ばん馬のいる風景-BANEI Photo Gallery -

ばん馬の写真とコラム。2021年夏まではツイートまとめも載せています。

北海道の牧場で 過去のばん馬大会を知る

2023-05-18 09:07:19 | コラム
「北海道の牧場で」(岡部彰、福音館書店、1979)。
新ひだか町図書館で見つけて、帯広図書館で取り寄せをお願いしたら帯広にもあった。舞台は北海道北部としかないが、名寄とかそのあたりだと思う。
稲作から酪農に転換した家に住む中学1年の一郎が主人公。当時の農家や子どもらの描写がとても良い。一節に輓馬大会の話がある。まぁここを一番読みたかったのだ。思っていた以上に、当時の大会についての描写が細かかった。

この地域の輓馬は農作業が一区切りした7月はじめ(半夏生)に行っていた。1970年ころの話だが、この地域はかなり機械化が進んでいて馬を使う人はほとんどいなくなっている。
ただ、馬を好きな人は、輓馬のためにだけ飼っている。牛や馬の馬喰である一郎の伯父も、たまに馬を使って農作業や運搬をしている(仕事は少しずつ減っているが)。伯父の馬、タイガーはクリスマスに、デパートに頼まれて家庭にプレゼントを運んだそう。ほのぼの。

大会についても細かく書かれている。1歳、2歳、一般、重量といった今とほとんど変わらないクラス分け。本では2歳馬、3歳馬、農耕馬、重量引きと表記されていた。4種目は4~8組で予選を行い各組4~6頭。1位になった馬が決勝に進む。今では予選=決勝だが、当時の名残なのだと思う。
300メートルのU字型で、150センチの山が2つ。400キロくらいを引くとある。重量引きだけは直線150メートルで900キロを引き、障害は一つだけ超える。手綱で追うことを「波打ち」と言っている。今は半分のコースだけを使うことはないので興味深い。その方法があったか!

大会の朝は花火が上がり、会場には露店が出て、重箱を持ち寄っての昼休み。家族のお祭りだ。
馬は「金や銀の糸で刺繍された錦のガウン」をまとい(ゼッケンのようなものだろう)、頭に花を刺し、荷車やトラックには旗やのぼりを立てて競馬場に入る。馬が引く荷車に家族を乗せてくるところもあるようだ。レースでは家族総出で声援を送り、ゴールの出迎えや止まった馬を家族が取り囲む。来賓テントには優勝旗が飾られ、賞品はテレビや冷蔵庫、自転車、ラジオ、酒。
馬を飼う人が減ったので、伯父は「今年こそ勝てるだろう」と意気込むが、旭川や富良野などからも来ていてかえって増えていた。地元の娯楽から、転戦する人が現れ競技色が強くなり始めた時代なのか。今は馬も人も少ないから、ほとんどの人が各地を巡ってばん馬を楽しむ。
帰りは、酔っ払ってすっかり眠りこけたおじさんと御者を載せた荷車を、タイガーが引いて歩いて行くーという描写でその節は終わる。
馬はいつも涼しい顔をして、人間どもの喧騒など関係ない風に描かれているのもいい。

ばん馬大会の基本は今とそう変わっていないことに気づけてうれしかった。


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