アトリエ 籠れ美

絵画制作、展覧会、美術書、趣味、その他日常の出来事について
平成27(2015)年5月4日より

なぜ油絵を描くのは難しいのか

2016-07-27 05:53:56 | 画材、技法、芸術論、美術書全般、美術番組
*「絵画制作記」カテゴリーの記事でたびたび触れていることですが、この「画材、技法、芸術論」カテゴリーで改めて書きたいと思います。

 なぜ油絵を描くのは難しいのか。それは乾燥するのに時間がかかるからです。つまり乾燥するまで待たないといけない。油絵の制作手順の基本は、1回の制作が終わったら、次の制作まで乾燥するのを待つというものです。

 それも完全に乾いてしまってからではなく、画面を指で触って絵具が指につかない程度、いわゆる指触乾燥を待ちます。指触乾燥といっても、あんまり早い段階で描くと、せっかく前回描いた絵具層が削れてしまうことがあるので、しっかりと指触乾燥させる必要があります。この辺は経験と勘というやつで、何枚も描いていくうちに自然とわかるようになります(完全に乾いてしまったら駄目ということでもないので、あまり神経質になる必要もありませんが)。

 もちろん生乾きの上から絵具を乗せていく方法もあります。特に色をぼかすときはそうするよりありませんし、簡単にぼかしができるのが油絵の最大の特徴なので、これを使わない手はありません。また画面上で混色する(つまりパレットでは混色しない)方法もありますが、これは実は難易度が高い。なぜなら画面上の混色は、色が濁ることが多い。だからこれはお薦めしない。

 巨匠と言えど、画面上の混色をすれば濁ってしまう。その典型がデ・キリコで、彼の作品「学校の中の剣闘士たち」(写真参照、画質が悪くこれではわからなくてすみません)を見れば明らかだ。色が濁るということは、色が汚いということで、よろしくない。またジェームズ・アンソールの絵も色が濁っていることから、画面上の混色をしていた可能性がある(写真でしか見たことがないので断言はできませんが)。

 さて話を戻すと、この指触乾燥を待つというのが、つまり次回の制作まで画面が乾くのを待つというのが、なかなかできない。要するに待てない。で我慢できずに描いてしまうから色が濁ってしまう。また、待っているうちに描く気が失せてしまうことも少なくない。だから描きたい気持ちを持続させるのも油絵制作の秘訣のひとつとさえ言えるのだ。

 えっ、そんなにみんな待てないの?とお思いの方、最近開発された絵具は皆速乾性が売りになっているという事実がそれを見事に証明している。私なんぞはそうした新画材は乾燥が速すぎて却って不便である。使ったこともあるのだが、なんでこんなに急いで制作しないといけないのかと思ったくらい。速すぎる。私は真冬でも翌日には乾いてくれる透明水彩絵具の乾燥速度以上は求めていない。あれで十分だ。

 確かに油絵具は乾燥が遅いが、その遅さを利用して色をぼかしたり、画面構成や色使いを考え直したりと、油絵はじっくりと制作に取り組める。それがいいのだ。考えている暇があるというのが重要。文章でいうならいくらでも推敲できる。推敲すればするほど(時間をかければかけるほど)文章は良くなる。絵画だって同じである。「絵は見るだけで充実する」と言うではないか。

 「絵は見るだけで充実する」とは、「画面をじっと見てどうしたら良くなるか考えることで作品の完成度が上がる」という意味だ。乾きが遅いからという理由だけで、油絵を敬遠している人はよく考えてみる必要がある。

 せっかく描き始めたのだから一気に仕上げたい、どんどん描きたいという気持ちはよくわかる(私だってそうだ)。だが油絵の場合はそうはいかない。だから難しいのだけれど、乾くのを待てるんだったら、油絵は絵描きにとって最良の画材となる。そしてその最たる例がかのレオナルド・ダ・ヴィンチである。彼こそ油絵の乾きの遅さを最大限生かした、生かし切った唯一の画家である。彼は自分の思想の全てを自らの絵に込めた、いや込められたのも油絵の乾きの遅さのおかげである。

 油絵の乾きの遅さは、あのデューラーも嘆いたくらいだから、巨匠に限らず、とにかくやっかいなのは事実だ。けれどこの遅さを自分の味方にして、いい絵を描きたいものだ。

 付)この記事で書いた通り、油絵を描くには、乾きの遅さとそれによる制作意欲の低下が難題ですが、逆に言えばこの2つしか問題点がない。そこで複数枚制作でそれを解決する手もありますが、それについては「油絵上達の骨(こつ、コツ)2016-05-06」を読んでみて下さい。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿