ガラパゴス通信リターンズ

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虹と雪のバラード2

2006-02-24 14:05:22 | Weblog
 すべては金の世の中である。スポーツの世界も例外ではない。一流の施設で優れたコーチの指導を受け、世界を股に転戦しなければトップクラスのプレーヤーになどなれはしない。アテネオリンピックで日本はたくさんの金メダルをとった。それと近年の日本の「経済復興」とは無関係ではない。「勝ち組」企業がバックについている選手がやはり強かった。

 トリノで日本勢は惨敗した。日本選手の圧倒的多数は、北海道・東北・信越地方の出身者である。東京の繁栄からは、置き去りにされた地域の人たちの集まりである。冬の競技の場合、大手のスポンサーが次々と撤退している。フリーター同然の身で細々と競技を続けてきた選手も多い。アテネの大勝とトリノの惨敗。その理由は、経済決定論で説明できる。

 そうしたなかで女子カーリングチームの活躍は、さわやかな印象を残した。北海道の田舎町の出身者たちが、青森市を基盤に活動していたチームが母体である。テレビでみていても平凡な地方の若い女性たちの集団という印象だった。それが世界を相手に堂々の闘いを演じたのである。彼女たちの健闘は、地方の若者に大きな励ましを与えたのではないか。

 日本チームだけではない。どの国のカーリングの選手も、平凡なおねえさんやおばさんたちにみえた。ベンチプレスで200kgを持ち上げる力持ちを集めても、100m11秒台のイダ天を集めても、IQ180超の頭脳を集めても、強いチームは作れない。心をこめてモップをかける、実直な人間がいなければカーリングは成り立たない。人を出し抜くことを旨とする拝金主義の対極にある、「凡人」が輝く競技である。

 女子フィギュアの金メダルでメディアは大騒ぎだ。ぼくはどうしてもこの競技が好きになれない。日本選手のパパたちの職業は、NTTの幹部社員に日航のパイロット。「勝ち組」のご令嬢たちがなさるスポーツではないか。こんな競技みるものかと天邪鬼をきめこむつもりだったが、結局今日も朝早くからテレビにかじりつき、荒川選手が金メダルをきめた時には思わず快哉を叫んでしまった。そんな自分をとても情けなく思っている。

10 コメント

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人口当たりメダル数 (松本和志)
2006-02-26 10:19:47
 キチンと計算していませんが、人口当たりのメダル獲得数で見ると北欧およびドイツ、カナダの福祉国家は圧倒的に多そうですね。それはウィンタースポーツが盛んであるだけでなく、

・地方自治が発達していて地方にもちゃんとお金が回り、スポーツクラブ等が成り立ち、地域差=実力差とはならない

・余暇時間が多く、余暇活動が盛んなので練習時間が充分取れ、コーチとしての雇用も多い

・そもそも人口が少ないので選手育成の効率を重視する、つまり選手を大事に育てる

 といった理由があるのではないかと思います(現に冬のスポーツだけでなく、スウェーデンの卓球選手は一時期中国を圧倒した)。

 おそらく行き方としてはアメリカ式のサバイバルレースか福祉国家式のクラブチームのどちらかであって、勝ち組クラブの専有物になるか企業の論理に振り回されるしかない日本が勝てないのは当然と言えましょう。
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「学校」→「会社」社会の限界 (加齢御飯)
2006-02-26 10:52:34
 今回の惨敗は松本さんのおっしゃるように、日本社会のひずみを反映したものだと思います。日本の社会は「学校」→「会社」というライフコースが自明のものだと考えられている。クラブチームもそれなりに育ってはきましたが、いまだに選手養成の大きな部分を学校の部活が担っています。これが指導に一貫性がない。「お前中学(高校)で何ならってきた!」。新しい学校に入ると一からやり直し。しかも不条理なしごきの類は山ほど残っている。人材潰しの構造があります。学校でよい実績を残しても、企業の景気変動に左右されて、活躍の場がない。男子スケート500メートルで4位に入った及川選手が、スケートでは就職できないから現役続行をあきらめていたところ、たまたま就職した無名企業(びっくりドンキー?)の温情で競技を続行できたという話は象徴的です。才能があっても競技が続けられるかどうかが運任せ。こんな状況で世界に伍して戦えるわけがありません。

 女子フィギャだけ異常に強いのも、要するにお嬢様で幼少のみぎりからよいコーチについて学校にふりまわされずに一貫した指導を受けることができる。またそもそも働かなくてもよい階層の人たちなので、企業の論理にふりまわされることもない。金持ちの子どもがよい教育と将来のチャンスを保証されているというのは、中学受験と似ていますね。しかし、こういう人たちにたつぷりとスポンサーがつくのですね。マタイ伝の世界です。
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Unknown (第一次産業)
2006-02-26 15:41:12
 ノルディック複合の日本の黄金時代を担った河野選手は、早稲田の学生の頃、ノルウエーの強豪エルデン兄弟の実家に武者修行に出かけた。そこは牧場で、ひと夏彼は牧場の仕事の手伝いをさせられた。牧場の仕事が競技に適した強い身体を作るのだということを教えられたと後に河野選手は語っていました。

 ソルトレークのオリンピック純ジャンプで、2種目を制覇したスイスのアマン選手の実家もやはり牧場で、テレビもない(もたない)質朴な生活を送っている一家のようです。松本さんがあげているヨーロッパの小国はいずれも豊かな先進国ですが、第一次産業が重きをなしています。自然が相手の冬季競技で、第一次産業に活力のない国が勝てるはずがありません。
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あらら (加齢御飯)
2006-02-26 15:42:02
 上の書きこみは私です。
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スウェーデン (松本和志)
2006-02-26 17:48:12
 が女子カーリングを制しましたが(決勝はスイスと、というのが象徴的ですね)、両チームの面々はどう見ても華奢なお嬢様という感じでは(失礼)ないですね。

 このさい「オリンピック選手の日頃の生活は?練習時間をどうやって確保しているのか?」といった社会学的な?背景に触れた記事やインタビューが少ないのは残念です。スポーツ記者は試合結果にしか興味がないのか、それとも、まさに彼ら自身が会社社会の一員なので気付かないのか。

 たとえば地方都市の商店街とか農協がお金を出し合ってスポンサーになる、とかいった方向はないのでしょうか。一日4時間とか6時間働いて、残りの生活費(あるいは宿舎と食料)、経費、コーチ等人件費をスポンサードでまかなう、といった補助でも喜ぶ選手はいると思うのですが(私が卓球選手だったら嬉しい限り)。

 そういえば、日本と並んでイギリスは今回メダル1個にとどまっています。80年代からの社会政策潰しが効いているのでしょうか。どうもルソーではありませんが、大国のスポーツ選手育成にはドッグレース、小国にはクラブチーム、高度成長期には国策による傾斜生産方式が適している、ともいえそうです。日本には、何に付け中間国の半端さが働きがちだと思えます。
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キチンと計算しました (松本和志)
2006-02-26 18:25:13
 では2.26現在のメダル1個あたり人口は、



ドイツ    2,844千人

米国     11,761千人

オーストリア  368千人

ロシア    6,821千人

カナダ    1,313千人

韓国     4,336千人

スウェーデン  683千人

スイス     512千人

イタリア   5,742千人

オランダ   1,794千人

ノルウェー   239千人

中国    118,563千人

クロアチア  1,476千人

チェコ    3,412千人

オーストラリア6,577千人

日本    127,649千人

英国     59,251千人

フィンランド  651千人



 ・・・これと似たようなランキングをどこかで、と思ったら、あ、国連人間開発指数。ただしデンマークが登場しないのは、「スポーツは楽しみのためにやるもの」という、フォルクホイスコーレの伝統によるものなのか、最近の右傾化の現れなのかは不明です。
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デンマーク (加齢御飯)
2006-02-26 19:30:52
 松本さん。貴重なデータをありがとうございました。いろいろなことがわかって非常に興味深いものがあります。デンマークですが、意外にも冬の競技ではあまりいい成績を残してこなかった記憶があります。グルントビー以来のスポーツは健康のためのもの、楽しむためのものという伝統も一因しているのかもしれません。

 しかし夏のスポーツは強くて、とくにサッカーはヨーロッパ選手権で優勝したこともあります(日本代表のGK川口能活がコペンハーゲンのチームに所属していたこともありました)。何年か前にデンマーク代表の試合をみていたら、黒人の選手がいたのでびっくりしたことがあります。陸上の長距離にもデンマークの黒人メダリストがいたはずです。

 『デンマルク国の話』ではありませんが、農業を機軸とした共同体を基礎におくデンマークでも、UAの一因である以上、グローバル化から免れることはできないのだと思いました。等質的な共同体のなかに異質な他者がある日大量に入り込んできた時の軋轢は想像にあまりあるものがあります。イスラム教の戯画事件が象徴するデンマークの右傾化は、グローバル化の暗部を物語るものといえそうです。
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SC鳥取 (加齢御飯)
2006-02-26 19:37:56
 SC鳥取というJFL(Jリーグ3部相当)のチームがあります。ここの選手は、地元の介護施設や皆生温泉で働いて、活動をしているようです。J2のザスパ草津というチームも選手を温泉街で働かせて話題になりました。松本さんのアイデアの近いことを、いくつかのサッカーチームが実践しています。サッカーばかりでなく、地方の自治体がマイナー競技のスポンサーになれば、地域の活性化と競技力の底上げの一石二鳥が図れることでしょう。



PS SC鳥取のゴールキーパーは、「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる妖怪「塗り壁」のシャツを着ています。「塗り壁」がゴールを守っていればロナウジーニョでもとめられそうなものですが、現実にはJFLの下位を低迷しています(爆)。

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デンマーク (松本和志)
2006-02-26 20:27:39
 が冬季オリンピックでさほど頑張らず、サッカーが強いのは、単純に山がなくて原っぱが多いせいかも知れません。対称的なのはノルウェーでしょうか。上の人口比でいうと、町に一人位は現・元メダリストがいるのでしょう。恐るべし。また、グルントヴィ的質実さでいうと、デンマーク人はスケートリンクのようなものにあまりお金をかけたくないのかな、とも思います。
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イギリス (加齢御飯)
2006-02-26 23:00:21
 も冬の競技は強い国ではありません。高い山がないからスキーはさかんではないし、緯度のわりには温暖で氷のイメージもありません(ネス湖って凍るんでしょうか)。フィギュアスケートに伝統がありますが、今回はふるいませんでした。

 韓国もメダルをたくさんとりましたが、ひとつをのぞいて全部ショートトラック。松本さんいわれる「国策による傾斜生産方式」の典型です。
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