<両軍スタメン>
たまには王道の試合を観るか……という思惑で、J1の首位攻防戦をば。
ここまで常時首位を走って来た新興勢力の町田に、待ったを掛けたのが広島。
前節(マリノス戦、6-2)観た印象では、4局面のバランスも秀逸で、弱点を抱えるクラブでは手も足も出ないという内容であり。
新スタジアム(エディオンピースウイング広島)が醸し出すホームの雰囲気も極上で、この試合をモノに出来れば、後は優勝へ向け一直線という道筋が出来上がる……とは言い過ぎか。
一方の町田、1試合毎に物議を醸し出すその戦いぶりは、あえて何も言う事は無く。
ただ初めてのJ1を戦うクラブが、これほどまでに「勝てばよかろう」という精神を押し出すのは、本当に将来の事を考えているのかどうかという危惧が常に頭を過り。
そうした戦いは、逆に言えば「勝てなければ(優勝できなければ)何も残らない」と同義と取られ。
天皇杯の事例(当ブログの記事)然り、実際に一敗地に塗れた際はその言動で醜態を晒す悪い目立ち方をしてしまった今季。
果たしてこのまま優勝を逃したとすれば、この戦いを今後とも、ならびに永続的に貫くつもりなのか自問自答する覚悟が必要な時が来ると思われます。
そんな両クラブの対戦。
新興勢力である町田の怖さも十分頭に入れた広島が、やや外道なロングスロー対策が行われたといわれるピッチ脇でも対策を発揮した試合となりました。
前半1分、マリノス戦の先制点と同様に右スローインを最終ライン裏へ投げ込む事で、完全に裏を取って(加藤が)クロスを送る攻撃。
そして大外で東がボレーで合わせたフィニッシュでネットが揺れるも、左サイドネット外と、先制はならずも初手でプレッシャーを与え。
前節と全く変わらない、硬くなり易い入りの時間帯で嫌な手段を取る立ち回り。
そして3分に流れの中で、浮き球パス主体での組み立ての末に、またも右サイドで中野がクロスに辿り着き。
今度はニアへの低いボールで、すかさず入り込んだパシエンシアが脚で合わせると、懸命に追ったドレシェヴィッチのブロックを掠めてゴール右に突き刺さり。
後手を踏む町田の対応を綺麗に突く格好で、この日も先制を果たしました。
その後も波に乗れない町田に対し、5分には一旦攻撃が途切れるもゲーゲンプレスで松本泰がパスカット、左奥で溜めを作るアルスランに対し仙頭が反則を犯し。
左サイド奥からのフリーキックになると、キッカー川辺の蹴り出しから東がクロス、ニアで佐々木がヘディングシュート(枠外)と変化を付けてのフィニッシュ。
8分にもアルスランのポストプレイに対し(ドレシェヴィッチが)後ろから反則を犯すなど、その後手ぶりが目立つ事となった町田ディフェンス。
攻撃面でも、軸としたいオセフン狙いのロングボールも、荒木隼を中心とした広島ディフェンスの前に機能する事は稀であり。
この状況を打破するにはやはり地上での繋ぎを一定割合で取り入れるしかない、という具合に、サッカーにおいて4局面のバランスは何より大事という反面教師となり。
13分の町田、右サイドでのパスワークから中央→左へとサイドを移していく間に、右からパスを受けた白崎に対し中野が釣られた事で左ワイドのスペースが空き。
そして送られるスルーパスに走り込んだナサンホが川辺に倒されて反則と、ポジショナルプレーらしき攻めで掴んだFKの好機。
このエリアラインから真横という位置での左ワイドからのFK、キッカー相馬のクロスを中央で藤尾が合わせにいく所に、GK大迫が跳び出してこぼれ球に。
これをドレシェヴィッチが体勢を崩しながら詰めましたが、シュートは枠を捉えられずと決められません。
地上でのビルドアップも様になる……と思われた流れですが、本命はやはりパワーサッカーが主体となり。
そして19分、とうとう得意手であるロングスローに持ち込み、右から(左サイドバックの)林が投げ入れたボールをヘンリーがフリックし、ファーで相馬が折り返しと二重三重に揺さぶる攻め。
跳ね返りをさらに繋ぎ、右からヘンリーのクロスに持ち込むと、ニアに入り込んだ相馬が合わせボレーシュート(枠外)と広島の先制点のような絵図のフィニッシュを生み出します。
ロングスロー一本で流れを変えた……かに思われましたが、この後に試合後散々話題となった、広島サイドの物理的な対策が発揮される時間帯となり。
その手法(あえて具体策は記さない)に対しピッチサイドで黒田剛監督がしきりに異議を飛ばすという具合に、想定外の事態への慌てぶりが映像でも可視される事となってしまいます。
そしてピッチ内でもその空気が伝染してしまったでしょうか。
23分に敵陣浅めで反則を受けた広島、アルスランが素早くリスタートして町田の隙を突きに掛かり。
またも右サイド奥を取り、カットインを匂わせての奥への切り込みから入れられた中野のグラウンダーのクロスを、1点目同様ニアで加藤が合わせ。
再びゴールネットが揺れ、相手の動揺を逃さずに追加点を挙げます。
2点差を追わなければならなくなった町田。
28分に再び林がロングスローを投げ入れる、相手の妨害?にも屈しない姿勢を見せるものの分が悪く。
そもそもロングスローの機会自体が少なく、全体として広島はクリアもなるべく外に出さないというピッチ内での対応も光り。
序盤からロングスローの姿勢を採るクラブの多い、普段自分が観ているJ2と比べても、その徹底ぶりは明らかに異次元といった広島ディフェンス。
窮地といった町田は、30分辺りからサイドハーフ両名の位置を入れ替える(相馬が左・ナサンホが右)ものの、流れを変えるには至りません。
しかし34分、広島の攻撃は塩谷ロングパス→パシエンシアフリックで一気に裏を取るもので、川辺が抜け出して走り込み。
これを前に出てクリアしたGK谷、その蹴り出されたボールが一気にエリア内を突き、反応良く走り込んだ相馬に繋がるという異次元のカウンターの絵図に。
いかにも町田らしいというべき好機でコーナーに繋げましたが、肝心のゴールは奪えず終わり。
そしてこれ以降、町田はボールを持たされる展開に陥り、それに従うかのように全くアタッキングサードを突く機会に恵まれず。
やはりこうしたスタイルは、自身でボールを持って崩す能力が疎かという事を突き付けられると、広島のような4局面が揃ったクラブには脆さばかりが目立つのは必然である。
そんな事を考えさせられているうちに、2-0のまま前半終了となります。
(一応40分過ぎ辺りから町田は再度SHの位置が入れ替わり、スタメンの位置に戻ったものの効果は薄く)
町田にとって、劇的に流れを変えなければならなくなったハーフタイム。
当然物理的に、即ち交代という手段を用い、林・オセフン→杉岡・藤本へと2枚替え。
橋頭堡のオセフンを退かせ、サイドの選手を2人入れた事で、3-4-2-1へとフォーメーションも弄る運びとなりました。
3バックの左に杉岡が入り、ウイングバックに右=ヘンリー・左=藤本というのが主たる変更点。
一方の広島も、パシエンシアのコンディションを考慮してここで彼に代えてドウグラス・ヴィエイラを投入し後半に臨みました。
広島と同様の布陣とした町田ですが、攻撃時は杉岡が左SBと化し、藤本を前に上げて4バックとする可変を取り入れる形に。
これによりミラーゲームを避け、地上から繋ぐ姿勢の割合を保たんとします。
しかしオセフンが居なくなった前線にもロングボールを送るという、基本のスタイルであるダイレクトプレーは崩さず。
後半4分、中盤でFKを得るもその精神に基づいて素早いリスタートを敢行しましたが、逆に松本のボール奪取から広島の好機に繋がり。(フィニッシュは撃てず)
早く攻めなければ……という焦りとの戦いも余儀なくされる格好に。
8分に、広島の攻めを防ぎカウンターに入りかけるも、トランジションにより遅らされ保持による攻撃に入った町田。
サイドアタックは仕掛けず、藤本のカットインから中央での攻めを選択すると、仙頭エリア内へパス→ナサンホフリック→藤尾と狭い局面を突破。
そして藤尾がシュートを放ち、ブロックされたボールをさらに仙頭が拾いシュートするも、(シュートを撃つ前の)藤尾の戻りオフサイドを取られて残念ながら実りません。
11分に左から再度ロングスロー(林が退いたため相馬が投げる)の機会が訪れるも、ニアに投げられたボールをGK大迫が直接キャッチ。
これまではこうした立ち回りでボックス内にボールを送り続ければ、いずれゴール運が転がり込んだでしょうが、広島相手にはそうはいかず。
主体的な攻めでどうにかするしか無く、直後の12分には敵陣で長いパスワークのなか、ヘンリーがサイドを左へ移していく流動性を見せ。
藤本のクロスの跳ね返りを拾ったヘンリー、そのまま浮き球をコントロールした末にミドルシュートに持ち込み。(枠外)
続く14分にも、藤本がドリブルを経て中央からミドルシュート、しかし大迫のファインセーブに阻まれます。
ゴール前での攻防がままならないなら、遠目から堅守を崩さんとしたものの実らない町田。
そんな攻めを試みる間にも、16分には1タッチパス主体の広島の前進に対し、前に出て防がんとしたドレシェヴィッチが川辺を倒す格好となるも尚も繋がれて継続。
そして東の左ポケットへのスルーパスに加藤が走り込んでクロス(ブロック)と、一度広島のターンになれば上下動を強いられるうえにカードの被害(流されたのちドレシヴィッチに警告)の危惧も膨らみ。
一言で言えば劣勢に他ならず、リーグ終盤に来て町田も、他クラブと同様結果を出せない苦しみに苛まれる状態に陥った感が見て取れました。
その後18分、広島はアルスラン→新井直人に交代し、それによりマリノス戦同様五月雨的にポジションチェンジ。(中野が右センターバックへ・塩谷がボランチへ・松本泰がシャドーへ回る)
何とかしたい町田サイドも、22分にナサンホと藤尾に代え、エリキとミッチェル・デュークを投入。
前年のJ2時代でお馴染みである、前線2人のコンビに賭ける体制に。
しかしペースを掴むどころか、更に広島のターンが続く事で守勢を強いられ。
何とか自陣深めで防ぐものの、そこからの脱出もゲーゲンプレスの前に難度は高く。
次第に高まる手詰まり感に、投入されたデュークも、反則の応酬に対し相手にヒートアップする絵図を連発と悪目立ちする格好に。
町田最後の交代は38分で、白崎→下田とボランチの交代を選択するも、これもゲームチェンジには至りません。
広島のプレッシャーを受けながらの繋ぎを強いられ、アーリークロス主体にアバウトにエリア内へ浮き球を送るのが精一杯の流れとなり。
一方広島の攻撃は、パスワークで町田ディフェンスを上下動させながら、サイド奥・ポケット奥を伺いつつも時計の針を進めていく体制に。
そして町田が無理に奪いに来た所を狙うという、2点リードを存分に活かす立ち回りを徹底します。
31分に佐々木のロングパスで裏を取り、左サイド奥からの攻めで細かな繋ぎに入り。
エリア内でパスを受けた東は止められるも、こぼれ球を再度確保して今度はヴィエイラがシュートチャンスを迎え。
放たれたフィニッシュは昌子がブロックで防ぐも、勢い余ったヴィエイラに削られる格好となり倒れ込むという具合に、ひたすら押された上での決死の凌ぎが目立つ絵図では反撃の気運は膨らまず。
広島最後の決定機は43分で、敵陣での塩谷のパスカットと、やはり相手を自陣から脱出させない姿勢から。
スルーパスを足下で受けた松本泰が、左ポケットへ進入ののちの戻しを経て、東のミドルシュートがゴールを襲い。
GK谷も抜いて決まったと思われましたが、右ポストを直撃して惜しくも3点目とはなりません。
結局追加点は奪えずという反省材料が残りましたが、最後まで町田に流れを掴ませず。
守勢に回ったアディショナルタイムでも、町田のアバウトな攻めを防ぎ続ければ良い状態と、ある意味楽な展開だったでしょうか。
そして2-0のまま試合終了。
天王山を制した格好の広島ですが、内容的には前節同様に相手の弱点を突き、そのスタイルならびに心を折っての勝利。
町田を退けても、勝ち点1差で神戸が着けているため、タイトルにおいては今後も予断を許さない戦いが続く事でしょう。