アトリエ 籠れ美

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平成27(2015)年5月4日より

絵画に額縁は必要か

2023-08-03 03:00:00 | 画材、技法、芸術論、美術書全般、美術番組
 そもそも額縁は、描かれた絵と外界(周囲の現実世界)を隔てるためにあり、額縁をつけることによって、この枠内が絵ですよ、と見る側に伝え、枠内が作品なんだなと作品に集中できる、区切り、仕切りとして必要なものです。
 
 ですが、それ以前に作品の保護という重要な役割も果たしています(作品の角、四隅はぶつけたりで、どうしても傷つきやすい)。


 さて、絵を額縁から解放した、つまり作品に額縁をつけなかった、美術史上初の人が、モンドリアンと言われています(本人がおそらく私がその最初の人だろうと言ってます)。

 モンドリアンは抽象画の巨匠ですから、以降、抽象画や現代美術の平面作品で、額縁をつけないことが、今や普通に行われています。

 建前は、額縁をつけないことによって、描かれた作品世界が、外界へも広がって、そこへ溶け込んでいく、そういったことが狙いになってます。

 そうしたことを作者が求めている、そうなることを願って、あえて作品に額縁をつけないわけです。


 しかしながら、現実問題として、額縁代もばかにならないからと、抽象画や現代美術作品であることを言い訳にして、額縁をつけない事例があります。

 というのも、抽象画や現代美術作品でも額縁をつけた方がいい作品はこの世にたくさんあるからです。

 何も古典絵画風の、あのごてごてした金の額縁が似合うわけではありませんが、簡素な(つまり彫り物のない)木の額縁や、同様の白や黒の額縁がふさわしい、そうしたら作品がぐっと引き締まって良く見えるのでは、というわけです。

 また具象、抽象を問わず、額縁をつけると自分の下手な作品が良く見えてしまうからという、妙な理屈で額縁をつけない人も希にいます。


 私は抽象画は描きませんが、描いたとしても必ず額縁に入れますね。そもそも絵画作品は額縁に入れるものだからです。

 額縁に入れないというなら、つまり額縁なしにするなら、余程の理由をつけますね。例えそれが理論武装に過ぎなくても、何らかの立派な理屈や考えに基づいて額縁なしにします。

 今、市販されている額縁は、つまり店に置いてあり、すぐに買える額縁は、ましてや仮縁や棒縁となると、なおのこと、簡素で無駄な装飾のないものが多いです。

 だから、抽象画や現代美術作品に似合わない額縁ばかりで困る、なんてことにはなりません。


 求められるのはセンスです。額縁にお金をかけられないのはよくわかります。ですがお金のない中、できるだけ作品に合う額縁を用意する努力はできます。

 お金がないからと、何だかんだと理由をつけて、額縁をつけないというのは本末転倒です。

 というわけで、絵画には必ずと言っていいほど額縁は必要なものなのです。



 付)公募展で額縁が必須なのは上記の通り、作品保護のためで、それ以上でも以下でもありません。


 注)西洋で言う「モダン」というのは「古典」の対義語として使われます。

 ここでいう「古典」とは、きらびやかな装飾(フランスのベルサイユ宮殿が典型)のことで、華美を意味し、色で言えば金色がその象徴。

 それに対し「モダン」とは、そうしたきらびやかな装飾を排した簡素さ、を意味し、色で言えば白や黒がその象徴。

 日本で言う「モダン」は、今風でおしゃれ、かっこいい、といった程度の意味ですが、元来は、西洋の歴史的経緯に基づいた深い言葉で、古いものに反抗する(または否定する)、ある意味で非常に攻撃的な、あえて言えば左翼的な意味を含んでいるのです。

 そう考えると、額縁をつけないことや、現代美術(モダンアート)が、西洋人にとって、どれだけの重たい意味を持っているかがわかると思います。


 蛇足)もっとも、日本では、もともと華美な装飾を排するところがあるので、これは禅宗の影響なんですが、西洋の「モダン」という言葉が、違った受け止め方をされてしまうのも、やむなしなんですが。

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