むかしむかし、
ワシがまだ小学生だったころの話じゃ。
近所の自動販売機へ
ワシは缶コーヒーを買いに行った。
寒い寒い冬のことじゃった。
自販機の前には先客がおった。
タクシーの運転手さんじゃった。
ピッと、おしるこのボタンを押す運転手さん。
すると、その当たりつき自販機は
見事に同じ数字を4つそろえ、
高らかにファンファーレを鳴らしよった。
大当たりじゃ!
運転手さんは背後に立っていたワシに気づき、
ニッコリほほ笑むと、再びボタンをプッシュ。
ゴトリと取出口に落下したあったか~い缶を
ワシの手に握らせてくれた。
おしるこじゃった…。
ワシは子どもながらに思ったもんじゃ。
「おじさん、どうもありがとう。
うれしいよ、うれしいんだけど…
なぜ、ボクに選ばせてくれなかったの?」
それでもワシは、コーヒーを買わずに家へ帰った。
わずかばかりのおこづかいを節約するためと、
運転手さんの心づかいをムダにしないためじゃ。
そして、ワシはおしるこを飲んだ。
甘い…甘すぎる。
スピードワゴンも黙っておらんじゃろう。
だが、ワシはなんだかウキウキ気分だったんじゃ。
運転手さんの素朴なやさしさが、
ワシの心の暖炉に火をくべてくれたんじゃろうな。
今ではもう、その自販機も撤去されてしまった。
けれど、ワシは死ぬまで忘れんじゃろう。
日だまりのような運転手さんの笑顔と、
缶の底にへばりついて落ちてこない小豆の粒々を。
ワシがまだ小学生だったころの話じゃ。
近所の自動販売機へ
ワシは缶コーヒーを買いに行った。
寒い寒い冬のことじゃった。
自販機の前には先客がおった。
タクシーの運転手さんじゃった。
ピッと、おしるこのボタンを押す運転手さん。
すると、その当たりつき自販機は
見事に同じ数字を4つそろえ、
高らかにファンファーレを鳴らしよった。
大当たりじゃ!
運転手さんは背後に立っていたワシに気づき、
ニッコリほほ笑むと、再びボタンをプッシュ。
ゴトリと取出口に落下したあったか~い缶を
ワシの手に握らせてくれた。
おしるこじゃった…。
ワシは子どもながらに思ったもんじゃ。
「おじさん、どうもありがとう。
うれしいよ、うれしいんだけど…
なぜ、ボクに選ばせてくれなかったの?」
それでもワシは、コーヒーを買わずに家へ帰った。
わずかばかりのおこづかいを節約するためと、
運転手さんの心づかいをムダにしないためじゃ。
そして、ワシはおしるこを飲んだ。
甘い…甘すぎる。
スピードワゴンも黙っておらんじゃろう。
だが、ワシはなんだかウキウキ気分だったんじゃ。
運転手さんの素朴なやさしさが、
ワシの心の暖炉に火をくべてくれたんじゃろうな。
今ではもう、その自販機も撤去されてしまった。
けれど、ワシは死ぬまで忘れんじゃろう。
日だまりのような運転手さんの笑顔と、
缶の底にへばりついて落ちてこない小豆の粒々を。