アトリエ 籠れ美

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平成27(2015)年5月4日より

日本人の好む油絵

2016-08-31 06:31:01 | 画材、技法、芸術論、美術書全般、美術番組
 昭和の前半は「梅原(龍三郎)・安井(曾太郎)時代」と言われ、日本ではこの両巨匠の油絵が好まれたわけだが、果たして今はどうだろうか。今でも確かにこの両巨匠の作品は高値で取引されているが、日本人の好む油絵を代弁しているとは到底思えない。では日本人はどんな油絵が好きなのだろうか。

 海外の画家で言えば、印象派のモネに日本人の好みを代弁させてもいいのかもしれないが、モネは世界中で人気があり、世界中の美術館が企画展としてまず取り上げたいのがモネなのである。つまりかなりの観客動員数を見込める。

 そんなモネが本当に日本人の好みの代表なのかは疑わしい。例えば私自身、モネの絵は好きだが、コローの絵の方がもっと好きだ。モネかコローかと言われれば、多くの日本人が相当悩むはずだ。ちなみにフランスでは、ルノワールがフランス人の好みを代弁している。つまりフランス人の好む油絵はルノワールに代表される。

 私は、日本人の好む油絵は日本人にしか描けないと思うし、日本人の好む油絵の最大公約数はまだ出ていないと思う。油絵という制限を外すならば、かつては狩野派だったし、その狩野派が画聖と崇めた雪舟に、日本人の好みを代表させてもいいかもしれないが、今はどうだろう。ちょっと違うでしょう。

 実は日本の画家は皆個性派なのである。ものすごく個性的で、あくが強い。だからそうした個性派を集約し、そろそろその最大公約数を出すべきときが来ているのではなかろうか。もう伊藤若冲も曽我蕭白も完全に日本美術史に復権した。ほぼ材料は揃っていると言っていい(もちろんまだ埋もれている画家はたくさんいるが)。

 日本に油絵が移入されて100年以上経つ。水と油という言葉がある通り、日本人が油絵具を使いこなすようになるには100年かかった。高島野十郎や熊谷守一、向井潤吉、長谷川潾二郎など、少しずつではあるが、ようやく油絵具を自然に使いこなす本格派が出現してきている。

 機は熟した。あとはその登場を待つばかりだ。

 付)日本人の好む油絵を描ける画家は、おそらく人物画と風景画の両方に長けていないとだめだと思う(もちろん静物画も上手に描けるに越したことはないが)。残念ながら戦後活躍した画家たちは、日本画や洋画を問わず、風景画しか巧みに描けない人が多かった。やはり人物画が描けないとつらい。古今東西、絵と言えば人物画、つまり肖像画なのだから。


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