一杯の水

動物であれ、人間であれ、生命あるものなら誰もが求める「一杯の水」。
この「一杯の水」から物語(人生)は始まります。

「ヴァラナシ(4)」――名称の由来――

2007年03月03日 11時26分46秒 | ヴァラナシ(ベナレス)
この都市は、長い歴史を通じて様々な名前で知られてきたが、もっと古く、最も一般的な名称が、今なお、ヴァラナシとカーシーである。はるか昔、ヴァラナシとカーシーの含意するところは異なると、一般に考えられていた。カーシーとは王国の名称であり、ヴァラナシはその首都であったことを、ショーダシャ・マハージャナパーダ(Shodasha Mahajanapada:16大国)時代(B.C.6c頃?)に見出すからである。今日では、カーシーとヴァラナシという地名は差異なく用いられる。

ある学派によれば、ヴァラナシという名称は、ヴァルナー河と、後にアッシー河と呼ばれるナッシー河に、地理的に挟まれていたからであるという。一方、その都市名は、往時にはヴァルナシやヴァラナシと呼ばれていたヴァルナー河に由来を発すると、提唱するものもいる。確かな歴史資料が不足している現状では、事実を確かめることは不可能である。それにもかかわらず、ほとんどの人々は、ヴァラナシという名称は、ヴァルナー河とアッシー河に由来する、との見解を支持する。しかし、ヴァラナシという名称でさえ、異なる時代や異なる地域において、様々に呼ばれてきた。ヴァラナシの中国語への転訛は、法顕と玄奘によって、それぞれPho-lo-nai(「法顕伝」)とPo-lo-nisse(「大唐西域記」)であるし、イスラム教徒の支配下にあった時代はバナラス(Banaras)と呼ばれ、それは今日まで続いている。ベナレス(Benares)はイギリス風(variation)の呼び名であり、現世代に伝えられ、今なお、多くの人々が用いている。

ある人々に従えば、カーシーという名称は、この都市を支配した往古のヒンドゥー王、カーシャに由来する。他の人々は、その名は単に、かつて河岸に豊富に自生していた背丈の高い品種、カーシャ草から来たものだと信じている。そこで再び、〔スカンダ・プラーナ第4巻の〕「カーシー篇」を紐解けば、その名前は、サンスクリットの語根「カーシュ」から生まれ、意味は「輝くこと」「光り輝いて見えること」、あるいは「美しい」である。したがって、時おり、カーシカとも呼ばれるカーシーは、シヴァ神自身を意味する光が輝く土地なのである。この光の都は、それ故に、本来、「魂を解放する悟りの都」なのである。

ヴァラナシはまた、ヒンドゥーの聖典によって、様々な名前で呼ばれている、例えば、アヴィムクタ(見捨てざる者=シヴァ神)、アーナンダ・ヴァーナ(至福の森)、ルドラ・ヴァーサ(シヴァの都)、マハー・シュマシャーナ(偉大な火葬地)、そして、ジタヴァリ(商売が繁盛する地)である。

ジャータカ(本生譚)もまた、この都市の様々な名前を記録している、スルンダナ、スダルシャナ(麗しき者=シヴァ神)、ブラフマヴァルダナ(ブラフマンの都)、プシュパヴァティ(花の園)、ラムマナガル(楽しき都)、モーリニー(髪を結う者?=シヴァ神)および、その他である。

ムガル帝国皇帝アウラングゼーブは、都市の名称をムハンマダバードと変更し、また、造幣所を設置して、ヒンドゥー教と、このヒンドゥー教の中心地を辱めるために、コインを発行した。この新しい名称は、政府機関の書類に限って使用されていたが、その使用もまた、短期であった――アウラングゼーブの崩御までである。

   ***************************************

<関連記事>
「ヴァラナシ(1)」――都市の第一景――
「ヴァラナシ(2)」――ヴァラナシの現在――
「ヴァラナシ(3)」――ヴァラナシの独自性――
「ヴァラナシ(4)」――名称の由来――当ブログ


また、当メインサイト「Hinduism & Vedanta」に、第1章全訳をアップいたしました。
あわせて御覧いただければ幸いです。
「ウパニシャッド」と「バガヴァッドギーター」のサンスクリット原典からの翻訳(未完)、「シャンカラの伝記絵本」、「インドの漫画」などもアップしております。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ヴァラナシ(3)」――ヴァ... | トップ | 「イーシャー・ウパニシャッ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ヴァラナシ(ベナレス)」カテゴリの最新記事