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映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

小倉遊亀展-描くことは、生きること

2007-05-31 20:42:06 | art
本名は何ていったんだろうな?と思って図録の解説を読んで驚きました。「遊亀(ゆき)」という名前は、本名だったんですね。名前が人を作ったのかな。
105歳の現役の画家が亡くなったというニュースを何年か前に聞いた(平成12年のことでした)ことがあり、その名前が遊亀さんだったというのを憶えていて、たまたま今月茨城で展覧会があるということを知り、北茨城へ行ってきました。
平成12年に105歳で亡くなった遊亀さんは、明治28年生まれ!写真に残る遊亀さんは、着物を着て、丸顔に眼鏡、髪をひっつめたふくよかな女性で、名前のとおり穏やかな亀のような風貌。
しかし優しそうな姿とは裏腹に、絵に対する情熱は非常に激しかったようです。

画室。画室はわが血みどろの戦場でもある。であるからまた、犯すべからざる聖所でもある。(略)遊亀六十九歳の老骨を鳴らして、まさに苦渋三昧に終始するところである(略)

これは、昭和54年の遊亀さんのことばです。展覧会の中ほどにこの言葉と共に彼女が使った品々や写真が展示されていて、かなり衝撃的でした。
30代40代の彼女の作品は透明なベールに包まれたような穏やかな音の無い(なぜか、そんなふうに感じた)世界なんですね。平和で楽しくて美しい世界。
代表されるのが、こちら↓の「浴女その1」でしょうか。


こんな穏やかな絵を描いた画室が、血みどろの戦場だったなんて、すごく意外でとても面白いなぁ、と。

50代60代の遊亀さんは、透明なベールを脱いで、日本画からは逸脱してるんじゃないかな?と思うような大胆でユニークな人物画を描いていきます。その作品は、まるでマティスやドガやピカソの絵のようにいきいきとした質感を持っています。
初期の人物画が美しくきれいだけど表情に乏しいのに比べ、なんとも自由で味わい深く人間的に描かれていて、にやりと頬を弛めたり、かっこいいなぁと細く息を吐いたり。
↓越路吹雪さんをモデルにした「コーちゃんの休日」。


71歳に、代表作「径」(これは、展示されていなかった。見たかったなぁ。)を発表し、画家としての充実期を迎えた遊亀さん。この時期の人物画は、50・60代のものに比べるとあっさりとしたタッチに戻ったようです。
中でも私は「聴く」という作品が気に入りました。荻江節の家元夫人が傍らのテープレコーダーに耳をすまして聴いている様子を描いた作品ですが、彼女の上品な顔立ちと扇模様を散らした紺の紬にグリーンの博多帯、右手に持った扇というシンプルで美しい佇まいから、家元夫人の住まう家の様子や彼女の穏やかだけど芯のとおった性格などを想像し、まるで小津安二郎の映画のワンシーンを見ているような気分になります。絵に流れる「間」のようなものが、どことなく小津映画の「間」と同質のものに感じたのかな。

人物画を描く一方で、遊亀さんは多くの花を描きました。花と器と。
その花と器の取り合わせのセンスといったら、ほんとうに見事。花と器とを心から愛していたからこそ、こんなに素敵な関係を一枚の絵に表すことができたんだろうな。
そうそう、遊亀さんは器をたいへん大切にしていたようで、彼女が所蔵した古久谷や赤絵、白磁なども展示されていました。そこに、富本憲吉さんの器もありました。才能は才能を愛するのね、と嬉しくなりましたよ。
↓呉須の台鉢に挿された白梅を描いた「つかのま」。


遊亀さんは97歳で糖尿病を患い、しばらく絵が描けなくなったようですが、102歳のときに「マンゴウ」を出品。105歳で亡くなるまでずっと絵を描き続けたそうです。絶筆の「盛花」は、彼女が愛した椿「蜀紅錦」を描いた作品でした。

茨城県天心記念五浦美術館の「小倉遊亀展-描くことは、生きること」は、6月3日(日)までです。
小倉遊亀展

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
この絵好きなんです (EROICA)
2007-10-24 07:39:09
 初めまして。EROICAというペンネームの者です。
 Googleの画像検索で、小倉遊亀さんの「浴女その1」を検索したら、こちらに辿り着きました。
 私、「美の巨人たち」で見て以来、この絵大好きになったんです。
 この絵の含まれている画集とかないかなあ、と思って探しているところです。
 アマゾンでも無いみたいで・・・。
 本物を見られたアクアさんが羨ましい。
 随分昔の投稿にコメントしてしまって、申し訳ありません。
 また来ます。
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はじめまして、こんにちは。 (アクア)
2007-10-24 23:15:20
コメントありがとうございます。
「美の巨人たち」で取り上げられていたんですね!見たかったです。EROICAさんが羨ましいなぁ。
「浴女その1」の含まれている画集をお探しとのことですが、この記事の「小倉遊亀展」の画集に入っていますよ。展覧会は6月に終わってしまっているので、取り扱っているかどうか分からないんですが。
茨城県天心記念五浦美術館にお問い合わせになってみては…。
見つかるといいですね!
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画集手に入れました (EROICA)
2007-10-26 02:10:26
 アクアさん。お返事ありがとうございます。
 EROICAです。EROICAとは、ベートーヴェンの交響曲第3番の題名です。
 「美の巨人たち」で、かなり以前に放送されたので、もうDVDになっています。どうしてもご覧になりたかったら、レンタルビデオショップで探してみられてはいかがでしょう。もちろん売られてもいますが。
 私は、1993年に日本経済新聞社が発売したもので、古書店がアマゾンのマーケットプレイスに出品していたものを手に入れました。
 パソコンの小さな画像より、迫力があり、大変満足しています。
 でも、一度、東京国立近代美術館へ本物を見に行ってみようと思っています。だって本物は210×176cmもの大きなものなのですものね。
 スキャナで取り込んだ画像を私のブログに、載せてみました。よろしければ、ご覧になって下さい。
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画集入手おめでとうございます! (アクア)
2007-10-28 00:28:36
EROICA-英雄、ですよね?
ずっと以前、「エロイカより愛を込めて」という少女漫画があって、イギリスの美術品泥棒の美青年の名前がエロイカでした。
「美の巨人たち」では、ずいぶん以前に取り上げられていたんですね。DVDを探してみようかな。
本物の「浴女その1」ぜひ会いにいらしてください。きっと、ますます気に入ってしまいますよ。
くれぐれも、エロイカのように本物を入手されませぬように(笑)。
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