ガラパゴス通信リターンズ

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風呂嫌い

2006-08-05 07:38:17 | Weblog
 私が尊敬してやまぬさる思想家は無類の風呂嫌いで知られています。前にいつ風呂に入ったのか。覚えていないといいます。まあ6,7年は入っていないのではないでしょうか。さすがに思想家。、ただの無精ではなく確固たる信念があって風呂に入らないらしい。

 毎日風呂に入るのは日本人だけ。とんでもない水の無駄遣いだ。風呂に入らない遊牧民に伝染病が発生したという話を聞いたことがない。動物でも水浴びをするのはからすのような邪悪な輩で、猫や馬のような風格(?)のある動物はそんなことはしない。そして何より風呂は健康に悪い。老人は一番多く入浴中に死んでいる。うーむ…。

 ぼくはとくに風呂嫌いではありませんが、父はすごかった。20日に一度くらいしか風呂に入らない。まあ、この思想家には遠く及びませんが。娘が生まれた時は里帰り出産をしました。出産直後の産院に父が見舞いにきてくれました。えらくさっぱりした様子です。「温泉につかってきただ(鳥取は街の真中に温泉が出る)。大方一月入っとらなんだけえなあ。赤ん坊に会うにはきれにせんといけんと思っただ」。ぼくの頭には「公衆衛生」ということばが浮かんできました。父は県の食品衛生組合の理事長を長年務めた人でもあったのです。後から入る人が気の毒なような気もしてきました。

 ホスピスに入った後の父は入浴を楽しみにするようになったそうです。死を前にした大きな変化です。心臓発作を起こしたのも、最後の入浴中のことでした。風呂嫌いが風呂で命を落とすきっかけを作ったというのは複雑な心境になります。父の死の直後のことです。T医師が「ちょっと、ちょっと」と手招きをする。ぼくら兄弟が行くと、T医師は「おじいちゃんのエッチな写真があるけえ。」といってみせてくれたものがあります。それは父が、花を浮かべた湯船のなかで、愉悦の表情を浮かべている写真でした。