ガラパゴス通信リターンズ

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リポビタンD(漢字が書けないよう・声に出して読みたい傑作選81)

2009-06-01 12:54:30 | Weblog
ぼくは、割合手で字を書くほうだと思う。講義ノートは必ず手書き。毎年どの科目も新しく作っている。というと熱心なようだが、字が汚すぎて次の年にはもう判読できなくなっているからである。それに論文を書く時には、必ず原稿用紙に下書きをする。骨髄移植の後から、目がものすごく光性の刺激に弱くなっているから、ディスプレイに向かって長考することを避けるためだ。

 万年筆は鳥取万年筆博士のオーダーメード。世界にこの一本しかない。10万円の逸品である。「日本一高い万年筆を使い、世界で一番下手な字を書く社会学者」。それがぼくのアイデンティティである。

 これだけ字を毎日書いているにも関わらず、黒板に向かうとさっぱり漢字が出てこない。加齢の恐ろしさである。ある日、明治の学制公布に反対して、各地で農民の一揆、学校打ちこわしが起こったという話をした。そして「一揆」という字を黒板に書こうとした。ところがというか、案の定というか、出てこないのだ。「一揆」という字が。

 いろいろな字が頭には浮かんでくる。「一期」。うーむたしかに、首謀者は「一期」の終わりだっただろうが。「一気」。なるほどそれをやるには「一気」の勢いが必要だ。「一機」。そう、ことの成否はワンチャンスにかかっている。どれももっともらしいがどれも違う。ぐずぐずしているうちに時間が過ぎていく。さすがにぼくも焦ってきた。

 そのうち「一揆」という漢字がおぼろげに頭に浮かんできた。そうだこれだ、と思って黒板にその字を書いた。すると教室からどよめきが起こった。前の方でいつも聞いてくれている、まじめで賢い学生さんの間から失笑がもれた。改めて黒板をみて愕然とした。「おぼろげな記憶」に頼ったのがいけなかった。黒板にはこう書かれていた。

               農民一発。