科44種であったのが、1970年代には22科30種、1980年代には12科20種、1990年代にはさらに激減し、絶滅の危機に瀕している。
湖底の嫌気化も進んでおり、湖面に硫化水素が発生しているところもある。
これまで、すでに400億円以上の大規模な改善事業が実施されてきたが、十分な効果をあげていないと言われている(Zhang and Yang, 1998)。
一方、珠江支流・南盤江上流域に位置し、周辺の農業の拡大や人口集中で汚染が進んだ星雲湖は過栄養状態となっており、大量のアオコを含んだ水が全長2.5kmの隔河という水路をへて中国第2の水深をもつ撫仙湖南西端へ流入している。
ちなみに中国で最も深い湖は北朝鮮との国境に位置する長白山天池で、最大水深は373mであるが、面積は9.8平方キロメートルしかなく、まさに針を突き刺したような湖である。
表1に示したように、撫仙湖の面積は琵琶湖の約3分の1、最大水深は155mと琵琶湖の約1.5倍あり、湖岸から急に深くなっているのが特徴である。
滞留時間が146.7年と非常に長いということは、容積に比べて河川からの流量が小さいことを意味している。
Guo (2001)によると、年間の撫仙湖への年平均河川流入量は1.31億トンなので、琵琶湖の年間流出量50億トンに比べてはるかに小さい。
栄養塩の流入濃度は高いが負荷量としては小さいこと、そして、水深が急に深くなっており湖底に到達するまでに有機物が分解してしまうことが、撫仙湖の水質をきれいに保ってきた要因であるが、近年の地球規模での気温上昇によって全循環が抑制され、深い場所での溶存酸素濃度が減少してきている。
撫仙湖は、かつて中国海軍の潜水艦訓練場として利用されてきたが、冷戦の終わりとともに1990年代後半より観光資源として開発されるようになってきた。
周辺人口の増加、農業の発達が隣接する星雲湖の富栄養化を加速させ、撫仙湖への有機物負荷も増大してきている。
降水量の増加が透明度の低下をもたらしているように思われる。
第一に土砂流入による湖水の懸濁があげられる。
また降雨によって集水域からの負荷が増加し、結果的に有機物生産を増加させ、1990年代半ばより年々透明度が低下している(Li 2001)。
さらに撫仙湖における気温の上昇は冬期の全循環を抑制し、酸素供給量の低下を招き、湖底付近の低酸素化・無酸素化を加速させている。
しかし、その重要性にもかかわらず一般に知られていない湖がある。
撫仙湖(フーシェンフ)である。
最近の遺伝子解析によって日本人のルーツの一つが雲南省であると言われているように、日本と雲南省の交流は昔から深く、米や酒、ワサビ、麺、茶、藍染め、仏教といった農作物や生活様式の伝播や社会文化の交流など、共通している点が多い。
したがって、このような人間社会と密接な関係を保ってきた淡水湖沼の比較研究は興味深いものがある。
雲南省の湖沼は地殻変動によって形成された構造湖であり、また、10万年以上の歴史を持つ古代湖でもある。
雲南省は3億年前までは海底にあり、その後のユーラシアプレートとインドプレートとの衝突によるヒマラヤ造山活動などの地殻変動で隆起したものと見られ、存在する湖沼の多くが琵琶湖形成の年代(約400万年前)より古いと言われている。
特に私たちが研究対象とした撫仙湖の周辺では、脊椎動物の化石としては世界最古の標本の一つである原始的な魚類Myllokunmigia(海口カンブリア紀前期、推定約5億3000万年前)が発見されている(Shu et al. 1999)。
湖の北東にある中国科学院南京地質古生物研究所付属の澄江古生物研究站では、カンブリア紀中期の澄江動物群の化石を展示し公開しており、その土地の成因を知る上でとても興味深い。
撫仙湖について議論する前に、雲南省の湖沼と琵琶湖の諸元を比較する(表3-1-1)。
表1 雲南省の湖沼と琵琶湖の諸元比較
文献 1 中国湖泊概論(1989)、2 中国湖泊資源(1989)、3 雲南省水資源局(2000)、4 世界湖沼データブック(1984)
湖沼形状指標は、湖面積÷(最大水深×湖岸線長)で定義しており、大きな数値ほど混合しやすく水質は上下に均質であるが、数値が小さいほど混合しにくく水質は上下非均質になりやすい。
また、滞留時間は湖の水が交換する時間を示しており、大きな数字ほど水の入れ替わりに時間がかかる。
ただし、滞留時間の計算は中国の湖では容積を流入量で割るのに対し、琵琶湖では容積を流出量で割っていることに注意しなければならない。
これからすると、撫仙湖は上下に水が混合しにくく、また水の交換も小さい湖といえる。
これらの湖沼の中で、富栄養化が著しく進んでいる滇池と星雲湖は、アオコの発生が恒常化している。
滇池は1960年代以前には美しい湖として知られ、古くは漢詩にも歌われ水生生物の宝庫であったが、昆明市の発展・拡大に伴って未処理の下水が流入し湖は一気に富栄養化した。
維管束植物に例をとれば、1950年代には28科44種であったのが、1970年代には22科30種、1980年代には12科20種、1990年代にはさらに激減し、絶滅の危機に瀕している。
湖底の嫌気化も進んでおり、湖面に硫化水素が発生しているところもある。
これまで、すでに400億円以上の大規模な改善事業が実施されてきたが、十分な効果をあげていないと言われている(Zhang and Yang, 1998)。
一方、珠江支流・南盤江上流域に位置し、周辺の農業の拡大や人口集中で汚染が進んだ星雲湖は過栄養状態となっており、大量のアオコを含んだ水が全長2.5kmの隔河という水路をへて中国第2の水深をもつ撫仙湖南西端へ流入している。
ちなみに中国で最も深い湖は北朝鮮との国境に位置する長白山天池で、最大水深は373mであるが、面積は9.8平方キロメートルしかなく、まさに針を突き刺したような湖である。
表1に示したように、撫仙湖の面積は琵琶湖の約3分の1、最大水深は155mと琵琶湖の約1.5倍あり、湖岸から急に深くなっているのが特徴である。
滞留時間が146.7年と非常に長いということは、容積に比べて河川からの流量が小さいことを意味している。
Guo (2001)によると、年間の撫仙湖への年平均河川流入量は1.31億トンなので、琵琶湖の年間流出量50億トンに比べてはるかに小さい。
栄養塩の流入濃度は高いが負荷量としては小さいこと、そして、水深が急に深くなっており湖底に到達するまでに有機物が分解してしまうことが、撫仙湖の水質をきれいに保ってきた要因であるが、近年の地球規模での気温上昇によって全循環が抑制され、深い場所での溶存酸素濃度が減少してきている。
撫仙湖は、かつて中国海軍の潜水艦訓練場として利用されてきたが、冷戦の終わりとともに1990年代後半より観光資源として開発されるようになってきた。
周辺人口の増加、農業の発達が隣接する星雲湖の富栄養化を加速させ、撫仙湖への有機物負荷も増大してきている。
降水量の増加が透明度の低下をもたらしているように思われる。
第一に土砂流入による湖水の懸濁があげられる。
また降雨によって集水域からの負荷が増加し、結果的に有機物生産を増加させ、1990年代半ばより年々透明度が低下している(Li 2001)。
さらに撫仙湖における気温の上昇は冬期の全循環を抑制し、酸素供給量の低下を招き、湖底付近の低酸素化・無酸素化を加速させている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます