「忠臣蔵のテーマは”別れ”である」とどなたかがおっしゃられたそうな。
忠義だとか武士道だとか、そういうこともあるけれども、物語の根幹にあるのは「別れ」。
出会いがあれば必ず別れがある。生まれたら必ず死にゆく運命にあるのが人。歴代の日本人が育んできた「人生観」、「死生観」そして「宇宙観」に至るまで、あらゆる日本人の哲学が、この物語には内包されている、としたなら
忠臣蔵が時代を越えて語り継がれてきた理由が、なんとなくわかるような気がしませんか?
さて、毎年この時期に行っております恒例行事、「妄想忠臣蔵」ですが、今年はいつもと趣向を変えまして、この「別れ」をテーマにしたオムニバス形式の映画を妄想してみました。
全4話で、1話につき約30分。計2時間ほどの映画です。タイトルは
『赤穂義士銘々伝』
本日はその前半2話をご紹介いたします。
第1話 『赤垣源蔵徳利の別れ』
吉良家への討入り日と決した12月14日の前夜のこと。赤穂浪人赤垣源蔵(高橋一生)は永の暇乞いを告げるため兄の家を訪ねますが生憎不在。
兄の奥方に頼んで兄の羽織を出してもらった源蔵は、この羽織を壁にかけ、兄に見立てて一人酒盛りをはじめます。
子供の頃の思い出話などを、羽織に向かって涙ぐみながら話続ける源蔵に、家人たちは怪しみ気味悪がり、まったく相手にしない。
しばらくの後、源蔵は居住いを糺し、家人に丁重な礼を述べて去っていきます。
翌朝帰宅した兄(中村梅雀)はこれを聞き、愈々討入りであることを悟り、最後の暇乞いに来てくれた弟に会えなかったことを悔やむのでした…。
第2話 『南部坂雪の別れ』
討入りの日、大石内蔵助(十代目松本幸四郎)は、江戸南部坂の浅野本家下屋敷に逼塞している、亡君内匠頭の妻、遙泉院(のん)を訊ねます。
討入り決行を告げるつもりであった内蔵助でしたが、屋敷内に吉良方の間者(山下リオ)がいることを察知し、咄嗟に討入りの意思はなく、自分は奥州の某藩への士官が決まったので、その暇乞いに来たと嘘をつくのでした。
これに激怒した遙泉院は、亡君の位牌に線香を手向けたいとする内蔵助にこれを許さず、その場から立ち去ります。
致し方なし、内蔵助は持参した書付類を戸田局(薬師丸ひろ子)に預け、屋敷を辞去します。
その書付の中には、赤穂浪士47名の血判状が入っており、後にこれを知った遙泉院は、己の行為を大いに後悔することになります。
雪降りしきる南部坂に、屋敷を振り返りながらいつまでも佇む内蔵助の姿があった…。
つづく
※括弧内の俳優名はすべて私の妄想です。