ガラパゴス通信リターンズ

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Blaming the Victim

2007-01-28 09:40:44 | Weblog
給食費の未納が大きな問題になっている。データの出所は文部科学省の調査だが、未納が増えているのは親の側に問題あるという方向で世論誘導がなされている印象だ。この問題について「朝日新聞」には教育社会学者・本田由紀さんの注目すべき見解が載っていた。給食費の未納は近年急激に増えている。しかし「給食費はきちんと払うべきだ」という人々にもたれていた規範意識が短期間で急激に変動することなどありえない。これはやはり、給食費を払うこともできない貧しい人が急激に増えているとみるべきではないのか、と。

 なるほど。給食費の減免措置はあるだろうが、そこにはハードルがある。その基準に足りていないが困窮している人も大勢いるだろう。また減免の根拠となる所得証明は前年のものだ。今年に入って急激に所得が減れば、やはり給食費は払えなくなる。給食費未納問題は、貧困の急激な拡大の問題として語られるべきものだ。それが「心がけの悪い親」の急増とすりかえられてしまっている。

 外車を乗り回しながら生活保護を受けている人間もいるだろう。だからといって生活保護を受給している人のすべてがそうした不正を働いているわけではない。学校側が発表する極端な事例をうのみにして、それがすべてであるかのようなマスコミ報道のあり方はどうかと思う。学校が親を悪者にしたいという下心をもっていることはみえみえだ。そうすればこの問題だけではなく、様々な自分たちの不手際を親のせいにできるのだから。どうしてメディア人どもは、そんなことにも気がつかないのか。資料批判の努力を放棄してしまった日本のメディアはジャーナリズムの名に値しない。

 以前、フリーターの増大が経済の悪化の原因で、彼らは働くことを忌避する怠け者だという言説が力をふるったことがあった。経済の変動の犠牲者に「諸悪の根源」のレッテルを貼り、石の礫を投げつける。こんなことを一体いつまで続けるつもりなのだろうか。こうした犠牲者を非難する(blaming the victim)言説が横行していることも、日本で自殺が極端に多い一因なのだとぼくは考えている。