ガラパゴス通信リターンズ

3文社会学者の駄文サイト。故あってお引越しです。今後ともよろしく。

「ロックフェラーはがんばった」

2007-08-07 21:26:49 | Weblog
 昨年まである非常に偏差値の高い大学で非常勤で教えていました。教養部のゼミで、企業経営者や政治家が世襲されていく世の中のあり方はおかしいのではないか、という話をしたことがあります。するとこの大学の附属高校の出身者がこういいました。「先生のいまのご発言は、もてる者への妬みにしか聞こえません」。この大学の創設者は、「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」といった人です。
 
 超エリート大学ばかりではありません。私の勤務校の学生も、「お金持ち」=「頑張った人」=「道徳的に優れている」という図式を無邪気に口にする傾向があります。ホームレスの支援活動を行っている学生がいる一方で、「ホームレスは怠け者」と公言する学生も少なくありません。

 社会ダーウイニズムともいうべき、優勝劣敗思想の蔓延にぼくは心底頭にきているところがあります。ある日勤務校の授業でぼくは、ソースタイン・ヴェブレンの話をしました。19世紀末のアメリカは「金ぴか時代」の名で呼ばれています。ロックフェラーやバンダービルドのような「泥棒貴族」と呼ばれた新興成金が多数生まれた時代です。彼らは開拓農民や先住民の土地を詐術と暴力で収奪して、巨富を築いたのです。

 巨富は勤勉ではなく、詐術と暴力によってもたらされるものであり、私有財産とはうまくいった収奪劇のトロフィーだとヴェブレンはいっている。ぼくはそれにまったく同感すると話しました。「成功者はがんばった人」。「貧しい人は怠け者」。そう信じて疑わない学生たちを挑発する意味でした発言です。

 すると非常に優秀なある学生はこう反応しています。「先生はそうおっしゃいますが、ロックフェラーはがんばったのだと思います」。「そう。がんばった。がんばって暴力をふるったり人をだましたりした」とぼく。「でもがんばったのですよね。開拓農民や先住民の方々は、残念ながらがんばりが足りなかったのではないでしょうか」。

一瞬の夏3

2007-08-05 01:06:42 | Weblog
 今年も吹奏楽の大会がありました。太郎の小学校は見事東関東大会に出場(何故神奈川が東関東?)。骨子の中学校は、金賞に輝きながら(すべての出場校に金・銀・銅のいずれかの賞が与えられる)、県大会への出場権を獲得することができませんでした。「ダメ金」という奴です。壇上に上がった代表に「金賞」が告げられる。その後で県大会の出場校が発表になる。一度喜んで「残念でした」となる「ダメ金」は子どもたちにとって残酷です。

 しかし家に帰ってきた時、骨子の顔は晴れやかでした。自分たちはベストを尽くした。それでも上にくる学校がいたのだから仕方がない。勝敗は時の運。素晴らしい仲間と過ごせた3年間に悔いはない、と。今回の結果は、彼女にとって誇らしくもあり、悔しさも残るものでした。それまで吹奏楽はもういいといっていたのに高校でも続ける気持ちが強くなったようです。県大会に出場するより、もしかしたらよい結果だったのかもしれません。

 その数日後、私の知人からメールが届きました。こんな内容でした。自分も高校時代に吹奏楽をやっていて「ダメ金」になったことがある。その時腹立ちまぎれに目玉をいれるはずだったダルマをみんなで踏み潰した。高校時代の自分たちには音楽を楽しむ気持ちが全然なかった。「音楽の競技化」は不毛なものだと思う。結果ばかりにとらわれるのではなく骨子さんも末永く音楽を楽しんでもらいたい。私は、二人にこのメールを見せました。

 太郎は紙粘土を買ってきて、ダルマを作り始めました。メールを読んでダルマを踏み潰したくなったのです。東関東大会で銅賞しかとれなかったら踏み潰すのだといって、トランペットパートの人数分ダルマを作ります。よい色の賞をとるより、気持ちはダルマを踏み潰す方に大きく傾いています。本当にどうしよう(銅賞)もない。パートのメンバーは6人ですが、太郎はダルマを7個つくりました。一つは火事で亡くなったH君のものです。

そんなバナナ!

2007-08-03 05:38:28 | Weblog
7月の末に「子どもと教育の社会学」という授業の最終回を行った。給食費未納問題をとりあげた。みんな「親の規範意識の低下」の結果、給食費の未納者が急増しているというマスコミ報道を素直に信じていた。そこで、未納者はどれぐらいの比率でいると思うと尋ねると彼女たちはこう答える。「えー、40%」。「うーん20%」。「もしかして30%」。ぼくが人数で1%強、額にして0.5%強という「正解」を話したらみんなとっても驚いていた。このエピソードから、二つの事実が浮かび上がってくる。

 ①みんな給食費の問題は知っているが、正確な内容は知らない。つまり見出しはみても記事の内容は読んでいない状態。新聞を読んでいる学生は皆無。テレビとネットのニュースしかみていない。ああいうのは「ヘッドラインジャーナリズム」というのか、見出しばかり流しているようなものです。②「未納者急増」のイメージが一人歩きすると、2割も3割も4割も未納者がいるような途方もない「擬似環境」が形成される。たしかにそれだけ増えれば親の「規範意識」が問題になると思う。

 急増というが、前年のデータはない。他の公共料金の場合10パーセント程度の未納を前提に予算を組んでいるので、1%の未納は教育に対する親の規範意識の驚異的な高さを物語っている。 ぼくはいった。「みなさんが学年最初のテストで99点をとったとする。ところが先生に呼び出されて『この点数は、あなたの勉学意欲がひどく低いことを物語っています。しかも前回のテストに比べてひどく下がっています』といわれたようなものです。『ひどく下がる??99点で?前回のテスト???これがはじめてじゃん』とみなさんなら思うでしょう」。

 この授業は4月に『子どもの誕生』の紹介からはじまり、著者のアリエスがバナナ商人だという噂がアメリカでたったという話をした。最後が給食費の未納問題(を軸に教育改革批判)。どこにつながりがあるのか。そう、給食の花形はぼくらのころバナナでした。「親の規範意識の低下」なんてそんなバナナ!