イランの同盟国であるイラク、シリア、レバノンの3カ国がこの数日、相次いで無人機やミサイルによる攻撃を受けた。イスラエルがイランとの“影の戦争”を激化させていると見られている。レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの指導者ナスララ師が報復を誓うなど中東情勢は新たな緊張に包まれている。

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「やられる前に殺せ」

 激化したのは8月24日のシリア攻撃からだ。ダマスカス南東アクラバにあるシリア駐留のイラン革命防衛隊の拠点がミサイル攻撃を受け、人権監視団体によると、少なくとも5人が死亡した。死者の中に、革命防衛隊員1人とヒズボラの戦闘員2人が含まれているという。

 イスラエル軍は一連の攻撃の中で唯一、このシリア攻撃についてのみ認める声明を発表、「革命防衛隊のコッズ隊とシーア派民兵組織のテロリストの標的を攻撃した。彼らがイスラエルに“自爆ドローン”の攻撃を仕掛けようとしていたからだ」と明らかにした。コッズ隊は革命防衛隊の中で海外戦略を担うエリート部隊。神出鬼没と知られるソレイマニ将軍に率いられている。

 この直後の25日未明。今度はレバノン・ベイルートの南郊にあるヒズボラの事務所近くで無人機1機が墜落、続いてもう1機が爆発した。この攻撃でヒズボラのメディアセンターの一部が破壊された。同じ日にイラク西部アンバル州でも、イラン支援のシーア派民兵組織「カタエブ・ヒズボラ」の拠点が無人機による攻撃を受け、指揮官ら2人が死亡した。

 この一連の攻撃に先立って7月から、イラクの4カ所でシーア派民兵組織の武器庫などが標的になる攻撃が発生しており、これもイスラエルの攻撃と見られている。イスラエルのネタニヤフ首相は明確には認めなかったものの、「イランはどこにいても隠れることはできない。必要な時はいつでも、彼らに対して行動を起こす」と述べ、イラン関連施設を狙った攻撃であることを示唆した。

 同首相はその後のツイッターでも「イスラエルを抹殺しようとする奴らがいれば、やられる前に彼らを殺せ」と先制攻撃の必要性を強調した。イスラエルはこれまで、シリア駐留のイラン革命防衛隊やヒズボラなどの拠点を再三攻撃してきたが、イラクまで手を伸ばし始めたことは注目に値する。

 イスラエルによるイラク攻撃は1981年以来初めてであり、イスラエルの行動がいかに一線を超えたものであるかが分かる。戦線を拡大しても、イランの脅威の芽を徹底的に摘み取るという断固とした決意の表れともいえるだろう。だが、こうしたイスラエルの強硬方針はペルシャ湾で米国とイランが対決を激化させる中、中東情勢を一段と不安定なものにするのは必至だ。