チョキで殴るぞ!

自分のことは棚に上げ、他人には一言つっこまずにはいられない、 わがまま“びっきい”によるツッコミ短歌ブログです。

自販機で買ったおしるこ飲む君の横顔が好き 小豆のついた

2006-05-15 05:52:46 | びっきい昔ばなし
むかしむかし、
ワシがまだ小学生だったころの話じゃ。
近所の自動販売機へ
ワシは缶コーヒーを買いに行った。
寒い寒い冬のことじゃった。

自販機の前には先客がおった。
タクシーの運転手さんじゃった。
ピッと、おしるこのボタンを押す運転手さん。
すると、その当たりつき自販機は
見事に同じ数字を4つそろえ、
高らかにファンファーレを鳴らしよった。
大当たりじゃ!
運転手さんは背後に立っていたワシに気づき、
ニッコリほほ笑むと、再びボタンをプッシュ。
ゴトリと取出口に落下したあったか~い缶を
ワシの手に握らせてくれた。
おしるこじゃった…。
ワシは子どもながらに思ったもんじゃ。

「おじさん、どうもありがとう。
 うれしいよ、うれしいんだけど…
 なぜ、ボクに選ばせてくれなかったの?」

それでもワシは、コーヒーを買わずに家へ帰った。
わずかばかりのおこづかいを節約するためと、
運転手さんの心づかいをムダにしないためじゃ。
そして、ワシはおしるこを飲んだ。
甘い…甘すぎる。
スピードワゴンも黙っておらんじゃろう。
だが、ワシはなんだかウキウキ気分だったんじゃ。
運転手さんの素朴なやさしさが、
ワシの心の暖炉に火をくべてくれたんじゃろうな。

今ではもう、その自販機も撤去されてしまった。
けれど、ワシは死ぬまで忘れんじゃろう。
日だまりのような運転手さんの笑顔と、
缶の底にへばりついて落ちてこない小豆の粒々を。